軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

邪神側の社長VS主神側の俺

『お前をさっさと倒して、あの無能社員共に目にもの見せてくれる! クビは当然だが、どこかに転職しようが邪魔してやる。二度とまともな職場で働けると思うなよ……』

この人、一気に雑魚キャラめいてきた。

もっと社長っぽい発言か、ラスボスっぽいのを期待していたのに。がっかりだ。

たぶん、日頃からこんな雰囲気を出していて、社員を威圧するような態度をしていたのだろうな。だから人望がまったくなくて、あっさり裏切られた。

妹も元社員の人たちが、戻りたいって愚痴をこぼしていたって言ってたし。

相手との通話を切ってもいいんだけど、このままにしておくか。

俺は長宗我部を無視したまま、キーボードに打ち込んでいく。

『奇跡の発動でもする気か? 今更、何をしたところで焼け石に水だ』

あっ、ちょっと悪役らしい言い回しだ。

「さーてね。じゃあ、こっちは《ゴーレム召喚》といきますか」

神像に命を吹き込み、起動させる。

その足下には銀色のバジリスク――ゴチュピチュ。使い魔設定なので操作して、石化の視線を神像に向けさせた。

一瞬にして木像から石像へと変化する。

これで火にも強くなり、耐久性も攻撃力も上がった。

とっておきとして今まで使わなかったが、今が全力を出す場面だ。

神像が祭壇を飛び越え、一直線に戦場へと向かっていく。

風を切り疾走する神像を目の当たりにして、村人たちが歓声を上げ祈りを捧げるのが見える。

その期待に応えるべく、剣を持った腕を天に向かって掲げた。

押し寄せるモンスターへ物怖じもせずに正面から突っ込み、両手の剣を振るう。

一振りごとにモンスターの頭や上半身がくるくると宙を舞う。

吹き上がった血が地面に落ちる前に、新たな死体が次々と出来上がっていく。

『なっ、バカな! 前までの像より動きも力も段違いだとっ⁉』

焦る長宗我部の声を聞いて、少し鬱憤が晴れる。

ここで調子に乗って挑発の一つでもしたいけど、今もポイントが勢いよく減っている。残念だけどそんな余裕はない。

『調子に乗るなよ! お前ら取り囲め』

指示に従ってモンスターたちが一斉に神像へと突っ込んできた。

向こうはかなり焦っているようで、声から余裕が失われている。

持久戦に持ち込まれたら不利になるので、この展開は好都合だ。おまけに都合よく密集してくれたしな。

モンスターを蹴散らしながら敵のボスらしいドラゴンに迫っていくが、肉の壁が厚すぎてなかなか前に進めない。

神像の動きが人間離れしているとはいえ、数の暴力は偉大だ。

相手の攻撃が避けきれなくなっている。木製のままだったら腕か足が折れていてもおかしくない。だけど石になったおかげで耐えられている。

とはいえ、何発もくらえば最終的に砕けるだけ。

じれている間に晴天だった空に厚い雲が覆う。

辺りが暗くなり雨が勢いよく降り始めた。

「よし、このまま一気に押しつぶせ!」

嬉々として叫ぶ長宗我部の声。

客観的にも主観的にも相手が有利に見えるよな。

だけど――

『運命の神よ、持ってまいりました!』

村人が大八車に載せて持ってきたのは、特殊な形をした長い槍だった。

ダークエルフたちはそれが何かわかっていないようだったが、村人たちの大半はそれが何であるか理解している。

神像を後方へと大きく跳躍させ、槍のような物を手にする。

村人たちが軽く手を合わせて祈りを捧げると、一目散に村の中へと逃げ帰った。

状況が理解できていないダークエルフや新入りの村人たちに、前の戦いを経験した村人たちが説得をして村の奥へと退避。

『なんだ、その妙な武器は。もしや、ポイントで得た特殊なアイテムか? だとしても、この逆境を覆せると思うなよ!』

強力な武器だと理解したようで、ドラゴンを守るようにモンスターが取り囲む。

この槍に対して見当違いな警戒をしてくれている。

これで準備万端と言いたいところだけど、まだ足りない。

頑張って仕事をした成果を今、見せるときだ!

「自然の神、よろしく!」

『はい、我が奇跡の力を発動します!』

『奇跡の力だとっ!?』

元気のいい返事と、驚く声がスピーカーから聞こえた。

途端、モンスターの足下から不自然な勢いで水が湧き出て、足首の上辺りまで水に浸かる。

ちなみに、この奇跡発動の代金は俺持ちだ!

