軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

邪神の誘惑開始と抗う俺

来たるべき《邪神の誘惑》まであと半日。

防衛に徹すると決めてからは、作業の大半を村の強化に努めた。

村人の数も増えたことで作業効率は以前とは雲泥の差だ。それに加えてダークエルフの助力もあり、一応形にはなったと思う。

問題の一つであったダークエルフの引っ越しに関しては、今朝早くに向こうの村を引き払い全員がうちの村に移住済みだ。

これで憂いなく守りに徹することが出来る。

更に町からやってきたハンターが十人、村に滞在してくれている。

これは奇跡《腕利きのハンターがやってくる》を発動した結果で、話の流れとしてはドルドルドさんが自ら雇ったハンターたちを派遣してくれた、ということになっている。

これにより戦力の大幅増強に成功。

弓の名手が多いのでランとカンは矢と弓の作成で大忙しだったが、《邪神の誘惑》を乗り越えられたら、心置きなく大好きな水浴びを楽しんで欲しい。

基本的な戦略としては相手に近づけさせずに遠距離ですべて処理。これが最善の手だろう。もし、接近戦に持ち込まれたとしてもガムズや村人、加えてハンターたちまでいる。

それにいざという時は《ゴーレム召喚》があるので、神像で敵地に飛び込み敵陣を荒らしながら、矢を撃ち込んでもらえばいい。

「できる限りのことはやったよな」

自然の神のプレイヤーとも何度も連絡をして、明日にやるべきことはリハーサル済みだ。

それでも懸念材料は……ある。

ここまでやっても、あの大群をしのげるかどうか。

今朝、敵の拠点近くにいるモンスターの数を確認してみたら、見える範囲だけでも千を超えていた。まさかの四桁だ。

うちは村人と新たなダークエルフを合わせて九十七人。それにハンターを足してなんとか百は超えた。

数による戦力差は十倍以上。

そして相手には膨大な資金力もプラスされる。

ただ禁断の森は仮拠点なので、本拠地からモンスターを召喚して移動させるには時間が必要となる。

これ以上の数が一気に増えるというのは、あり得ないはずだ。

「漫画とかゲームだったら燃える展開なんだけどな。実際、自分がやるとなると……はああああぁぁ」

ため息が出るのはしょうがない。

敵は会社の社長と社員。挑むはニート元ニートのコンビ。……深く考えるのはやめよう。

「前回みたいに敵側の勢力が忍び込んでいないか、チェックしておかないとな」

マウスを操作して村にいる全キャラをクリックしていく。

その度にキャラの説明が表示されるが、おかしな点はない。

ダークエルフたちが村人になると、自然の神であるプレイヤーの彼がゲームオーバーになるのではないか、という不安はわずかにあったが、さっき「問題ないみたいです」という連絡が届いて安堵したところだ。

