軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

171話 七章のエピローグ

「楽しそうですね、勇者マコト」

ベッドの上には、さーさんとルーシーが乗っかっている。

ソフィア王女が、屠殺前の豚を見る目で俺を見下ろしていた。

いや、言い過ぎた。

そこまで、冷たい眼ではない。

「勇者殿、目覚められましたか」

ソフィア王女の後ろから現れたのは、タリスカー将軍だ。

相変わらず愛想は良くないが、火の国を代表して御礼を言いたいとのことだった。

そういえば、精霊魔法を使って俺は気絶しちゃったけど、王都は無事だったのだろうか?

ちなみに、さーさんとルーシーはソフィア王女と目を合わせると、その後二人で顔を見合わせ、シュバっと部屋から出て行った。

窓から。

ここ三階なんだけど……(さーさんが、ルーシーを抱えて飛んでいった)。

自由人どもめ。

「勇者殿、この度の火の国に対する尽力、感謝の念に堪えません。さらに、あなたの仲間である佐々木アヤ殿は新たなグレイトキースの国家認定勇者へとなられた。今後は、火の国と水の国で、互いに手を取り合い……」

タリスカー将軍から、感謝の言葉を述べられた。

(話が長い)

俺は曖昧に話を聞き流した。

要約すると――

今まで火の国と水の国は、国力の差から有事の際のローゼスの立場が弱かった。

水の国には、強い軍隊が無いし。

国同士の条約でも、水の国がやや不利だったんだとか。

それを見直し、今後は隣国として対等に協力していこうという話だった。

ついでに、勇者同士も仲良くしていきましょうね。

うちの娘がご迷惑おかけしました、という内容だった。

……という理解なのだが、将軍の言い回しは婉曲で、異世界の小難しい単語が多くよくわからない箇所もあった。

あとでソフィア王女に教えてもらおう。

「勇者マコト殿。何か望みがあれば、なんなりと」

タリスカー将軍が、問うてきた。

ちらりとソフィア王女を見ると「任せます」とでも言いたげな顔だ。

ま、ダメなら止めて来るだろ。

ものは試しで、俺はお願いをしてみることにした。

「将軍、一つお願いがあります」

「ほう、それは?」

俺の言葉に、タリスカー将軍の目が鋭くなる。

「俺と同じ異世界からやってきた友人が、奴隷になっています。できれば彼女を解放したいのですが……」

クラスメイトの河北さんが奴隷になっており、火の国の有力貴族に買われる予定で手が出せないことを伝えた。

が、それを言った時のタリスカー将軍は怪訝な顔をした。

「……その件は確か」

「将軍、私からお話します。勇者マコト、あなたの友人である河北ケイコさんはすでに解放されています」

「え?」

話を聞いたところ。

発端は、武闘大会で折れてしまった聖剣バルムンクの話に遡る。

さーさんが、グレイトキースの宝剣をぶっ壊した。

が、そこは武人の国。

勇者オルガが自分で言い出した決闘の結果なので、自己責任ということになったらしい。

しかし、問題は残る。

復活する大魔王との決戦が控えているのに、切り札である聖剣が使えなくては話にならない。

至急、修繕をする必要があるのだが聖剣クラスになると並みの鍛冶職人では直せない。

『聖級』の鍛冶職人が必要である。

だが、『聖級』の鍛冶職人は大陸でも数えるほどしかいない。

皆、多くの顧客を抱えており数年先までスケジュールが埋まっている。

しかも、『聖級』鍛冶師は職人気質の頂点のような者たちで、多額の依頼金を積んでも簡単に首を縦に振らない。

依頼主が、大国である 火の国(グレイトキース) でもだ。

下手をすると、大魔王の決戦に勇者オルガが参加できないぞ、と青くなっていた 火の国(グレイトキース) の首脳陣。

そこに登場したのが、ふじやんだ。

商人として様々な人脈があるふじやんは、大陸一と呼ばれる『聖級』の鍛冶職人のスケジュールを押さえ、最優先で聖剣バルムンクの修理を行う手配をしたらしい。

聖剣の修理には、貴重な魔石、魔法金属も必要だったようだが、全てふじやんが準備したんだとか。

火の国は、その働きに大いに感謝し、できる限りの望みを叶えると伝えたところ、ふじやんは友人の解放を願った。

晴れて、河北さんは自由の身になった。

それが、俺が目覚める前の話らしい。

(さーさんもだけど、ふじやんもたいがいだよなぁ)

