軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

恐怖は乗り越えるまでもなく

対処出来るのならば、それは恐怖ではない。

僕はそう思う。

化け狐を見据えて溜め息を吐く。

そこに、デンアから感じたような絶望感は無く、 鬼(オーガ) から感じた力の圧力も感じられなかった。

震える手を握り締め、強引に震えを止める。

見てはいけない気がする狐を、わざと視界の中央に入れてもう一度深呼吸をした。

そうしてみても、恐怖を感じる原因は判然としなかった。

その、判然としないというのが大きなヒントだ。考えてみれば、何のことは無い。

これは、魔法なのだ。

闘気を活性化する。

光球は消え去ったが、まだ燻る化け狐自体が光源となっている。闘気で活性化された感覚の中であれば、それだけで充分だ。

光球が消え去ると同時に震えが止まる。チリチリと、体から少し離れたところで何かが弾けていく感覚がしている。

魔法を使われている証左だろう。

事実、化け狐に対する恐怖はもはや微塵も感じなかった。

「……魔術師だったら、怖い敵なんだろうな」

安堵の息が漏れる。

闘気で覆われた僕から見れば、もはやただの大きな狐だ。

力が大きい分、厄介ではあるが。

狐は身をかがめ、高速のタックルを繰り出す。分厚い金属の壁をひしゃげ、突き破る威力。だが威力以外はたいしたことは無い。その動きに合わせて、ターンしながら拳を頭に叩きつけた。速いがこの程度、問題無く反応出来る速さだ。

「ガッ……!」

短い叫び声を上げ、狐が壁に衝突する。それでまた土埃が舞った。

衝撃に怯む狐の首を、そのまま蹴って叩き折る。

ビクンビクンと跳ねる四肢の動きが収まったときには、もう狐は絶命していた。

狐の死体を眺めながら、先程受けた魔法について検討する。

「精神干渉……なんてものもあるんだなぁ」

物理的ではない、生物へ限定して使われる魔法。そんなものをこの狐は備えていたのだ。これは明らかに他の生物と争うためのものである。

その力を以て、今まで強者であり続けてきたのだ。

……いや、無用な争いを避けるため、というのもあり得るか。

恐怖に竦んだ動物はまず逃走を図り、逃走を諦めたところでようやく抗戦の態勢に入るという。彼……かどうかはわからないが、彼が僕の逃走を促していたという可能性もある

もしそうならば、悪いことをした。

だが、僕が攻撃する前に隠れようともしなかったことを考えると、それとも違う気がする。

結局のところ、この魔法を狐が得た理由はわからない。逃走のためか、闘争のためか。

ただ、怖い魔物だったと、そう心に留めておこう。

金属の壁は断裂して折れ曲がり、剥いたバナナの皮のように広がっている。

その狐が開けた穴から、内部の部屋に入ることが出来た。

中は土埃に塗れていて雑然としていた。何かガラスの実験器具の欠片のようなものが散らばっている。そして、魔物達はここを幾度となくねぐらにしていたのだろう。その中にも、野生動物の骨が混じっていた。

“魔道具は適当な箱に入っていることもあるし、机みたいなもんに入ってることもある。もし大量に見つけても、全部は持ってくんなよ。次の奴らが持ってくるためにな”

レシッドの言葉を思い出しながら、部屋の中を見回す。

中央にある机。ここに、実験器具が置かれていたのだろう。僕は学校の理科室の風景を思い出す。ならば、壁際には棚がありそうだ。

と思い目を向けると、やはり倒れ、踏み砕かれた棚の破片が壁際で山になっていた。

ガラス瓶のようなものも見えるので、薬品棚のようなものだったのかもしれない。

「じゃあ、この辺にも……」

魔力を広げ、壁内の空洞を探す。石のようなもので覆われているのでわかりづらいが、このへんにも備え付けの棚があってもおかしくない。

壊されていないことを祈りながら、探索する。

そして、あっさり見つかった。

石の上からは少し窪みがあるだけにしか見えないが、恐らくこれは取っ手だ。

魔法を使い、引き出しが本来の用途を果たせるよう、石を切断する。パキンと軽い音がして、問題無く引き出せるようになった。

その引き出しの中には、いくつものガラス玉が転がっていた。

それぞれピンポン球ほどの大きさで、手に取ってみるとズシリと重い。埃に塗れて曇ってはいるが、拭えば簡単に透明な球体に戻すことが出来た。

きっと、これが魔道具だ。そんな気がした。

“魔道具は、闘気を込めると動くんだ。どんな効果があるかはお楽しみだが”

『魔』道具なのに、闘気を込めると動くというのはよくわからないが、まあそういうものなのだろう。

球体に闘気を込める。その瞬間、中にある毛虫のような物体が光り出し、やがて球体全体が光り出した。

「うわっ!」

赤熱するように光る球体に、思わず叫び声を上げてしまう。

眩しい光ではないが、じんわりと温かい光に手も温まる気がする。

……いや、気のせいじゃない。これは、実際に温まっている。

掌に収まる大きさで、この温かさ。光ってはいるが、照明としては使いづらい程度だ。

ではこれは。

「懐炉ってことかな……」

手に感じる温もりが、何故か懐かしい感じがした。

目的は果たされた。

これ以上奥に行く必要は無いし、行く気も無い。

実験室を出て外へと向かって歩き出す。新たに魔物が入ってきていなければ、もはや安全な道だ。

罠を避け、すいすいと進む。

遺跡から出て、太陽の眩しさを感じた。思わず目を細める。

自分の服を見てみれば、埃まみれで汚らしい。

探索は終わった。魔道具を売りに行く前に、服を整えようかな。

キラキラと光る埃を見ながら、僕はそう思った。