軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十九話 帝国の空白

皇帝の死去が発表されてから、二十日ほどが過ぎた。

マバール城の中は、ずっと落ち着かない。

廊下を歩く文官たちの足音が少し速くなり、いつもなら昼前に片付く書類の束が午後まで机に残るようになった。武官たちは城門や中庭で顔を合わせるたびに短く言葉を交わし、すぐに別れる。使用人たちも、表立って騒ぐことはないが、空気の変化は肌で感じているらしい。食堂の端、廊下の曲がり角、洗い場の影、そういう場所で交わされる声が少しだけ低くなっていた。

だが、大きな動きはない。

兵が一斉に動員されたわけでもない。

国境へ向けて大量の物資が運ばれたわけでもない。

城下町の空気も、いつもより硬いが、まだ日常の形を保っている。パン屋はパンを焼き、鍛冶屋は鉄を叩き、商人は値段を吊り上げる機会をうかがいながらも表向きはいつも通りに笑っている。

まあ、元々大きく動かす必要もないのだ。

こんな状況で、国境の砦にいるダル兄さんを動かすわけにはいかない。むしろ、今だからこそ動かせない。帝国が揺れているなら、国境の砦は最も重要になる。あそこを空けるなど論外だ。

アル兄さんも同じだ。

迷宮を放置できるわけがない。

迷宮は、こちらの都合など待ってくれない。帝国皇帝が死のうが、王都が方針を決められずにいようが、迷宮の中では魔物が湧く。管理を緩めれば、領内に被害が出る。外が荒れている時に内まで荒れたら、それこそ最悪だ。

だから兄上たちは動かない。

父上も、動けない。

いや、動かないことを選んでいる。

俺はそう見ていた。

帝国は皇帝の死去を公表した。

だが、新たな皇帝の擁立は発表していない。

相当、内部で混乱しているようだ。

できれば、新しい皇帝が決まるまで皇帝の死は伏せておきたかったのだろう。普通に考えればそうだ。皇帝の死だけ先に出して、後継が空白のままでは、国内外に不安を撒き散らすだけになる。

それでも公表した。

つまり、抑えきれなくなったのだ。

死を隠せなくなった。

隠せないほど人が動いたのか、情報が漏れたのか、あるいは帝国内の誰かがわざと公表に追い込んだのか。

そこまでは分からない。

ただ、帝国の中が綺麗にまとまっていないことだけは、さすがに俺にも分かった。

この二十日間、俺は訓練に参加したり、生産拠点に顔を出したり、たまに城の会議にも出席した。

訓練は相変わらずひどい。

セバスチャンは初日から全く遠慮しなかった。俺の直属騎士たちは、初顔合わせの日に夕方まで魔力なしで走らされ、それからもことあるごとに鍛えられている。武官寄りの騎士たちは意地で食らいつき、文官寄りの騎士たちは妙な粘りを見せ、全員がセバスチャンを見る目に少しずつ諦めと警戒を混ぜ始めていた。

俺も走る。

だから文句は出にくい。

いや、内心ではかなり出ているだろうが、少なくとも表には出ない。

若様が走っているのに、自分たちだけ逃げるわけにはいかない。

そういう空気が出来てしまった。

すまん、みんな。

だが、俺もかつてやられた。

諦めてくれ。

生産拠点の方は、思ったよりも俺抜きで回り始めていた。

それは良いことだ。

少し寂しくもあるが、良いことだ。

俺が顔を出せば職人たちは報告してくれるし、相談もある。だが、俺がいなくても進む作業は進む。蜘蛛の糸の扱い、炭の品質管理、馬車の部品、食品関係の試作。何もかも俺の指示待ちというわけではなくなっている。

