軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

304話 高月マコトは、勇者と語る

「 水の国(ローゼス) の英雄くんは、あまり変わっていないのね」

相変わらず露出の多い戦闘鎧で、記憶にあるより大人びた容貌のオルガさんが近づいてくる。

最初に会った時は 火の国(グレイトキース) の王都で、突然襲われたものだがそんな雰囲気は微塵も無かった。

「マコトって外見が歳をとらなくなったんですって」

「ずるいよねー、オルガちゃん」

「…………え? と、歳をとらない? ふ、ふうん?」

ルーシーとさーさんの説明に、曖昧な笑みを浮かべるオルガさん。

冗談を言っていると思われたのかもしれない。

あと、現代に戻ってきたから普通に年を取るはずですよ。

……ですよね? イラ様。

「 運命の女神(イラ) 様の 時間転移(タイムスリップ) の魔法の影響で三年間くらいこのままの姿なんですよ。なんか女神様の奇跡の後遺症らしいです」

「運命の女神様の後遺症……、三年!? へぇ、凄い!」

オルガさんの目がキラキラしだした。

「話を聞かせてよ! 救世主様や大魔王に会ったんでしょ!」

「そういえばマコトから千年前の話を詳しく聞いてないかも」

「会えたのが嬉しくて聞いてなかったね、るーちゃん」

というわけで、三人に千年前の出来事を話すことになった。

使われていなかった会議室の一室にて。

「うわ……! 不死の王ヤバ! よく勝てたわね」

「そっかー、曾お祖父ちゃんってそんな人だったんだ……」

「大賢者さんって、そんな子だったの!?」

「え……私の聖剣って、千年前でも折れちゃったの? そんなぁ……」

「なんか、思ったよりもバタバタしてたのね、マコト」

「救世主様ってもっとメチャ強い感じかと思ってたよ、高月くん」

オルガさん、ルーシー、さーさんたちは多少脚色した俺の話に盛り上がってくれた。

頑張って語ったかいがある。

「ところで最近の大魔王の動向を教えてもらえませんか?」

今度は俺が質問する番だ。

するとオルガさんは、ルーシーとさーさんの顔を不思議そうに見つめた。

「あなたたちが説明してないの?」

「多少はしたけど……、この前の第三次北征計画以上の情報は知らないわよ」

「そうそう、私たちの情報源ってソフィアちゃんとふーちゃんくらいだし」

「……水の国の王女と 月の国(ラフィロイグ) の女王じゃない。十分でしょ」

オルガさんが呆れたようにため息を吐いた。

「残念ながら私も持ってる情報は似たようなものね。英雄くんへ情報提供できなくて申し訳ないけど」

と本当に申し訳無さそうな顔をされた。

オルガさん、丸くなったなぁ。

「そうですか。てっきり大魔王が 光の勇者(さくらい) くんを奇襲する対策の詳細を知っているかと思ったんで」

昨夜、運命の女神様に教えてもらった情報をぽろりと口にした。

「な、なんでそれを!?」

オルガさんが、ガタンと椅子を倒す勢いで立ち上がる。

「え? 何それ?」

「高月くん、本当?」

ルーシーとさーさんは、全く初耳のようできょとんとしている。

「そ、その話は一部の勇者と 太陽の国(ハイランド) の上層部しか知らない、最重要機密なのに……」

オルガさんが面白いほど目を見開いている。

どうやら俺の口にした内容は、極秘情報だったらしい。

「ど、どこでその情報を!! って教えてくれないわよね。……、えっとでも、水の国の英雄を締め上げるわけにもいかないし……えー、どうすれば……」

オルガさんがオロオロしていると。

「面白そうな話をしているな」

突然扉が開き、バタン! と閉まった。

誰かがズカズカとこちらへやってくる。

鋭い目つきに、金ピカの鎧。

ジェラルド・バランタイン将軍――前線基地の最高責任者だった。

「高月マコト。大魔王の襲撃とその討伐作戦は、 太陽の国(ハイランド) の大陸における地位を盤石にするための最重要機密の軍事作戦だ。情報提供者を教えてくれ……といっても大体は予想がつくが」