この方法が可能なら、主神側のプレイヤーの一人が国を興して、そこに他のプレイヤーが集うという方法もありになってくる。

いずれはそういう展開も考えた方がいいのかもしれない。

「明日は忙しくなるから昼寝でもするかな」

今のうちに睡眠を取っておかないと明日に響く。

そのことを自然の神である彼にも伝えたのだが、

「徹夜なら二日ぐらい全然平気です」

と若さあふれる回答をもらった。ちょっとだけうらやましい。

SNSで『何かあったら連絡して欲しい。ちょっと昼寝します』と送ったら『了解』と猫が敬礼しているかわいい絵が送られてきた。

そういう機能があるのは知っているが、一度も使ったことがない。

彼は電話だと小声であまり話さないが文章は明るく饒舌だ。

……まあ、俺も人のことは言えないな。チャットだとすらすら文字が打てるけど、人と話すのは苦手だったから。今も得意とは言えないけど。

「んじゃ寝るかな。ディスティニーもPC見てるなら、何かあったら起こしてくれよ?」

PC机の上で果物を食べている後ろ姿に声を掛けると、振り返りもせずに尻尾をピッと立てた。

わかった、と答えたつもりなのだろう。

これで安心して眠れる。

結局、夕食前に俺を起こしてくれたのは母だった。

村に異常は見当たらず、妙なイベントも発生していない。

夕食後にさっとシャワーを浴びて部屋に戻ってきた。

スマホを確認すると自然の神のプレイヤーから、不安と興奮が入り交じった内容の書き込みがずらっと並んでいる。

気持ちはわかるけど……ちょっと、怖い。

「まだまだ、先は長いんだからちょっと落ち着こうね」

と年上ぶった文章で返しておく。

でも、彼には感謝はしている。こうして落ち着いていられるのは彼のおかげともいえる。周りに取り乱した人がいると、逆に冷静になるよな。

スマホといえば今使っているのは新機種だ。前は母のお古を使っていたが、一週間前に新しいのを購入した。前のと比べて性能が増しているのだけど、当然使いこなせていない。

一度PC前から離れて大きく深呼吸してから、軽くストレッチをして体をほぐす。

いい具合に温まってきたので、呼吸を整えてから意識を集中させる。

今後どうするか予習しておくか。

今まで《邪神の誘惑》が始まる際には通知があった。なので、完全な不意打ちは不可能。

とはいえ、ある程度は接近を許してから通知が来るので、油断していると一気に押し切られかねない。

でも、深夜であろうと見張りは常に立っているし、村の周辺の木々は伐採されて見通しがよくなっているから、そこまで警戒する必要はないと思う。

非戦闘員は全員村の中心部に立てた、一番頑丈な建物に集まる手はずになっている。

一カ所にまとまってもらった方が守りやすいからな。

実際に今も村人たちが次々と避難所に集まってきていた。

うちの村は岩山の切り立った崖を背にして、扇状に村を広げているので背後からの襲撃を気にしないでいいのは強い。

岩山を登って背後からの襲撃も考慮すべきなのかもしれないけど、岩山の全貌を確認したところ容易に登れる道は皆無だった。

「っと、もうそろそろ時間か」

時計で時間を確認しながら日をまたぐ瞬間を待つ。

三、二、一、ゼロ。

《邪神の誘惑開始!》

画面に表示される赤い文字とサイレンのような大きな音。

そして、村に向かってくるモンスターの群れ。

「いきなりかよ!」

この展開を予想はしていたが、まさか本当に速攻でくるとは。

『敵襲だ! みんな、持ち場につけ!』

ガムズの怒鳴り声が村に響く。

丸太の柵の近くに建ててある休憩所から、一斉に村人が飛び出してきた。

エルフとダークエルフは物見櫓に登り、弓を構えて柵の向こうを睨み付ける。

夜襲に備えて柵の上部や森の木々の枝に、光石を入れたランタンを吊らしておいたが正解だったな。おかげで、なんとか敵の姿が目視できる。

村人やハンターの大半は自分の身長よりも長い槍を手にして、柵の近くに陣取っていた。

ガムズはあらかじめ柵に彫っておいた覗き穴から、敵の様子を窺っている。

『見える範囲で緑小鬼が二十数体、黄中鬼が十数体います!』

物見櫓の上からダークエルフの一人が敵の数を伝えてくれた。

「小手調べにぶつけてくる数じゃないだろ!」

数ヶ月前だったら、この数であっさり滅びていた自信がある。

――だけど今は違う。

画面を埋め尽くすぐらいの矢の豪雨が降り注ぎ、モンスターたちが全身から矢を生やして地面に倒れ伏す。