クラスメイトの解放と、折れた聖剣の話。

懸念だったことが、一気に片付いていた。

仲間のさーさんがぶっ壊して、友人のふじやんが直すという少々マッチポンプ感もあるけど。

あとでふじやんにお礼を言っておこう。

「じゃあ、何も無いですね」

心配事は無くなった。

「……むぅ、しかし」

が、タリスカー将軍は気が済まないらしい。

「火の国で、随一の美女を用意させますが」

「え?」変なこと言い出したぞ。

「将軍」

タリスカー将軍の言葉に、ソフィア王女がチクリと口を挟む。

「お望みであれば、うちの娘でもよろしいですぞ」

タリスカー将軍の娘って……あの戦闘狂のオルガさんじゃないですか。

「……ありがたいお話ですが、身に余るので」

多分、冗談だと思うけど、念のためやんわり断っておいた。

その後も将軍は、悩んでいるようだったが特にアイディアは浮かばなかったらしい。

「……では、何か困り事があればいつでも力になりましょう」

そう言ってタリスカー将軍は去っていった。

部屋に残されたのは、俺とソフィア王女だけになった。

「随分、将軍の信頼を得ましたね」

ソフィア王女が俺のベッドに腰かけながら、からかうような視線を向けた。

「なんか、やけに優しかったですね」

前に話した時は、もっと上からだった。

「それだけのことをしたのですよ、あなたは」

そう言って包帯が何重にも巻かれた右腕に、ソフィア王女が触れた。

触れた感覚は……無い。

ソフィア王女の顔が悲しそうに俯いた。

「この腕、もう動かないのですよね? フーリさんから聞きました」

ん? それは間違ってるぞ。

「動きますよ?」

「え?」

さっきフリアエさんにセクハラしたような事故が無いよう、注意して右腕を動かす。

得意の水魔法だけど、自分の腕を魔法で動かすという感覚にまだ慣れない。

なんか、ゾンビのような動きになってしまった。

俺の右腕がふらふらと動き、ソフィア王女の頭に乗った。

げ、やばい。

慌てて動かそうとするが、焦って上手く動かない。

結果、王女の頭を撫でるという非常に失礼な状態になってしまった。

ソフィア王女はというと、俺の手を払いもせず、きょとんとしてされるがままになっている。

「頭を撫でられるなど、久しぶりですね」

「あの、すいません。まだ上手く動かせなくて」

俺は左手で、右手を掴んでソフィア王女の頭から降ろした。

最初からこうすべきだった。

「もう少しお休みなさい。病み上がりでしょう」

俺はソフィア王女に促され、ベッドに横たわった。

まだ、身体に疲れが残っていたのかもしれない。

横になると睡魔が襲ってきた。

意識が飛ぶ直前、頭を撫でられた気がした。

夢を見た。

どこまでも続く広い空間。

いつもの夢だ。

そこには、美しい二柱の女神様が居る。

……山のように積まれた書類に囲まれて。

「ノア様? エイル様?」

難しい表情で、書類にサインをしているエイル様。

頬杖をついて、サラサラと何かを書き込んでいるノア様。

どうにも話しかけづらい状況だが、俺がここに居るということは何か話があるんだろう。

「あら、マコト。よかったわね、火の国の危機を救って、クラスメイトも解放できて」

ノア様は、こちらに笑顔を向けた。

「コラー! ノア! 手を止めない! まだ書類は千枚以上残ってるのよ!」

「エイル様? この書類の山はいったい何なんです?」

こんなに立て込んでいる様子は初めて見る。

「何って、ノアを地上に送り込んだ時の調整のための書類よ! あんな無茶やるから、辻褄合わせが大変なんだから! 地上を 監視(パトロール) している天使たちを誤魔化さないといけないの!」

