軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

磨き続ける

僕はその女性らしき男性と、リコを交互に見て首を傾げる。

「ええと、何の話……?」

「ごめん、俺にもわからないんだけど……」

だが、リコもわからないようで僕を見て、上級職に向けて目で尋ねる。

その仕草を見た彼は、埃を払うように手を振りながら答えた。

「例の件の手伝いよ。ちょっとあの機械の試運転も兼ねて、先に見本だけ作っちゃおうと思ってね。実際に使ったことないんじゃ、あたしも感覚つかめないし」

「あ……ああ、あれですか。なら俺も最初から見学に……」

例の件。あれ。そんな端的な言葉でも、二人の中では通じ合っているらしい。

だが、それでも交渉は決裂しているようで、上級職は渋い顔で頬に手を当てた。

「出来るかどうかわからないし、……いつもその子いるわけじゃないから……ねえ?」

僕に向かって何事かを問いかけられても、よくわからず答えられない。

黙って次の言葉を待つが、そのうちに上級職の彼は決心したように太ももを軽く叩いた。

「じゃあ、来ても良いけど先に代金の精算しちゃいなさいな」

上級職が、リコの机に目をやる。そこには先ほど僕が支払った金貨が、袋に詰まったまま置いてあった。

リコが唇をわずかに尖らせる。

「はーい」

「よろしい」

頷いた上級職に、……よく考えたら僕の行き先を勝手に決められていることにようやく気がつき、僕は抗議のために口を開いた。

「あの……」

「カラスってったわね。ちょっとこっち来なさい」

だが、真顔の彼は有無を言わせず振り返ると、そのままどこかへ向かい歩き出した。

リコを見ると、金貨の袋の口を手近な紐で縛りながら、「お願い」と呟いた。

その様に溜息をつき、それでも渋々僕は上級職の背中を追うように足を踏み出した。

連れられた先は、工房の奥。

職人たちの机が置いてある大部屋からもう一つ入ったところにある小部屋だった。

扉はないが、紐暖簾が左右に分かれるように括られており、何故か生活感がある気がする。

床は特に掃除されているのか、他の場所ではままあった糸くずなどはない。だが、使われてはいたようで、木の床が所々傷ついているのが新しく塗られたような塗料の下に感じられた。

小さな部屋だ。三畳か四畳か、その程度の小さな。

だがその中央に大きな機械がおいてあった。

円盤状のテーブル……といってもレコード盤のようなそれに、上下から噛み合うように木製の腕が噛み合っている。所々金属で補強されているようで光沢が見えるが、ほとんどは木製らしい。

