軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

もう少しだけ

何をする、などというのは簡単なことだ。

廊下を歩きつつ、ソラリックは考える。もはや青い廊下は曲がっておらず、いつものようにしゃんとしている。

革の靴がこつこつと鳴る。思い出すのはネルグの森の中で見ていた上等な革靴。まるでどこかで聞いたことのある足音に、しかし『あの人』は足音など鳴らさなかったなぁと心の中で独りごちた。

入るのは休憩室、ではない。

研究室と呼べる何もない部屋。先に寄った資料室から持ってきた大量の紙の束はまだ真っ白で、適当に壁際の棚に置いてあった瓶を手に取れば、中には墨がたっぷりと入っている。

「……よし」

またもう一度呟いて、羽根の軸先を墨につける。

手を止めずにソラリックは真っ白な紙に文字を綴ってゆく。頭の中にある重い荷物を全て吐き出すように。あるものを全てさらけ出すように。

「あの、……何してるんですか?」

ソラリックが姿を消して大分経った。なんとなく心配になった年上の後輩は、ソラリックが既に使われていない研究室で一心不乱に机に向かっているのを確認し、その小さく丸まった背中に声をかけた。

机に齧り付くようにしていたソラリックは一瞬自分にかけられた声だと気付かなかったが、しかし意識のどこかで反応したかのように不意に顔を上げ、振り返って始めて後輩の姿を確認した。

「何ですか?」

「え、だから、何を……」

言いつつ歩み寄った後輩はソラリックの手元を見て不思議に思う。

どこか見覚えがあった。そこには渇望症の研究資料。患者から得られた情報、またまとめた統計など。

何をしているのだろう、と思った。今更その研究資料を書き写し、写本を作ろうと何の意味もないのに。

これから全ては灰燼に帰す。病も患者もまとめて。ならば、そんなものに何の意味もないのに。

「治療研究……の前の準備です……かね?」

後輩の質問に答えようとし、しかしソラリックは自分でも言いつつ首を傾げた。

治療研究の前の資料の準備。今第一治療院に行くなどの移動は、出来ないわけではないが憚られる。だから、そのための資料を今作っている。そういう話。

けれども違う、と思ってソラリックはまた口を開く。

「いいえ、治療研究です」

「しかしもう今そんなことをしても……?」

後輩はまたソラリックの向かっている机の違和感に気がついた。

何かを書き写しているのかと思ったが、そうではないらしい。ソラリックの前にある紙束の山は、白紙のものと、書き終えたらしきもの。それに今書き途中のもの、のみ。

これは、まさか。

「もしかして、全部覚えているんですか?」

突飛な考えだ、と後輩は思った。

既に何かが書かれている何十枚もの紙束を持ち上げてそこを読めば、何十何百という患者の情報や病状の記録が事細かに書かれている。

しかもその半分以上が数字の羅列。

文章というものは人間には覚えやすい。書いてる意味を理解し、文脈を考えれば、短い文章ならばそう難しくはない。けれども数字というものは違う。数字単体で意味を持つことはそうそうなく、語呂合わせなどの補助を使って覚えるのが正当な方法とすら言える。

自分であれば、この一枚の紙に書かれていることすら難しい。半分も覚えられれば上出来なのではないだろうか、と後輩は思う。

しかし目の前で、ソラリックは滔々と筆を走らせ続けている。

文章も、関係図も、数字も淀むことなく。

「……覚えるのは、得意なので」

後輩に目を向けず、定規を紙に当てて図の罫線を描く。

ソラリックの視界の中には、その完成図が既にある。ならばそれをなぞるだけだ。

鬼気迫るようなソラリックの様子に、凄い、と後輩は思いつつも、けれどもそれ以外の感情が芽生える。

拾い上げた論文は、たしかに後輩も見たことがあった。

けれども、見たことがあるのだ。関わった者たちの多くが見て、検証し、検討し尽くしたもの。ならばこんなことをしても無駄なのに。

後輩から見ても、最近ソラリックは疲れていた。

当然だろう。ほとんど休みも取らずに患者の看護や救護に専念し、治療の研究を行い、働き続けてきた。その姿をずっと見てきた後輩からすれば、今ソラリックが最前線から離れても責める気にはなれなかった。

