軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

5.お姫様は結構大変な立場でした

その日以来、ラプンツェルとク……パパは、時々アーデルハイドちゃんに会いに来るようになった。

ラプンツェルは大体、昼食が終わってしばらくした頃から夕方までの間。最初は情緒不安定な感じだったけれど、一緒に時間を過ごすほどに段々ラプンツェルのメンタルも安定してきた様子で、アーデルハイドちゃんと並んでソファに座って、せっせっせーのよいよいよいと手遊びをしたりしている。

「あーう!」

「はい、タッチ!」

「きゃっきゃっ!」

ラプンツェルの手はほっそりとしているけれど、生まれて数か月のアーデルハイドちゃんと比べればやっぱりちゃんと大人の手だ。手と手を合わせてタッチするたびにはしゃいだ声を上げるのに、ラプンツェルもニコニコと笑って、頬は僅かに薔薇色になっている。

絶対意味は分かっていないのは判るんだけど、赤ちゃんが手をふりふりすると、その手に手を重ねたくなるのはもうまっとうな大人の本能のようなものだ。多分。アーデルハイドちゃんの動きに合わせることで機嫌よさそうにきゃっきゃっと笑っていると、意味などあってもなくても構わないのだ。

日が落ちる前にラプンツェルは毎回名残惜しそうに何度も振り返りながら、育児室から帰っていく。またね、すぐ会えるからね、アーデルハイド。そう繰り返すラプンツェルにばいばいと手を振って、ようやくしょんぼりと部屋を出ていく背中を見るのは、毎度のこととはいえ胸が痛む。

私だって離れたくないし、ずっと一緒にいたい。それを考えると赤ちゃんの体は自動で大泣きしてしまいそうになるのだけれど、私が泣いたらラプンツェルはますます帰りにくくなってしまうだろう。

それが理由で、ただでさえ良くないらしい彼女の体調が悪化したりした日には、自分が許せなくなってしまうかもしれない。冷静たれ、ゼロ歳児よ。そう自分に言い聞かせる日々なのだ。

パパはもっと間隔が空くけれど、日が落ちてから夜中になる間にそうっとやって来た。

ラプンツェルほど赤ん坊と無邪気に遊ぶのは得意ではなくて、生真面目に手を洗い、上着を脱いで抱っこして、もう春だとか、そろそろ早咲きの薔薇が咲くとか、新しいドレスを作ろうかとか、半ばひとり言のように話しかけてきた。

取り留めなく、ただアーデルハイドちゃんと一緒に過ごすだけで満足そうなので、もしかしたら、パパは私が熟睡している時も顔を出しているかもしれない。

月齢が上がってきて、最近は結構起きていられるようになってきたけど、夜は夜泣きの時以外はぐっすりだし。夜中にそっと来て、眠っていることにがっかりしつつ起こさないように寝顔だけ見てすごすごと帰っていくパパを想像すると、うん、ありそうだなと思う。

パパの語り掛けから、今は冬から春へ移り変わる頃らしい。つまり、アーデルハイドちゃんは冬生まれということだ。

「もう少しして、暖かくなったら庭に散歩に行こう。春用のドレスの職人も呼ばないといけないな」

「あう」

「アーデルハイドは肌が白いから、淡い紅色のドレスがよく似合うだろうか。レースをたくさん使って、リボンもたくさん結ぼう」

パパ、それは重いよ。いや気持ちがじゃなくてね。

あっという間にサイズが変わる赤ちゃんに職人が作る豪華なドレスという気持ちも重いけど、赤ちゃんなんて体力がないんだからさ。前世のように薄くて軽い布が当たり前にある世界じゃないんだし、ふりふりのドレスは重たいと思う。

「あう、あん」

「そうだな、アーデルハイドの可愛さをうんと引き立てるものにしよう」

違う! とは思うものの、残念ながらアーデルハイドちゃんは周りが用意する服を選んだり拒絶したりする年齢ではない。そうした好みは、もう少し自我が芽生える、幼児になってからだ、うん。

「ラプンツェルと揃いのドレスも、とても似合うだろうな。きっと、誰もが君たちを見て微笑み、春の日差しも君たちを祝福するだろう」

「あう?」

その言葉に、とっくに据わっている首をこてんと傾げる。

なんで娘とアーデルハイドちゃんの二人限定なんだろう。

パパは滅茶苦茶イケメンなのだ。そしてラプンツェルは人類の中でトップクラスに可愛いこと間違いなしである。

今世で鏡を見たことはないけれど、この二人の間に生まれたアーデルハイドちゃんの容姿は推して知るべしだし、親子三人でお揃いコーデすればそれはもうフロアが沸くだろうに。

パパは微笑みながらアーデルハイドちゃんの頭をなでなですると、また来ると言って抱っこしていたアーデルハイドちゃんをマーゴに手渡し、スマートな仕草で上着を着るとすっと育児室を出て行った。

ママとは違って振り返ることもないし、寂しげな様子を見せたりもしない。

短い手でパパに撫でられた場所に触れようとしたけど、腕が短いのと頭が大きいので届かなかった。仕方なく頭を丸めてその余韻をなでなでとさする。

でも多分、パパも寂しいし、名残惜しいんだろうな。

あんな可愛くて可愛くて仕方ないって目でアーデルハイドちゃんを見ているパパを疑うのは、さすがにちょっとかわいそうだ。

なんだかなあ。あれはラプンツェルをたぶらかしたクソ男のはずなのに。

あんなにあんなに、腹が立っていたのに。

段々自分がパパの血を半分受け継いだ、正真正銘実の娘であることが、嫌ではなくなってきてしまって。

なんだかもう、全然、怒る気になれない自分にも、ちょっと戸惑ってしまう。

「あう」

「姫様、殿下はまたすぐに来てくださいますよ」

「暖かくなったら、姫様のお披露目パーティも開かれるでしょうし、お楽しみでございますね」

テレサとサラサが口々に言うのにくわっと目を見開いたものの、誤魔化すように両手で目を覆う。するとおねむですか? とテレサが抱っこしてくれて、その間にささっとサラサがブランケットを用意してくれた。

お披露目パーティ!? なにそれそんなものがあるの!? と驚いたものの、考えてみれば当たり前のことで、アーデルハイドちゃんはこの国のお姫様なのだ。お披露目のパーティくらい、あるんだろう。

しかも、今の国王陛下……パパの兄だから、アーデルハイドちゃんの伯父さんである……とお妃様の間には、まだ子供がいないらしい。

王家の子供は今のところ、アーデルハイドちゃんオンリーなんだって。

つまり、今の時点で、パパは王位継承権の第一位で、なんとアーデルハイドちゃんは継承権第二位を持っていることになる。

これはもう、かなり上の方だ。うっかり流行り病なんかが起きちゃってパパと伯父さんになにかあれば、アーデルハイドちゃんが女王様になる未来だって十分にあるってことなのだ。

人の営みに全く興味がなかった魔女が一国の女王になるかもしれないなんて、なんとも急展開である。とはいえ、今後王様に子供が出来れば自然と順位は下がるだろうし、女王も認められているとはいえ継承権は男子のほうが高い傾向があるので、パパとラプンツェルの間に弟が生まれてもそうなのだろうけれど、パパはラプンツェルと結婚して子供もいるのに、臣籍に下っていないのはその現状の関係らしかった。

一度臣籍に下ったらまた王家に戻すのが面倒とか、他にも王家の血を引く外戚がいる兼ね合いとか、多分色々と難しいんだろうな。

人間の世界は複雑だ。

魔女にも一般人にも、そして赤ちゃんにも、難しいことばっかりである。