軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

言葉と舞台の両面で

「それで? 探索者カラス。私はどうすればいいと思います?」

ケタケタとネジが外れたようにミルラは笑う。その後ろで、僕とはおそらく違う意味でアミネーは目を背けていた。

「正直に言いましょう。私は貴方の命なんてどうでもいいの。貴方が生きようが死のうが私は関係はないわ」

言い切ってから、ミルラが僕に手を伸ばす。繋ぎたいわけでも、どこかを示しているわけでもないだろう。ただ興奮に身振りが大きくなっているだけで。

「でもね、貴方は私に大きな贈り物をしてくれたわ。貴方が望むなら、それに報いてあげるくらいの優しさは私にもある。こんな国から貰う褒賞なんて手放しても構わないわ。それよりもっと大きなものを見せてくれたんだもの」

「それはそれは」

「もう取り繕うのは終わり。私は間違えてなどいなかった。貴方は正しかった。こんな手を使ってまで、私に褒賞を渡したくないのね、お父様は」

拳を握りしめたミルラ。

楽しそうで何よりだ、と思う。

その真実はわからないが、未だにレイトンの誘導は効果中らしい。

ミルラ王女はその身の不遇を嘆いている。

頑張っても報われないその身の不遇の理由をいつも探していた。

そして今、それは成ったのだ。

「姫様、それは違います。陛下は御身のためを思って……」

「黙りなさい、アミネー。貴方がお父様と通じているのは知っていますわ。次は何? 私のどこを否定するの? どこを否定して私に仕方ないと納得させるつもりなのかしら?」

「…………」

言葉を返せず、アミネーは僕を恨めしげに見る。

後ろのアミネーを振り返ることもせず、ミルラは僕を見た。

「計画の決行は貴方が城に訪れ次第、という話でしたわ。お父様はそれも戦後の話だと思っていたようですけれど、こんなに早く貴方がこの城に姿を見せるなんて予想できていましたかしらね?」

「計画というのは?」

「お父様が貴方をまず謁見に呼び出すそうです。貴方の戦場の活躍を称賛するために。しかしそこで、聖教会が貴方を禁忌の罪で糾弾する。当然私と貴方は慌てますわ」

慌てる、だろうか。

僕はその様を想像し、首を傾げる。何も知らずにそこに立った場合、慌てるよりもまず別の感情が湧き出してきそうだと思うのだが。

まあきっと、その計画を立てた王やその周りでは、僕はそういう人間なのだろうと思う。

「私はそこで貴方の助命を嘆願します。貴方を哀れんだ私は、貴方に功績全てを国へと返上させて、その代わりにお父様に申し立てる」

酷い演技になりそう、とミルラは自嘲する。

「つまり、全てが自作自演。お父様は貴方を生け贄として呼び出し、聖教会に突かせ、私がそれを救うという舞台を作る。後に残るのは功績を全て奪われた私と貴方の二人だけ。私には一応、自分の功績を投げ打ってまで部下を救った慈悲深い姫としての風評が残るのかしら」

クスクスというその笑みが、未だ上品に見えるのは今までの王族としての教育の賜だろうか。

だがやはり、全てを奪われるということを言いつつも楽しそうな雰囲気は消えはしない。本気で喜んでいる。多分、今の彼女をルルが見ても、嫌悪感は抱かないと思う。

「でももちろん、褒賞は魅力ね。貴方一人が処刑されて、私が褒賞を受け取る。それも素晴らしいわ。五英将を一人殺し、戦場で最多数を撃破した貴方の功績はどれほどのものとなるでしょうか」

「実際、どれくらいになりそうですか?」

「そうね。少なくとも爵位は望めるわ。それに領地も。これで私も領地貴族の一員で、生きていれば貴方にも騎士爵どころか男爵位や子爵位すら与えられたかもしれませんわ」

「それは凄い」

僕は褒めるが、そう上手くいくだろうか。

功績を返上させるのは、王からミルラへの気遣いでもあるだろう。異端者である僕が挙げた汚れた功績を娘が受け取らないため。聖教会に対して、異端者である僕とミルラ王女の関係をなかったことにするという禊ぎのためのもの。