ジェラさんは、今まで見た中で最も真剣な目をしている。

正直に言わないとどうなるか――、という雰囲気すらあった。

……別に隠すつもりはないんだけど。

「 運命の女神(イラ) 様ですよ」

「………………ん?」

俺の言葉にジェラさんが、予想外だという表情になる。

「女神ノアじゃないのか?」

訝しげにジェラさんが尋ねてきた。

あー、そりゃそうか。

俺はノア様の使徒なんだから。

「ノア様は、細かい情報はくれないんですよ。そーいう話を教えてくれるのは大抵イラ様ですね」

「待って! マコトは二柱の女神様と会話できるってこと!? うわ、凄っ!」

俺の言葉にルーシーが、ひゃーという顔をする。

「ノア様と一緒によく 水の女神(エイル) 様も居るから三柱ですかね。御声を聞けるのは」

「「「…………」」」

俺の言葉に、ジェラさん、オルガさん、ルーシーが黙り込む。

「ねぇねぇ、オルガちゃん。それって凄いの?」

「……普通は頭のおかしい奴のたわ言って思われるわ」

ピンときていないさーさんが、オルガさんに質問している。

いや、俺だって水の神殿で『女神様の御声』がどれだけ神聖なものかは習ったんですよ。

三柱の女神様の声が聞こえるなんて言ったら、普通は狂人と思われて病院送りだ。

(でも、女神様たち気軽に夢に現れるからなぁ……)

しかもエイル様とかめっちゃおしゃべり好きだし。

イラ様は、ぽろっと重要情報教えてくれるし。

ノア様は……いつも自由だ。

「わかった。運命の女神からの直々の伝言なら、どこからも情報は漏れていないということだな。……いや、それはそれで別の問題はあるが……」

ジェラさんが、頭痛がするようにこめかみを抑えている。

おお!

あのジェラさんが苦労人っぽくなっている!

「高月マコト……おまえ、何か失礼なことを考えてないか?」

「ソンナコトナイデスヨー」

危ねぇ!

ジェラさんにまで表情から読まれるようになった!

「ちなみに大魔王をどうやって倒す作戦なんです? 具体的な場所や作戦内容はイラ様も教えてくれなくて」

俺が尋ねると。

「それは駄目ー! いくら英雄くんでも教えられないから!」

オルガさんが、手をクロスして『×』を作った。

やっぱ駄目かぁ。

(仕方ない、口が軽いエイル様辺りに聞いてみようかな)

「おい、高月マコト。……何か知るあてがありそうだな?」

ジェラさんがずいっと迫る。

「……はて?」

目をそらした。

なぜ全部バレる。

「……ここだけの話だ」

「えっ!? ジェラっち、言っちゃうの!?」

「三柱の女神の声が聞けるやつに隠し事なんぞ無駄だ。曖昧な情報を元に適当に行動されて作戦がふいになったら最悪だ。正確な情報を伝えたほうが安全だろう」

というジェラさんから、正確な作戦内容を教えてもらった。

「……大魔王が 太(・) 陽(・) の(・) 国(・) の(・) 王(・) 都(・) に(・) 現れる、ですか?」

「そうだ。運命の女神からの神託だ」

「で、今王都シンフォニアを中心とした巨大な結界を生成中なの。といっても結界は完成してて、強化中ね。大魔王が率いる魔族連中をまとめて弱体化させる『準神級』の結界魔法なんだー。完成すると、西の大陸全体を守護できる結界なんだって。それを聖女のノエルちゃんが頑張ってるの」