休みが必要だったのだろう。

気が触れたように、彼女は今無駄なことに着手をしようとしている。

まるで幼子が風車を吹いて遊ぶように。

「休んで下さい、ソラリックさん」

論文の束をそっと机に置いて、諭すように後輩は言う。

それはこの治療院の者の総意だ。この病魔災害において、もう治療を諦めた聖教会では、簡単な手当しか仕事がないのだから。

「私は大丈夫です」

だが後輩の諫言もむなしく、ソラリックは背中で断る。

もう少しで、もう少しで何かがつかめそうだ。

そう感じているソラリックは手を緩めない。

ソラリックにとって、『思い出す』という行為と『思考』とはほぼ同一の行為だ。

今筆記しているのは、単なる記憶の棚卸しだ。記憶を整理し考え直す。ただそのために、外部へと出力をするという無駄な行為をしている。

けれども無駄なことではない、とソラリックは実感した。自分が読んで、覚えていて、知っていると思っていて、それでも今気付いたことがいくつもある。見落としていたことがいくつも出てきた。

まだ出来ることがきっとあるのだ。

きっと、まだ。

それが、きっと主が私に示してくれたこと。

「私にはまだ出来ることがあるんです」

「でも、もう」

「出来ることをしたいんです」

自分を見つめ直した今だから。

「ヨシノさんも手伝ってくれませんか。最初から全部を見直します」

「全部って?」

「全部です。読み返せば、きっと気付くことがあると思うんです。事実、もういくつもありました」

そして所詮その読み返しは自分一人のものだ。一人より二人、きっと査読すれば気付くことがあるはずだ。

「何か引っかかれば教えてください。検討し直しましょう、最初から」

手を止めて、ソラリックは書き終えた論文をもう一度後輩に差し出し押しつける。

もう治療の手はほとんどない。だからこそ、手は余っている。

自分たち二人が抜けても大丈夫だろう? とソラリックは笑みの中に意思を込めて、声なき声を受け取った後輩は頷くことしか出来なかった。

後輩は読む。ソラリックは書きながら読む。

カラスが送ってくれた資料を脳内から出力しつつ、ソラリックは考え続ける。

一日ごとに新発見や新説が出ていた昨今、既にほとんどのものが過去のものになりつつある中で、僅か特異なものが残る文章を。

(カラスさんの進言……でいいのかな、結局協力を受けられなかったけど、やっぱり今となって思えばきっと効果があったんだろうな)

カラスからの進言。それも増殖人面疽に関わるものは、簡単だった。

曰く、全ての収容所内部での過去の暴力事件を調べること。もしくは看守から、囚人に対する過度な虐待などが行われていなかったか、という調査。

根拠としては、増殖人面疽の感染部には傷口があったということ。それから看守は手足などの末端に、囚人は腹部や背中などの体幹部に現れることが多かったということ。

つまりそれは、そこに傷口があったということが示されており、そしてその原因となった事象の推測だ。

看守から囚人への虐待が行われていなかったか、という調査。

無論、そのようなことを考える者はほとんどいなかった。囚人というのは罪人だ。ならば少しばかり『非道』な目に遭っても大抵問題にはならないし、処刑場に引っ立てられてきた囚人の顔に青痣があることなどあっても誰も気にはしない。