「そんな褒賞は魅力ですわ。けれども、今私は機嫌がいいの。貴方にどちらか選ばせて差し上げます。貴方を殺して、私が褒賞を受け取る。貴方を生かして、私は褒賞を手放す。どっちでも構わない。貴方が選択なさい。いくら貴方でも間違えない簡単な選択でしょう?」

さあ、と楽しげにミルラが急かす。

確かに簡単な質問だろう。僕の命を助けるか助けないかという簡単なもの。

通常であれば一択であり、むしろ天秤に掛かっているのが命ということもあり、僕はミルラ王女に縋り付いて助命を嘆願するべきなのかもしれない。

ミルラ王女も、僕が縋り付いてくることを期待しているのだと思う。

本来は焦るべき時間なのだろう。

お前を殺す計画があると告げられ、その命の選択を迫られている。

だが、何故だろう。

何故だろうでもない気もするが。

全然、危機感が湧いてこない。

僕は顔を逸らして、長い息を吐く。

どうしよう。どうしてくれよう。迷いばかりが浮かんでくる。

「あら、どうしたの?」

「僕……いえ、私はいつもこういうとき悩んでばかりだったんですよ」

揃えていた膝が少しだけ開いたが、閉じる気はない。僕という一人称を言い直したが、言い直す必要があったのかわからない。

「正しい回答はわかっているつもりです。正しい態度も。私はあわあわと慌てて、殿下の膝元に縋り付いて私の命を願う」

「ならそうなさい」

「それもどうしようかと悩んでいるところです」

窮地。危機。

どうする、といつも危険は僕に選択を迫る。選択の時間切れに気をつけろとレイトンには昔言われた気がする。時間は影よりも早く僕たちに迫ってくるからと。

人生において、いつも僕はそこで、どういう選択肢があるのかと悩んできた。危機を脱するための選択肢は、よりましな結果に終わる選択肢は、と考えてきた。

でも今日はそうではないらしい。

どういう選択肢があるのかではない。

切れる鬼札が大量にある。

どの選択肢がいいかで今日は悩んでいる。

「そうですね。やはり、殿下には私の命を救っていただけますか」

「優しい私は気にしませんが、頭くらい下げるべきではなくて?」

「いいえ? 恐れながら、下げるべきは殿下になることでしょう」

助命はいらない。けれども、させるべきだろう。その方が面白い。

その上で『いらない』と捨て鉢になった褒賞なら、是非とも受け取らせたい。これは僕が天邪鬼だからだろうか?

「殿下には褒賞を受け取っていただきたい。目も眩むような、先ほど殿下が仰ったような、爵位や領地を」

「……どういう意味かしら」

僅かに気分を害したように、鋭い目でミルラが僕を睨む。

「簡単にいえば、助命を嘆願する際に一つ言い添えてほしいんです。それだけで、どうにかなる気がします」

上手くいかなくても構わない。

失敗したら失敗したで別に。ミルラ王女の得にならないというだけで、それ以外に実害はない。

王は、そこまで予測しているだろうか。

今この王城に届いているのは、僕とクロードが五英将を討った、という段階のもの。

情報がその段階ならば。

アリエル様に全部押しつけるのもいいけれども、うやむやにされたくないことは一応明言させたい。

「ちなみに、私が王城を訪れたときに計画が発動する、ということは今日この後の話でしょうか?」

「そうですわ。先ほどアミネーに確認に行かせましたが、貴方がこの城を訪れたことは謁見申請を通じて既に伝わっております。城にいる主立った高官や貴族に声をかけているらしいですわ。ねえ?」

ミルラがアミネーに肩越しに問いかける。しかしアミネーは、唇を噛みしめるようにして黙っていた。

「アミネー、答えて」

「……戦争中ではあるものの、功労者を慰労したいとの名目で、予定を調整させているそうです」

渋々と答えたアミネーの視線は床を向いたままだった。

僕は鼻を鳴らしそうになって止める。

本当は、ここまで僕に伝わる予定ではなかったのだろう。

ミルラへの報告をするために僕はここを訪れた。ミルラはそれをただ聞いて、そのうちに王城の使者がここを訪れて、ちょうどいいから……となし崩し的に謁見の間に向かうはずだった。