なんとか耐えきった個体が丸太の柵に駆け寄るが、落とし穴にはまり穴の底へと落ちていき、あらかじめ設置されていた先端の尖った丸太に串刺しにされていく。

柵の周りには数週間掛けて掘った長く深い溝があり、その上に砂を被せただけの薄い板を張り巡らせておいたのだが、見事にはまってくれた。

カモフラージュのために《植物魔法》で雑草を生やしていたのが功を奏したようだ。

落ちたモンスターでまだ息のある個体もいたが降り注ぐ矢で、あっさりとどめを刺されていく。

『敵は壊滅したぞ。俺たちは死体の処理だ。他のみんなは柵の破損が無いか調べておいてくれ。矢の補充も忘れずにな』

ガムズが正面の門を開き、仲間を率いて外に出て行く。

一般的なゲームのように死体が自然消滅してくれないので、衛生面や戦闘の邪魔になるのを懸念してすぐに処理するように決めている。

あらかじめ死体を捨てる用の穴も掘っておいたが、初っぱなでこの数だとすぐに満杯になりそうだ。

村人たちもそう判断したようで、近くを流れる川に死体を捨てることに決めた。あそこは深く川の流れが速いので、死体もあっという間に流れていくだろう。

「よっし、まずは第一陣撃破だな。これで三十分は休憩できる」

《邪神の誘惑》は一度襲撃してから全滅すると三十分は攻めることができない。なので、この時間を利用して死体の処理や休憩が――

『敵の襲撃です! 今度は石の人形とトカゲのようなモンスターです!』

見張りが敵の襲撃を叫ぶ。

さっき、一度目の襲撃が終わったばかりだというのに間髪入れずに次が来た。

『死体の処理は後だ! みんな戻れ! 撤退だ!』

運んでいた死体を放り出して、全員が一斉に駆け戻る。

ガムズたちが柵の内側に滑り込むと門が閉じられ、大きな閂が差し込まれた。

木々の間から現れたのは無数のモンスターたち。見張りが伝えた通り、二足歩行のトカゲと石で出来たマネキンのようなモンスターとの編成になっている。

人のように歩くトカゲはたぶんリザードマンだよな。

マウスで矢印を操作してクリックしてみると《蜥蜴人》と表示された。ついでにマネキンっぽいのもクリックしてみると《石人形》となっている。

このゲームモンスターの名前って基本は漢字表記だよな。神々のこだわりなのだろうか。リザードマンの方がわかりやすいのに。今はそんな疑問はどうでもいいか。

上空からざっと数えて……三十はいる。

数なら前回の方が多かったが、種族としての強さが違う。

石人形一体で緑小鬼数体を軽く蹴散らせる実力があるそうだ。

リザードマン……蜥蜴人も緑小鬼より優れた個体。

「やっぱり、そうしてくるよな」

正直に言えばこの展開は織り込み済みだ。

敵は四人全員で一斉に襲ってくるか、人数と物量を生かして絶え間なく攻め続けるか、どちらかの手でくるだろうとは踏んでいた。

敵側が複数人なら、全員が時間をずらして攻めれば途切れることのない攻めが可能となる。

この敵を撃退できたとしても、次が控えているのだろう。

そうやって三十分もの間、攻める手を休めずにこちら側の疲労を蓄積させていく。人数と潤沢な資金があってこその作戦。

最悪だが最良の手だ。

『はっ、どんだけ強かろうが足止めしたらただの的だろ! お前らわかってんな!』

『『『『へいっ、姉御!』』』』

物見櫓に登ったスディールが、片腕を掲げ相手に向けて振り下ろすと、地面の至る所から木の根が飛び出し相手の足に絡みつく。

動きを完全に封じ込められたモンスターの群れに、再び矢の雨が降る。

蜥蜴人は体中に鱗があるので裸体でも防御力が高く、生半可な攻撃を弾くことが可能らしい。だが、エルフもダークエルフも弓の名手。

相手の柔らかい箇所を的確に打ち抜き、体を庇おうにもまとわりつく木の根に邪魔をされて防ぐ手立てがない。

蜥蜴人はあっさりと壊滅したが、問題は石人形だ。

遠目で見れば巨大なマネキンにしか見えないフォルムだが、その材質は石。矢の雨などものともしていない。

力もかなりあるようで、木の根を引きちぎり前進をやめない。数は三体と少ないがコストは高そうだ。

矢で倒せないとわかると門が開きガムズとハンターたちが飛び出していく。

その手にはいつもの剣や槍ではなく先端に鉄の塊が付いた鈍器――メイスを手にしていた。

頑丈さに全振りした能力の石人形は動きが鈍重で、腕利きのガムズやハンターたちにとってはカモらしく、一撃で関節を破壊。動けなくなったところを鈍器で粉々にされた。

第二陣もあっさりとけりが付いたが――

『森の向こう側から敵が迫ってます!』

三度目の敵襲。

「長い一日になりそうだな」