軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第五話 トラフグカエルの天敵

世間的に探索者は社会の底辺である。

辛うじて生を許された存在。世の中に適合できなかった者の行き着く先。何かあれば破防法を即適用して排除したい、社会の害悪。

冗談なしでダンジョン黎明期にはそういう扱いを受けていた。

なにしろ●●党や●●党ですら人権ビジネスにならないと匙を投げていたのだから筋金入りと言える。モンスター側を応援すると公言する芸能人すらいた。スタンピードで一般人に被害が出るようになって少しは扱いが変わるかとも思ったが、

「お前らが代わりに死ねばよかったのに」

「お前らが無能だからこんなことになったんだ」

「誰でもできる仕事すら満足にできないのか」

「無償で奉仕しろ、いやむしろ迷惑料を払え」

といった感じの言葉が返ってくる始末。感謝の言葉は砂金掘りで黄金の粒を見つけるくらいの難易度だったと思う。だから探索者達はダンジョンにひたすら潜り、世間と距離を置く者が多い。害獣駆除してモンスター肉を加工して卸す自分は例外枠というか物好きとして扱われている。

そんな探索者側が精一杯譲歩したのが、先日の話。

突っぱねられましたけど。

あの後、血相を変えた役人さんが「なんで話し合いに参加しないんだ」とやって来たそうです。探索者組合の中央本部で随分と大暴れされたそうですね。その時知ったんだけど探索者組合って国からの補助金が形式上降りてるけど、全額天下り組の給料に消えているとか。

まあ、そんな感じで。

里山二つ燃えて、焼け出されたツキノワグマと鹿と猪が街で大暴れしたそうです。

うん。

ダンジョンのモンスターじゃないから一般探索者には出動要請出せないって国会答弁で明言されましたっけ。地元の人達も数度のスタンピードで慣れたもので、とっとと貴重品を手に街を離れていましたよ。市役所とか地元警察の面子ですか、そこに無ければどうしようもないですね。

自分らはダンジョンでスタンピード起こさないようにこまめに討伐するのが仕事ですから、ええ。

などと生温かい目で事態の推移を見守っていたら。

「わぁ」

探索者組合の食堂。

中継を見ていた探索者の一人が少し慌てた声を上げて席を立つ。見ていた他の探索者達もそれに気付いたのか舌打ちしながら後を追おうとする。職員はテレビに映し出されたもの――大きな網袋にトラフグカエル複数匹を詰めて熊や猪の群れから逃げている三輪バギーを指さして首を傾げた。プロテクターやヘルメットで肌の露出も無いが、ところどころ焦げているバギーと運転手は渋滞気味の道を逆走して絶妙な速度で猛獣たちを惹きつけている。

『怪我人を護るために囮役を買って出たのでしょうか、なんと勇ましい』

中継映像に被せられる、コメンテーターの感極まった発言。

その一言に、職員さんの顔色が変わる。

「嘘でしょ、モンスタートレイン!」

冗談じゃないですよと叫ぶ。職員さんは別に遅くはない。十秒そこらの差でしかないのだ。探索者でもダンジョン攻略で色々な目に遭ってないと察知しにくい、しかし研修では必ず触れられるであろう探索者にとって恥ずべき行為。

引き連れたモンスターを別の誰かへと誘導する、海外ダンジョンでは日常的に行われている擦り付け。明らかに慣れた動きで熊たちを誘導しているそれは、この探索者組合事務所を目指しているのは明白だった。

◇◇◇

野生動物のレベルアップという事例はそこまで珍しくはない。

猟犬同伴でモンスターをハントする一部外国では、猟犬が主人よりもレベルが上がって牙を剥く現象が度々起こっていた。深い愛情で育ててきた主従ならば問題ないが、そうでなければ猟犬は最悪の敵として探索者に襲い掛かる。

だから巨大スズメバチの話を聞いた時、納得は出来たが疑問もあった。

彼の祖国では拳銃とライフルが探索者の基本装備だ。当然ながら討伐する対象はネイティブ気取りの武装ゴブリンや、アラミド繊維の毛皮に覆われたバッファロー。滅多にダンジョン外に飛び出すことは無いし、ダンジョンの入り口はミサイルの直撃を受けても崩れない強化コンクリートの壁で覆われている。

そんな彼が「ちょっとした小遣い稼ぎ」で誘われた東洋の島国で、なんとも長閑な光景と間抜けなモンスターハントを見てしまったのはちょっとしたカルチャーショックだった。カエルにウサギにニワトリが出迎えてくれる牧歌的なダンジョン! 銃火器の使用は禁じられ、スコップと山鉈でモンスター討伐しろと! そして探索者はどいつもこいつもオカルトパワーを発揮して、怪我人もあっという間に癒えていく! 祖国じゃ回復能力どころか魔法に目覚める探索者なんて千人に一人いるかどうかだって言うのに!

