軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

進まない説明

「壊滅っていうのは……」

「村が魔物の大軍に襲われ、もはや街の体を成していません。逃げだし、近くの村に助けを求められた住民もいるそうですが……、逃げ遅れた人間もかなり……」

沈痛な面持ちで、職員は言い淀む。

僕は慌てて、語気を荒くした。

「だ、だったら急がないと! 早いところ掃討しなければ……!」

「ええ。ですので、明日、掃討作戦を行います。そのために、みなさん集まって頂いているわけでして……」

チラリと職員は集まっている面々を見た。その視線が何を意味しているのかわからなかったが、焦っていることだけは読み取れた。

「本当に、助かりました。大きな声では言えませんが、色つきの方が数人しか参加出来ないので……やはり、厳しいことになるかとも思いましたが、……これでようやく目処が付きそうです」

「そんなに厳しい状況なんですね」

「そうです。まだ魔物は周辺の町や村に被害を出していませんが、報告では大犬やステニアーバード、中には羽長蟻やトレンチワームなども確認されているようでして……」

職員の挙げた魔物の名前、その中の一つの名前に、僕の胸がざわめく。

トレンチワーム。前回のクラリセンの騒動で、鍵となった魔物。

その時、鐘の音が鳴り渡る。

街に十の時が来たことを知らせる鐘に、職員の顔が固まった。

「……時間です。今回は、ここにいる参加者で、掃討作戦を行って頂きますので」

職員は恐る恐る周囲を見渡す。

そして落胆の顔を一瞬見せた後、その表情を引き締めた。

「皆様、本日はお集まり頂きありがとうございます。これより、今回の討伐依頼の説明をさせて頂きます」

声を張り上げる職員。その声に、会議室中の探索者の視線が集まった。

荒々しい男達の睨むような視線にも怯まず、職員は続けた。

「目標は、ここイラインより南東に四百里ほど森の中を進んだ先にある街、クラリセン。その街を占拠している魔物達を討伐、掃討するのが皆様への依頼でございます。なお、今回は近隣の街の騎士団との合同任務となりますので、こちらに騎士の方を二名同席させて頂いております」

職員がそう言い終わると、合わせて甲冑を着た男性が二人進み出る。

やけにいい鎧を着ていると思っていたら、探索者ではなく騎士だったか。

二人とも、プレートメイルを着込み、腰には長剣を帯びていた。

「お二人には騎士団との連絡員としても働いて頂きますので、よろしくお願いします」

職員が頭を下げると、騎士達もそれに倣う。その動きを見れば、探索者とは違い、少し優美な印象を受けた。

職員は、騎士の姿を見て静まった探索者を見回し、そして頷いた。

「もう皆様ご承知とも思いますが、知らぬ方もいらっしゃいますのでこれからのご予定を説明いたします」

手元の紙に目を移し、そしてそこから目を離さずに、朗々と職員は語る。

「まず、皆様はこれよりイラインを出立、出来る限り急いでクラリセンに向かって頂きます。先遣隊として、二名の探索者、そしてギルドの観測手が手前の集落で待機しておりますので、そちらと合流してください。移動手段がない方は騎獣も用意してありますので、ご希望の方は申し出てください」

騎獣は闘気を持たず、走れない魔術師向けだろうか。

そう思ったが、小さく頷く探索者がやたら多い。全体の半分以上いる。魔術師がこんなに多い……はずはないな。

「作戦は明日の朝開始です。遅くともそれまでに合流をお願いします」

職員の説明が続く中、一人の探索者の手が上がった。

「なあ、その作戦っての、どんなもんかは今聞けねえの?」

「先遣隊の報告を加味してのものとなりますので、今はなんとも申せません」

その質問に、即座に職員が答える。今夜から明日の様子を見ての判断ということか。

次に、手も上げずに違う探索者が声を上げた。

「報酬はどうなるんで? 誰が何匹片付けたとか、そんなんいちいち数えてらんねっしょ」

「そちらは、これから出るギルドの観測手に報告させます。働きに応じて、ということでお願いします」

職員の事務的な答弁が続く。まるで答えが用意してあったかのように、スラスラと回答していった。

その後いくつかの質問に答えて、会議室を見回しこれ以上質問が出ないことを職員は察する。そして、一旦この場を閉めようとしたときに、またもう一人声を上げた。

「他に、何かご質問はあるでしょうか。無ければ、これで出発を……」

「おい、そんなガキも出るのか。戦場はガキの遊び場じゃねえんだぜ?」

締めの言葉を遮り、大きな剣を背負った男が腕を組み凄む。

なんだと思えば、その視線は真っ直ぐに僕を捉えていた。

「ああ、はい。この方は大丈夫です」

職員はまともに取り合わず、目も合わせずにそう答える。

いや、その答え方ではダメだろうに。

案の定、大男は激高した。

「はぁぁぁ!? バッカじゃねえの? 大変な事態って言うから来てやったのに、そんなガキにも勤まる仕事だったのかよ!? じゃあいいわ、俺、やめさせて貰うわ」

「わかりました。ですが一応事態の深刻さも考えて、他言はお控えください。その他、何かありますか?」

大男の言葉を軽く流し、職員は他の探索者に確認する。その態度に、どよめきが上がった。

大男はといえば、職員の言葉に立ち尽くしていた。

その額には青筋が浮かび、握られた拳が震えている。

「大変な事態なんだろ? 俺みたいな、戦力が一人いなくなってもいいのか!?」

「ええ。確かにこの際探索者の選り好みはしていられませんが、皆様の命がかかっております。強制的に受けさせるような非道な真似は、ギルドとしては致しかねますので」

無意識だろうが、煽るようなその言葉。

大男は僕と職員を睨む。僕としては、完全にとばっちりな気がする。

だが、僕が何かを言っては駄目だ。きっと、何を言っても神経を逆撫でしてしまうだろう。

黙って見ているしかない。それが少し、歯痒かった。