軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

不可解な襲撃

一瞬で変わった景色を見ると、エウリューケは自慢げにくるりとまわった。

「ほれみなせ! 魔力さえあればこんなもんですぜウィヒヒヒヒ」

「なんというか、まあ……」

魔力は感情や気分に左右されやすい。簡単にいえば、気分が乗っていたり集中していれば強化される上に回復も早くなるし、落ち込んでいたり気が散っているとその逆の現象が起きる。

だが、ここまで顕著なのは異常な気がする。

多分、戦闘か何かで大量に魔力を消費しても、何か支えがあればすぐ回復するほどの異常さ。

心強いし、便利なほどだ。だが、それはよく言えばの話である。

なんというか、エウリューケは単純というか、ちょっと直情的だなぁ、と、そう思う。

変わった景色で一つ気が付いた。

僕は初めて見た目の前の村が、すぐに王領だと思ったのだ。

これといった根拠があるわけではない。

ライプニッツの大きな街は石畳や歩く人の雰囲気がイラインとは違うものだったが、僻地ともいうべき王領との境付近は開拓村と変わりない。そしてそれは王領でも同じく、この辺境の小さな村はまさしく開拓村と同じようなものだろう。

「なんていうか、帰ってきたって感じがしますね」

「……? そうかい? なーんの変哲もない、しなびた村じゃないかえ」

だが、夕焼けに照らされる村は見た目や気候が同じでも、何かが違う気がする。作物の実り方だけではない。街の匂いともいうべき何かが、まったく違っているのだ。

まるで、違う国のような差。

イラインに対するかつてのクラリセンのような、行政都市と商業都市の違いよりももっと大きい。ミーティアやピスキスなどのまさしく『異国』を見てきたからこそいえることだが、ライプニッツ領は、エッセンの中にある異国ということだろう。

エッセンに貴族領はまだ他にいくつかある。他もすべてそんな感じなのだろうか。今回の旅では南方面しか行けなかったことが悔やまれる。まったく、仮面の男は、どこまで僕を面倒なことに巻き込むのか。

まあ、時間はいくらでもある。今度こそ、この一連の決着がついたらそちらも回ってみよう。

「さすがに次にこの距離を飛べるのは明日の朝かなぁ。というわけで、この村で一泊決定!」

「今の時間から宿取れますかね?」

エウリューケは村で泊まるというが、そもそも小さな村だ。通行人の姿も見えず、旅人向けの宿すらなさそうな小さな村。さらに、通常は夕日が沈む前に宿をとるのが一般的だ。まだ完全に夜になってはいないが、今でも若干遅い。

「どうしようかねぇ。べっつにぃ、あたしはカラスくんと一緒に夜天で二人きりで水入らずで一夜をともにしてもいいんだけど……あ、なんか一夜をともにするってどことなく淫靡な響き……」

「どこか軒先でも貸してもらいましょう」

エウリューケの言葉を無視しつつ、村に足を踏み入れる。だが、妙な雰囲気だ。

通行人がいないからか? いいや、この時間、開拓村のような村であればそれは当たり前だ。明日に備え早めの夕飯を食べ、早くに寝てしまうのだから。もうすぐ夜になるこの時間に出歩いているのはよほど大事な用事がある者か、単なる怠け者だろう。

では、何だろうか。違和感がある。見回しても、何も変わったものは無い。遠くに見えるネルグの風景や、地面には何も異変がなく、そして音すらも無い。

何か、変な感じだ。

「……カラスくん。これがどういうことか、説明できるかな? あたしにゃあさっぱりですぜ」

エウリューケは違和感を感じたというより、異変を感じたのか、真面目くさった顔で周囲を見渡す。

やはり、何かがおかしいのか。で、あれば。何だろうか。

「すみません、何かおかしいのはわかるんですが、変なものもありませんし、変な音が聞こえるわけでもなく異臭がするわけでもなく……」

「違う、違うんだよ。変なものがあるんじゃないんだ。これは」

身を硬直させ、エウリューケが胸の前に置いた手を開閉させる。

その瞬間、僕の視界の端に黒い点が無数に映る。

とっさに身を反転させ、エウリューケの横まで跳ぶ。そして、障壁を展開すると、その次は。

「報告にあった二人だ!! 総員! 構え!!」

障壁に食い込む無数の矢。それは明らかに僕らを害するためのもので、障壁が無ければ頭を貫いていただろう。

声とともに厩や民家の土間から、大量の武装兵が現れる。夕日を照り返す金属の鎧は赤く染まり、衛兵ではない、それが騎士であることを明確に伝えていた。

「なるほど。何か変わったものがあったんじゃなくて」

「そうだねぇ。あるべきものがなかったんだに」

視線を合わせず、エウリューケと答え合わせをする。そうだ、この違和感の正体は、何かがあったんじゃない。人の気配があるにもかかわらず、民家の音や料理の匂いなどの、あるべきものが無かったのだ。

制圧して通ってもいいが、どうすればいいだろうか。エウリューケの意見も聞かないといけない、そう思い、振り返った先にいたエウリューケは、深刻そうな顔をして呟いた。

「対応が早すぎるなぁ。あたしが出せる最高速度だぜぃ? 少なくとも、昨夜のうちに鳥でも飛ばして指示を出しておかないとこうはならない」

「……そうですね」

その通りだ。僕らの位置を正確に捉えて指示を出す。そんなことをしていたら、どう考えても間に合わないはずだ。そもそも情報与えるような移動はしていない上、僕らがここに現れたのは本当に偶然だったのだから。

まるで、最初から全て知っていたかのような兵の配置。しかも、現れたのが衛兵のような制圧目的ではなく、騎士団のような殺傷を目的とした兵。考えることが一杯だ。

だが、それよりもまずはこの場を何とかしなければいけない。

「一応、相手は正規の騎士団、だと思います。逃げましょう。転移は……出来ますか?」

もう殺しにかかられている以上遅いかもしれないが、手を出すのは相手に正当な言い分を与えることになる。

先ほど、もう無理だといったばかりではあるが、一応聞いておかなければ。だがやはり、エウリューケは首を横に振った。

「無理ー! この村越えるくらいが精いっぱいだしー!」

「……わかりました」

結局はやはりこれか。

エウリューケを抱きかかえ、透明化。

「わあお! 大胆!!」

「黙っててください」

そのまま民家の屋根伝いに走り出す。

森を駆け抜け、次の村を通り過ぎ、適当なところで静止する。

「まあ、流石にどこか街で、なんて雰囲気じゃないよねぇ」

小さく飛び跳ねながら、エウリューケはそう切り出す。その通りだろう。たった今、安全かと思われた村で不可解な襲撃を受けたのだから。

「すいませんが、今日もここで」

「あいよー!! 流石に、明日朝にはイラインまで一気に飛ぶから、それまでよろすくー……」

森の中で、電源が切れたかのように突然眠り込んだエウリューケ。

その言葉通り、次の朝、朝日が出ると同時に僕らは飛んだ。

目の前にあったのは、少し懐かしい気がする、石ころ屋の看板だった。