『何をするかと思えば、ただの水溜まりか。脅かしやがって』

水溜まりなのは否定しないけど、ただの、ってのは甘く見すぎだ。

「残念、そんなのじゃない……よ!」

神像は再び敵地へ飛び込むと、手にした槍を棒高跳びの棒に見立てて高く跳ぶ。

そして槍を掲げたまま、ドラゴン目がけ落ちていく。

槍からドラゴンを庇おうと前に飛び出してきた単眼赤鬼。

俺はためらうことなく、その大きな目に槍を突き刺して引き抜かずに、ドラゴンに向かって蹴り飛ばした。

瞬間、轟音が響き、画面が白い閃光で満たされる!

『目がっ、目がああああっ!』

『うああああっ! こ、これがあの!』

長宗我部の叫びと、自然の神のプレイヤーが発する悲鳴。

俺は目を逸らしていたが、忠告するの忘れてた。

閃光が消えた画面に視線を戻すと、落雷の威力で大半のモンスターが即死するか気絶している。

「塩水は伝導率が高いってのは本当なんだな」

モンスターの足下に広がっていたのは、ただの水ではなく海水。

お得意の雷攻撃をどうにかパワーアップできないか調べているときに、知った知識を利用させてもらった。

自然の神の奇跡に《浅瀬を発生》というのがあり、これはいけるのではないか、と思ってやってみたんだが、想像以上だったな。……まあ、出費も想像以上だったが。

やはり、自然の神の奇跡は使いようによっては強力だ。だから、課金で失われた金額には目をつぶろう。

「ここまでやったのに耐えるのか、避雷撃を」

ドラゴンは全身から煙が立ち上っているがまだ健在。

格好良く決まったと思ったのに。

ちなみに《避雷撃》は、これだけ頻繁に使ったらもう得意技でいいだろうと命名したのは秘密。

《天候操作》で《雷雨》にして範囲を絞って、避雷針を手に特攻。そして落雷。ゲームでいうところの範囲攻撃みたいなもんだ。

神像が生物だったらモンスターと同じように、落雷の影響で動けなくなっていただろう。だけど、石だからな。

ドラゴンは健在だが雷で目も耳もやられて悶えている。そんな相手なんて敵ではない。

落雷で鱗の一部が吹き飛び、黒く焼け焦げた皮膚がむき出しになった首の付け根に……渾身の一撃を振り下ろす!

ドラゴンの頭が鈍い音を立てて地面へと落ちた。

ここで勝利宣言でもしたいところだけど、念のために倒れている大型モンスターたちの急所に剣を突き刺しておく。

ドラゴンの死体の上に雄々しく立ち。剣を天に突き刺すような恰好で動きを止めた。

暗雲が晴れて差し込む日の光に照らされる神像。

「よっし、ビジュアルとして完璧だ」

締めのポーズとかも大事だよな。最近は終わり方にもこだわるようになってきた。

見栄えをよくすると村人からのポイントが一気に増えたりするから、結構大事だったりする。

今回のこの最後のパターン。うまくいったのは羽畑を寝返らせたのが大きい。

前の戦いと同じ展開だったから、羽畑が助言をしていたらあれは決まってなかった。

『よ、ようやく目が……なっ、えっ、なんだこの有様は……』

スマホから聞こえてくる唖然とした声。

視力が回復して、ようやく状況を把握できたのか。

「長宗我部社長、残念でしたね。終了です」

『くそっ、くそがっ! 卑怯な真似をしやがって!』

どの口が言うんだ。

それだけの大人数で襲っておいて卑怯呼ばわりしてくるとは。心臓も面の皮も鉄製なんじゃないか。

「勝てば官軍っていい言葉だと思いません?」

言われっぱなしなのもしゃくなので、取りあえず煽り気味に言い返しておく。

『……とでも焦れば満足か?』

さっきまでと打って変わった冷静な声。

それを聞いた途端、背筋に悪寒が走る。

『羽畑はクズ野郎だが、こっちにも貴重な情報を与えてくれていたんだよ。お前の神像の強さも、最後の雷による秘策もリサーチ済みだ』

なっ! この戦い方をあらかじめ知っていただと!?

羽畑からそんな情報は聞いてないぞ!

