軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

似たり寄ったり

北砦へと急ぐ僕たち。

城の中ではさすがにあまり早歩きは出来ないが、門から出ればその制限はなくなる。

僕とプロンデは、迷惑をかけない程度に走り出す。だが、ほんの少し走り、商業区画に入ろうとしたその時に、僕らの前に立ちふさがる影があった。

プロンデも僕も気がついてはいた。

だが、ここで仕掛けてくるか。

雪を散らしながら僕らは二人止まる。

その前には、三人の道士服。そして、背後の脇道からはその仲間だろう二人。

「なるほど。聞いたとおりです」

前に立ちふさがった三人のうち、リーダー格らしい一人が、笑顔で僕らにそう言い放った。

風になびく茶色い髪の毛を押さえようともせず、リーダーはじっと僕らを見る。

それに応えるよう、プロンデが話の口火を切った。

「……何の用だ?」

「貴方は想定外ですが、そちらの少年と一緒にいるのであれば、貴方も対象ですね。なに、単なる足止めです」

その細い目を更に細め、リーダーは一歩踏み出す。そしてそのまま滑るように二歩、三歩踏み込み、その 崩拳(中段突き) が伸びる。

僕の顔に当たりそうになったそれを払いながら避けると、ゆるりと身を翻し上段蹴りを繰り出す。蹴りは、一歩後ろに下がるだけで空を切った。

まるで当てる気がないようなやる気のない攻撃。

だが、その効果は本来甚大らしい。

「……!」

払った腕に、裂けるように赤い筋が走る。強制的に筋肉が収縮したような感覚と熱さ。それに加えて、骨が膨れたような感覚に、僕は目を見張った。

「カラス殿?」

「問題ありません」

簡単に止血する。傷はそれほど深くはない。だが、僕の体が魔力で覆われているということを考えれば凄まじい効果だ。

浸透せずとも、効果は出した。

なるほど、これは昨日グーゼルが使っていた攻撃と同様のものか。まともに受ければ、威力と関係なく弾けてしまう打撃。

その攻撃が不発に終わったのを確認して、リーダーが口笛を吹くように賞賛する。

「さすがは魔法使い。この程度では駄目ですか」

「……今の攻撃、死ぬものだな」

今度はプロンデが一歩踏み出す。制圧のためだろう。だが、前方にいたもう二人が合わせて踏み出すと、それに警戒するよう足を止めた。

「……もう大体事情はわかった。だけど、一応もう一度聞く。何の用事があるんだ」

「言ったでしょう。足止めです。王城から急ぎ出てきたということは、もう事情も把握されておりますでしょうに」

細い目が吊り上がる。何となく、嫌な感じがした。

「アブラムとヴォロディアの邪魔をさせるわけにはいかないんで……」

「……僕も事情はわかりました」

「ぅ!?」

僕も一歩踏み出す。そしてその勢いのまま、リーダーの顎を斜め上に蹴り飛ばした。

リーダーの体が宙を舞う。

弾かれた頭部に引きずられるよう後方にすっ飛ぶその体は雪に着地し、その勢いのまま半回転して止まった。

しん、と静まりかえる。もとから話し声などはなかったが。

「要は、僕らに邪魔をされたくない何かをしている。なら、他の事情は結構です」

僕は息を吐く。

邪魔をされているのだ。ならば、排除して向かうべきだ。

残る四人の目つきが変わる。覚悟を決めたように据わった。

プロンデも頷き、それに同意する。

「まあ、仕方はないか。何がしたいのかは知りたいとこだけど……」

言葉の途中、後方二人がプロンデに飛びかかる。

その勢いを殺さぬよう、流れるように繰り出された掌底。プロンデはそれを避けながら手首をとり、更にその勢いに自らの力を乗せて体を振り回した。

「おぶ!?」

その体をもう一人に当てると、関節が外れたのだろう。振り回された男の肘と肩からゴキンと音がした。

勿論、当てられた方も無傷などではなく、体大の鉄球に当たったように潰れながら飛んでいく。

その体が当たった建物に乗った雪が、勢いよく崩れ落ちた。

「この様子では聞くことは出来ないな」

「貴様ぁぁ!!」

関節が外れても、まだ手首は握られている。そして、当たったとはいえ衝撃はほとんどすっ飛んでいった男に与えられているのだろう。プロンデに腕を持たれた男は吠えて、地面を蹴る。