これは、たぶん正しい。

俺がずっと張り付いているわけにはいかない。

これからは、直属騎士団もある。

帝国情勢もある。

父上の会議にも呼ばれるようになった。

会議の方は、まだ俺が公表もされていない半人前だから、ほとんど発言することはなかった。

部屋の端に座り、父上や上層部の言葉を聞く。

文官たちは情報の正確さを気にし、武官たちは兵と砦の配置を気にする。物資の量、国境の村々の様子、帝国側の商人の動き、王都から届く文書の遅さ。話題は多いが、結論は簡単ではない。

会議で決定したマバール家の方針は、現状維持だ。

消極的だが、手堅い方針だと思う。

そもそも王都の方針が決まっていない現状では、現状維持以外しようがない。

勝手に国境を越えて戦を始めるわけにはいかない。

かといって兵を引いて平和を願うわけにもいかない。

帝国の混乱に乗じて攻め込めば、短期的には得をする可能性もある。だが、それが王国全体の方針に反すれば、マバール家が勝手に戦を起こしたことになる。逆に何もしなさすぎれば、帝国の小勢力や敗残兵に国境を荒らされる。

だから現状維持。

砦は固める。

迷宮は通常通り管理する。

商人と国境の民の流れは注意して見る。

余計な挑発はしない。

だが、いつでも動けるようにする。

それが今のマバール家の答えだった。

俺は、その方針に異論はない。

むしろ、かなり妥当だと思う。

前世の感覚で言えば、こういう時こそ情報が大事だ。相手の政情が読めないのに、大きく動けば大火傷する。まして、この世界では貴族一人が小さな街を焼き払える。強い魔力持ちが一人動くだけで、局地的な戦況は簡単に変わる。

うかつに踏み込めば、こちらも痛い目を見る。

俺は訓練を終えた後、自室で地図を広げることが増えた。

正確には、俺が前世で見慣れた地図とは違う。縮尺も方位も少し曖昧で、地形の正確さにも限界がある。だが、大まかな位置関係は分かる。王国、帝国、北方、南方、山、川、国境線、砦、迷宮。

非常に大雑把にこの大陸を説明するならば、大陸の西側三分の二をエルディア王国が支配して、東側の残り三分の一を帝国が支配しているような現状だ。

もちろん、地図の上で綺麗に線が引けるわけではない。

山脈があり、森があり、川があり、昔からの領有の名残がある。現実では、国境線も小競り合いでちょくちょく変わる。平民にとっては、税を納める相手が変わる程度の認識しかない場所も多いだろう。

