作品タイトル不明
117.勇者、新たな姿で攻め入る
魔王ジークがカタレバを尋問している、一方その頃。
妖精の国の外れにある町では、魔族達による襲撃を受けていた。
「くそっ! なんだあの化け物は!」
「桁違いの魔力の強さ……ぐわああ!」
妖精の兵士達が次々と倒れていく。
その中心に立っているのは、黒鉄の鎧と大剣を手にした……勇者マケーヌの姿だった。
「くくく……ぎゃはははは! そうだよ! そうそう! こういうのを待ってたんだよぉおお!」
至る所にトゲを生やした、まがまがしい鎧。
そして大剣はドクンッ……ドクンッ……とまるで生きてるかのように脈動している。
ぎょろりと動く目玉がいくつも、鎧と剣についていた。
マケーヌ自身は、髪の毛が脱色し、肌の色は多少浅黒くなっているものの、しかし人形を保っている。
「怯むな! 撃て! 撃てぇ!」
妖精の兵士たちが20名集まり、マケーヌに対して魔法を放つ。
魔法に長けた種族、妖精。
エルフをしのぐ魔法力を持つ彼らから放たれるのは、通常よりも遙かに威力の高い魔法。
上級魔法の一斉掃射を受けても……しかし、マケーヌには傷一つついていなかった。
「ははっ! 弱い! 弱すぎる……! 妖精なんてこんなものかぁ……!」
たんっ……! とマケーヌは地面を蹴る。
「て、撤退!」「おせえよぉ!」
手に持った大剣を一振りする。
ガォン……! と空気を切り裂く異様な音。
すると周囲にあったものが……消滅したのだ。
妖精も、地面も、そして空間すらも削り取って見せた。
「よ、妖精の兵士20名が……瞬殺……だと?」
「怯むな! 召喚獣用意!」
妖精達が繰り出したのは、上級魔族をも凌駕する召喚獣。
魔人に匹敵するレベルのそれらを前にして、しかしマケーヌは凶悪に笑っていた。
「ひゃははあ! 雑魚がぁ……! そんなものでボクを止められるかよぉお……!」
マケーヌは大剣を振り上げると、魔力を刀身に集中させる。
「喰らえ! 【 暴虐なる暴食(グラトニー・バイト) 】ぉ……!」
大剣を振り下ろした瞬間、漆黒のオーラが斬撃となって放射される。
莫大な魔力を秘めた斬撃は、途中で黒き竜の姿へと変貌し、通過するあらゆるものを飲み込んでいく。
「「「ぐあぁあああああああああ!」」」
妖精の兵士、町民……そして、町一つを軽々と飲み込んで見せた。
「くくく……はーはっはっはぁ! すげえ! どうだぁ……! 進化したボクはちょーすげーんだぞぉお!」
更地となった妖精の町を前に、マケーヌは高らかに笑う。
【マケーヌよ】
「あぁん? なんだぁジャマーぁ!」
通信魔法によって、脳内に声が響いてきた。
相手は新生魔王軍の指揮官【ジャマー】。
マケーヌをこの体へと手術した、張本人である。
【戯れもそこまでにしておけ。おまえの仕事を忘れたか?】
「忘れてねえよバッカ。うざってえあの魔王の始末だろぉ?」
【そうだ。妖精の国に向かわせたカタレバから通信が途絶えた。近くに魔王の魔力もあった。で、あればやつが新生魔王軍の情報を引き出し、我らの元へくるやもしれぬ。その前に魔王ジークを殺すのだ】
「わかってるっつーの。繰り返さなくていいよボケ老人」
マケーヌは凶暴な笑みを浮かべて、漆黒の大剣に、うっとりとした表情を向ける。
「素晴らしいよこの【暴食の大剣】……あらゆるものを食らいつくす最強の魔剣だぁ……ボクにふさわしいよぉ……」
【まったく、魔人にしてやった恩も忘れよって】
ボロボロになったマケーヌを拾い上げて、ジャマーは改造を施した。
魔人。すなわち、人間の体に、魔物や魔族という、魔なるものの力を詰め込んで作る人造の兵器。
通常はその力の大きさに耐えきれず死ぬ。
ごく希に、力に打ち勝つものも現れるが、大半が異形化してしまう。
【だがマケーヌ、貴様は例外だ。魔なるものへの適合率が尋常ではなかった。結果、異形化せず、人形を保ったまま魔人となった。すなわち、完璧魔人となったのだ】
「くくく……! いいねぇ! いいねぇ! その選ばれしもの感! そう! ボクはマケーヌ! 選ばれた強者なんだよぉ……!」
黒い大剣を振り回し、美しい妖精の国の大地を削り取っていく。
花は散り、緑豊かな大地はえぐられ、森は死んでいく。
「もう二度と負け犬なんて呼ばせない! ボクは! 強者! 強者マケーヌなんだよぉおお! ぎゃーっはっはっはぁ!」
【やれやれ言うことを聞かぬやつめ……。よいかマケーヌ、必ずジークを始末しろ。でなければペナルティを科すからな】
「ハッ! 今のボクがあんな雑魚に負けるわけねーだろぉボケが! ボクはもう二度と負けない、あの屑魔王も、瞬殺してやるよぉ! ぎゃはははははっ!」
【すごい自信だな。負けるなよ。さっさと麒麟の祠まで向かえ】
「うっせーなボクに命令するんじゃねえよカスが。はいはい、ちゃちゃっと倒してやるよ。そしたら次は人間達に復讐してやるぅ……!」
凶暴な笑みを浮かべて、マケーヌは麒麟の祠のある妖精の町まで向かう。
「あそこかぁ……?」
小高い丘の上から町を見下ろす。
「じっくりいたぶってやりてえけどよぉ、ミッションはやりとげないとなぁ。一瞬だ、一瞬で終わらせてやるぜぇ」
マケーヌは大剣を振り上げて、魔力をためる。
「町ごと消えてしまいな! くたばれ魔王! 【 暴虐なる暴食(グラトニー・バイト) 】ぉおおおおおお!」
振り下ろした剣から、暴食の力が斬撃となって放たれる。
圧倒的な力の奔流に、町は飲み込まれる。
「ぎゃーはっはっはぁ! はいボクの勝ちぃ! ざーこぉ! 魔王ざまぁ……! あんだけイキリ散らしてこんな一瞬で負けるなんてよぉ! ぎゃーーはっはっはぁ……ぶべぇ……!」
そのとき、マケーヌの頬に、凄まじい衝撃が走った。
ぐるんぐるんと空中を舞い、無様に地面に落ちる。
「ブべっ……く、くそ……なにものだぁ……! 勇者の前だぞぉ!」
そこに立っていたのは、怒りのオーラを放つ青年だった。
「久しぶりだな……クソ勇者」
魔王ジークが立っている。
その背後の町は……傷一つついていなかった。
「俺だけ狙えば良いものを、他の無関係なやつらまで巻き込もうとしやがって……ただですむと思うなよ」
「は、ハッ……! そりゃこっちのセリフだぁああああ! 死ねぇえええええ!」
一瞬で距離を詰めるマケーヌ。
だがその動きを見切って、魔王がその頬に拳をたたき込んだ。
「ふんぎゃぁあああああ!」
バウンドして、地面に倒れる勇者。
「もう、容赦しないぞ」
まさに魔なる王にふさわしい、怒りのオーラを放ちながら、ジークは言うのだった。