軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

自己紹介

「あぁ……やっぱり刃物は苦手だなぁ」

僕は独りごちる。

何故か昨日よりも幾分か硬くなっていた狐。その首を落とした、山刀の刃の中程が小さく欠けてしまった。

首の骨に当たってしまったような感覚もあったからそのせいだろう。

メンテナンスとか頼まないといけないかな。また、あの鍛冶屋にいかないと。

さて、どうしたものか。

顔を上げ、部屋を見回せば狐と男たちの死体、それに女性が座り込んでいた。

「とりあえず、事情を聞かせてもらっても?」

チラリと山刀を見せながら、女性に問いかける。女性は肩をビクリと震わせて、僕を見上げた。

「あああ、あの、私は……」

そう言って、怯えるように声を小さくする。そして、何かを決意したかのように顔を上げる。

「……まずは、ありがとう。フルシールから助けてくれて」

「フルシール?」

この狐の名前だろうか。男たちの名前かとも思ったが、こちらは僕が部屋に入る前に死んでいる。

僕が聞き返すと、思った通り、狐の死体を見ながら女性はコクリと頷いた。

「暗殺者に襲われていたところに、フルシールが乱入してきたの。こいつらは、フルシールを見て自分達で命を絶ったのよ」

「暗殺者とは、穏やかじゃないですね」

僕は密かに山刀に力を込める。これは、警戒だ。

「それで、何故暗殺者に? こんな山の中で?」

警戒が伝わったのか、彼女の表情が固くなる。唾を飲む音が聞こえた。

「は、話せば長くなるんだけど、そ、その前に武器をしまってくれないかしら、私は、敵じゃないわ」

「残念ながら、その証拠がないです」

彼女の様子から、狐に襲われていたことは確かだろう。

しかし、それ以外は彼女の申告でしかない。

彼女と男たちが仲間であるという可能性。彼女と男たちが戦っていたというのが正しいとしても、彼女が男たちの暗殺を実行していたという可能性もある。

僕が依頼を受けたこの砦に、彼女らはいた。

最近僕が狙われるような心当たりはないが、それでも警戒は必要だ。

「り、理由は今は言えないの! でも、信じて欲しい」

「……まあ、いいです」

信ずるに足りればそれなりに対応するし、そうでなければいずれボロが出る。

彼女の行動を見ていればきっと判断出来る。自信はある。

「……私は暗殺者をかわしながら、イラインに向かって森の中を進んでいたの」

「そこでこの砦を見つけて、逃げ込んだ、ねぇ……」

彼女の言葉を予想して継ぐ。彼女は否定しない。

彼女を見ると、左腕を押さえて口から血を流している。

なるほど、その損傷は鋭い刃物によって与えられていた。

「……貴女の武器は?」

そして見たところ、武器を持っていない。男たちに襲われていたというのなら、武器を持っていなかったのは不自然だ。徒手空拳で戦っていたというのだろうか。

「私は、魔法使いよ」

「……へえ」

しかしその疑問は、その一言で説明がついた。ならば。

「その傷、見せていただいても?」

「え、ええ」

動きを見逃さないように気を付けながら、その傷を見る。

内傷だ。であるならば、この傷は他の誰か、きっとそこの暗殺者につけられたのだろう。

ならば、まあいいだろう。

彼女が襲っていたにせよ、襲われていたにせよ、ターゲットは彼女かそこに転がっている死体だ。

僕ではないようだし、それにこの狐に圧倒されていた程度だ。襲われても、きっと何とかなるだろう。

警戒を解く。魔法使いならば、闘気を活性化させておけば充分だ。

手を離し、山刀をしまうと彼女は気が抜けたようにため息を吐いた。

「あの……」

「何でしょう?」

そして申し訳なさそうに、彼女は申し出る。

「傷の手当てをしても、いい?」

そう言いながら、自分の鞄を示した。

そういえば、結構深い傷だ。早く手当てしなければ不味いほどの。

「ああ、どうぞ。まだ聞きたいこともありますけど、手当てしながらでいいでしょう」

そもそも勝手に始めてもよかったのに。と思ったが、僕が武器を突きつけているから迂闊な動きがとれなかったのか。

「貴方、強いのね」

口と右手を使って器用に関節を縛り、その布に木片を噛ませて捻りあげる。傷薬を塗った上で、包帯をくるくると巻いていった。

「きっと貴女も強いんでしょう? 魔法使いですし」

エンバーに続いて、僕が見た二人目の魔法使いだ。使うのは、きっと火の……。

そう思いながら、周囲の焼け焦げた壁を見た。そして、思い出す。

「ああ!!」

「ふぇ!?」

僕の上げた声に、彼女が反応する。じろりと睨むと、彼女が一瞬固まった。

「……砦に火を着けたの、貴女でしょうか」

「え、ええ。私の魔法で……、え、何……?」

戸惑っているが、引き下がる気はない。

「僕、そのせいで修繕費分損してしまうかもしれないんですよ」

「え? 何? どういうこと?」

「この砦の掃除を請け負っているんですが、そこで砦を破損させると、その分報酬から引かれてしまうんですよ」

口元で笑いを作り、掌を広げてヒラヒラと振ってみせる。

「貴女が壊したと、探索ギルドで証言してもらっていいですか?」

彼女は、固まった顔でコクコクと頷いた。脅かしたつもりはないのに。

「それで、魔法使い、でしたよね」

「そうよ。これでも名が知れていると思うんだけど」

そこで言葉を切り、今気付いたかのように僕を見つめる。

「そういえば、助けてもらったのに名乗りもしなかったわね。ごめんなさい。私はテトラ・ヘドロン。魔法使いとしては、<灼髪>って名前で呼ばれてるわ」

「灼髪? その髪の毛の色ですか?」

その赤い毛の色。それに、火を使うということを引っかけているのだろうか。

「私の使える、魔法よ」

そう言って、微笑む。

場の熱気が上がった。髪の毛が赤熱し、燃え上がる。

いや、燃えているのではない。これは……。

「髪の毛を、火に変化させているんですか」

「そうよ。そこらの魔術では出せない火力、自慢の魔法よ」

先程までは腰まであった髪の毛が、地面近くまで伸びている。なるほど、これを自由に動かせて、さらにきっと伸ばすこともできる。高火力の近接攻撃と考えれば、それなりに使える魔法だろう。

見ていると、灼熱の髪は元に戻り、そして何かを期待するようにテトラは僕を見つめた。

「ああ、名乗りを受けたのに返してませんでしたね。僕は、カラス。姓はありません。探索者です」

「カラスさん、ね。よろしくお願いします」

「さん付けは不要ですよ。どうしても付けたいと言えば構いませんが」

「私より強い人を、呼び捨てなんて出来ないわよ」

ならば口調も変えるべきじゃないか。そうは思ったが、ツッコむべきではないだろう。

「それで、僕はこのあと仕事が残っているんですが、テトラさんはどうします?」

「どうする……って?」

「このままイラインへ向かいますか? それとも一緒に行きますか? その場合は、待ってもらうことになりますが」

「うーん……、あとどれぐらいかかるの?」

「多分あと半刻(一時間)といったところでしょうか」

探索ギルドで証言をしてもらう以上、居場所は把握しておきたい。しかし、イラインへ向かうというのであれば簡単に見つけることが出来るだろう。

「半刻!? ああ、じゃあ、待ってるに決まってるじゃない」

何を驚いているのかはわからないが、ならば早く仕事を終わらせよう。

「わかりました。じゃあ、この部屋で待ってて下さい」

僕はストレッチをしながら階段を降りていった。