軽量なろうリーダー

英雄願望もほどほどに

作者: 高月水都

本文

我が辺境は常に人手不足。後、中央との格差が激しいのでいつ内紛が起きてもおかしくない綱渡りな状態で、ほぼ王命に近い形で、辺境伯令嬢と王子の婚約が決まった。

「と言うことでよろしく頼むぞ!!」

と現れたのは 第(・) 四(・) 王(・) 子(・) 。

「バルド。わたくしの婚約者は 第(・) 五(・) 王(・) 子(・) に決まっていましたわよね?」

側近のバルドにこっそり尋ねる。

「はい。――第五王子のシャーティル殿下がシーロンさまの婚約者です」

「そうよね。なのに何で第四王子殿下が……」

こちらが戸惑っているのを察したのか王子付きの側近の一人がそっと手紙を渡す。

――いきなり、婚約者ではない第四王子がそちらに向かってすまない。

王位継承権を持たない故に王妃が甘やかして、昔読み聞かせていた勇者の物語に憧れて、剣の訓練ばかりやっていたのだが、先日王都での式典でシーロン嬢を見初めて妻にしたいと言い出した。

辺境には魔獣が生息して、かの伝説のドラゴンも居ると知った愚息がドラゴンを討伐すると張り切って、ドラゴンからシーロン嬢を助け出す英雄になると妄想を抱いて、勝手に婚約者を変更しようとしているので、現実を見せつけてやって欲しい。

現実を知った時期に本来の婚約者である第五王子のシャーティルが到着するようにしてあるので。

と書かれており、滞在の間に掛かる費用の二倍を迷惑料として支払うとまであった。

「シーロン嬢!!これからは、このアスタが貴方を守ろう!!」

と手の甲に口付けをされる。

「バルド。わたくしって、恋愛対象になるのね」

バルドから渡された布巾で手の甲をそっと拭いながら呟く。

「シーロンさまは じ(・) っ(・) と(・) し(・) て(・) い(・) れ(・) ば(・) お美しい方なので」

バルドの言葉に棘を感じてつい睨むがそれを躱すつもりなのだろう。一通の手紙を取り出してくる。封筒は蝋で密封されている。

「……………」

それを受け取ると中には一行だけ。

――際限なく毟り取っちゃえば。それくらいしても罰は当たらないでしょう。

「あの方らしい……」

まあ、言われてみればその通りだ。

毟り取るのは確かにいいが、その前に使いモノになるかどうか確かめないと。

「第四王子殿下を訓練所に」

「今更訓練など必要ないぞ。俺は強いからな!!」

「……………」

そう言っている輩こそ使いモノにならないのは経験上よく知っている。

それの性根を叩き直すのが辺境伯令嬢であるシーロンの役目だ。

(でも、今回は毟り取るのが目的なのだ。心をへし折ってはいけないだろうな)

「ちょうどいい手加減を覚える機会と思えばいいのでは」

バルドが耳元で囁く。

「なるほど……」

相手はお客さんだ。しかも、滞在時間が長ければ長いほどお金を落としてくれる。

そう割り切れば、手加減も出来るだろう。幸いにも訓練場にいるのは新兵と引退して指導に回っている騎士たちだ。

(接待相手にはちょうどいいと思えばいいか)

「バルド」

「すでに連絡してあります」

流石早い。

「 お(・) 金(・) を(・) 搾(・) り(・) 取(・) れ(・) る(・) ほ(・) ど(・) 接(・) 待(・) す(・) れ(・) ば(・) い(・) い(・) 。と連絡されていたので」

「………なるほど」

ならば、話は早いか。

「―― 彼(・) は(・) いつ来るの?」

「早くて半月だと」

「じゃあ、半月なら耐えられるか」

それ以上だったら接待する兵士たちの神経が耐えられないだろう。

そんなこんなで第四王子を接待して、ちなみに実力は新兵よりも強いが、飽きっぽい感じで現場に連れていくにはいささか問題があると指導官の意見だったが、まさに報告の通り。

「いつになったらドラゴンを討伐できるんだ!!」

と騒ぎだした。

「殿下」

「ああ。シーロン嬢。俺はドラゴンを討伐するためにこの地に来たのだ。なのにいつも訓練訓練訓練……」

「ドラゴンはそんな気軽に出てきませんよ」

ドラゴンが出てくる予兆である魔獣暴走もないし、ドラゴンが活発になるのは繁殖期だ。

「辺境にはドラゴンが居ると聞いていたぞ!? 騙したのか!!」

「騙していませんよ。今も居ます」

暴れていないから放置しているだけだ。彼らは繁殖期を除けば温厚だ。こちらが刺激をしなければ何もしない。

「ならば、今こそ討伐に!!」

この第四王子を放置したら本当にドラゴンを刺激しそうだなと思っていると。

「シーロンさま。お手紙が」

バルドから渡された手紙には準備ができたという内容で、もう接待に神経を使わなくていいという許可が出たということ。

そして、一言。

それを見て頬が緩んだのは仕方ないだろう。

「――では、魔獣狩りに行きますか?」

「魔獣ではなくドラゴンを」

「魔獣の力を知らないでドラゴンに挑むのは 無(・) 謀(・) というものですよ」

と無謀という言葉を強調して告げるとさすがに、自重することにしたのか文句は出ない。

(やっと黙った)

