軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

◇∞◇∞◇

別荘に来て、あっという間に一週間をこえてしまった。

国王と王妃は離縁は想定以上の大きな話題となり、数日のバカンスでは帰れそうにないと感じたのだ。

領地視察の次の土地に行く際、兄もここでもう少し時間を潰すことを提案した。

王都で買い物三昧をしようと意気込んでいた母からも、ゆっくり買い物を楽しむにはもう数日様子を見たほうがよさそうだ、という手紙が届いた。

(――なのに、どうしてもう一人の噂の人物かここにいるわけ?)

玄関を開けると、国王であるはずのアルフレッドが目の前にはいた。

数台の馬車の荷下ろしが始まっていて、護衛騎士たちについては別荘を任されているここの執事、トムキンスがすでに対応にたっている。

「……どうしてこちらに?」

アルフレッドを出迎えた時、セレスティーヌはあんぐりと口を開けてしまった。

「お仕事は?」

「問題ないように動いてきた」

なんだか苦虫を潰したような顔で言われてしまった。こんなアルフレッドも初めて見る。

「相当お忙しいのですか?

「いや、みな、よくやってくれているよ」

それにしては、応えてきた彼の顔面は狂気になりえそうなくらいに機嫌の悪さを伝えてくる。

そばにいる三歳年上の侍従も、今は兄ぶっている余裕がないのか、荷物を持って小さくなっていた。

「お仕事のほうは問題ない、と……あ」

口にして、セレスティーヌは閃いた。

「とすると侯爵令嬢の件のご進行がうまくいってな――」

「ところで俺も少し避難したい。一日お邪魔するぞ」

言いながら、彼は突っ立っていると邪魔だと言ってセレスティーヌを両手で持ち上げ、勝手に別荘へと上がる。

(いつもこれだわ……)

昔はよく前国王夫妻と遊びに来ていたので、アルフレッドにとって勝手知ったる別荘ではある。

でも彼までここに避難にくるなんて、何を考えているのか。

週末ではないし、国王が一日休むという知らせは新聞に載っていなかった。

お忍びの休暇というやつだ。

(……予想に反して、侯爵令嬢との話し合いが難航しているのかな?)

まぁ、それなら昔のようにもてなしてやろうとセレスティーヌは思った。

彼に付いてきた人々にはきちんと美味しい物をあげて休憩の場も提供し、アルフレッドにも、彼が好きだったアップルパイを焼いて出した。

彼も釣りが好きだったので、道具を用意してセレスティーヌの別荘の馬車で近くの森に向かう。

だが、いったい何が不満なのだろう。

「ほぉ。普段、こうして楽しんでいた、と」

今日は引きがいい。上げた魚は四匹目となった。

彼が隣にいるのを忘れて、付きの侍女三人と盛り上がっていたら、突然アルフレッドかそんなことを言った。

「面白くないですか?」

「面白いよ。ほせら、また連れた。居はあたりが多い日みたいだな」

言いながら彼が釣り竿を持ち上げると、となんと大きな魚が池から姿を表した。

侍従が「わーっ」と言いながら魚の確保に入る。

「こんなに大きいのに、よく平然と持ち上げられましたね! すごいです!」

「君とは身体の大きさも違うからな」

今日はなぜ、こんなにもひねくれた言い方をするのだろう。

(褒めたのにな)

彼とは魚の大きさも競ったものだが、今日はこれがしたい気分ではなかったのだろうか。

「てっきり考えが煮詰まったので、気分転換がしたいのだと思っていました」

「考えが煮詰まる……?」

「あ、それともゆっくり読書がしたかったですか?」

「別にそういう気分でもないな」

「アザモアのシリーズ最新刊が数冊出ていますよ。ご存じですか?」

「なんだと?」

「私も忙しさのあまりうっかりしていました。兄が私が来るのを聞いて、購入してくれたんです。読破しました」

「待て、感想会をしないというのは俺たちの仲ではありえない。早速読もう。夜には感想会だ、いいな?」

「分かりました。それじゃあ戻りましょうか」

そんな二人の様子を見て、アルフレッドの侍従と護衛たちが「どうして離縁したんだ……?」と首を捻っていた。

セレスティーヌに同行しているヴィジスタイン公爵家の者たちも「離縁の案はなくなると思っていた」と言葉をかわすが、お気に入りのシリーズについて語り合うセレスティーヌとアルフレッドの耳には届いていなかった。

◇∞◇∞◇

アルフレッドは一泊し、朝食をとって帰っていった。

怒涛の国王の来訪だったが、秘密裏にきてくれたおかげで翌日の新聞には何も載っていなかった。

そこにはほっとした。

セレスティーヌが、侯爵令嬢のことの邪魔になってはいけない。

「でも離縁の話題はまだ多いみたいね……」

「帰宅のご予定はいかがされましょう?」

「うーん。もう二、三日、ここにいようかしら。そうすればさすがに落ち着くのではないかしら」

母に手紙を書くことにした。

――だが、困ったことになった。

「長年ご苦労様でした。こちらは私の息子のアヴィー・ウッドと申しまして」

唐突に来訪したウッド伯爵。彼に背を押されて花束を差し出してきた令息に、セレスティーヌは笑顔のまま困惑していた。

「クロア家のロヴィーと申しますっ」

翌日も別の令息がやってきた。労いの花束だと言って――。

「週末にあなた様を楽しませる名誉をいただけないでしょうか」

そして顔見知りの若き伯爵もまた、花束を持って別荘に来訪した。

(まずいわ……)

予想外なことに、早速『次の夫候補に』と来訪者が出始めたのだ。

(なんで? 私、つい最近まで人妻だったわよ?)

一日の来訪者数が増え始めた時、セレスティーヌは即帰宅を決めた。

◇∞◇∞◇

「というわけで、これからのことを考えなければならなくなりそうです」

自宅のリビングでそう帰宅報告を済ませたセレスティーヌの向かいで、父が口から紅茶をこぼしている。

「お父様、口から紅茶が」

「すまない」

彼はハンカチで拭った。

「なるかもしれないと予想はしていたが、動きが早かったな……」

「みんな、ちゃんと離縁したと実感したのでしょうね」

母が困ったような吐息をまぜてそう言った。

「そこでお母様に相談したくって。帰宅したら一層増えたこの花束や贈り物の山も含めて、どうにかするためには、どう動けばいいと思います?」

セレスティーヌは右側を指差した。

そこには花束の他、誘いの手紙や頼んでもいない『お疲れさまでした』のブレゼントが山積みになっている。

「あなたの帰宅予定を察知して、別荘ではなく早々にこちらに配送予約をしてきた分も含めるとかなり多いわね。王都中の話題になるのではないかしら」

「ええぇ……せっかく話題が小さくなってきたと思ったのに……」

「だからこそよ。次の行動に出たわけ」

「私の、次の嫁入り先の立候補?」

「そうよ」

母は遠回しな物言いをしない。

だからこそ意見を求めたセレスティーヌは、項垂れる。

「やっぱりそうかぁ。みんな仕事ができる人がほしいわけねっ」

「どうしてお前はすぐそうロマンのかけらもないことを思い浮かべるの。愛らしいこの国の王妃、と言われていたのを忘れたの?」