レコード盤のようなそれは中心に軸があり、多分回るようになっている。そしてその表面は、ざらざらとした質感に覆われていた。

その機械の前に置かれた椅子を引き、そこに上級職の彼が腰掛ける。

それから、ようやくなのかわからないが、僕の顔とそして服を見て腕を組んだ。

「……あら、今日はちょっといい男じゃない」

衣装の講評をされているように、視線が上下に何度も往復する。それから僕の顔……というか頭の一点に視線を向けて、ああ、と薄い口紅の塗られた唇を開いた。

「ああ、髪の毛編んだのね。似合ってるじゃない」

「……そうですか?」

その辺自分ではよくわからないが、リコも悪くしようとしてやったわけではあるまい。そうすると、二対一で似合っていると言っていいのだろうか。

それにしても。

「そんな変わってます?」

僕としては、風で乱れたとか、寝癖がついたとかそういう変化と変わらない。人がしているのを見たとしても、『今日は何か気分が違うのだろうか』と思う程度だ。

「髪の毛ってのは、ちょっと変えれば印象ががらりと変わるもんよ。うーん……でも、黒一色だと地味かしら。綺麗な色だけど、ちょっと色入れてもいいかもしれないわね」

組まれた足が、不機嫌そうにパタパタと動く。

まあ、考えてみれば女性の化粧などと同じものだ。そういうものなのだろうと納得するしかないだろう。

そんなふうに自分を納得させていた僕の顔を見て、上級職は溜息をついた。

「ま、それでも? 服がそれじゃどうしようもないけど」

「外套って普通一色じゃないですか?」

「それでも、下は藍染めに上は白地? 普通すぎてダメダメよ。もうちょっと遊び心ってものがないとね」

あーあ、と上級職は両掌を顔の横で上に向けた。

だが、僕にも反論はある。

「『普通』でいいんじゃないですか? 選ばなくていいから楽ですし」

同じような服は数着持っているが、どれも確かに同じようなもので、面白みはないかもしれない。しかし、だからどこにでも着ていけるし、毎朝選ぶのも適当で良いから楽なのだ。

それでも納得はいかないようで、上級職は椅子にラフに座り直す。

「……服は、日々に彩りを与えるの。新しい服とか装飾品とか、たった一つ変えるだけで一日ががらりと変わるのよ」

心底残念そうに、横の机にしなだれかかる。

「もったいないわー。はあ……もったいない」

それから、溜息を続ける。

ちょっと失礼な気がするが、……そもそも僕は何故ここに連れてこられたのだろうか。こんな話をするためではないだろうに。

上級職がちらりと工房の作業場を見る。

「……それにしてもリコちゃん遅いわね。あんなもん、会計係にポンと渡して出納帳に書けばそれで済むのに」

しかし目当ての人物は来ないようで、頭を掻いた。

一瞬の沈黙。

そして、もう一度座り直して上級職は部屋の中央に置かれている機械に手を伸ばした。

「いいわ、始めちゃいましょ。使えなかったらそれまでなんだから、あんたも、これも」

円盤についているストッパーのようなものを外して、上級職が二三度円盤を揺する。指の動きに合わせて、するするとそれが回転した。

話題が変わった。だからではないが、いい機会だ。ようやく僕も口を挟める。

「あの、僕何させられるんでしょうか?」

というか、何故その何かをしなければいけないのか。

僕はもう帰ろうと思っていたし、そもそも彼女ら職人たちも、もう早い者では片付けを始めるような時間ではないだろうか。多分。

上級職は、今度は動かないように押さえた円盤を指で撫でて、指先を見る。ざらざらしている面だ、軽く削れたのではないだろうか。

その指先から目を離さず、静かに叱るように上級職は口を開いた。

「手伝いよ、手伝い」

「ですが、それは……」

「それくらいでうちの看板娘を殺しかけたのを許してやろうってんだから、あたしのネルグの森より広く、エーリフの炎より温かい心に感謝しなさい」

「…………」

それを何故、と言いかけるが、その理由を聞いて僕は口を閉ざす。

彼に直接迷惑をかけたわけではないはずだが、それを言われると反論しづらい。

僕の反論がなくなったことを察したのだろう。

彼も指先から目を離し、今度は机の上から何かを探そうと手を伸ばした。

「リコちゃんに相談されてね。このからくり、何に使うか知ってる?」

言われて、僕は一瞬考える。だが、この摩擦の大きそうな円盤……もっと簡単に言えば、やすりのようなものを見て、すぐに答えは思いつく。

「何かの研磨、でしょうか」

「そうよ。じゃあ、何の?」

何の、と言われて僕はまた答えに詰まる。今度は何のヒントもない。

床に研磨屑が落ちていないか見ても何もなく……そういえば、新しい機械と言っていたから、まだ使ったこともないのか。

そして、完成品らしきものも机の上にはない。今手に取ろうとしたのは工具箱のようなものだったが、その中のものだろうか。

「仕立屋に関係する……鋏研ぎに使うとか?」

「外れー」

一応考えて出した結論だったが、違ったらしい。

工具箱の中から取り出されたのは、ペンチのような小さなやっとこ鋏と、白い布に包まれた、ビー玉くらいの……。

「石?」

「そうよ。これ、宝石を磨くためのからくりなんだけどね……よいしょ」

や(・) っ(・) と(・) こ(・) の先に、ガラスのような透き通った石が固定される。……輝きから、水晶か。いや、なんとなく背景から見える屈折の度合いが違う気もする。

