作品タイトル不明
111.妖精の国へ
俺たちがやってきたのは、同盟国の1つ、アネモスギーヴの森の中。
この深き森の奥に、精霊たちの住んでいる世界の【入り口】があるらしい。
「チノはどうしてついてきたんだ?」
妹のチノがフフン、と胸を張って言う。
「兄さん、火竜に言ったそうですね。私とお出かけしたいと」
「いやみんなとって言ったんだけど」
「私も含めて、みんなも……でしょう? ふふっ♡ 兄さんとお出かけですっ♡」
きゅーっとチノが俺の腕にひっつく。
遊びに行くんじゃないのだが、まあいいか。
妖精王子のレイスと、案内人のエルフとともに、俺たちは森の奥へと向かう。
「ところでチノ、これから俺が何をしに行くのか知っているのか?」
「もちろん。封じられている【 麒麟(きりん) 】を鎮めにいくのでしょう?」
「おう。なぁチノ、麒麟ってどんな神獣なんだ?」
「神獣の一体です。この世に雨など自然の恵みをもたらす瑞獣の1匹と呼ばれています。雷の化身とも言われてはいるものの、非常に温厚な性格をしており、虫すら踏み潰さないと伝え聞きます」
なんだか、随分と印象が違うな。
「レイス、麒麟は暴れてるんだよな?」
『ええ、周囲に雷を常に発生させていて、近づく物を焼き殺そうとします。しかも荒ぶる麒麟のせいで年中豪雨が降り注いでおり、皆まいっております』
「なにか麒麟にも事情があるのかもしれないな。ケガとか病気とか」
現在は妖精たちが張った結界に閉じ込められているらしい。
「危ない任務でも兄さんは行くのですか?」
「もちろん、ケガしてるかもしれないんだろ? なら医師の出番じゃないか」
「ふふっ、兄さんは相変わらず立派です。いつだって尊敬してますよ♡」
森を進んでいくと、やがて緑が濃くなってきた。
「く……! う……!」
チノがその場でしゃがみ込み、苦しそうにする。
「どうした?」
「いえ……少し、魔素の濃度が……濃くて……」
魔素とは魔力の源となる元素のこと。
大気中に漂っているそれらは、通常なら体に害はない。
だが高濃度の魔素は人体に影響を及ぼすと言われている。
『ジーク様はどうしてご無事なのでしょうか?』
レイスが目を丸くしながら言う。
「おそらくですが、兄さんは魔素を取り込める許容量が常人より遙かに多いのです。さすが兄さんです……くっ……」
俺は神の手で、チノを中心に、球形の結界を張ってみた。
すると、彼女の顔色がすぅー……っと良くなる。
「すごく楽になりました。兄さんの結界は、あらゆるものを防ぐ。それで魔素の侵入だけをピンポイントに防いでいるのですね。神業です、さすが兄さん」
全てを防いだら光も酸素も届かなくなって危ないからな。
『すごい……何も身につけてないただの人間の体で、この魔素深き森を無事で居られる人なんて、初めて見ました』
「普段来客があるときはどうしてるんだ?」
『妖精の国は人間の立ち入りを許可していません。常人はこの場所で高濃度の魔素に耐えきれず引き返していきます』
俺たちはレイスとともに奥へと進む。
魔素の濃度がどんどんと濃くなっていく。
空気中に虹の光のような物が混じる。
「すごい……可視できるほどの高濃度の魔素の中だというのに、兄さんはまだ平気なのですね」
『やはり魔王様は別格なのですね』
「ところで、まだつかないのか?」
『まもなく【妖精の輪】が見えてきます。そこを潜ればすぐです』
「妖精の輪?」
レイス曰く、妖精の国へと入るワープゲートのようなものらしい。
『妖精の国への唯一の出入り口です』
「おいそれと壊したりしたらマズいんじゃないか?」
『ははっ! 大丈夫です。妖精の輪は神話の時代、妖精たちの技術を結集して作られた、強固な魔法道具です。絶対に壊れることはありません』
まあ唯一行き来できるルートだからな。
壊れちゃマズいわけだ。
そんなふうに歩いていると……やがて、妖精の輪のもとへたどり着いた。
『なっ!? そ、そんな! 壊れてるだって!?』
遺跡のような場所があり、そこには白亜のレンガの残骸があった。
どうやらこれが妖精の輪だったみたいだ。
『まさか……壊れるなんて……終わりだ、わたくしたちはもう二度と故郷に帰れないんだ……』
『ま、それじゃあしゃーない! 魔王様、帰りましょう!』
ケロッとしている妖精リリンの頭を叩き、俺は前に出る。
『魔王様……いったいなにを?』
「直す」
『む、無茶です……。神話の時代に作られた魔法道具。それの製造方法も、復元方法も知っている妖精はもう残っていません』
俺は神の手を使い、修復を行う。
壊れた細胞を元に戻す要領で、砕け散った妖精の輪を元通りにする。
『なっ!? なんだってぇ!? 元に戻っただとぉお!』
驚くレイスをよそに、リリンは『うわー……がっかり』と露骨に肩を落としていた。
「これで問題ないか?」
『じ、ジーク様!』
ガシッ、とレイスが俺の指を掴んで、何度も頭を下げる。
『ありがとうございます! あなた様のおかげで、また故郷に帰れます!』
「良かったな。しかし……誰が壊したんだ?」
『わかりません。少なくとも、妖精ではないはず』
まあ自分たちの故郷へ帰る道を壊すヤツなんて、いないだろうしな。
「これは……麒麟の問題だけをどうにかすればいいって訳じゃなさそうだな」
何はともあれ、俺は妖精の輪をくぐり、彼らの故郷へと向かうのだった。