さてと、やっと黙ったからこのまま現地に連れて行こう。こっちもいつまでも接待用のお嬢さまごっこをしているのもストレスが溜まっていてイライラしていたのだ。

「っ⁉ シーロン嬢!! それはっ!!」

愛用のハルバードを担いで、出立しようとしたら第四王子が驚いたようにこちらの格好を見ている。それもそうだろうハルバードを担いでいる時点で第四王子が幻想を抱いていた辺境伯の深窓の令嬢の仮面がガラガラ壊れていっているのだ。

「そうか。辺境伯家の役目としてそんな強がりを……」

まあ、まだ、戦闘を見ていないから第四王子は皆を鼓舞させるためだと一人納得しているようだ。

「事実を知ったら戦力になりますかね」

「……もしもの時はバルドは第四王子の護衛を頼むわね」

「足手まといのお世話ですか……まあ、引き受けますけど……」

「資金を毟り取れたらお酒でも奢るから」

それで勘弁してと告げておくと渋々了解してくれた。

第四王子の接待はかなり疲れた。

いつでもどこでも現れて、令嬢として丁寧に接しようとするのはいいが、身体を許可なく触ってこようとするのは勘弁してほしい。

(事前に注意書きが無かったら心が折れていたわね)

第四王子が滞在するようになってからほぼ毎日届く手紙。最初の滞在の時は一行だけだったので、かなり余裕あるなと思っていたけど、毎日送られてくるのは心配の表れなのだろう。

でも、今日届いた手紙は一行ではなくいつもより長かった。それに、

――今日会えるよ

とあった。

「なんか、シーロンさまいつもより笑顔だな」

「ああ。今朝手紙があったからな」

「なるほど」

部下が話をしているのを聞き流して、馬にまたがって魔獣が出現した付近に近付く。

魔獣相手に無駄な狩りはしないが、この地域は住民が住んでいるし、田畑もある。荒らされたら生活が困難になるのだ。

「では、殿下。ドラゴンを退治できると豪語する腕前。見せてください」

「ああ。――勝利の証をシーロン嬢に捧げよう!!」

などと張り切って、魔獣が近づくのを待っていると。

「来ました!!」

「シーロン嬢!! ドラゴンが出て来たぞ!!」

部下の報告と共に興奮したように現れた魔獣を見て喜ぶ第四王子。だが、残念だが、あれはドラゴンではなく巨大トカゲ。

知らない人は勘違いする。まあ、トカゲだと知っても危険度は高い。

「うおぉぉぉぉぉ!!」

持っている剣でトカゲを攻撃するが、トカゲの皮は固い。角度によっては剣が折れる。

ぼきっと折れた剣を見て呆然としている第四王子をバルドがすぐに回収してくれる。それを眺めつつ、トカゲの上に飛び乗り、目を潰す。

トカゲが目を潰されたことで暴れるがそれで振り落とされないようにして、切れやすい角度でトカゲの皮をむしり取る。

「今だ!!」

皮がなくなった場所に一斉に矢で狙っていくのをぎりぎりまでトカゲの上で攻撃をし続けて、矢が触れる直前にトカゲから降りていく。

「本当は油で焼くのがいいでしょうけど、二次被害がありますからね」

そんな話を第四王子に向かって告げるが、第四王子には全く聞こえていないようだ。

「心を圧し折ったか……」

「まあ、人手不足だけど、接待を続けるのはきつかったから」

戦力にならない相手をいつまでも丁重に扱うわけにはいかない。

トカゲを討伐して、動かなくなったのでそれを運ぶように兵士たちに指示をしていくが、トカゲ一匹で魔獣討伐は終わるはずもなく、次の魔獣が近づいてくる。

「バルド」

「はいはい。護衛しておきますよ。――シーロンさまの護衛も必要なくなりましたしね」

その言葉と同時に次に現れた魔獣に向かって攻撃をしていく私を援護するように植物の蔓が現れた魔獣の動きを拘束していく。

「今だよ。シーロン」

風を使って、声が運ばれる。

次の魔獣の首を軽々と斬り落とすと、首が第四王子の目の前で落ちていく。

「なんだよこれっ!!」

悲鳴をあげる。

「守られる令嬢じゃなかったのかよっ!! 詐欺だ!!」

喚く声で魔獣が寄ってきそうだなと思ったけど、風を操って音が響かないように細工されているのに気づいて、それはないかと安堵する。

「――詐欺って、人の婚約者に向かって何を言っているんですか。第四 兄(・) 上(・) 」

魔法使いのローブを羽織り、杖を第四王子の顔に近付けてぺしぺし叩くのは第五王子――シャーティル。

「どうせ、側室の息子が辺境伯の跡取りと結婚するのはおかしい、自分の子供の方が相応しいという王妃に唆されたんでしょう。なんで、長兄らがまともなのに四男はこんな残念に」