それでも、大きく見ればそうなる。

西の王国。

東の帝国。

その境目に、マバール家の領地がある。

王国の北方には北方諸国同盟とかいうものがあるし、帝国南部にも小さな国がある。

だが、マバール家からすれば、ほとんど無視していい。

もちろん、近くの領主なら関係あるだろう。北方に領地を持つ貴族なら北方諸国同盟を気にするだろうし、帝国南部に接する勢力なら小国の動きも無視できない。

だが、俺たちにとって直接の相手は帝国だ。

東にいる巨大な隣国。

今、その皇帝が死に、次が決まっていない。

これだけで十分に面倒だった。

エルディア王国人は、相手を帝国と呼ぶ。

俺も帝国と呼ぶ。

だが、もちろん帝国にも国名はある。

メガレア・アバルディア・ザザント・フリージア帝国。

正式名称はそういうらしい。

長い。

あまりにも長い。

初めて聞いた時は、何かの呪文かと思った。こんな長い国名を毎回言っていられるかと思ったし、実際、王国の人間はほとんど帝国としか呼ばない。

だが、もちろん意味はある。

要は、帝国は四つの帝家によって作られた国なのだ。

メガレア家。

アバルディア家。

ザザント家。

フリージア家。

この四家が集まって出来たので、メガレア・アバルディア・ザザント・フリージア帝国というわけだ。

名の並びにも理由がある。

要は、強いもの順だ。

最も多く皇帝を輩出したメガレア家。

それに続くアバルディア家。

さらにザザント家。

そして、これまで一度しか皇帝を輩出したことがないフリージア家。

そんな感じらしい。

こういうあたり、前世の感覚だとかなり露骨だなと思う。

建国の理念やら平等やらではなく、国名の順番からして力関係が出ている。もちろん、建前としては四帝家が共に帝国を作ったのだろう。だが、実際には序列がある。

しかも、その序列はずっと変わらないわけではない。

強い家が上に来る。

皇帝を出した家が重い。

軍と財を持つ家が発言する。

分かりやすい。

そして面倒だ。

帝国には、同じ家から連続して皇帝を出さないとの決まりがあるらしい。

らしい、というのは、そんなものが本当に厳格に守られているとは思えないからだ。

権力のある家が、自分たちの権力を手放すだろうか。

前世でも、ルールは力のある者にねじ曲げられることがあった。この世界ならなおさらだ。魔力という分かりやすい暴力がある。家の軍事力もある。血統と実力が絡み合う。

そんな中で、同じ家から連続して皇帝を出さないなんて綺麗な決まりが、いつまでも守られるわけがない。

現に、死んだ皇帝も、その先代もメガレア家出身だ。

つまり、すでに連続している。

決まりとは何だったのか。

メガレア家からすれば、それだけ自家が強いのだから当然だと思っているのかもしれない。帝国を支える力があるのは自分たちだ。だから皇帝も自分たちから出すべきだ。そう考えていても不思議ではない。

今回も、できれば自家から皇帝を出したいだろう。

だが、さすがに三代続けては難しい。

難しいはずだ。

他の帝家が黙っていれば、帝家の意味がなくなる。メガレア家による単独支配だと認めるようなものだ。これまで既に押されていたとしても、三代連続は露骨すぎる。

そうなると、普通ならアバルディア家から選ばれるはずだ。

序列二位。

建国四家の一つ。

メガレア家が続いた後なら、次はアバルディア家。

そういう形にすれば、帝国の建前は保たれる。

だが、アバルディア家には問題がある。

何故か、謎の不幸続きで現在、適当な男子がいない。

これがまた気持ち悪い。

アバルディア家の男子は、何故か事故死したり、病死したり、謎の失踪なんかもしている。

もちろん、偶然のわけがない。

病死の全てが暗殺とは言わない。事故死も、本当に事故だったものが混ざっているかもしれない。だが、有力帝家の男子が綺麗に減っていくなど、普通に考えれば妨害工作だ。

誰がやったのか。

メガレア家か。

ザザント家か。

あるいはアバルディア家の内部か。

帝国のことなので、俺には断言できない。

だが、他家からの妨害か、内部の権力争いか、何かしら人の手が入っていると見るべきだろう。

こうなると、次はザザント家から選ばれそうになる。

序列三位とはいえ、帝家だ。

アバルディア家に適当な男子がいないなら、ザザント家が正統な候補として出てくる。

だが、これにメガレア家が文句を言っているらしい。

メガレア家とザザント家では、家の規模が全く違う。

実力のメガレア家。

正統な流れで候補に上がるザザント家。

その二つが争っている。

実に分かりやすい。

そして非常に危険だ。

メガレア家は、実力を背景に皇帝位を維持したい。

ザザント家は、決まりと帝家としての正統性を盾に皇帝位を取りたい。

アバルディア家は後継候補が薄い。

フリージア家は、もはや帝家を名乗るのも難しいくらいに没落しているので、発言権はほぼない。

国名には残っている。

だが、実際の力はない。

それも悲しい話だ。

前世なら、名門だけど没落した家みたいな感じだろうか。名前だけは立派だが、財布は空で、人もいない。そういう家が政治の場で発言しようとしても、周囲は聞いたふりだけして終わる。

