軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

255話 勇者アベルは、マコトについて考える

◇勇者アベルの視点◇

マコトさんと 白竜(ヘルエムメルク) 様が大迷宮に向かって二日が経った。

僕の修行の進捗は芳しくない。

祈れど祈れど、太陽の女神様の御声は聞こえない。

「はぁ……」

今の僕は気晴らしに木刀で素振りをしている。

「よしっ! やった!」

近くでモモちゃんが、近距離の 空間転移(テレポート) を成功させた。

「モモちゃん、凄いね。こんな短期間で新しく魔法を習得するなんて」

「いえ、まだまだです。呪文を詠唱しないと発動しないので、実戦では使えません。無詠唱じゃない魔法は

役立たず(ゴミ) だって、 マコト様(ししょう) が言ってましたから」

「マコトさん、厳しくないかな?」

僕は苦笑した。

まだ幼いモモちゃんなら大したものだと思うけど、マコトさんは高い目標を与えている。

「このあと『冷静』スキルと『隠密』スキル。あとは、私が吸血鬼なので『変化』スキルで、霧やコウモリに化けられるはずだから、それを覚えないと……」

「変わった修行だね」

攻撃魔法を覚えなくていいんだろうか?

折角、強力な『賢者』スキルを保持しているのに。

「 マコト様(ししょう) の話だと、まずは強い相手に出会った時に逃げるための手段を確立しておけと言われました」

「あんなに強いのに?」

消極的な戦法だ。

「ですよねぇ、でも マコト様(ししょう) の言う通りにしておけば間違いないですから!」

モモちゃんは、マコトさんの言葉を信じ切っている様子だ。

それが羨ましい。

「マコトさん、僕にも指示を出してくれればいいのに……」

ここを出発する直前、僕はマコトさんに何をすれば良いかを聞いた。

返ってきた返事は「任せますよ、アベルさんに俺から言えることはありませんから」というものだった。

僕を信頼してくれているんだろうか?

でも、僕はマコトさんに頼りたい。

「僕だってマコトさんに言われたことなら、何だって聞くのに……」

「…………」

僕がぼんやりしながら呟くと、ふと視線を感じた。

「モモちゃん?」

「……なんで、女性の姿になってるんですか?」

「え?」

気がつくと 天翼族(アンナ) の姿になっていたみたいだ。

「 マコト様(ししょう) のことを考えて、女性の姿に……やっぱりアンナさんは……」

「あ、あの、モモちゃん?」

「アンナさんは、 マコト様(ししょう) のことが好きなんですか?」

「なっ!?」

モモちゃんの質問に、僕は思わず木刀を落としてしまった。

「やっぱり……」

「ち、違うよ、モモちゃん!」

慌ててパタパタと手をふるが、モモちゃんはこちらをじとっとした目で見つめる。

何か言い訳をしないと、と思っていた時だった。

神殿に巨大な白い竜が飛び込んできた。

白竜様だ。

マコトさんたちが帰ってきた。

僕は二人を出迎えようとそちらに視線を向けた時に気付いた。

マコトさんの姿が見当たらない。

「白竜師匠、おかえりなさい」

「白竜様、マコトさんは一緒じゃないんですか?」

「勇者くん、私と来い! 精霊使いくんが魔王カインに襲われた!」

白竜様が、緊迫した声で言った。

「「えっ!?」」

僕とモモちゃんは、同時に顔を引きつらせた。

僕と白竜様は、急ぎマコトさんが待つ場所へ向かっている。

「モモちゃんを置いてきてよかったんですか?」

泣きそうな顔で、連れて行って欲しいと言われたが白竜様はそれを許さなかった。

「仕方あるまい、相手は魔王だ。それより、大迷宮で魔王カインに攻撃が通った技は使いこなせるのか?」

「そ、それは……」

僕は言い淀んだ。

実は、あれ以来あの技の再現に成功していない。

偶然使えた魔法剣技。

もう一度、魔王カインに相対して僕の剣技は通用するのだろうか?

