軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

答え合わせ

答え合わせは後にしよう。

レヴィンの素性、そして目的。その二つは明後日きっと明らかになる。

だからそれまでに、その『目的』を妨害できるように、準備を整えなければ。

頭をグシグシと掻いて、中身を取り合えずリセットする。

「とすると、条件をそろえるには……」

レヴィンたちが動く条件。レイトンは『まだ時期ではない』と言っていたが、その時期の予想もつく。

簡単に言えば、人が集まるとき。それも多ければ多いほうがいい。この街が人に溢れるくらいであれば申し分ないだろう。

しかし、新年祭も終わり、しばらく祭りは無い。

この街の人が少なくなるということはないだろうが、多くなるということもない。それではレヴィンたちは現れないだろう。もっと注目を浴びているときでなければ。

「いや、多くなくてもいいかな」

人が多い、というのは間接的でも構わない。それこそ、要人か何かが現れれば、読売たちが広めてくれる。要は、その出来事を受け取る人が多ければそれでいいのだ。

脳内でまとめ上げていく情報。それだけで、レヴィンの行動が読める気がする。

幽霊の正体見たり、といったところか。

勢力の大きさは不明。具体的な行動はわからない。それでもなお、もはや奴らは脅威ではない。

はたと僕は立ち止まる。

「……あとは、僕の装備の調整かな」

目的が分かっても、何をするかわからない以上、そちらの具体的な対策は取れない。

ならば、その時に備える。僕の体が最大限のパフォーマンスを発揮できるよう、調整しなければ。

靴は良い。リコの修理はとてもいい腕だったようで、僕の足にブーツが完璧に馴染んでいる。プロの仕事とはそういうものか。水洗いして、ジャリジャリした塩の感触もすぐになくなったし、傷もほぼ増えていない。流石にいい素材だ。今度、僕が素材の持ち込みをして作ってもらってもいいかもしれない。

服に機能性は求めていないし、予備がまだある。あとは、潮風のせいか若干錆が浮き始めた山刀を研ぎに出して、……それだけかな? 薬品類は常備しているのが十分に残っている。

……いつでも備えているというのは探索者の常らしいけれど、なるほど、僕はよくやれていたらしい。装備に関してはほぼ問題ないか。今この場で戦闘が始まっても、特に問題は無い。

立ったままの装備の点検もすぐに終わり、僕は前を向いた。考え事の最中も、周囲には人が行き交い続けていた。隣を通り過ぎた台車に乗せられた、青く丸い果実の匂いが鼻をくすぐる。

「じゃ、修理に出して、その間ゆっくりとご飯でも食べよう」

考え事を続けていたからか、独り言が止まらない。

そしてやはり、体の 調整(メンテナンス) に一番必要なのは食事だろう。

僕は通り過ぎた露天商から青い果実を二つ買い、それを齧りながら五番街に向かった。

約束の日。

グスタフさんに調査結果を求めると、二つの書類の束を渡された。

「お前が欲しがってた調査の結果だ」

「ありがとうございます」

紐で閉じられた束は適当に数えて三十枚ほどの束か。そこに、二十行ほどの文章が丁寧な筆跡で並んでいる。発布された法律や、ライプニッツ家主導で広められた技術、物品。それらがその内容とともに列記されていた。

僕がそれをパラパラと見ていると、視界の端でグスタフさんが首を捻る。

「しかし、わからんな。何でそんなもんをお前が欲しがったのか」

「これは……すいません。とても個人的なことなので、秘密にさせてください」

「別に聞きゃあしねえよ」

少し申し訳なくなる。別に、こちらとしても隠さなければならない理由などないのだ。

けれど、何故か少し言いづらい。ただそれだけだ。

そして、調べられずにはいられなかった。僕だけだと思っていたその要素。それが、僕以外にいるかもしれないという可能性。遠くならば別に気にしなかった。こんなに近くにいなければ。

「片腕の魔法使いということで、早熟の傾向がみられる。そのため、幼少期より勉学に励み、数々の発明に挑戦する。三歳時。調味料開発、食中毒大量発生により失敗。新肥料の開発開始、実験を繰り返し七年後に効果が見られ完成。六歳時。村々より資源……土? を募り、火薬の量産を試みるも失敗。…………」

