軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

初依頼もまだなのに

僕の家は一番街の西側、三番街にあった。

三番街はどうも一番古い住宅街らしい。十二番街や、下手すれば貧民街よりも古い町並みが並んでいた。

それでも貧民街と比べて建物が荒れているということもなく、建物自体はしっかりしている。

その街の中、空き地に囲まれた小さな家。

区分的には1Kのその小屋が、僕のこれからの住処となる。

別に、新築のように綺麗なわけでもなく、美しかったり斬新なデザインがされているわけでもない普通の家屋だ。

しかし、曇った窓ガラスも割れておらず、壁に罅は入っていない。ただそれだけで、僕にとっては綺麗な新しい家屋に見えた。

中は取り立てて変わったことは無い。

ただ、家具と呼べるものも何一つ無かった。それはまあ、必要になったら揃えていこう。

何も無い部屋で、壁に凭れて少し蹲る。

この部屋が、出発点だ。

市民になった。僕は、これから何をしよう。

グスタフさんは、僕ならば何でも出来ると保証してくれた。グスタフさんが言うのなら、そうなのだろう。

僕は何でも出来る。

しかし、だからこそ迷っている。

探索者になった。これから探索して、素材を集めて、売る。

その繰り返しで金銭を得て、そして僕は何をするのだろう。

高尚な理由など無かった。ただ、貧民街の子供だからと馬鹿にする奴らを見返してやりたくて、貧民街を出てきた。

まだあいつらを、指を指して笑っていない。目標は達成されていないのだ。

心配するのはまだ早いかもしれない。しかし、それが済んだら次に何をしよう。

大きく息を吐き出す。立ち上がり、大きく伸びをする。

……悩むのは後にしよう。とりあえず、今はまた目の前の仕事に挑戦するのだ。

悩むのは、次にまた立ち止まったときだ。

とりあえず、今日は探索者ギルドに行って、現在どんな仕事があるかの確認だ。

「報酬低いな……」

僕はクエストボードを見て、思わずそう呟いてしまった。

呟いてから、周囲に聞かれるとまずいと辺りを見回すも、僕に興味を持っている人などいないようで、ホッと胸をなで下ろした。

しかし、本当に低い。

例えば、『薬の開発に必要な原料としてヒン草を持ってきてほしい』という依頼があった。

ヒン草はオクラのような形で、葱のような味がする植物だ。イラインより大分西にある山中に生えている。食べると疲れが吹っ飛び、体が羽根のように軽くなった覚えがある。

例によって、その周囲には魔物が生息している。 欽原(きんげん) 、ステニアーバードという鳥である。雀ほどの大きさに、蜂のように毒針を持つ鳥で、その毒が怖い。

そのときは、一瞬で、木が枯れた。

以前遭遇したときに、たまたまそこにあった木に刺さったのを目撃した。青々とした葉が一瞬で萎れ、木肌がパキパキと音を立てて浮き、割れていったのを見て肝が冷えた。

グスタフさんが、『まあ簡単だろう』と言っていたので油断していたのだが、それ以来その鳥は近付き次第叩き落とすことにしている。

そのヒン草の値段が、一株あたり半銅貨一枚だ。

毒鳥がうようよしている中、命がけで採取した植物の値段にしては安すぎる。

石ころ屋では、一株あたり銅貨二枚で買い取ってくれた。

どちらが適正価格かはわからないが、この値段設定だったら僕は石ころ屋のほうで売りたい。

他にも依頼は並んでいる。

しかし、並んでいる採取依頼が、そういうものばかりなのだ。

どれも、石ころ屋のほうが高く売れる。

「不服そうだな」

掲示板を見て、渋い顔をしていたのだろう。

そんな指摘が、僕の背後から投げかけられた。この声はよく聞いている。誰だかすぐにわかった。

「これを見れば、誰だってこういう顔になりませんか?」

「単独で見りゃあ、 ジジイの店(石ころ屋) より大分安いからなぁ。だが……」

レシッドは鼻で笑いながら掲示板を叩いた。

「こういうのは、違う依頼も見ながら探すんだよ」

そう言いながら、採取依頼ではなく討伐依頼を眺めて、ひとつの依頼を見つけて目を細めた。

「例えば、これ」

見せられた依頼表は、その近くに居る別の魔物の討伐依頼だった。

「土オケラの討伐ですか」

「ああ、そのついでに集めてくるんだよ。そうすりゃ、一度の遠征で大分稼げる」

「それでも、石ころ屋のほうが良心的に見えますね」

計算してみても、その予定で動くよりも石ころ屋でヒン草を売ったほうが効率が良い。

「あのジジイ、それでいて売値はちゃんと他より安いからなぁ……。まあ、仕方ねえさ。ここではこうだと諦めるしかねえ」

うんうん、と腕を組んでレシッドは頷く。

「どうしても高額な依頼料がとりたきゃあ、早いところ二つ名でも名乗れるようにして指名依頼をとるんだな。そうすりゃ、こんな依頼とは桁違いだ」

「いずれ、そうなったらいいんですけどね」

二つ名は、名乗ろうと思って名乗れる物ではない。まずは、有名にならなければいけないのだ。

「それよりも、何でこんな所にいるんですか?」

「いちゃ悪いかよ。俺だって探索者だぜ」

「たしかにそうですが。こんなところで依頼を探すなんて、何て言うか、意外ですね」

そう言うと、レシッドは懐から一枚の紙を取り出し、ヒラヒラと振って示した。

「依頼達成の報告だよ。ここが一番近かったから、寄ったらたまたまお前がいたんだ」

「そうでしたか」

会話が切れると、レシッドは、今気付いたかのように首を傾げた。

「そういや、お前は何でここにいるんだ? もしかして」

「あ、今日から探索者になりました。先輩、よろしくお願いしますね」

笑顔で挨拶をして、頭を下げる。レシッドは複雑な表情でその挨拶を迎えた。

「……今更っていう感じもするがなぁ。ジジイのところと変わんないだろ」

「変わりますよ。今見てびっくりしてたじゃないですか。報酬が低すぎます」

「だから、こんなもんだって。魔道具でも売りゃあ、そこそこ金にもなるし、本来の探索でも……」

その言葉の途中でレシッドは突然言葉に詰まった。

何かに気付いたかのように視線を泳がせ、そして少し悩んでいる。

「どうしましたか?」

「……いや……」

レシッドにしては煮え切らない態度だ。何か隠しているのか。気になる。

僕がその隠し事を吐かせようと考えている間に、レシッドの決心のほうが固まったらしい。

意を決して口を開いたように見えた。

「よし、お前が早く指名依頼を受けれるように、手伝ってやるよ」

その申し出に、思わず眉を顰めてしまう。

「……何をさせる気ですか?」

「大したことはねえさ。お前なら出来る」

そう言って、牙を見せながらにこっと笑った。楽しそうな笑みで、どこかグスタフさんと似ている。

「ギルドの裏昇格試験、行ってみっか!」

本当に、何をさせる気なんだろう……。

……僕は今日、入ったばかりなのに。