「な、なるほど……」

俺のせいだった。

精霊への『変化』に失敗した俺を、助けてくれたノア様。

本来、海底神殿に囚われているノア様が、一瞬だけ来てくれた。

それを手配してくれたのは、エイル様だ。

「まあまあ、エイル。ちょっと、休憩しましょうよ。ほら、ここにハーゲ〇ダッツがあるわよ」

「なんで、在るんですか……」

ノア様ってちょくちょく、地球産の物を持ってるよな。

どこで仕入れるんだろう。

「アマ〇ンか楽〇よ?」

通販!?

届くの?

「私、クッキー&クリームね! それ以外認めないから」

「じゃあ、私はマカダミアナッツで。マコトはバニラね」

「……は、はい。ありがとうございます」

久しぶりに食べたハーゲ〇ダッツは美味かった。

「ノア様、エイル様。助けていただき、ありがとうございました」

アイスを食べたあと。

俺は改めて二人にお礼を言った。

「いーのいーの、私は久しぶりに地上に出れて楽しかったし」

「あのねぇ、あんたを外に出すのがどれだけ大変か……ん?」

にこやかなノア様と、少しお疲れなエイル様。

そのエイル様が、何かに気付いた様にぎょっとした表情を見せた。

「待って! マコくん。その腕を見せて」

エイル様がこちらにやってきて俺の右腕を掴んだ。

普段と違う、鋭い詰問するような口調。

視線は鋭く、その先には俺の包帯で何重にも巻かれた右腕があった。

――外れろ

エイル様の言葉に、包帯が一瞬で解かれる。

むき出しの右腕は、青く発光していた。

病室でもこっそり見たけど……これは人前では晒せないな。

「……」

エイル様は何も言わない。

俺の傍にやってきて、右腕を強く掴み、一点を睨んだ。

「ノア、これはどういうこと?」

エイル様が俺の腕を持ち上げ、ノア様に見せてきたのは、青く変色した俺の腕。

肘の上あたりにある、小さなアザだった。

青い腕の中で、そこだけ赤く光っている。

「ああ、それは私がマコトに触れちゃった場所ね」

「……そういえば」

彗星が落ちる直前。

ノア様に、右腕を掴まれた。

一瞬、熱を持ったように熱くなって、その時右腕の痛みが引いたような記憶がある。

「ノア……あんた、マコくんに『神気』を与えたわね」

「あら、困ったわね。うっかりマコトに移っちゃったみたい」

その言葉に、エイル様はつかつかとノア様の傍により、その胸倉を掴み上げた。

「これが狙いだったの?」

普段は優しいエイル様からは、考えられないくらいの怒気を含んだ声。

「まあまあ、エイル落ち着きなさいって」

ノア様は曖昧な笑みを浮かべるだけだ。

「答えなさい! 人間に『加護』以外で、力を与えるのは禁則行為よ。何をしたかわかってるの?」

「え、エイル様? 落ち着いて」

ただならぬ様子に戸惑ったが、止めようと近づいた。

そのエイル様が、こちらを鋭い目で見て告げた。

「マコくん。あなたの腕が精霊化から治らないのも、腕を上手く動かせないのも、全部ノアの『神気』のせいよ。マコくんの腕に在るアザは、言ってみれば『神の呪い』。信者であるあなたを通して、ノアは地上への干渉権を得た……」

「神の呪い……」

フリアエさんが「俺の腕が呪われてる」ってことを言ってたけどそういうことだったのか。

「そんなものを持っていると『 聖神族(わたしたち) 』も、マコくんを放置できない。規則に厳しい 太陽の女神(アルテナ) 姉様に見つかれば、マコくんは消されるかもしれない。火の国を救ったから、ただちにそんなことにはならないと思うけど……。ノア、一体どういうつもり?」