だが一応外聞というものがある。

看守が囚人を使って少しばかりの苛立ち紛れを行ったところで、無意識に露見を防ごうとするものだ。

故に攻撃箇所は腹部や背中などの衣服に覆われたところに集中するし、そして看守側がその際に手傷を負うとしても拳や足、膝や肘などに集中する。

カラスの仮説。増殖人面疽は血液による感染、というのはソラリックの仮説とも一致し、検証しほぼ確定されている。

恐らく何かしらの『因子』は囚人が元だったのだろう。囚人は、何かしらの因子を身体に宿し、何かしらの怪我を負った際に発症した。

看守側は、傷があり、なおかつ囚人の血液が触れた場所に発生した。靴があるため足先は少ないが、たとえば拳から、もしくは膝から。飛んだ血が頬について、そこには髭の剃刀負けがあった。そういうことで。

その検証の際に行われた調査は、やはり刑務官や看守などの反対もあり行われなかった。

誰も問題にしないとはいえ、囚人相手にも暴力を振るうのはやはり外聞が悪い。皆が口をつぐみ、または『無い』と調査前に断言されて。

そのような調査項目を取る研究を、ソラリックはほとんど読んだことがない、というのは新鮮な感想だった。

無論、過去にいくつかはある。地域によって起こる風土病、生育した国によって違う経過を辿る病。また病への抵抗力や脆弱性など。それらを根拠に、病を探るという研究。都市の構造や食物などの文化、生活様式による病の傾向など、その他をまとめて細分化し解析するという研究。

しかし、そのどれもが日の目を浴びず、ソラリックとしても対して着目はしていなかった。

それが今必要なのかもしれない。

それを再確認するのには、充分な出来事だった。

そしてたしか、少し前に見た『日の目を見ていない研究』のうちにも確かそのようなものが。

「……やっぱり、……エウリューケ・ライノラット」

彼女も。

彼女の研究項目は、カラスへ手紙を送る関係上ソラリックも目にした。彼女の執筆した論文の中に、恐らくそのようなものがいくつもあったはずだ。

病気への耐性と都市構造の関係。農業と破傷風の関わり。その他いくつも、ソラリックたちにとっては『病と関係が無いだろう』と思えるようなことと関連性を見つけていそうなものがいくつもあったはずだ。

彼女の考えを、論文の題名でしか知ることが出来ないのが悔やまれる。

今目の前で積み上げている災害前の過去の論文の中にも、彼女の論文を引用したものが数多く存在する……のだろう、と思う。

黒塗りで消し切れていないものはいくつか。その上で、黒塗りで消されている参考論文はいくつもあったし、きっとその中にはまだまだあるのだろう。

カラスは、きっと彼女と近い場所にいる。

近い場所から同じような視点で病を、世界を見つめているのだ。そしてその視点は自分たちとは違うところにあるのだ。そんな気がしてたまらない。

(もしも本当に『青い髪』がその人なら……)

現在起きているのは未曾有の災害だ。人の手で起こせるとは思えない。

けれども仮に犯人がいるとしたら。そんな文脈で治療師たちの間に挙がるのは、『青い髪の女』だ。

明確に不死の首を作り出した張本人。

ならば他のものを作り出したといっても頷ける。

その正体が『気が触れた魔法使い』とも『人の形をした魔物』なのだとも言われている彼女が、もしも人間なのだとしたら。

でも、だとしたら、何故こんなことをしたのだろうか。

最初に発見された『不死の首』の患者は苦しみ続けている。

少し前から鎮静剤に耐性を持ってしまった彼は、全身の痛みに叫び声を上げ続けているのだという。当初死を与えられるのではないかとされていた乾燥も窒息も効果なく、ただ耐えて苦しみ続けているのだという。

その他のそれらしき患者には未だ安静措置だけではあるが、まだ治療法は見つかっていない。

その他の病も、効果の見込める手立てはいくつか見つかろうが、やはりまだ。

今現在、この街で最も猛威を振るっているのは『死体の再構成』と『渇望症』だ。何らかの『因子』を持つ死体は損壊の程度に関わらず蘇り、渇望症の感染者は彼ら自身が食べられると認識したものに食らいつく。