だがおそらくミルラとしては昨日の夜からこのつもりだったのだろう。

僕に全てを話し、王の目論見を明かす。そのために、謁見の許可が速やかに出るように事前に手配していた。

王への小さな反抗。そのおかげで僕の考える時間が出来たというのはありがたい。

「しかし陛下も何を考えているんでしょうか」

話題が切れた隙に、僕はあえて少し大きな声で言う。

「何を?」

「私が戦争の功労者。ならば、私が抜ければ戦線において大打撃では?」

くつくつと笑うようにして僕はミルラへと答える。

しかしそうではないだろうか。もしも僕を罰して追い払うのであれば、戦争が終わった後が望ましい。戦闘員たる僕がいなくなったら、それを支えるための余剰戦力が必要になる。

ただでさえ昨日の報告では、エッセン軍はイラインに撤退しているのだ。そこで僕を排除して戦線をどう支えるつもりなのだろう。

講和をまだ知らない以上、戦争はまだまだ続くと考えるべきだろうに。

一瞬呆気にとられたようにミルラは目を丸くし、それから口元を抑えてまた笑う。

「その通りですわ。でもね、貴方も考えが足りないようね?」

「すると?」

「お父様はこう言えばいいのよ。『助命したミルラへの恩を返すため、速やかに戦線へと戻り、その身果てるまで働きなさい』とね」

「なるほど。抜く気はなく、ここからはただ働きということですね」

正確には、ミルラからの報酬は出るはずだが。

「そしてそれを、貴方はする気がない」

「そうですね」

髪の毛を払うようにして、ミルラは背もたれにもたれる。

「私も楽しみになってきたわ。貴方はこれから私に、またどんな贈り物をしてくれるのかしら?」

「先ほど報告を忘れたこともありますので、そちらも含めてお話ししたいのですが……」

僕も前屈みになり机越しにミルラ王女に顔を寄せる。

しかしそう楽しみにされても少し困る。ミルラ王女は、やはり褒賞を受け取るだけだ。

忘れがちだが、僕は個人で戦場に出ていたわけではなく、そしてミルラ王女は僕一人を雇っているわけではない。

謁見の間は、実は入ったことがない。

中の人間の出入り以外にはいつも扉が閉められていたし、その横には警備に近衛兵が立っている。おそらく練度は聖騎士と変わらないような精悍な兵が警備している横をすり抜けていくのは透明化していても気を遣うため、中に入る必要性を感じられなかったからだ。

「ミルラ・エッセン王女殿下! カラス殿! お目見得に参上されました!!」

扉の前にいた礼服の二人が扉を開けて、右にいた一人が叫ぶ。

堂々とミルラは中に足を踏み入れて、僕はそれに続く。

青色の絨毯は他と変わらない仕立ての良いもの。しかし幅が十歩ほどある太いもので、その両縁が金色に彩られ、まっすぐと十五歩ほどかけて玉座へと伸びている。四段ほどの階段の上には玉座。座るのは、以前見たときと何ら変わりない、白い髭も白髪も長く伸ばし垂らされたエッセン王。小さな金の冠は以前と違うものだろうか。