『あの卑怯者のことだ、私とお前が相打ちでもしてくれたら、ラッキーだとか考えたんだろうな』

あり得る。というか、たぶん間違ってない。

「でも、それがどうしたんだ。お前は今ので全滅……違う! まだ終了の文字もファンファーレも鳴ってない?」

『そういうことだ。お前は村に被害が及ばないように離れた場所でそれを暴れさせた。こっちに集中していたお前は……二手に分けたモンスターの別働隊が村を襲ったのにも気づいていまい。今頃どうなっているんだろうな? 村が滅んでしまえば俺の勝利! くくくっ、あははははははは!』

確かに神像操作に集中していて、村から目を離していた。

神像を操作している最中は画面が神像視点になり、マップ全体を見渡せなくなる。

PC画面で村の様子を確認すると、村は――健在だった。

丸太の柵近くにモンスターの新たな死体が転がっているだけ。

「……無事だな」

『はああああっ!? なんでだ! あの雷で視界がやられて直接見てはないが、既に指示は出していた! 村には防ぐ余力はなかったはず!』

長宗我部の言っていることは間違いじゃない。何十もの強力なモンスターに襲われたら、疲労している村人にはどうしようもなかった。

だけど、新しいモンスターの惨殺死体の前にいるのはもう一体の――神像。

「助かったよ、自然の神」

『指示通りに、サングラスかけておいて助かりました。なんとか頑張りましたよ!』

PCのスピーカーからうれしそうな声が聞こえたかと思うと、

《邪神の誘惑 終了。本日はもう敵の襲撃はありません》

鳴り響くファンファーレと終了の赤文字。

「うっしゃああああっ! 耐えきってやった!」

よーし! これで防衛戦は終わりだ。なんとか凌ぎきったぞ!

『ど、どういうことだ!? お前の切り札である神像がなんで二体同時に起動してんだ! そんな話は聞いてないぞ! おい、説明しろ!』

勝利の余韻に浸っていたかったのに、怒鳴り声が邪魔をする。

ここで教えてやる義理はないのだけど、悔しがる声が聞きたいので何をやったのか話してやるか。

「この神像はプレイヤーが操作しないと動かないから、今までは一体しか動かせなかった。だけど俺は万が一に備えて前に使っていたスマホを、自然の神に渡しておいたんだよ。《命運の村》をインストールしたままで」

そう単純な方法だった。

最近スマホを買い換えた本当の理由がこれだ。前まで使っていたスマホを彼に手渡し、俺は新しい方を使う。

彼がスマホを悪用すれば俺の村はそれで終わりだが、俺を信用してくれたように彼を信じた。

そのことにより、神像を同時に二体起動して動かすことが可能となって、俺は攻めに集中できたというオチだ。

彼も昔の俺と同じくひきこもりゲーマーだったので、神像の操作は手慣れたもんだ。

ちなみに自然の神のプレイヤーである彼とは喫茶店で待ち合わせをしたのだが、パーカーのフードを目深に被った小柄な子だった。

話の最中にフードを払って素顔を見せてくれたのだが、たぶん男だと思う。年上の女性に好まれそうな、中性的な顔をしていたので判断が難しい。

性別どっち? とも聞けなかったので、実は未だに謎のままだったりする。

でも、男の子だよな。自信はないけど。

喫茶店で会ったのにはスマホを渡したい、という理由だけじゃなく、引きこもりだった彼を外に連れ出したいという想いもあったからだ。

引きこもりにとって外出というのは、当たり前の行為じゃない。それがきっかけとなって事態が好転してくれたら嬉しいな、という願望が込められていた。

『お前ら、ただで済むと思うなよ。くそ社員共々潰してやるぞ。今回は負けたがまだ俺の本拠地は健在で、金も唸るほどある。すぐに今日以上の戦力でてめえの村を滅ぼしてやる!』

最悪なことを口にしている。これだけ痛い目に遭っても全然こりてないのか。

でも、この展開は前から危惧していた。今回耐えたところで、ゲームオーバーが先延ばしになっただけ。

『それにな、てめえの住所も知ってんだぞ俺は。直接手を出すのは禁止されているが、追い詰める方法なんていくらでもあるんだよ! 今回は手を抜いて運の力を使わなかったが、次は本気だ! 世の中、金と運さえあればなんだってやれる! そう、なんだってな!』