「やつに攻撃が通じたのは勇者くんだけだ! 急ぐぞ!」

「は、はい!」

僕は、新しく手に入れた魔法剣の柄をぎゅっと握りしめた。

マコトさん……、どうか無事でいてください。

――それから数刻後

「着いたぞ! ここのはずだ」

緊迫した白竜様の言葉に、僕は辺りを見回す。

しかし、魔法によって所々地面が破壊されたあとがあるだけで魔王カインもマコトさんも見当たらない。

まさか、すでにマコトさんは……。

「あれを見ろ、勇者くん」

「……煙ですね」

白竜様の指差す方向に、煙が上っているのが見えた。

あそこに誰かがいる。

「行きましょう」

「気をつけろ」

僕と白竜様は息を潜め、ゆっくりと煙の上がっている方向に近づいた。

「この匂いは……」

白竜様が眉間にしわを寄せた。

人影が見えた。

あの後ろ姿は……マコトさんだ!

よかった、無事だった。

「おい、精霊使いくん。何をしている」

白竜様が不機嫌な声で言った。

なぜか、白竜様が怒っている。

僕はマコトさんの様子を見て、その理由に気付いた。

「ああ、メルさん、アベルさん。待ってました。これ食べます?」

そう言って振り返ったのは、近くの川で獲った魚を焼いているマコトさんだった。

僕は脱力して、その場に座り込んでしまった。

「師匠ー、無事ですか!? 怪我をしてませんか!?」

「モモ、ただいま」

泣きながら抱きついているモモちゃんをマコトさんがなだめている。

「魔王は!? 魔王カインに襲われたって聞いたんですが!」

「ああ、 水の大精霊(ディーア) と一緒に撃退したよ」

「す、凄い! 流石は師匠です!」

モモちゃんがぴょんぴょん飛び跳ねている。

そう、マコトさんは魔王カインと戦って怪我一つなかったのだ。

……僕が慌てて駆けつけたのはなんだったのか。

「あまり無茶をしてくれるなよ、精霊使いくん。私は疲れたので休む」

「メルさん、ありがとうございました」

不眠不休で駆けつけた白竜様は、疲れた声で寝所へ向かった。

「それじゃあ、モモの修行の成果をチェックしようか」

「ふふふ、見てください師匠。詠唱有りなら 空間転移(テレポート) を使えるようになりましたよ!」

「おお! ナイスだ、モモ! これで魔王戦の戦略が増えるな」

「もっと褒めてください! あとぎゅーってしてください!」

「よしよし」

マコトさんとモモちゃんが、いちゃついている。

元気だなぁ……。

僕は白竜様の背中に半日乗っていただけで、疲れたのに。

少し仮眠を取ろう。

僕も白竜様が休んでいる寝所で休憩をした。

目を覚ますと暗くなっていた。

寝所のベッドで、白竜様やモモちゃんが寝ているのが見える。

マコトさんの姿は無かった。

僕は神殿を出て、マコトさんを探した。

(……居た)

数千の水魔法で作った蝶が、ひらひらと宙を舞っている。

休まずに修行を続けているんだろうか?

魔王と戦った後なのに?

「アベルさん、起きました?」

こちらが死角になっているはずなのに、マコトさんから先に声をかけられた。

「さっき起きました。あとこの姿の時はアンナと呼んでください」

今の僕は天翼族の姿だ。

最近は、こちらの姿の時間が長い。

僕はマコトさんの隣に座った。

「今日は来てもらって、ありがとうございました、アンナさん」

「僕は何もできなかったですよ、マコトさん」

僕が到着した時、魔王カインの姿はなかった。

そして、そのことに僕はホッとしてしまった。

相手は、 火の勇者(ししょう) の仇なのに……。

「ああ、そうだ。アンナさんに言っておくことが」

「は、はい。なんでしょう?」

何を言われるのかと、緊張で背筋が伸びた。

マコトさんが言うには、七日後に海底神殿という迷宮で修行するらしい。

「あの…… 太陽の神殿(ここ) じゃ駄目なんですか?」

「ここは水が少ないですから。どうせなら、水が多い場所のほうが鍛えられるんですよ」

事も無げにマコトさんは言った。

修行のために、わざわざ 迷宮(ダンジョン) に出向くのですか?

しかも、そこは 最終迷宮(ラストダンジョン) と呼ばれる場所ですよ?

「半年も時間が空いたのは誤算でしたけど、海底神殿には一度行きたかったから丁度良かった」

マコトさんはワクワクとした目で、楽しそうに語っている。

ああ……、マコトさんがまた遠くに行ってしまう。

この人は、本当にじっとしていない。

僕はそれを待っているだけになってしまう。

「あの……マコトさん。相談を聞いてください」

気がつくと、僕はマコトさんの服を掴み、すがるような声を出していた。