作戦の内容は、至ってシンプルなものだった。

大魔王は、自分を倒し得る唯一の存在である『 光の勇者(さくらいくん) 』を狙う。

そのため、光の勇者は最も安全な太陽の国の王都から動かさない。

さらに、多くの勇者や冒険者たちで光の勇者の警護を固めている。

確かに風樹の勇者マキシミリアンさんや、氷雪の勇者レオナード王子もシンフォニアに居た。

さらにノエル女王が聖女の力を使って、巨大な結界を生成中らしい。

なんでも聖女のスキルである『勝利の行軍歌』を使って、太陽の国中の結界師を 強化(バフ) しているとか。

以前会った時に疲れていたのは、その影響なのかもしれない。

とにかく、作戦内容は理解できた。

大魔王を罠にかけるということだ。

「ところでジェラさんは、何で王都に居ないんですか?」

てっきり大魔王と戦いたがると思ったんだけど。

「ジェラっちは、待つだけの作戦は性に合わないんだって。あと、 元(・) カ(・) ノ(・) と一緒に居るのは嫌だよねー」

オルガさんがニヤニヤしながらジェラさんの肩を叩くと、彼は非常に忌々しそうな表情になった。

「勇者を王都に集めすぎると罠が疑われる。大魔王には運命の女神の『未来視』通りに光の勇者のところに攻め込んでもらわないといけない。どのみち前線基地にも戦力は必要だ。『古竜の王』の監視が必要だからな。……ノエルは関係ない」

ということだった。

そういえばジェラさんは、ノエル女王の元婚約者だっけ……?

なるほどねぇ。

そうか、王都で待っていれば大魔王が来るのか……。

俺も残っていたほうが良かったんだろうか。

でも、古竜の王との再戦の約束もあるし。

うーむ、と悩んでいたら。

「太陽の国の将軍として、正式に依頼をしたい。その情報は、おまえたち三人の中で収めてどこにも漏らさないでくれ。対価は払おう。何か希望はあるか? 俺が決められる範囲なら、大抵の要求は飲もう」

そんなことをジェラさんから提案された。

ジェラさんは『稲妻の勇者』であり、『北天騎士団団長』。

そして、四聖貴族バランタイン家の次期当主だ。

本当に大抵のことは叶えてくれそうな気がするが……。

俺はルーシーとさーさんのほうを見た。

「私は無いわね」

「高月くん、決めてー」

「俺も無いです。でも誰にも話しませんよ」

ルーシー、さーさん、俺が答えるとジェラさんとオルガさんが顔を見合わせた。

「タダでいいって、ジェラっち」

「そんなわけにいくか! ……あとで 水の国(ローゼス) の外交大使のソフィア王女に連絡する。水の国の防衛に貸し出している北天騎士団の費用を減額しよう。それでいいか? 高月マコト」

俺たちの返事をストレートに受け取るオルガさんを、ジェラさんが却下した。

なるほど、そういう交渉に使えるわけか。

……イラ様がぽろっと喋っただけの情報なのに。

「OKです」

「ありがとう、助かる。オルガ行くぞ。そろそろ定例会議だ」

「え~、もっと英雄くんの話聞きたかったし、アヤやルーシーと話したかったなぁー」

ジェラさんにお礼を言われ、オルガさんが連行されていった。

「またねー」と言いながら、ジェラさんに腕を巻きつけてオルガさんは去っていった。

俺とさーさんとルーシーが会議室に取り残される。

ここに居ても仕方ないので、一旦部屋に戻ることになった。

俺はゴロンと、自分の部屋のベッドに寝転がる。

「大魔王の襲撃か……」

俺はさっきジェラさんに聞いた話を、思い出していた。

もっとも何か自分にできることがあるわけじゃない。

俺は俺で、これから『古竜の王』という最強の魔王に挑むわけで。

余計な雑念は捨てるべきだと思う。

が、やっぱり王都に残った知り合いたちのことは気にかかった。

その時。

「ねー、マコト。これからどうするの?」

「何か予定ある? 高月くん」

話しかけられた。

当然のようにルーシーとさーさんは、俺の部屋にいる。

「別にないかな。予定は」

俺は短く答えた。

ちなみに部屋はそこそこ広いと言っても、ビジネスホテル程度の広さにベッドが二つとクローゼットがあるだけの簡素な部屋なので、三人も入ると手狭だ。

特にベッドはシングルなのだが、ルーシーとさーさんは器用に二人で寝転んでいる。

狭くないのかな? と思ったらさーさんがこちらを見て悪戯っぽい表情をした。

「そう言えばさぁ、高月くん。オルガちゃんのことなんだけど」

気がつくとさーさんが、俺のベッドの上に移動していた。

さーさんもさっきの話を思い出しているのだろうか。

「オルガさんがどうかした?」

「ジェラルドくんとラブラブなんだよ! 羨ましいよね!」

全然違った。

「ラブラブ?」

「あの二人がデキてるってことよ。マコト知らなかったっけ?」

「……そーいえばそんな話を聞いたような」

うっすら記憶がある。

(ん?)