体を空中で回転させるような綺麗な蹴り。

だがその足もプロンデは払う。まるで、服についた埃を払いのけるように。そして、まさしく子供を扱うように、容易く転がした。

「……紅血隊ってのはこの国の最高戦力と聞いていたけど。その程度か」

「………………!!」

立てた腕を地面に押し込むようにしながら、男を俯せに制圧する。もがく男は地面に顔を押しつけるようにしながら、口から泡を吹きだす。外れた腕の関節を極め、更に窒息までさせているという不可思議な技術。それを、僕も呆気にとられて見ていた。

しかし、ボーッとしてもいられない。

「お前、だけでも……!」

「いいや、両方だ、両方ぶっ殺してやる!!」

前方にいた残り二人。その二人が、僕とプロンデ、別々に飛びかかる。連携をとる気がないのか、それともとれないのかはわからないが、昨日のグーゼル達の様子から考えると前者だろう。ばらばらの動きで。

動き自体は良い。

綺麗な突き。地面を蹴る足から流れる力が、一切損耗することなく拳へと伝えられている。

流麗な蹴り。訓練され、熟達した平衡感覚があるのだろう。まるで体の重さがそのまま足に乗っかっているような重たそうな蹴り。

速さも申し分なく、なるほど、獣を狩るにはこれで充分すぎるものだろう。

けれど。

「無理だな」

「無理ですね」

ほぼ同時に、かかってきた二人が弾かれる。

僕は突きを避けながら、向かってくる男の頭を蹴り飛ばす。

プロンデは、足刀蹴りをしゃがんで躱しながら軸足を刈り取った。

重なった倒れる音。腹部にもう一度攻撃を加えているから、プロンデの方が一拍遅れてもう一度したが、そう変わらない。

かかってきた二人とも、簡単に沈黙させることが出来た。

「単なる喧嘩……じゃあ済まないな」

プロンデは、沈黙した五人を無感情に眺め、それからそうぽつりと呟いた。

僕も、腕を治しながら応える。

「この国では慕われているそうですし、喧嘩をするような方々でもないそうなので……」

マリーヤの話では、紅血隊は評判良く国民に慕われているとか。ならば、その紅血隊員を気絶させた今の状況は誰かに見られるとマズい。

一応商業区の少し手前なので人目はあまりないが、それでも待っていれば必ず誰かが通る道だ。放置も出来ないだろう。

「幸いにも通行人に注目はされていないようですし、路地にでも隠しておきますか?」

「……面倒だがそうするか」

頬をポリポリと掻きながら、プロンデはそう答える。聖騎士としてあるまじき態度なきもするが、それでいいのだろうか。

まあ、いいというのならばそれでいい。

適当な路地に放り込む。

城へと運び込んだらそれこそ大騒ぎになってしまうし、僕らの立場の方が危ぶまれる。頼れるとしたらマリーヤだが、マリーヤの発言権も多分そこまでではないと思う。

しかし、邪魔されたのは良い兆候でもある。

「僕らが北砦に向かうのが、そんなに都合が悪いんでしょうか」

「邪魔をしてきたってことはそういうこと……だが、……」

僕の言葉に同意しながらも、プロンデは言い淀む。リーダー格の顔を見ながら、顔の下半分を手で覆った。

「なんでしょうか。」

「先ほど、こいつはなんて言った?」

「さっき、というのは……」

何の話だろうか。それはわからないが、とりあえずプロンデの言葉に僕も思い返す。

この男は、僕らの前に立ち塞がってから、『足止めだ』と。それから……。

「『アブラムとヴォロディアの邪魔』だ。つまり、その二人は同様の目的を持って行動している?」

「……紅血隊は新王と仲が悪いという話もありますけれど……」

「俺も、そんな噂は聞いた。しかし、火薬の持ち出しを許可するようなことまでしている……。やはり、無理でもヴォロディア王について回るべきだったか……?」

悩むプロンデ。だが、その言葉には一応僕なりの回答がある。

「そちらはマリーヤさんに任せていいと思います。僕らではむしろ邪魔になるでしょう」

「そこまで言うならばそうなのかもしれない、が……」

一度王城の方を振り返る。

その中で行われている何かに一瞬だけ思いを馳せて。

「ぅぁ……」

そのとき、リーダーの目が微かに開く。朝知らず茸の在庫がなくなっていたから飲ませることが出来なかったが、ここまで覚醒が早いとは。仙術とは、自然治癒力も高める効果があるのだろうか。

