作品タイトル不明
35:ガラス工房の夜明け
「こちらがガラス工房。それから、この手前の三階建ての建物が、事業所となります」
私、ギース様、トーオク様の順番で並ぶ。ギース様、お友達を警戒しすぎなのでは。
「一番上の階は職人さんの中で、泊まり込みを希望する方の寮にします。2階は事務所、1階は小売店とレストランです」
「レストランを併設するというのは、新しいですね。しかも魚介のレストランとは」
そう。私はこのガラス工房で魚介メインのレストランを開くつもりなのだ。
そこで使う器も、このガラス工房で作り、小売店で販売する。
職人さんたちは2階でレストランのまかないを、社食として食べることができるようにして、福利厚生の一環にすれば、ちょうど良い。魚介を食べる習慣を根付かせて、この領地の特産にしたいのよね。
「その、福利厚生という考え方も非常に新しい。いや、本当にギースは良い奥さんを貰ったな」
「俺には過ぎた嫁だよ」
笑いながら、私を抱き寄せる。相手が幼なじみだからか、本当に遠慮がない。
「ところで、今職人はルイジアーナ伯爵領にいると聞いたんだが」
「ああ。レダの今は縁を切っている実家だ」
「だよな。その……良いのか? レダ夫人、良いのですか?」
つまり、職人を引き抜くことで出る不利益が実家に生まれるが、良いのかと言うことだろう。
私は満面の笑みで返す。
「まったくなにも困らない上に、喜ばしいことですわ」
この世界では領民は自由に引っ越しをすることができる。
その上、領民を受け入れる側は移住することで民が増えるので、補助金を出すこともあるのだ。
それは農地を預かる者でも同様で、新しい領地で土地を与えて貰えることが。
つまり、実家の領地が落ちぶれても、領民はそこまで困ることはない。
今は私はフォルティア公爵領を盛り上げる立場だ。
で、あれば職人を引き抜くことにためらいは一切ない。
「よりよい条件を提示した上で、職人の意志でこちらにお戻り頂く予定です。つまり、先方が職人を引き留めることができる条件を出せるか、職人を大切にする意志があるかによりますもの」
「なるほど、確かに」
「なので、一つだけお約束頂きたいことがあるのです」
「お伺いしましょう」
「職人を大切にする、これを守って頂きたく」
「勿論です」
トーオク様は穏やかにそう答えた。そうして、建物を見上げて笑う。
「必ずや、この領地に良い結果をもたらしましょう」