社長室で唾でもまき散らしながら叫んでそうな大声に眉をひそめる。

見えないけど、その顔は狂気に歪んでそうだ。

「盛り上がっているところ悪いんだが、俺の戦いは終わったけど、そっちはまだ忙しいんじゃ?」

あえて世間話でもするようなノリで話し掛ける。

『はっ、何言ってんだ。今日はうまく《邪神の誘惑》を乗り越えられたようだが……なっ!? ちょっと待て、どういうことだ!』

携帯を机に落としたような音と狼狽する社長の声。そして慌ててキーボードやマウスを操作しているような音がかすかに届く。

「うまくいったな。しゃくだけど、あいつに感謝しないと」

あの男のニヤついた顔と、フェリーや北海道で実際にやられたことを思い出すだけで胸がざわつくが、それはそれ、これはこれと割り切ろう。

俺は羽畑から、いくつかの貴重な情報をゲットしていた。

羽畑が裏切ってなければ、この勝ちはあり得なかった――

あれから羽畑とは何度も連絡を取っていた。

『敵側である良夫様と繋がっていた方が私の儲けになりそうですね。それに金持ちが貧乏に転落するショーは見物ですよ。人の不幸は蜜の味とはよく言ったものです。よろしい、情報はいくらでも流します。なので、今後ともご贔屓に』

俺の提案にあっさり乗ってきた羽畑は、邪神側のプレイヤーしか知り得ない情報をいくつも提供してくれた。

あまりにも都合のいい展開に不信感を抱いた俺が、何故そこまで手を貸してくれるのか、という問いの答えがさっきのだ。

こんな男なので全面的に信用するのは危険だが、長宗我部に対する妬みは本物だと判断した。この性格だからこそ、今は信用できると。

聞き出した情報で特に重要だったのは《邪神の誘惑》の日にプレイヤーがやれること。

一つ、自分の召喚したモンスターすべてに簡単な命令を出し、操ることが可能となる。(邪神の誘惑以外の日は、モンスターに指示は出せるがそれは拠点の周辺のみで、それ以外となると自分のレベルに応じた数×2、レベル3なら六体しか操れない。それもモンスターの知能によって実行能力が異なる)

一つ、邪神の誘惑では三十分ごとにモンスターを操って村を襲える。ただし、一回の襲撃に操れるモンスターの数に上限がある。レベル×十体まで。

一つ、最後の襲撃では残りすべてのモンスターを操れる。村を滅ぼすか、襲撃に参加したモンスターが全滅、もしくは三十分間耐えられると、邪神の誘惑終了となる。その際、二十四時間は新たなモンスターを召喚することが不可能となってしまう。

この三つの情報を得た俺の取るべき手段は一つしかなかった。

『なんで、俺の本拠地が襲われてんだ! 何故バレた!? それもこれだけの数、尋常じゃないぞ! 何人のプレイヤーが参加しているんだ!!』

もう、俺のことなんて忘れているのだろうな。

あの怒号も困惑の叫びも、長宗我部の独り言だ。

今、ヤツの拠点は主神側のプレイヤーから総攻撃を受けている。

なぜ、こんな事態になっているのか。それは俺が掲示板で主神側のプレイヤーに情報を流したからだ。

口が達者な羽畑が社長から聞き出した、本拠地の場所。

普通なら決して明かさない拠点の情報だが、酒の席で飲ませつつ、持ち上げて、おだてて、口の滑りをよくさせたらしい。

同じ邪神側プレイヤーに襲われることがないからと、過信していたのだろうな。

確かに味方である邪神側プレイヤーが、それを知ったところで襲うことはできない。だけど、その情報を敵対する主神側プレイヤーに教えたらどうなるか。

そして、その情報を掲示板で、

『最近、この周辺を荒らしている邪神側のプレイヤー本拠地が判明したぞ。それも次の邪神の誘惑でモンスターのほとんどを率いて村を襲う予定らしい。今なら手薄だから、その拠点を潰すチャンスじゃないか?』