急ぎ、念動力でその四肢の関節を全て外す。ポキン、と音がして両腕両脚が少し伸びた。

「お目覚めですか」

「……貴方たちがまだここにいるということは……、ははは、足止めは成功したようですね」

「どうでしょうか」

この男らと遭遇してから、まだ十分も経っていない。そんな短時間では、足止めの意味もない。

もっと長時間か、僕らのどちらかが行動不能になっているかすれば違うだろうが、今のこれではまったく足止めにもなっていないはずだ。

しかし、僕の言葉にもリーダーは不敵に笑った。

「はははは、そうでもありませんよ。貴方たちの力は驚異的だ。この数分が、この数秒が値千金です。あの老人が貴方を始末してくれればもっと良かったんですけどね!」

「……何故、カラス殿を襲わせたんだ?」

「アブラムの小心のせいですよ。伝え聞く態度から、私たちの邪魔をすると思った。邪魔になると思った! だから、ちょうどアブラムが見かけた縁のある実力者に襲わせた。……なにやら、弱みがありそうだったらしく、簡単だからとね」

べらべらとよく喋る。これも、『足止め』の一環なのだろう。

「月野流、この国ではまだ知られていませんが、遠くエッセンのイラインではかなりの隆盛を誇る流派だとか。それならば、と思いましたが期待外れだったようです。……っ!」

身動きで体の位置が変わり、関節の痛みに顔が歪んだ。

「……それが、それが、ねえ。こんなに簡単に足止めできて、未だに事態を把握してもいない。白痴! 蒙昧! アブラムの臆病にも程がある! ははははは!」

哄笑が少し不愉快で、殴って止めようかと思った。

しかし、拳を握りしめたところで、プロンデが尋ねる。

「俺たちが把握していない事態っていうのは?」

「もう遅いってことですよ! さっきまでなら間に合うかもしれなかった! でも、もう遅い。私が何故、これだけ簡単に計画を喋るのかわかります? もう、貴方たちの速さでは間に合わないからです!」

「何をする?」

プロンデはリーダーの言葉を取り合わず、その白刃を抜く。

その刃で命を絶つことはないだろうが、それでも多分傷はつける。そんな気がする。

「する、ではなく、したのです。貴方も理解が遅いですね。はははは……」

哄笑が止まる。

プロンデの振るう剣。その剣が水平に振られたのを確認してから一拍の後、リーダーの前髪が少しだけ切り取られハラリと落ちた。

「じゃあ聞くけど、何した?」

「…………」

リーダーはゴクリと唾を飲む。プロンデの納刀の動作は軽やかに、その鞘を傷つけない精密なものだった。

「その男たちは紅血隊だね。なるほど。今まさに、足止めを食らっている最中だったか」

言葉を止めたリーダーに代わるよう、路地に楽しげな声が響く。

ここは路地の少しだけ奥まったところ。視線を感じた時点で気付くはずなのに。パターンを変えたか。

「アブラムの運んでいたものはわかったかな」

「ええ。レイトンさん達は、追跡はどうしたんですか?」

「儂らも、隠れ家から移動した跡を追ってきてのう。じゃが、こちらにアブラムはおらんな」

同時に姿を現したのは、スティーブン。こちらは幾分かレイトンよりもわかりやすかった。

「で、何だった?」

「……火薬でした。小さな樽九つ分。それを、昨日の朝持ち出していました」

「ひひひ。なるほど、なるほど」

唇を指で撫でながらレイトンは笑う。これだけでも、おおよそのことはわかってしまうのだろう。それがやはり怖い。

「もう間に合わない、らしいけど。その、やりたいことを吐かせるのは出来ていない」

「まあ、仕方ないさ。彼らは任務中だろう? 人は仕事中、驚くほど強くなるもんさ。……でも……」

レイトンの目が細められる。考えがまとまったらしい。

「カラス君。きみは北砦に向かえ。そして、日が沈むまでに戻ってきて。大丈夫、きみなら間に合うさ」

「しかし、間に合わない、と」

馬鹿正直に信じる義理はないのだが、しかしもう終わっているのならばたしかに間に合わない。そうは思ったが、その心配はレイトンが笑顔で切って落とした。

「きみなら、って言っただろ? 今ここにいる人間で、きみ以外なら間に合わないと思う。多分だけどね」

「じゃ、儂も……」

「ラチャンス翁はプロンデ君と一緒に王城へ。マリーヤ・アシモフと顔つなぎは出来ただろう?」

プロンデの方を向き、レイトンは尋ねる。毎度のことだが、何故この男が指揮しているのだろう。

「ああ。一応、もう謁見とかも出来るとは思う。でも、今出てきたばかりなんだけど」

「じゃあ、城を監視できるところにいてくれれば構わない。何か異変が起きたら、すぐに王城へ入ってマリーヤ・アシモフに協力してくれ。ウェイト君を連れていっても良いかもね」

