軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

15  婚約者たちの思惑

シンと手紙のやり取りをした次の日。シンから簡単にではあるが、話を聞いたジョード伯爵夫妻がノルスコット子爵家にやって来た。先触れもなかったが、門前払いをするわけにもいかず、リリスと父が応対することになった。

ちなみに兄は、フラスト王国ではまけば穢れを払うと言われている塩を、伯爵夫妻にまく気満々だったので、リリスが無理やり部屋に閉じ込めた。

怒ってくれることはありがたいが、さすがに塩をまくという行為は、どんなに悪人であっても身分が上の人間にやってはいけないことだからだ。

応接室に通された伯爵夫妻は、リリスや彼女の父親に謝りつつも、リリスは誤解しているのだと訴えた。

「リリス嬢、息子が不安にさせてしまって申し訳ない。だが、あなたは誤解しているんだ。シンは浮気ができるような人間ではない。絵本の王子様のようにお姫様を助けられる人間になりたいと言っているくらい純粋な子なんだ」

(純粋な子が誰に見られるかわからない公園で、女性と関係を持ってしまうものなのですかね)

そう言ってやりたかったが、この事実を発表するのはもっと大勢の前のほうが良い。今話をしてしまうと、何とかして事実をもみ消そうとするだろうと思ったリリスはグッと言葉を呑み込んだ。リリスが何も言わないため、伯爵は話を続ける。

「ミフォン嬢と仲良くしていることが気に食わないなら、もう会わないように伝えておくから、あまり騒ぎ立てないでくれないか」

「ごめんなさいね、リリスさん。だけど、シンはとても良い子です。ミフォン嬢と仲が良いことは確かですが、友人関係にしか過ぎません。ヤキモチを焼いてしまう気持ちはわかりますが、婚約解消や破棄という言葉をすぐに持ち出すのはどうかと思いますわ」

伯爵夫妻は謝りはしたが、本当に悪いと思っているようには見えない。リリスはそんな二人に冷ややかな笑みを浮かべて話す。

「ミフォン嬢の婚約者であるディル様や、二人の縁談をまとめたコレット様も調査をしてくださり、シン様とミフォン嬢が親しい仲であると報告を受けています」

「ど、どんな報告だったんだ?」

「詳しい内容は来たるべき日にお伝えしますので、今日はお帰りください」

黙っていたリリスの父が冷たい口調で言うと、伯爵夫妻は不満そうにしながらも大人しく帰っていった。

「お父様、ありがとうございました」

「いや。これくらいしかできなくてすまんな。こんなんじゃ、お前の母に怒られてしまう」

眉尻を下げる父に、リリスは微笑む。

「お母様はお父様が最善を尽くそうとしてくれていることを見てくれていますよ」

「……そうだといいんだがな。ありがとう、リリス。ジョード卿との婚約が解消されたら、今度こそ良いお相手を見つけるからね」

「無理はしないでくださいませ」

(お父様の気持ちはありがたいけど、シン様のせいで、私は男性不信になりかけている。それに、私に近い年齢の人で婚約者がいない人ってお兄様くらいだし、瞳の色のことだってある。結婚は諦めたほうが良さそうね)

後妻などとして嫁ぐことは可能かもしれないが、それは兄のファラスが許しそうにない。

この時のリリスは、自分とシンの婚約の解消のことばかり考えていた。そのため、近い内に婚約を破棄するであろう二人のことは頭から抜け落ちていた……というよりか、自分などはなから相手にされないと思っていた。

ディルがミフォンとの婚約を破棄したあと、彼の新しい婚約者にリリスをと考えている人間が多くいることを、この時のリリスは考えてもいなかった。

◇◆◇◆◇◆

恋愛脳であるシンは、両親がリリスと自分の婚約を望んでいる理由を説明されてもピンときていなかった。

ファラスがステラと旧友であることや、妹バカなのは周知の事実だ。リリスとシンが結婚したあと、ファラスにお願いし、王家とジョード伯爵家との縁を結んでもらいたいのだと、何度説明されても無駄だった。

両親に怒られるとわかっていても気持ちが抑えられず、非番の日にシンはミフォンに会いに行った。だが、ミフォンの警戒心は、シンよりも強かった。

男爵家の玄関ポーチで、ミフォンはシンに訴える。

「ご両親から駄目って言われているのに、私の所に来ちゃ駄目よ。ただでさえ疑われているのに一緒にいたら余計に誤解されるわ」

「だってミフォン。僕たちはただの幼馴染だ。こうやって会うことはおかしくないだろう?」

「シン。私たちが会っていることを知ったら、ご両親は怒るでしょうし、嫉妬に狂ったリリスが何をしでかすかわからないわ。とりあえず、ほとぼりが冷めるまでは会うのをやめましょう」

「……ミフォン。聞きたいんだが、リリスとの婚約を破棄したら、君もディル様との婚約を破棄してくれる?」

「……そうね。考えておくわ」

ミフォンがにこりと微笑むと、シンは満面の笑みを浮かべた。

(わたしがディルを手放すわけがないでしょ。ほんと男ってバーカ。可愛い女にすぐ騙されるんだから。リリスもこんな馬鹿な男が好きだなんて本当にバーカ)

シンを追い返し家の中に入ったミフォンは、あははと笑いながら部屋に戻ろうとしたが、ヒールがふかふかのマットにひっかかり派手に転んだ。

そして時は過ぎ、夜会当日の朝がやってきたのだった。