「あたしの反対側……あんたの側に、取っ手あるでしょ。くるくる回せる奴」

「…………」

屈み込んで見れば、確かにある。椅子ではなく床に腰掛けて回すようなハンドル。見ようによっては、自転車のペダルのようなものが。

「……ありますが」

「ちょっと回してくれない?」

一瞬躊躇し、それでも先ほどの言葉を思い出して素直に従う。

軽く回すと、上の方で円盤がくるくると回ったのがわかった。

「昔は磨くところに、革に膠と宝石屑を塗りつけて使ってたんだけどね」

上の方から注釈のように講釈が飛んでくる。僕はその声に回す手を一端止めて、一応横から上級職の顔が見えるように移動した。

「それで、七日間回し続けてやっと指先みたいな宝石の研磨が出来るのよ? キリがないわ、そんな非効率的な」

「大変そうですね」

もう一度、軽くハンドルを回す。そう抵抗があるわけではないが、円盤自体が結構重たいらしく少し力が要る。

なるほど。これを七日間続ける。それなりに大変そうだ。

「これは竜鱗を使って半永久的に使えるって触れ込みの最新型。効率も良くなってるらしいけど、作った職人の話じゃそれでも三日はかかるっての。やってらんないって思わない?」

今度は逆に、覗き込むように見下ろされる。

全身から、やりたくないという雰囲気を感じた。

「そこであんた、探索者の出番よ。身体張ってんだから、あたしたちみたいな細腕より頼りになるでしょ?」

「……まあ……」

出来ないとは言わない。彼が細腕かどうかは置いておくとしても。

「頑丈な作りだから、難しいことは言わないわ。壊れないように全力で回してちょうだい」

「……それくらいなら」

僕は軽くハンドルを回す。慣性の法則と言ったか、やはり最初は重い。

だが、徐々に軽くなってゆく。それに合わせるように速くなり、素の身体での全力で回すまでそう時間はかからなかった。

「そうそう、そんな感じよ」

言葉の次に、固いものが擦れるギーンという音が響く。

「もうちょっと早くできないかしら?」

「いえそれは、さすがに腕がだる……いえ……」

気づく。別に、普通に全力でやってもいいのだ。

腕を止めないように深呼吸をしてから、闘気を込めて、更に速度を上げる。急にハンドルが軽くなった気がする。僕の力が強くなったのだが。

少しの間、それで回し続ける。

疲れではなく、今後のことを考えて僕は溜息をつく。息切れはしないが、それなりに重労働だ。仮にこれを求められているとしたら、普通の服飾職人には出来まい。

何より、とても贅沢な使い方をしている気がする、この上級職の人。誰もが使えるものではないはずの闘気を、こんな単純な労働に。

順調。

順調だった。

だが、機械の方が持たなかったのか、しばらくするとだんだんと問題が出てきた。

「…………あれ」

「……何? どうしたの?」

回している僕のほうが機械に近いからだろうか。それとも、闘気で嗅覚が強化されているのか。異変が僕の鼻をつく。

どこからだろうか。

当たりをつけた僕が、機械の中に魔力を這わせる。中にある歯車や、金属製の軸の詳細が手に取るように読み取れてゆく。

「何か、臭いがしませんか?」

「……そう?」

集中しているからか、上級職は姿勢を変えずに僕に言葉を返す。上級職はわからないようだが、これは多分気のせいではない。

魔力を使った探査。よく考えてみればこれもかなりの贅沢なのだが、それは言うまい。

そして、見つけた異常箇所。

円盤の中央から上下に伸びる軸。その受けの部分。その部分、金属のところはまだいいとしても、その周囲の木材が問題だった。

摩擦熱で、焦げ始めている。

「ちょっと速度落としたほうがいいかもしれません。軸の受けが、熱でやられてます」