とするとさっきオルガさんは、ジェラさんの恋人なのに「元カノが~」とか言ってたのか。

何か深い意味がありそうで怖いな……。

ジェラさんの表情が、微妙だった理由はそれだろうか。

「オルガちゃんってさぁ、ジェラルドくんと毎晩『一緒に』寝てるんだってー。いいよねぇー」

気がつくとさーさんが猫のように、俺の体の上に乗っていた。

「別にいいじゃない、アヤ。他人の情事のことは。ま、オルガの毎度毎度のノロケはちょっとうっとうしかったけど」

そんなことを言いながらルーシーが、俺の上着のボタンに手をかけていた。

「あの……さーさん? ルーシー?」

さーさんに身体の自由を奪われ、ルーシーに衣服を脱がされる。

俺はベッドに寝転んでおり、さーさんとルーシーがこちらを肉食獣の目で見下ろしている。

こ、これはっ……!?

(お、ついに男になる時が来たわね! マコト!)

(あちゃー、ルーシーちゃんとアヤちゃんが一番乗りかー)

ノア様とエイル様の声が響く。

……視られているようだ。

(ちょっとドキドキするわね、エイル。ついに結ばれるのね)

(私はソフィアちゃん派だけど、ルーシーちゃんとアヤちゃんの一途さは応援したくなっちゃうかも)

まじで黙っててくれませんか?

女神様たち。

「なーんか、マコト。冷静じゃない?」

「千年前から戻ってきてから、高月くんって少し冷たい気がする」

「そ、そうかな……?」

ごめん、覗き見している女神様たちのせいです。

そんな俺を見て、ルーシーが小さく微笑んだ。

「でも、いいわ。だってマコトがここにいるんだもの!」

ルーシーが俺のベッドに潜り込み、抱きついてきた。

気がつくと、上着のボタンが外れ下着が見えている。

「そうだね……、これからはずっと一緒に居られる……」

さーさんがすとんと身体を預けてきた。

こちらも服がはだけ、際どい格好になっていた。

バクバクと心臓が早鐘のようになり始める。

その音が二人には聞こえたらしい。

「ねぇ、アヤ。マコトがドキドキしてるわ……」

「うん……、よかった」

とろけるような笑みでこちらを見つめるルーシーとさーさんから目が離せなかった。

異世界に来て、最初に仲間になったルーシーと。

中学からの友人で、異世界で再会できたさーさん。

ずっと待っていてくれた、大切な二人と……。

「ねぇ、マコト……」

「高月くん……」

「ルーシー、さーさん……」

俺は二人をそっと抱きしめた。

ルーシーとさーさんが、それに呼応するようにこちらの身体に腕を回す。

ルーシーは相変わらず体温が高くて。

さーさんの低い体温が、それすら上がっている気がした。

「……いいよね? マコト」

「……高月くん、……抱いて」

両耳からの囁き声に、頭がクラクラした。

『魅了』魔法が効かないという体質は、失われたのだろうか。

いや、……これは魅了なんぞではなく、本気の『恋の魔法』だ。

などとバカなことを脳が勝手に考えていた。

その間にも、二人によって俺は全ての服を脱がされそうになり、もしくは俺が二人の身体を……

…………!!

…………っ!

…………だ!!

遠くから喧騒が聞こえた。

何かのサイレンのような音も混じっている。

……はぁ、……はぁ、……はぁ、……はぁ、……はぁ

が、ルーシーとさーさんの息の音にかき消される。

あるいは、自分の呼吸音なのかもしれない。

外が騒がしい気がするが、この部屋に於いては何の影響もなかった。

そのはずだった。

バーン! とドアが開いた。

「アヤ! ルーシー! どうせここにいるんでしょ! 大変よ! 魔王軍が攻めてき……」

「「「…………」」」

――静寂が訪れた。

ドアを開いたオルガさんと、半裸の俺たちの目があった。

オルガさんが気まずそうに目をそらす。

「あ……ごめんね。ジェラっちには、英雄くんとアヤとルーシーは 二(・) 時(・) 間(・) ほ(・) ど(・) 遅れるって伝えておくね」

と言ってドアを閉められた。

気を使われてしまった。

いや、ちょっと待ってくれ!