軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

大人の時間にはまだ早い

「安易に人を飛ばしちゃ駄目だよ、ね?」

「はーい」

リコが珍しく僕に注意をする。降ろすときも顔を真っ青にして全身を強張らせていたし、きっと本気で怖かったんだろう。

「もっと高く飛べねえの?」

ハイロは高いところは平気だったらしく、降りるときも普通に楽しんでいたようだった。

「行けますよ。五番街全体が見下ろせるとこまで行ってみますか?」

「おお! 行こうぜ、なあ、リコも」

「やめとこう。ね?」

笑顔で制止するその手は、汗でびっしょりだ。ハイロもそれに気付いたのか、それ以上何も言わなかった。

リクエストがあれば、いつでも空に連れて行くのに。

腹は先程の腸詰めでほぼ満たされているので、屋台を見てももう食指が動かない。たっぷりと香草が振りかけられた焼き魚、マッシュポテトをパンに挟んだサンドイッチのようなもの、砂糖らしき粉をまぶしてある硬そうなケーキなど、食べたいものはあるが、またの機会にしよう。

またの機会にしよう。食べたい、食べたいが……。

僕には珍しい料理なのだ。何度も振り返ってしまったのは、仕方がないことだろう。

「まだ昼だし、本格的にはやってないねー」

「そりゃ、明るいうちにはやらねえだろうな」

大通りを真っ直ぐ進み、大広場に出たところには、木材が積んであった。

「ここで何をやるんですか?」

「ん? ああ、夜になったら、ここで盛大に火を焚くんだよ。この木材を全部燃やすんだ」

「その灰をほっぺか額に塗ると、その年は病気にならないって話ですよ」

「へえ……」

風邪予防のために繭玉を食べたりするようなものだろうか。効果があるかどうかはわからないが、そういうおまじないだったら、あとで僕もやっておこうかな。

「まあ、それでもリコは三日熱になったんだけどな!」

ケラケラとハイロは笑う。リコも苦笑していた。

もう、彼らの中で死にかけたことは笑い話になっているらしい。

祭りは続く。

僕らは屋台を回り、食べては感想を言い合った。

的当て遊びなんてものもやった。

そこでは、二十メートルほどの場内に拳大からバスケットボール大の綿を固めたような的がいくつも並んでいた。その当たった的に対応した商品がもらえるらしい。射的のようなものだろうか。というか、射的そのものだ。

僕とハイロとリコはそれぞれ店主に金を渡して弓と三本の矢を受け取った。その矢の先端は殺傷能力が無いように潰されてはいるが、キチンと当たれば綿に刺さるようになっている。

「これをあそこの的に当てれば良いんでしょうか」

「そうだけど……坊ちゃんにはまだ早いんじゃねえかなぁ……」

一応、金を出せばやらせてはくれるのだが、その店主は僕にやらせるのを妙に渋っていた。

妙に思いながらも、僕は矢をつがえ、弓を引く。

「よっ」

弓はあまりやったことが無い。森の中で手に入る材料でいくつかそれらしいものを作ってみたことがあったが、まともに飛ぶものは無かった。

それでも、まともな弓であれば僕はちゃんと飛ばせるらしい。

緩く飛んだ僕の矢は、綿を固めたような的をかすり落ちた。惜しい。

「やっぱ難しい……」

「カラスにも出来ないことはあんだな!」

クスクスとハイロは笑っている。笑ってはいるが、ハイロももう二本無駄に飛ばしている。

リコは狙い澄まして、ようやく一本の矢を放った。

僕のより速く真っ直ぐ飛んだその矢は、的の中心を簡単に射貫いた。

「 当(あぁぁぁ) たりぃー!」

すると、横に立っていた若い女性が、大きな声を張り上げる。

そして、身軽くヒラリと的の前に降り立つと、矢を抜いて回収していった。ついでに、僕やハイロの落とした矢も舞うように拾っていく。

「坊ちゃん、よく当てたなぁ」

店主は感心しながら商品をリコに渡した。紙に包まれた瓶のようなもので、中には液体が入っている。

「これは?」

そう尋ねると、リコも首を傾げてから取りあえず瓶のコルクを抜く。

そして、そこに鼻を近づけると「うぇ」という呻き声を上げながら顔を顰めた。

「お酒だ、これ」

「へぇー! いいじゃん! 俺も狙おう!」

ハイロは興奮するが、リコは少々不満そうだ。

「嫌いなんですか?」

「別に飲めるんだけど……まぁ苦手かな」

「ハイロにあげればいいじゃないですか」

ハイロはというと、より真剣な目で的を狙い、弓を構えている。

リコはそのハイロを見て、呟くように答えた。

「うん。あの矢が外れたら、ハイロにあげようかな」

「それが良いと思いますよ」

一応、この世界では酒に年齢制限は無い。ただ、成人してない者は飲酒を避けるという不文律がある。

景品に酒が混じっているから、店主は僕に勧めなかったのかな。

「当たりぃぃぃ!」

ハイロの放った矢は、リコの当てた的とは違う的の端っこに引っかかった。

「おっし!」

ハイロはグッと拳を握り、喜んでいる。ハイロのほうは酒が好きなのか。

「ああ、当たったかぁ。じゃあ、この酒はグスタフさんへのお土産にでもしようかな」

「売らないんですか」

「うん、まあ、一応ね」

売らずに、進物として物品を持って行ける。それだけ余裕があるのは良いことなんだろう。

またもや、当たった的から矢を回収しに、先程の女性が的の前を舞う。

しかし、今度は様子がおかしい。

もともと、少し露出度の高い服装だった。

黄色いビキニのような服の上から、透けるくらい薄い布を羽織っている。肉感的なその胸部や太腿が完全に隠れないように見せているような、扇情的な服装だ。

その体の動きが、先程のよりも大分艶めかしい。

整ったその顔や体を見せつけるように、クネクネと踊るように、矢を回収していく。

そして、その様を、僕ら以外の客は囃し立てるように叫びながら見ているのだ。

「坊主、いいぞ!」

「ヒュー! 羨ましいな!」

客からハイロに声がかかる。ハイロは訳もわからぬようで、戸惑った顔を僕やリコに向けた。

「少し若いが、立派な男だな、坊主!」

店主も笑顔で囃し立てる。景品はどうしたのだろう。

戸惑うハイロのその横に、矢を回収していた女性が降り立った。

そして、徐にハイロの頬を引き寄せると、その頬にキスをした。

「のょわ!?」

ハイロが変な声を出して飛び退く。顔が真っ赤に染まっている。それを見て、女性はクスクスと笑った。

「あら、坊やには少し早かったのかしら」

それなりに美しい顔に笑顔を湛え、唇をぺろりと舐める。その仕草に、男達から軽く歓声が上がる。

そして、軽く手を振りまた的の横まで下がっていった。

まさかこれは。

そういう店があると、何処かで聞いたことがある。

ある的に当たった客に景品を与える。

その景品は、酒や煙草の嗜好品。それに、見目麗しい女性からの サ(・) ー(・) ビ(・) ス(・) 。

きっと、他の的にも色々とあるのだろう。軽いものから、時間のかかるものまで。

「け、景品は!?」

「今のが、景品ですよ。ハイロ」

恐らく、そういう店だったのだ。ここは。

僕は一本だけしか撃ってはいないが、これ以上撃つ気が無くなってしまった……。

思いがけない大人の時間に、僕ら三人は複雑な気分になるのだった。