だというのに。

ここの連中は死んだ目でダンジョンに潜ってやがる。

一発逆転で成り上がろうとか、己を馬鹿にした奴らを見返そうなんて考えてすらいない。おれたちに無い力を持ちながら腐らせている連中の目を覚ましてやる。つまらない仕事でおれは命を落とすだろうが、最期にお節介のひとつでもしてやろうじゃないか。

三輪バギーに捕まえたトラフグカエルを括り付け、熊や猪の群れを挑発するように走らせる。祖国のダンジョンじゃあ毎日のようにやった、テクとも呼べない基本中の基本。生ぬるい気持ちでダンジョンに潜ってる連中は、どいつもこいつもコレで一発だった。

さあ、これでも腑抜けたツラだったら地獄の底で笑ってやる。

探索者事務所の入り口を視界に捉え、三輪バギーは準モンスターの群れを引き連れてアクセル全開にした。

◇◇◇

「――ありがた! 迷☆惑!」

探索者組合の入り口をぶち抜いて飛び込んできた三輪バギー。

ヘルメットとライダースーツで全身を隠した侵入者の頭部に炸裂する、ハリセンの一撃。顔面からのカウンターではなく真上からの振りおろしで侵入者の身体は三輪バギーごと縦回転して床に激突する。

わぁ、職員さんのハリセン、ツッコミが冴えてるぅ。

見なよ、熊も猪も鹿も急停止してるわ。

ようこそ野生の強者達。

あと一歩でダンジョン領域やで。自分ら探索者総出で君らをお出迎えしようじゃない。君らと違ってヨワヨワの社会的弱者で圧倒的負け組だから、使えるもの全部、惜しむことなく用意して待ってるよ。

さあ。

「が、ガウ」

「ブモッ……」

さあさあ。

なんで自分に一番怯えてるのさ。最近はトラフグカエルの捕獲と解体ばかりやってるダメ人間だよ。ああ、ついでに君らの御仲間も似たようなことをしているが。生きながら毛皮を剥がされた程度で死にはしないだろう?

動けない?

そうだね、ちょっとした拘束魔法だね。山では使ってなかったって? そうだね、ハンターとしては魔法を使う必要なかったし、トラフグカエルの捕獲だけだったからね。箱罠とかくくり罠より、拘束魔法の方が得意なんだ。麻痺に睡眠、筋力低下に五感阻害。

「く、くまあ」

「しかああ」

いや熊も鹿もそんな鳴き声しないよね。知能高いなこいつら。地上よりダンジョンに住ませた方が良いかもしれん。

「くまーっ!」

「しかーっ!!」

「ぶたあーっ!!!」

え。

素直に狩猟されて食肉工場行った方がいいのかい? あ、全員しゃきんと姿勢正して職員さんの前に並んでるよ。あーおかしい。

「……大丈夫なのかな」

職員さん不安気ですけど、トラフグカエルの味を覚えたこいつらはもう野生で生きていくの無理っすよ。

え。

外で大繁殖してるのはどうするかって?

周りの探索者も職員さんも、動物達もこちらを向く。自分は足下に転がっている侵入者の乗っていた三輪バギーに歩み、網袋に入った数匹のトラフグカエルを見た。ダンジョンで捕獲しているものと異なり、体表組織がスポンジ状に崩れ始めている。

鑑定魔法起動。

……

……

【この個体はカエルツボカビに感染しています。余命10日】

はい、閉廷。解散。

日本でも一時期騒がれた、両生類絶対ぶち殺す微生物さんです。ダンジョンのある種清浄な環境で育ったトラフグカエルさん、このカビに対する抵抗性を持っていなかった模様。海外じゃあ抵抗性のない幾つかの種が絶滅しているんで、国内に侵入されたら大変なことになるって学会でも真剣に話し合われた時期があったそうです。調査が進むと日本にもツボカビはいて、国内在来種の両生類は抵抗性を持っていたことが判明してパニックは収まったけど。

うん。

トラフグカエルさんは運が悪かった。君はダンジョンの外に出るべきではなかったということだ。あるいは外に出たトラフグカエルが経験値を得てレベルアップすれば話は変わるかもしれないが、ダンジョンモンスターというのは基本的にレベル固定の生き物だ。

助かりません。

助けません。

ひょっとしたら海外から巨大スズメバチを獲りに来た連中がカエルツボカビを運んできたかもしれないですね。この調子だと生き残った外のトラフグカエルは半月も経たずに全滅。水源と土壌にトラフグカエルの神経毒は残留しそうだから、早めに死体回収すれば農地回復の可能性も大きくなるかもしれませんねえ。

「市役所に報告書、出してもらえます?」

書類作るのは職員さんのお仕事でしょうが。あ、熊と猪と鹿はダンジョンに送り届けておきますんで。それでは。