「ええ!?」

驚き宝石がヤスリから離れる。それから僕の方を覗き込むように上級職が顔を出す。

僕は手を緩めると、負担をかけないようにゆっくりと減速してヤスリを止めていった。

「ちょいあんた、壊さないでって言ったでしょ!」

「もっと速くと言われたので」

言われるがままに速度を上げただけだ。さすがにそこで怒られるのは納得いかない。

僕の言葉に反論できなかったのか、上級職が渋い顔を作る。

「うむぅ……」

「熱を何とかしないと壊れると思いますよ。水をずっと流し続けるか、休み休み使うかといった感じでしょうか」

もちろんそれでも問題は出る。この機械、全て金属製ならばいいけど木製部分が多い。というか、ハンドルから回転を軸に伝える歯車が全て固い木製だ。水分を含むと回らなくなる。

……というかそうすると、半永久的に使えるというのは誇大広告ではないだろうか、木製の歯車は、寿命の短い消耗品だ。

まあ、それは買った彼の責任だけど。

それよりも、言いながら思った。

「魔法を使ってよければ、今だけなら冷やしながら使えますけど」

魔法による冷却。それも僕には出来るのだ。それも、他の部品には影響を与えず、軸の受けだけピンポイントで。

「……何よあんた! 魔法なんて使えるなら最初から言いなさいよ」

「聞かれなかったので」

求められていたのは探索者の肉体、というのは言い訳だが。

フン、と鼻息荒く座り直す上級職を無視して、僕は魔法を作用させる。

軸の受けを冷まし……よく考えたら、ここまでくればハンドルを回すこともない気がする。

僕が立ち上がると、上級職が目で抗議を発した。

だが、すぐにそれが無意味なことだと気づいたのだろう。また鼻を鳴らして手元に目を戻した。

軸は回り続けている。もちろん、他ならぬ僕が回しているのだが。

念動力でのヤスリの回転。肉体的にも、こちらの方が楽だった。

僕は一歩下がり、壁に背をつける。

摩擦の大きな外套が、壁に触れてザリと音を発した。

またしばらく無言が続く。何度も何度も削っては宝石の様子を確認して、と、上級職の目はとても真剣に見えた。

何度目かの確認。削られた粉を息で吹き、散らして光に透かしてみる。

そうしながら、上級職は静かに口を開いた。

「……リコちゃんに感謝することね」

その言葉の意味を一瞬考えて、僕は内心笑った。

「感謝なら、してもしたりないくらいです」

僕の普段使っているものの多くは中古品だ。服、家、本、布、縄……その他多くのものが。

だが、それでも違うものがある。

古くは、仕立て直された靴。それに今では、身に纏っている服。あとは名前くらいだけど。

最初から僕のために用意されたものが、この世界にはだいぶ増えた。その多くは友人の贈ってくれたもので、そして大半がリコのものだ。

そんな理由を知っている者はいないだろう。母親ですら知らない。

だからきっと、僕の言葉を理解する人もいないのだろう。

それでも、僕だけは知っている。ならば感謝すべきだ。僕の身に纏うものは尊敬すべき友人の作で、そして尊重すべき繋がりだ。

だから、きっと今彼が口にした言葉はまた違う意味なのだろう。

そうは思う。そして思った通り、彼は予想とは違う自嘲するような笑みを浮かべた。

「そうね。何しろ、あんた、あの後あたしに怒ったのよ。いつも怒らないあの子が」

「……?」

その内容までは予想できていなかったが、どういうことだろうか。

もう一度、やっとこを持ち替えて宝石が押しつけられる。キーンという音が響いた。

「今回のは彼のせいじゃないから、そういう目で見ないでくれって。そういう目で見られるから、自分たちは苦労してきたんだって、あたしに真正面から意見したのよ。信じられる?」