再構成された死者にはそう危険性はない。渇望症も末期では抑制が必要であるがそう危険ではなかった。

けれどもその二つを同時に宿した感染者が現れたことで、その危険度は跳ね上がった。

蘇った死者に襲われた生者は、渇望症を宿す。更にそこで死んでしまえば、生者ですらない『渇望症の運搬者』になる。

死者は病の宝庫だ。その体液や浸潤している液体は、容易に人を汚染し死に至らしめる。

だからこそ、聖教会は、大抵の宗教というものは死体の処理を定めているというのに。

エンバーが重く見たのもそこだ。

渇望症だけではない。

蘇った死体が、その他の病を運搬することも考えられる。

増殖人面疽を、境界融解症を、灰血病を、暗闇恐怖症を、末端崩壊症を。その他多くの致死的な病を宿し、そして感染させてゆけば死者は鼠算式に増えてゆく。

あっという間に死者の街が完成し、そして死者は周囲の街まで伝播していく事態となる。

故にこの街を焼かなければいけないのだ。

被害をここで食い止めるために。

もしもエウリューケ・ライノラットがこのようなことをしたのならば。

何故このようなことが出来るのだろう。一時は神に仕える敬虔な聖女とも呼ばれる優秀な治療師だったという。

そんな彼女が、今は病をばらまいているとするならば。彼女の行為がきっかけで人が苦しみ続けているとするならば。何故そのようなことを。

参考資料の論文を統合し、全てを脳内で混ぜ合わせてソラリックは考える。

文章の中から執筆者の主張と、参考にした誰かの思考とを分離し、逆算し、抽出する。目指すはエウリューケ・ライノラットの主張、思考。

消しきれず、残った断片からの推測。

推測から形作ったエウリューケ・ライノラットとの対話。

人間である以上、意味なく何かを行うのは不可能に近い。ならば必ず意味があって、何かに繋がる意図がある。

もしも彼女が犯人でなくとも、きっと彼女の思考を類推するのは意味がある。

記憶に残る誰かの論文を書き写しながら、まるでそれで空いた脳の記憶領域を活用するように、ソラリックは考え続ける。

まだ出来ることがある。まだ気付いていないことがある。

少なくとも、このライノラットは自分よりも優れた女性だ。彼女ならばどう思うか、彼女ならばどう考えるのか。その思考を追跡し、根拠を考えてゆく。

増殖人面疽に対する薬剤の投与は一定の成果を得た。けれども結局腫瘍が消退することはなく、その形のまま残ってしまった。

カラスは、切除しての《再生》が有効ではないかと推定していた。ソラリックもそうは思う。

切除自体は聖教会でも行った。けれども余白を作るため、切除される組織の大きさが腫瘍自体よりも大きく、体幹部には行えないことが大きな問題だった。

一応は、たとえば四肢末端に出来たものであれば切断が有効であるともされていて、それで助かった者もいる。しかしそうすれば、手首から先や足首から先は確実に失い、それ以上を失うこともあれば生活に支障が出る。