「ノア様?」

俺は説明をもとめ、信仰する女神様を見た。

その顔はいつも通りの笑顔で。

いつも通り美しかった。

「次にマコトが精霊への『変化』に失敗した時の保険よ。毎回、地上に出向くわけにはいかないから。私の『神気』を与えれば、私が直接精霊を操れるわ」

「なるほど」

精霊への『変化』は、リスクが高かった。

保険ということであれば、特に問題ないのでは?

「マコくん……操られるのは精霊だけじゃないの。その時、マコくんもノアに意のままに操作されるわ。それでもいいの? しかも、『聖神族』『悪神族』どちらにも目を付けられる。正直、人間であるマコくんにとっては割に合わないわよ」

(うーん……)

エイル様の言葉には、俺の身を案じる響きがあった。

俺は二柱の女神様を見比べ、ノア様と目が合った。

数秒、見つめ合う。

「マコト、私を信じてる?」

「ノア様、当たり前じゃないですか」

「じゃあ、信じなさい。悪いようにはしないわ」

「わかりました」

解決した。

「ちょっとちょっとちょっと!」

エイル様が、慌てた風に俺とノア様の間に割り込んだ。

「「何か問題が?」」

「問題だらけよ!」

エイル様が、キーと頭を掻きむしった。

「マコくん! それでいいの!?」

「まあ、ノア様が何か企んでいるのはいつも通りですし」

最初からだ。

どのみち助けてもらっているんだから、文句はない。

今回は、あのままだと全員隕石に吹き飛ばされてたし。

「大体エイルが細か過ぎるのよ。いくら私が『神気』を与えても、今の私は海底神殿で力を封印されてるんだから、何にもできないって」

「うーん~……」

エイル様は、不満げに俺たちを見比べ。

最後に、はぁー、と大きくため息をついた。

「今はまだ、平和だからいいけど……大魔王が復活したら不穏因子として狙われるかもしれないわよ」

「大魔王の復活、そろそろなんですか?」

「んー、 運命の女神(イラ) ちゃんが何も言わないから、もう少し余裕があると思うけど」

「あと数か月後じゃないかしら。にしても、これ全然終わんないわね」

「誰のせいよ!」

女神様たちは、書類仕事に戻った。

どうやら『神気』の件は、保留になったらしい。

そろそろ出て行ったほうがよさそうだ、と思った時景色がぼやけた。

病室で、目を覚ました。

外は暗い。

時計が無いので時間がわからないが、深夜だろうか。

起き上ろうとして、右手が動かなかった。

仕方なく左手で支えて、身体を起こす。

右腕には包帯がぐるぐる巻かれており、筋力では動かない。

夢の話を思い起こした。

どうやら、精霊のマナに加えて、 女神(ノア) 様のチカラまでこの右腕に秘められているらしい。

古い神族であるノア様の神気。

世間一般では、邪神と呼ばれている。

つまり、邪神のチカラだ。

俺はそれを操らないといけないわけだ。

(……これは、もしやあのセリフの出番では?)

俺は魔が差した。

周りを見渡す。

病室には誰も居ない。

よし。

「……静まれ……俺の右腕よ」

「どうしたの? 高月くん?」

「さーさん!?」

居たんかい!

近くで俺の様子を看てくれていたらしい。

でも、気配消さないで!

「な、何でも無いよ?」

俺は『明鏡止水』スキルを使って冷静を装った。

が、さーさんはこちらを見てニヤァと目を細めた。

「……静まれ……俺の右腕よ……ぷぷっ」

この野郎!

全部見てたな!

「今すぐ忘れるんだ!」俺はさーさんに掴みかかった。

「きゃー!」笑いながらさーさんは、するりと避けた。

それからしばらく、さーさんにからかわれた。

こうして、火の国の冒険は終わった。