と書き込んだらどうなるか。

羽畑から得た情報の一つなんだが、長宗我部は俺と争う前まで、社員を利用して同時に複数の村を襲っていたそうだ。

いくつもの村が滅ぼされたようだが、なんとか耐えている村も残っていた。

そんな滅びを覚悟していた村が今回の《邪神の誘惑》で襲われることもなく、無事に切り抜けられたら、どう思う。

俺の流した情報の信憑性が増し、相手の拠点を調べてみようと思う人も出てくるはずだ。

ダークエルフの村のように、ギリギリまで追い詰められていたプレイヤーにとっては千載一遇のチャンスだ。

結果、俺の言っていたことに間違いがないとわかり、何人ものプレイヤーが本拠地を襲いこの有様。

もちろん長宗我部も防衛用に最低限の数は残していた。だが、傲慢さが仇になったようだ。

自分は高みの見物で面倒事は部下に押しつける。そんな性格だから、拠点も部下たちに守らせていた。そして、その部下はもういない。

更に言うなら、部下たちを働かせて手広くやり過ぎたのが仇になったようだ。何人ものプレイヤーを敵に回しすぎた。

何人ものプレイヤーに同時に襲われている現状が、掲示板のスレで実況されている。

123:ヤッハー! 襲え襲え! 殺された村人の無念晴らしてやんぜ!

124:あの恨み晴らさずにおくべきかっ!

125:奇跡の大盤振舞だ! 新車の頭金持って行きやがれ!

防戦一方だった主神側のプレイヤーが、今までのうっぷんをすべてぶつけているな。

ちなみに途中で俺がキーボードを操作していたのは、こっちの状況を掲示板に書き込んでいたからだ。

『邪神の誘惑が終了した。これ以上モンスターを召喚できない今がチャンスだ』

それを見てプレイヤーが一気に襲いかかり、様子見だった他のプレイヤーも次々と参戦している。

『嘘だ、嘘だ、嘘だ! そ、そうだ、奇跡! 運の奇跡を使えば、今までみたいにうまくいく! 株で稼いだときみたいに運さえあれば運さえ! ……なんで運の奇跡が発動しない!? 待て、待てっ! やめろ、やめろ、助けてくれ運の神よ! 俺を見捨てるなああああっ!』

その絶叫を最後に通話が切れた。

運の奇跡が間に合わなかったのか。それとも運ではどうしようもない現実の前に屈したのか。

スマホからはもう何も聞こえないのでわからない。

掲示板を確認すると、敵の本拠地を完全に滅ぼして歓喜の雄叫びを上げる書き込みで埋まっていた。

これで長宗我部はゲームオーバーになり、ゲームに関する記憶も失われたはずだ。

「はああああぁぁぁぁ」

勝利の余韻を味わう余裕もない。ただただ、安堵しただけだ。

全身の力が抜けて椅子から落ちそうになる。

『す、凄いですよ! や、やりましたよ! 本当にありがとうございます。これで僕の村人たちも生き延びることができました! ありがとうございます、ありがとうございます……うっうっ』

存在を忘れかけていた自然の神のプレイヤーから感謝の声が聞こえる。

歓喜で震えていた声が最後は嗚咽となるが、それでも小さく「ありがとう」を繰り返していた。

今までは自分のために戦って、村人に感謝されることはあっても、同じ立場の人間から感謝されることはなかった。

それがうれしくもあり、ちょっとだけむず痒いような恥ずかしさもある。

「どういたしまして。でもこれはキミの協力があったからだよ。ありがとうな」

俺からも心からの感謝の言葉を返す。

決して一人では乗り越えられなかった。彼や他のプレイヤーの力があってこその勝利だ。

「明日にでも俺たちで祝賀会というか飯でも食おうか。スマホも返してもらいたいし」

感動して言葉にならない彼が落ち着くまで話をして、PCの通話を切る。

「為せば成る為さねば成らぬ何事も、か」

村の人たちの力になれないかと、経済や村おこしについて学んでいたときに、日本の偉人の本を読み感銘を受けた言葉だ。上杉鷹山だったか。

あそこまで立派な人にはどう足掻いてもなれないけど、参考にさせてもらうのは個人の自由だよな。

PCに視線を移すと、新旧の村人たちが一緒になって喜んでいる。

エルフもダークエルフも手を取り肩を抱き、喜びを分かち合っている。その光景を眺めていると自然と笑みがこぼれた。

「ん、あれ? このタイミングで着信が」

村人と一緒に喜びを分かち合っているというのに誰かから電話が。

無視してもよかったのだけど、表示された着信者の名前を見て気が変わり手に取る。

「もしもし」

『やったじゃないか! おめでとう、良夫君』

「ありがとうございます。……運命の神様」