帝国の皇帝位をめぐる争いは、外から見る分には分かりやすい。

だが、実際にはもっと複雑なのだろう。

それぞれの帝家に付く貴族。

軍を握る者。

迷宮を管理する者。

商人。

地方領主。

皇帝の血を引く女たちの婚姻関係。

王国からは見えない細い糸が、無数に絡み合っているはずだ。

だから二十日経っても、新皇帝が発表されない。

決められないのだ。

あるいは、決まっているが公表できないのかもしれない。

どちらにせよ、帝国は不安定だ。

ギルは机の上の地図を眺めながら、指先で国境の辺りを軽く叩いた。

ここが荒れる。

たぶん。

いや、もう少し正確に言えば、荒れる可能性が高い。

帝国が内側で争うなら、国境に手が回らなくなるかもしれない。そうなれば、小勢力や現地の騎士が勝手に動き、王国側の村を襲うこともあるだろう。

逆に、帝国内の争いを外へ逸らすため、王国との国境で小競り合いを起こす可能性もある。

あるいは、メガレア家やザザント家のどちらかが、国境の戦果を利用して皇帝位の正統性を高めようとするかもしれない。

勝てば実力を示せる。

負ければ最悪だが、混乱した政治の中では、危険を承知で動く者もいる。

嫌だなぁ。

ギルは内心で呟いた。

非常に嫌だ。

俺は気楽な三男坊でいたいのだ。

兄上たちと争うつもりもないし、マバール家の当主になるつもりもない。開発を進め、訓練をほどほどにこなし、レティシアと楽しく過ごしたい。戦場も必要なら行くが、積極的に世界史のうねりに巻き込まれたいわけではない。