適当にかいつまみ、つらつらと読み上げていく。失敗を繰り返すも、所々で成功をあげている。それが彼の研究の成果ならば、賞賛すべき結果だろう。失敗にもめげずに成功をしているのだから。

「…………車軸部に金属で緩衝材を付けることを提案、部下の技師により実用化される。陰陽石と呼ばれる遊戯を開発。上流家庭の遊戯として広まった。植物を腐敗させて作る気体燃料の活用を提案、しかし失敗。だが技師がそれを受け、気化させた油を使用する照明を作る。以後ライプニッツ領の各場所でその照明が使われる。……この辺が最近ですか」

パタン、と資料を閉じる。わかった。もう、知りたいことはわかった。これ以上は時間の無駄だろう。

鼻から溜息を吐きながら、グスタフさんは椅子に寄り掛かる。

「傾向としちゃ、革新的……ってところなんだが……大体のものに、少し足りない。何がかはわかるな?」

「……実用性、でしょうか」

僕は、ライプニッツ領で見た種々の光景を思い出す。

イラインよりも暗い照明。突然の揺れは無いが、常に不安定に揺れている馬車。工夫ではある、しかし、しなくてもいい工夫をした発明品の数々。

そうだ、それらは全て、レヴィンの発明だったのだ。

「そうだ。どの施策も発明も、詰めてきゃいいものになるだろう。だが、それをしていない」

グスタフさんは水を一口含む。それから一度伸びをして、僕を見た。

「どれも、思いついたものを家の力で広めているんですね。……何か利点でもあるのかと思っていましたが」

僕はあのとき、何か利点があって広まったのだと思った。

だが、真実は違っていたのだ。

それはやはり、僕の考えた真実と符合する。

そして、奴の目的とも。

「ま、その情報がお前にとってどんなものかは知らんが……、他にも、お前にはわかったことがあんだろ?」

「……はい」

僕は、すこし暗い気分になりながら頷く。

だって、こんなのあんまりじゃないか。

竜を連れてきて、下手をすれば何百人も死ぬところだった。国からとうに見放されていたクラリセンに、最後のとどめを刺すところだった。僕への脅しだけで、何の関係も無い一般人を二人も殺すところだった。

奴の部下だって、死んでいる。

なのに。

「……あいつの目的が読めたってところだろう」

「推測ですが、ね」

「言ってみろ」

「……竜を呼んだ理由は、その竜で何かをするためじゃなかった。グスタフさんが最初に考えた通り、竜じゃなくてもよかったんです」

でも、あいつにとっては竜でなくてはいけなかった。そこは、グスタフさんにはわからないことだろう。

「新年祭の直前、あいつは竜を『この街に向かわせた』。多分、モノケルの手を借りて」

「自分がいるんだぜ? そんな危ないことさせて何になるよ」

嘲るようにグスタフさんは笑う。本気で反論はしていない、とそう思う。

「自分がいるから、です。それに恐らく、本人は危ないとも思っていなかった。クラリセンのときも同様です。クラリセンやミーティア、ましてやライプニッツに向けてのものじゃない。二つとも、自分に向けて、です」

そして、竜を自分に差し向けた理由。

本当に、くだらない。

「発明を広めたのも同じ理由です。後半は、自らは発案者で開発は部下、ということになってますが」

そこまで思いつかなかったのか、それとも原理を知らなかったのか。多分、幼少期の発明から見ると後者だろう。

「でも、レヴィンが広めたかったのは、発明じゃない」

本当に、僕にはわからなかった。たしかに、エウリューケにもわからない。

「新年祭の時期。この街には貴族が集まる。そしてクラリセンの戦いのときは、それなりに耳目の集まる場だったでしょう。探索ギルドも自らの利益のため、それを広めるでしょうし」

「じゃ、もうわかったな。あいつの目的」

楽しそうに、グスタフさんは笑う。しかしこんなもの、楽しいわけがないのに。

「……あいつの目的は、自らの名前を売ること。華麗に竜を倒したその男として」

本当に、くっだらない理由だ。僕の体は無意識に震えていた。