入り口の扉を通り過ぎたところで、内側に控えていた礼服の男性二人が静かに扉を閉め、会釈する。僕らに対してではなく、儀礼的なものだろう。

青い絨毯の横、そこはひんやりとした白い石の床だった。そこでは十数人もの人間が疎らに整列して僕たちを見ている。

正直見覚えのある顔はあまりない。

けれどもその先、玉座に近いほど服の仕立てが豪華になっているようなので、そちらにいくほど地位が高いのではないだろうか。

またその上で、一番近い位置にいる男性と、壁際に控えている十数名の肩にある徽章は偉いわけではなさそうだが。おそらく騎士爵だろう。クロードと同じ。

しずしずと歩んできたミルラが、階の下で立ち止まる。

僕もそれに倣って立ち止まり、ミルラに合わせるように膝をついた。

「ミルラ・エッセン、並びにカラス、まかり越しました」

言いながらミルラは跪いた。その衣装の裾が花の香りを振りまいてファサリと床に落ちる。

無論、僕は伏礼だ。肉眼の視界は床で占められて、もう絨毯の青一色となった。

それでも、周囲の景色は僕にはわかる。

横、貴族や高官たちは大きく分けて二つの視線。『これがあの』という畏怖のような視線と、『こんなものが』の侮蔑の視線。どちらも僕の戦果については伝わっているらしい。フラム討伐についてはわからないが、あってもなくても一緒だろう。