だが、帝国皇帝が死んだ。

俺の希望など関係なく、世界は動く。

そういうものなのだろう。

前世でも、個人の都合とは関係なく社会は動いた。会社が忙しくなり、景気が悪くなり、誰かの判断で現場が振り回される。嫌だと思っても巻き込まれる。

この世界では、それが戦や魔法や貴族の形で来る。

より直接的で、より血なまぐさい。

扉を叩く音がした。

「若様」

レティシアの声だ。

「入れ」

扉が開き、レティシアが静かに入ってくる。

手には茶器を載せた盆。

いつも通りの動きだ。

その姿を見るだけで、少し思考の熱が下がる。

「お茶をお持ちしました」

「ああ、ありがとう」

レティシアは机の上の地図を見て、すぐに邪魔にならない位置へ茶器を置いた。

何も言わず、俺の手元と地図の位置を見て、置く場所を決める。

相変わらず出来る女だ。

「帝国のことを考えておられたのですか」

「まあな」

ギルは椅子にもたれた。

「考えたところで、何か分かるわけでもないけど」

「情報は日々増えております」

「増えてはいるが、確定は少ない」

「はい」

レティシアは静かに頷く。

それがありがたい。

変に慰めたり、若様なら分かりますなどと言ったりしない。分からないものは分からない。確定しないものは確定しない。その上で、考えるべきことを考える。

「帝国の四帝家について、レティシアはどう見ている?」

ギルが尋ねると、レティシアは少しだけ考えた。

「わたくしが知る範囲では、メガレア家が最も強く、ザザント家が最も声を上げているように見えます」

「アバルディア家は?」

「表向きは静かです。ですが、静かでいるしかないのかもしれません」

「男子がいないからか」

「はい」

レティシアはそこで少し声を落とした。

「ただ、不幸が続きすぎているとは思います」

「だよな」

ギルは茶に手を伸ばした。

温かい香りが鼻へ抜ける。

少し気持ちが落ち着く。

「事故死、病死、失踪。偶然で片付けるには綺麗すぎる」

「はい」

「誰がやったと思う?」

「分かりません」

即答だった。

「ですが、誰が得をしたかを考えれば、候補は限られるかと」

「メガレア家か、ザザント家か、アバルディア家内部か」

「はい」

「フリージア家は?」

「そこまでの力が残っているとは考えにくいかと」

「だよなぁ」

フリージア家が裏で暗躍していたら、それはそれで面白い。

没落した帝家が、最後の賭けとして他家を削り、皇帝位を狙う。

物語ならありそうだ。

だが現実には、力のない家が大規模な妨害工作を続けるのは難しい。できるとしたら、どこかの家に利用される形だろう。

「メガレア家が三代続けて皇帝を出そうとすれば、他家は反発する」

「はい」

「ザザント家が皇帝を出せば、メガレア家は面白くない」

「はい」

「アバルディア家は人がいない」

「はい」

「フリージア家は弱い」

「はい」

「詰んでないか、これ」

レティシアはすぐには答えなかった。

代わりに、静かに茶を注ぎ足す。

その沈黙で、ギルは自分の言葉が完全な冗談ではないことを理解した。

詰んでいる。

少なくとも、綺麗な解決は難しい。

誰が皇帝になっても、どこかが不満を持つ。

メガレア家なら、三代連続への反発。

ザザント家なら、実力不足への不安とメガレア家の不満。

アバルディア家から無理に誰かを立てるなら、傀儡になる可能性。

フリージア家は論外に近い。

帝国は大きい。

だが、大きいからこそ割れた時の影響も大きい。

「王都はどうするつもりなんだろうな」

「方針が届くまでは、マバール家としては現状維持かと」

「それは分かる」

ギルは茶を飲んだ。

「問題は、王都が変な方針を出してきた時だ」

善良王。

戦のない世を望む王。

前世の感覚なら、それは立派な理想かもしれない。

だが、この世界では違う。

魔力持ちが存在し、貴族が一人で小さな街を焼ける世界で、ただ戦をなくしたいと言っても現実は動かない。帝国の皇帝が死に、後継争いが起きそうな時に、王都が妙に理想的な命令を出してきたら面倒だ。

国境を刺激するな。

帝国の混乱に介入するな。

兵を動かすな。

そういう命令ならまだ分かる。

だが、国境の武装を緩めろとか、帝国と和平の使者を出せとか、そういうことを言われたら本気で困る。

いや、さすがにそこまでではないと思いたい。

父上も言っていた。

王はそこまで馬鹿ではないと。

ただし、父上は王を善良王めと呼んでいた。

かなり不敬だが、身内の場だったので問題ない。

「若様」

「何だ」

「お顔が少し険しゅうございます」

「そうか?」

「はい」

レティシアがそっと俺を見る。

「少しお休みになられては」

「休むほど疲れてはいない」

「考え続けることも疲労になります」

「それはそうかもしれない」

ギルは地図から視線を外した。

レティシアを見る。

整った顔。

落ち着いた目。

この顔を見ると、帝国の四帝家だの皇帝位だのを考えていた頭が、少しだけ別の方向へ向かう。

かなり危険だ。

だが、同時にありがたい。

俺に必要なのは、たぶんこれなのだろう。

戦場や政治だけを考え続けると、どこかで心が固くなる。俺は前世の記憶があるせいか、この世界の貴族としては妙なところで引っかかることがある。帝国の村を焼いても大きく壊れなかったが、完全に何も感じていないわけではない。

そういうものを、レティシアの存在が少し緩めてくれる。

「分かった。少し休む」

「はい」

「ただし、寝るわけじゃない」

「では、何をなさいますか」

「レティシアを眺める」

レティシアの頬が、わずかに赤くなった。

「若様」

「休めと言ったのはレティシアだ」

「それは、そうですが」

「俺はこれが休まる」

実際、かなり休まる。

レティシアは困ったように目を伏せたが、拒みはしなかった。

かわいい。

ギルはしばらく、何も考えずにレティシアを見た。

帝国の皇帝。

四帝家。

国境。

王都。

マバール家の方針。

それらが消えるわけではない。

だが、少し距離ができる。

それで十分だった。

うーん、どうなることやら。

結局、今の俺にできることは限られている。

訓練を続ける。

直属騎士団を形にする。

生産拠点を回す。

会議で情報を聞く。

父上や兄上たちの邪魔をしない。

必要なら戦う。

そして、レティシアと過ごす。

帝国の空白がどんな形で埋まるのかは、まだ分からない。

だが、その空白の向こうから、何かがこちらを見ているような気がした。