「……俄には信じられない話ですが」

「そう。あたしもよ」

ガリガリと、やっとこが削られるような音がして、上級職は手を引く。

それからまた宝石を外して、方向を変えて固定し直した。

「もうちょっと速くできない?」

「……これくらいですか?」

一応一定にしていたつもりだったが、不満が出てきたのだろうか。

要望に応えてヤスリの速度を上げる。今は一分間に三百回転ほど。

「ああ、速すぎ速すぎ!! もっと加減しなさい!!」

「もうちょっとですかね」

少しずつ回転数を落としてゆく。速度計とかあれば便利なのに。調整が難しい。

また沈黙が訪れるが、今度は破られるのも早かった。

どうやら最後の調整だったらしい。宝石はやっとこから外され、指でつままれて日に透かされる。少し離れたここからでも、きちんとカットが出来ていることはよくわかった。

「アンタのことは……」

「…………」

「だから、……あたしは謝らないけど、リコちゃんを信用してアンタのことは見直してあげる」

「それはどうも」

最初よりも小さくなった水晶擬きをつまみ、もう一度ヤスリに当てる。先ほどよりも音が軽めで、少しだけ音を鳴らしては手袋越しに指で拭う動作を繰り返していた。

「ああいう友達は大事にしなさい。自分のいないところで自分のことを立ててくれる。それが、一番信用できる友達よ」

「……そうですね」

僕は目を瞑る。今までも、信用できる人はいた。だがその定義が僕の中でまだ明文化されていないせいだろうか。まだ会って二度目、名前も知らない彼に聞いたその定義が、今のところ一番理に適っている気がした。

「……もうちょっと速く」

「はい」

話は終わったらしいが、作業は終わっていない。

その言葉に応えるよう、僕は目を開けて魔力を込め直す。

先ほどよりももっと甲高い音が鳴る。宝石から火花まで散るような錯覚を覚えるほど。

だがその光景に、上級職はヤスリに宝石をつけたまま肩をすくめた。

「ちょっと速い速い!!あたしの指削る気!!?」

そんな声が響く。その大きな声に、工房の視線までもがこちらに集まっていた。

床に散らばった屑石の粉。それをかき集めながら、リコが笑顔で口を開いた。

「あの親方、研磨の技術もあるんだって。この前聞いたから、教えて貰おうと思ってたんだ」

「そうだったんだ」

結局あの後、合流したリコも屑石を使って何度も練習を重ねた。

もちろん、僕が研磨機を動作させての話だが。

今後は誰か別の人夫がやるらしく、効率は落ちるそうだ。

僕は回しているだけだったが、指導する親方の剣幕が端から見ていてもちょっと怖かったと思う。よくリコもあれについていっているものだ。

というか、あの人も親方だったと途中で気づいて驚いた。この工房で一番偉いわけではないようだが。

掃除は僕も手伝い、くずかごに削れた粉を流し入れる。さらさらとした微粒子、何かに使えると面白いのだけれど。

とんとんと寄せると、まるで粉薬のような塊になった。

さて、もう帰ろうか。さすがにもう仕事はないだろう。

そうは思った。

別れの言葉を告げて、工房を出ればもう家に帰れる。それはわかっているし、そうするつもりだった。

だが、なんとなく。

何故かはわからないが、僕の口は違う言葉を吐いた。本当に、なんとなく。

エプロンについた粉を払い落としているリコに、背後から声をかける。

「リコさん」

「ん?」

振り返った顔は、いつものような柔和な微笑みだった。

「もうちょっと時間あります?」

「あるけど?」

僕は、指で自分の頭を弾く。右側、髪の毛に細工がされた部分に。

「……この編み方、教えてもらえますか? 後学のために」

言いながら思ったが、後学のためというのもなんとなく違う気がする。

むしろ、自分でやるとは思えない。どちらかといえばやはり女性向けっぽいし、僕がやるような装いではない気がする。

それでも、何故か覚えておきたかった。

「わかった。やってみせるから、ちゃんと覚えてよ?」

「物覚えはいいほうだと思います。多分」

そこで待ってて、とくずかごを外に運ぶリコの後ろ姿を見送り、僕はもう一度編まれた髪の毛を触る。三つ編みのようで三つ編みではない。

……やっぱり、自分でするとは思えないけれど。

それでも、頑張って覚えてみよう。

何故か、そう思った。