シャーティルの嘆く声。

長兄である王太子。その補佐で育てられた次男。外交の要になる三男。それぞれ、陛下とその側近がしっかり育てた結果だろう。

残念仕様な四男は王妃が自分が唯一育てた息子として愛を一身に向けていた結果なのか。長男から三男も育てていればここまで歪まなかったのか。それともみんな同じように歪む結果になったかもしれないから、陛下直々に育ててよかったと思うべきか。

だけど、問題はそこではない。

「シャーティル」

そんな第四王子に対して嘆く 婚(・) 約(・) 者(・) に拗ねたように名前を呼ぶ。

「なんでわたくしよりも殿下を優先するなんて……」

酷いと頬を膨らませると。

「ごめん。シーロン。そうだね。シーロンを優先しないと」

と優しく抱きしめてくれる。

「シャ、シャーティル!! それにシーロン嬢っ!!」

「婚約者なんですから大目に見てあげてくださいよ。第四王子殿下」

なんせ久しぶりの逢瀬なんですから。

バルドが邪魔しようとしている第四王子の肩を掴んで抑えてくれるので思いっきり堪能できる。

第五王子シャーティルとわたくしシーロンの婚約は辺境と中枢の考えの違いで起きそうな内乱を未然に防ぐため――と同時に魔術師として、才能があった第五王子を人手不足の辺境に送り込むため。

辺境に送れば、第五王子を傀儡にしようとする輩から守れるし……優秀な王太子が即位したら都合の悪い方々が多いようでそんな彼らにとって第五王子は側室の子供という時点で使いやすいコマだと思えたようだ。

第四王子に関してはコマにしたいが、王太子たちと同母という立場で傀儡に仕立てるのが困難と判断したようで狙われなかった。そんな第四王子はどこぞの貴族の元に婿に出す予定だったようだが、それが今回の暴走で使いにくいコマになったと陛下は嘆いていそうだ。

王妃の我儘を許した結果と言える。

「――で、第四兄上。人の婚約者を奪おうとしたとか」

「こ、こっちこそ、そんな破廉恥な女性はお断りだっ!! 武器を持って戦うなんてもってのほかだっ!!」

英雄になりたかったはずが、ドラゴンではないトカゲに一撃も与えられなかったことが苛立ちに代わって文句になったのだろう。

わたくし自身にはダメージはないが、シャーティルにとってはわたくしの悪口は許せないものであったようで、

「殺すか」

などと物騒なことを言うので、

「それをしたらお金を毟り取るどころかこっちが不利になるから駄目よ」

と耳元で囁いて止める。

「それに、深窓の令嬢?なら会わせられるし」

「……………なるほど」

それからも数体魔獣を討伐して、それと同様最初はわたくしの行動に夢破れていた第四王子も魔獣を倒さないと帰れない現実を目の当たりしてからしっかりやる気を出してくれて、折れた剣をその場限りにという形で魔法剣をシャーティルが貸してくれて魔獣を倒せるほどに実地で鍛え上げて、無事本日の任務を終える。

「予定通り、別宅に寄りましょうか」

「えっ⁉」

「そうですね~」

帰れると期待した第四王子が信じられないとこちらを見てくるがそれをスルーして別宅に向かう。

「御帰り。待っていたよ」

出迎えてくれたのは魔獣の毒で身体を弱めてしまい、線が細い色白な………。

「は、初めましてお美しい方。俺は第四王子アスタと申します。お名前を伺っても」

「第四殿下ですか。失礼しました。私は、コバルト辺境伯の息子キリアと申します」

丁寧にあいさつするのは本当なら辺境伯の後継者になるはずだった兄。今では、毒の影響で女性と見間違えるほどに筋肉が衰えてしまった。

そんな兄の可憐に見える微笑みに、第四王子の顔が一瞬で赤くなる。

第四王子からすれば、ドラゴン退治を終えた後にお礼の言葉を述べる深窓の令嬢に見えるだろう。男だけど。

顔立ちはわたくしと兄はそっくりで、筋肉が落ちる前は似ていると言われても信じてもらえなかったが、今では誰が見てもそっくりだ。

…………わたくしよりも可憐という輩もいる。バルドのことだが。

「私が毒で弱ってしまったばかりに妹に負担を掛けて……」

「大丈夫です!! これからは弟と共に辺境を守るのに手を貸します!!」

兄の手を持って宣言するのを聞いて、男だと気付いていないのか。いや自己紹介で名乗ったからなと思いつつ、

「これでもう少し毟り取れるわね」

「鬼ですか」

「まあ、鍛えたら使いモノになるだろうし」

「いいんですか? 第四王子を惑わして」

バルドの突っ込みが響くが誰も答えない。

まあ、英雄願望の強い男がハニトラ(男性)に引っ掛かっただけだ。

なので、辺境は戦力と資金を大量に仕入れることが出来たということで一応めでたしめでたしなのだった。