きっとそれが正攻法だろうとも思う。

けれどもたとえば、それがエウリューケ・ライノラットならば。彼女ならばどう考えるだろう。どう考えて治療を目指すだろうか。

視点が重要なのだ、とソラリックは自らを鼓舞する。

今までの視点ではない、違う視点で。

実感する。

患者本人だけではない。患者を取り巻く環境にも目を向けて。

カラスは看破した。囚人と看守という社会的要因を。

エウリューケ・ライノラットも、二十数年前に同様のことを考えていたらしい。

エンバーは口にしていた。

『所詮二十年前の論文だ。今読んでも発見はない』と。

けれども違うと今になって思う。

未だ自分たちは、エウリューケ・ライノラットの二十年前に追いついていない。

ならば仮にこの犯人がエウリューケ・ライノラットだとするならば、きっと今は更にその二十年先を行っている。都合四十年以上の技術の後れ。

ならばどうするか、などはとても簡単で、とても難しいけれど。

今は出来ることをする。

考えるべきだ。自分がやりたいことのために。

記憶からの論文の写本は止まらない。

一度読んだものを覚えているのは彼女の特技。その上で、執念が後押しをする。

後輩はといえば、早々に居眠りを始めてしまったのだが。

「……この模様、誰かの落書きだろうけど、何なんだろ」

結局その日最後に書いていたのは、いくつもの論文に書かれていた落書きのようなもの。

注釈や訂正線など、それらしきものがあったはずだが、その蚯蚓が這ったようなものがソラリックの記憶の中でも読み取れない。

きっと今は睡魔に襲われていて思い出せないのか、それともきちんと覚えていなかったのか。

そのような理由だろうと思っている間に視界が傾き、暗くなってきた気がした。

瞬きをしたソラリックが感じたのは、自分が今寝ていたことと、高い窓から差す日に、いつの間にか朝になっていることだった。

「…………」

起きたソラリックは、状況を理解出来ずに一度頭を掻いた。寝癖は出来ていないらしい。けれども、目やにがついているようで擦った瞼に硬いものが触れた。

「ん……水……」

喉が渇いた。そういえば昨日から何も飲んでいないし、そもそも何も食べていない。

それに思い至ってソラリックは苦笑する。

見回せば、どこか治療院の中が賑々しい。

きっと昨日のうちに、あれから避難民を大勢受け入れたのだろう。それを思いつつも、その作業に参加出来なかったことに少しだけ申し訳なくなった。

王都の治療院は四十を越える。多くの治療院は居住性などを考えなければ五百人ほどを受け入れる大きさはあるし、大きな治療院では敷地内に千人に近い人数を一時収容出来る。それに、王都の人間自体が既に数を減らしている。故に人数の心配は無い。

この治療院では近隣の住民三百人ほどを受け入れる予定だ。それもきっと今日のうちに終わるだろう。

長い滞在ではない。ただ単に、ここが死者からの一時避難場所になっているだけで。明日の日の出には全てが終わる。

それを思えば、少しばかりの窮屈さを我慢してもらえるというもの。

だから、今日が最後なのだ。

今日の日が、この王都が最後に見る太陽だ。

それを思えば、もう少しだけ。

一度ソラリックは席を立ち、身だしなみを整えるなど小用を済ませて、水だけを飲んでまた席へ着く。

あと少しだけなのだ。猶予は。

ならば、と気合いを入れるべく肩を上下させて大きく息を吸って吐く。

まだ皆を助ける方法は見つかっていない。まだ根治する手立ては見つかっていない。だが、見つけなければいけない。それが治療師で、私だから。

そう信じ、墨壺に手を伸ばす。

その伸ばした手が、ふと目測を誤り、写本した論文の紙束に触れた。

「あっ……」

ばさばさ、と紙の束が崩れて机から滑り落ちる。

本物とは違い端を止めてすらいない紙の束は、どこかふわりと空気を含んで広がった。

やってしまった、と後悔のような念を抱きつつ、ソラリックは席を立って拾いにかかる。

幸いほとんど順番は変わっていない。僅か混ざってしまったが、どれが何枚目かは詳細に覚えているから問題は無い。

そう考えつつ、わずか寝ぼけたような頭のまま、石の床から紙をかき集めた。

(これは灰血病……、で、これが、私の覚え書きで……あ、違う、これは不死の首……)

そして、内容を確認していたソラリックの手が止まる。

閃光が頭に走った気がする。ほんの小さな引っかかりが、頭の中でざらりと音を鳴らす。

まだ違和感程度しかない。けれども、その引っかかりが無視出来ずに、ソラリックは想像を膨らませた。

もしもこの犯人が、聖女候補と呼ばれていたような人間だとしたら。

彼女、エウリューケ・ライノラットが犯人だとしたら。

頭の中に、彼女の書いた論文の題名が展開される。

まさか、この蔓延しつつある病の意図は。

「これは、……試して、みないと……」

もしかして、間違っていたのだろうか。

自分たちは、最初から。