軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

EX1 アラスカダンジョン②

日本からの航海中に知った話だが、アラスカも南半分の地域では短い夏には農業が成立するほど温かくなるという。それを踏まえると時期的にアンカレッジ周辺の雪は解けても不思議ではないそうだが、見渡す限りの万年雪。道路どころか標識さえ雪に埋もれており、あるのは巨大な獣たちの足跡ばかり。人間の痕跡を示すものは一切なく、ここ数年アラスカ一帯がダンジョンの支配下にあることを物語っている。アンカレッジを順調に解放出来た魔石戦車だが、アラスカ全土で運用するにはこの莫大な量の雪が立ち塞がることは想像に難くない。

そんな雪原の上を自分達は疾走している。

巨大化したアラスカ犬とエゾオオツノシカは雪に足が沈むことなくソリを引っ張っていく。運動能力と魔力が噛み合って、水上を走るニンジャみたいな挙動で雪原をバクシンしている訳だ。時速? 計測してないけど、風圧で三回くらい吹っ飛ばされている。ちなみに並走していたわんこがフリスビーよろしく空中キャッチの後にソリに戻されるまでがワンセット。犬だけに。やかましいわ。

体感的には新幹線には負けていると思う、最高速度はね。休憩挟みつつ数時間走り続けた後に携帯端末の位置情報を確認したら目的地まで半分以上距離を縮めていた。

1200キロの半分以上である。なにそれ怖っ。

「御武無」

「しか、しかぁ」

「わんわんお」

「帆部五分」

「しか」

「わふん」

一仕事したゼーって顔で鍋を囲む幕末ゴブリン族と鹿とわんこ。

自分は鍋の支度をして、後は請われるままにブラッシングを希望者に……わんこと鹿全員に。衛星通信が活きているからアンカレッジとの連絡が何とかなって、事情を伝えたら絶句された。気持ちは分かる。自分も何で今ここにいるのか分かってない。自衛隊の一部有志が自分を探そうとしてアンカレッジ郊外に出たら犬上家やってるムースとトナカイを救助するのに時間をとられたとも聞いた、すいませんすいませんエゾオオツノシカ君は天然なので挑戦者をウェルカムしてしまったんですと返しておいた。

「しか」

仮にもドラゴンスレイヤーなんだよ、この偶蹄目。

うん一応褒めてる。鼻面も撫でておこうか。

「しかぁ」

「わふううう」

何故そこで肉球をばしばし叩くかねわんこ君。撫でろと? ブラッシングだけではいかんと。骨ガムもおかわり? こらこら幕末ゴブリン族共、何を愉快そうに酒を要求してるんです。なに、芋焼酎は薩摩っぽいから嫌だと。味醂の米焼酎割を熱燗でどうぞ。あ、意外といける? この寒さはダンジョンの魔力由来だから一種の魔法攻撃で、魔法抵抗力が高いと割と簡単に弾き返すことが出来る。だから幕末ゴブリン族は現地民が卒倒しそうな軽装で、自分もアンカレッジ解放時に着ていた防寒具を収納空間に戻していた。

空は暗い。

緯度の関係もあるが、核ドラゴンが出現して以来この地は夜に囚われたままだ。月と星が見えれば相当明るいが、雪が降れば地獄に変わる。目指す北の果ては曇天、もっとも鹿もわんこも夜目が効く。何気に幕末ゴブリン族も。夜闇に手こずるのは自分くらいなものなわけである。つまり。

「期歩」

「わんわんお」

「しかぁ」

食事とブラッシングで英気を養った四本足の猛獣たちは食後の散歩を御所望である。こちらに拒否権はない。元のアラスカ犬が一日に移動できる距離と時間をとっくにオーバーしているのだけど、モンスター化している上に回復食材を喰わせたのが功を奏したのか漲って仕方がないご様子。

うん、自業自得。知ってる。

雪原を吹き飛ばし途中のモンスターたちを蹴散らしてソリはアラスカの大地を北上することになる。雪の下に道があろうが湖があろうがお構いなしに駆けていく。なお道中で轢き逃げしたモンスター達には申し訳ないことをしたので責任もって解体しておいた。

◇◇◇

かつてバローと呼ばれた合衆国最北端の街には空港がある。

いや日常生活の買い物に飛行機を使うなんて噂もある地域なので、空港は割と不可欠なインフラなのだろう。こんな場所に街を作るだけの歴史的な経緯があり、ダンジョンが出現するまで維持し続けていた政治的な意義があり意地があったのだと思う。

やり方を間違えなければ、ダンジョン都市として世界中から人を招くことが出来ただろう。アンカレッジから約1200キロといっても空路を使えば数時間とかからぬ距離でもある。その距離をわんこと鹿のソリで十時間かからず到着できてしまった事実をちょっと理解したくない自分を誰か慰めてほしい。いない。悲しいので空港跡に入って使えそうな設備を点検、語学力の無さを嘆きつつ自前の携帯端末でアンカレッジに報告。

『ねえ馬鹿なの死ぬの?』

あ、ガチめで呆れていらっしゃる。

うん。自分もちょっと反省している。理解してもらおうという努力をした記憶はない。形式上休暇中とはいえ自衛官に素でここまで言われるのは探索者やってても滅多に経験できないだろう。つい先週にも魔石戦車まわりで言われた気もするが、あれはガバガバな魔術理論を実践した時の話なので別枠と考えたい。

アンカレッジから旧バロー間での走破という大仕事を終えて満足したわんことエゾオオツノシカと幕末ゴブリン族は「ここをキャンプ地とする」と言わんばかりに周辺のモンスター駆逐を開始している。熊とかアザラシとかセイウチとかラッコが主体。人型モンスターは見当たらない。モンスター分類もできていない未登録種ばかりなので、状態の良い個体を収納しつつ安全地帯の確保も怠らない。放棄されたスーパーマーケットの一部が奇跡的に原形を保っていたので物資補充できないかと探ってみると、馬鹿じゃねえのってくらい強気な価格設定の値札が食品棚に貼りついていた。棚の商品はモンスターが美味しく召し上がったと推測。棚板を引き裂いた爪痕とかがとってもワイルド。

『ダンジョンの初期化は我々のみならず核ドラゴンの脅威に怯えている世界中の悲願ですが、 肉屋(ブッチャー) さんひとりを犠牲にして達成すべきものでもありません』

正論おいしいです。

自己犠牲精神とか微塵もないので安心してください。威力偵察という奴です。ちょっと様子見て、危険そうならすぐ撤退します。むしろアンカレッジ周辺をしっかり浄化しておいてください。日本の技術力アピールと世界平和への貢献を目に見える形でやってる訳ですし。

いや本当に先っちょだけ。

ほんのひと当てして様子見するだけです。核ドラゴン生み出すようなダンジョンの中身とか、考えたくもないですけどね。

……

……

そういやさ、ダンジョンに撃ち込まれた核ってどれくらいの規模か聞いてます?

『同盟国の人が揃って口を閉ざすくらいの量が打ち込まれたみたいですよ』

考えたくもねえ。