「じゃが、儂も北砦に……」

「すまないけど、足手まといだ。本気で飛ぶカラス君に追いつける人間はいない。追っていく分には構わないけれど、無意味に近い」

「ぬ……」

はっきりとものを言う。スティーブンも反論できずに黙ってしまったが。

「ぼくは、プリシラの痕跡をもう一度追う。探して回る、といったほうが正しいかな」

「今ですか?」

こんな時に。

そう、言葉に出さずに尋ねると、レイトンは溜め息をついて頷いた。

「……アブラムの追跡が出来なかったのは、多分あの女の隠蔽だよ。やはり、面白がってみている。そして、この先更に干渉があるかもしれない。きみも一応注意しておいて」

僕への注意喚起も珍しい。

僕は一応頷き、それからリーダーに目を移す。その意を汲んだのだろう、レイトンはまたプロンデを見た。

「そうだね。この男たちについても任せた。どう処分しても構わないよ」

「処分は出来ない。なんとしても事情を聞き出すさ」

「それもいいけど、注意してね。自決するかもしれないから」

その言葉に、リーダーは表情を硬くする。まさか、本当に。

レイトンはしゃがみ込み、リーダーの瞳を真正面から見る。

リーダーは目をそらせぬように硬直しながら、ただ震えていた。

「何をしたかはいわなくても、もうだいたいわかるよ。でも、ごめんね。ぼくにも事情があって、とある女性が関わっている事態は放置できないんだ」

「……何が出来るわけでも」

「グーゼル一人生き残っていれば、どうにでもなるだろう?」

リーダーは目を見開く。その次の瞬間、その瞳から涙が落ちた。

何でだろう。何故、泣いたのだろうか。

「きみらの 愚(・) 痴(・) はどうでもいいよ。でも、そんなことはあとで本人に直接言ってくれ。それよりもまず、彼女を生かさなければね」

「……何が起きていると?」

レイトンの後頭部に向けて、僕は問いかける。

またはぐらかされるかもしれない。そうは思ったが、思わず聞いてしまった。

また嫌みを言われるかもしれない。そう心配はした。だが、今回はプリシラが関わっているからだろうか。

レイトンはすっと立ち上がり、ゆっくりと振り返る。

「火薬自体は、人を害したり何かを破壊するために使うんじゃないよ。 刺(・) 激(・) するために使うんだ」

「刺激……魔物とかでしょうか」

「ううん。もっと怖いものさ。ぼくは直接見たことがないから、伝聞だけど」

「レイトンさんが直接見たことがない。……すると……」

レイトンの言葉に、一つの推測がたつ。

まったく根拠もないが、何故か確信があった。

「触っちゃいけないもの。多分、きみは知っているだろう?」

レイトンは北を向く。見ているのはその先にある砦、ではない。

「北壁……」

「そう。まったく、レヴィンの影響を受けた奴らはみんな同じようなことを考えるね。まあ、今回は功名心とかそういうものでもなく、彼らなりの事情があったみたいだけど」

渋い顔をするリーダーと対照的に、ニコリと笑顔を強めたレイトン。しかし、その言葉に僕は素直に同意できない。

「しかし、彼らはレヴィンとは接触していないと先ほど……」

マリーヤにそう聞いたばかり。レヴィンに接触していない以上、《魅了》の効果は出ていないはずだ。

念のため、目の前のリーダーの額に手を当て確認する。魔力が多いためか僕の魔力が通りづらいが、強引に通せば問題ない。

「ぅ……」

脳を撫でて精査する。しかしやはり、そんな痕跡は見られない。

なのに、何故。

僕は顔を上げ、レイトンの返事を待つ。けれど、やはりここまでらしい。

「そこから先は宿題かな。なに、多分すぐにわかるさ。彼にあって、きみに無いもの。 あの女(プリシラ) の言葉を生かす絶好の機会だよ」

最後に笑った顔がとてもとても楽しそうで、僕はレイトンに何も言い返すことが出来なかった。