段上を含めて十歩以上離れた王は今のところ何の反応も示していない。

娘と僕を見て、頷いただけだ。

だがやがて口を開く。

「ミルラ。急な呼び立てで済まなかった」

「忠実な一人の臣として、陛下のご招致とあらば是非もございません」

「よい心がけじゃ」

また、うむ、と王が頷く。

「今日はそちらの者の顔が見たくてな。……面を上げよ、カラス」

「…………」

手の指先は床から離さず、僕は顔を上げた。この仕草、作法ではそのようにすると覚えてはいるが、この敵意の中でそれを行うのであれば違う意図が見えてくる。

足を正座の状態で伏せたまま、手を床から離さない。その状態で段の上にいる王の顔を見るとすると、背筋を極端に伸ばしてのけぞる姿勢を取らなければいけない。

とてもではないが、飛びかかることも出来ない姿勢。

これは多分、拘束だ。両手を地面につけてしゃがませるのと変わらない。

そうして真っ直ぐ見た王の顔は、威厳あるものだった。

建物がそう設計されているのだろうか、まだ低く、感覚的にはほとんど真横から差すような日が顔半分を明るく照らし、もう半分を暗くする。

「まだ戦争の終わらぬ中、何故ここにいるのかは問わぬ。お前の指揮権はミルラにあり、その期待に応えていることは、ここにいる者で知らぬ者はおらぬ故な」

「…………」

ミルラが目礼する。

「ムジカル軍の撃滅、またエッセン軍の守護における多大なる貢献。我がエッセン国を統べる王としてただ感謝を述べたい」

僕も会釈し、ただ王の言葉の先を促す。

王の演技はなかなかのものだと思う。その威厳ある姿と裏腹に、顔には薄らとした笑みが浮かび、たしかに喜んでいるようにも見える。

「……戦場の様子はいかがか」

そして、その質問が僕に飛んできたことで、面倒だな、と思う。

地味にどう答えても角が立つ質問だ。

戦況は悪い。森の支配権はほとんどムジカルに奪われて、エッセン軍はイラインに後退した。聖騎士団も半分以上が壊滅し、士気は下がっている。良いわけがない。

けれどもその現状は、掲示板などで発表されているものとは大きく異なる。

王都で発表されている情報では、エッセンは撤退ではなくイラインに転進しただけだし、クロードたち聖騎士の活躍めざましくムジカル軍は押し返されるばかりだ。

嘘をついて『良い』と答えるか、正直に『悪い』と言って皆の不興を買うか。

その二択。わかっていてやっているならば質が悪いと思うけれども。

まあそれも、実際には二択ではない。

問いかけられているのだから口を開いても不敬ではない。それもまた、面倒な作法だ。

「一時期五英将の参戦により押し返されましたが、ネルグ南側ではその討伐もあらかた終えたところ。もはや相手方に恐るる強者は少なくなっております」

「……なるほど」

「また、アリエル様降臨により士気は上がってございます。イラインで聖騎士団の皆様が防衛している限り、鉄壁の構えといっても良いのではないかと」

「アリエル様か、頼もしいものよな」

満足げに王は頷く。

今の回答で満足だろうか。現状の良いところだけを言っただけだが。

「アリエル様はどのような姿であった?」

「……身長は一尺と少し。伝承通り羽の生えた金の髪の……美しい女性でした」

言い淀んだのは、本人の姿を思い浮かべたからだ。姿というよりも、仕草や性格を。

おお、とどよめきのような声が周囲から僅かに上がる。

自身が見たことがない伝説の人物。その誰かに実際に出会った人間に対する反応としては当然のものだろう。

王は、『どのような人物か』とは聞かなかった。

もちろんそれも当然だろう。僕が言葉を交わせるような人物とは思われていない。

「なるほどのう」

ふむ、と王は目を閉じて満足げに頷く。

アリエル様の降臨を確信したのだろう。その上で、その表情からすれば、アリエル様がこの国に味方すると信じて疑っていないのだと思う。

馬鹿げた話だ。まだ会ってすらいない、言葉を交わしてもいない人物を信用するなんて。

「お前の話に戻すとしよう。戦場でお前が撃破したムジカル兵は二万に及ぶ。お前一人の手で。その上、五英将を一人……フラム・ビスクローマを撃破した。……それは本当か?」

「数に自信はございませんが、フラムは私の手で確かに」

「なるほど」

ふむふむ、と王は喜ぶそぶりを見せた。

ルルでなくともその姿には嫌悪感が湧いてきて、僕は無表情を崩さないようにするのが精一杯だった。

「いや、驚いておるのじゃ。聖騎士団でもなく、魔術師でもない在野の者に、まだこのような猛者が残っておったとは。ミルラよ、よくぞこの若者を見出してくれた」

「もったいないお言葉にございます」

「カラスよ」

ミルラの言葉に満足げに王は頷き、また僕に話を振る。僕が俯くと、それもまた喜ばしげに。

「まだ戦の最中、話が早くはあるが、お前の働きと忠誠心に余は大いに満足している。これからもミルラの下で励むがよい」

王の言葉がそこで一瞬途切れる。

僕の返答を待っている、と気付くまで一瞬掛かってしまい、慌てて僕はそれを隠しつつ首肯した。

「光栄です。戦争が終わるまで、私は殿下への感謝と忠誠を尽くすべくいたしたいと思います」

「うむ」

言って、王は立ち上がった。六十を過ぎたくらいだったと思う年齢に見合わず、また細身ではあるが力強く、よろけることもなく。

それから見回すのは、僕とミルラ以外の貴族や高官たち。

「諸君、今お前たちが目にしている我が娘、また青年、その忠誠心こそ余が我が国の民に求めるものだ。諸君、我が国に尽くす彼らの働きを見よ。彼らの忠誠と勇気を、諸君にも見せてもらいたい。その時こそ、余がお前たちを称えるべきときであるだろう」

そして、ようやくだろうか。

王が気持ちよく言葉を吐き、その言葉も途切れた頃。

俄に部屋の外が騒がしくなる。

「陛下!!」

バン、と扉が勢いよく破られる。壊れるようにではなく勢いよく開けただけだろうが、扉のノブが壁に打ち付けられた音が謁見の場に響いた。

僕は振り返らず、だがミルラは振り返る。ほんの僅かな微笑みを湛えて、その笑みを隠しながら。

「何事じゃ!」

「陛下! その男はっ!」

扉近くにいた近衛兵も押しのけて入ってきたのは治療師らしい。年配の女性。深緑の外套の上、白と金色の袖無しの胴着を着ているのはその地位が高いということだろう。

そしてその後ろには、ぞろぞろと同じ深緑の外套を羽織った者たちと、棒の先に鉄球をつけたような棍を持った者たちが数人付き従う。

「御前失礼ながら、その者をこの場で称えることなどなりませぬ!!」

「何事かと余は」

「探索者カラス!! お前の最大級の許されぬ異端の罪!! ちょうど良い! ここに居並ぶ皆々様をその証とし、その口から真実を述べよ!!」

「異端……?」

は、と何かに気がついたように王は僕へと目を向ける。

周囲の貴族たちも僕と治療師の間で目を行ったり来たりさせる。

それから広がるざわざわとした囁きに、ここで今『助けてママ』と叫んだらどうなるかな、と僕はちょっと考えて笑った。