軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

神との会話と選ぶ俺

「運営……」

待ち望んでいた相手からだというのに、ためらってしまう。

謎の多いゲームを運営する者。おそらく、というか十中八九……異世界の神。

そんな相手と会話するというプレッシャー。だけど、迷っている時間はない。意を決して通話へ切り替える。

「もしもし」

『あっ、良夫君? 僕、僕、運営だよ』

相変わらず軽いノリだな。

おかげで少しだけ緊張が和らいだけど。

「はい、知ってます」

『でさ、色々言いたいことあるよね』

「それは……山ほど」

キャロルはどうやって日本に来たのか。

何故、ここに俺がいるのか。

《命運の村》というゲームはなんのために存在するのか。

運営は何者なのか。

『まずは僕からざっと話すから疑問は後でよろしくー。で、まずは運営からの謝罪を。プレイしてもらっているゲームって、前も説明したけどまだテスト期間中でさ、バグとか仕様ミスがあるんだよ。それでこっちの世界の住民や聖書が日本に贈られるなんてバグというか、裏技みたいなもんでさ』

テストプレイ期間中はバグがある、というのは最近のゲームでは常識だ。

あまりにも現実離れをしているから忘れかけていたが、これはゲームでテスト期間中という設定だったな。

『でさ、そのバグというか、そんなことができないように穴の対応するのに必死でね』

「穴?」

質問は後と言われていたが、思わず口にしてしまった。

『うん、穴。えっとね、それを説明するには……これも言っておかないとダメだな。もうさすがに気づいているとは思うけど《命運の村》って、そっちの世界と地球を繋いで神様に扮して遊ぶゲームなんだよ』

予想はしていたが、運営の口からハッキリと言い切られてしまった。

今までの想像はすべて現実に入れ替わり、もしも、という逃げ道が閉ざされてしまった。

『ちょっと世界の説明をすると、今、良夫君がいる世界は地球より少し上位の世界なんだ。例えるなら異世界と地球という二つの水槽があると考えてみて。それで、異世界は地球の水槽より高い位置にあるんだよ』

頭の中でその光景を思い浮かべると、村での決まり事を書き込んでいるメモ帳を取り出して、簡単な絵を描く。

『昔々、この世界では邪神と主神の戦いがあって、その際に世界に亀裂が生じたんだ。つまり水槽にちょっと穴が開いてしまったんだ』

異世界水槽の絵に小さな穴を加える。

穴からこぼれ出た水がジャバジャバと地球水槽に流れ落ちていく。

『神様は穴を塞ごうと思ったんだけど、壊すのは簡単でも戻すのって意外と手間で修復できなかったんだ。穴は小さかったから力のある主神や邪神は流されることはなかったけど、力の弱い従神たちは穴に吸い込まれ、隣の水槽に流れ込んでしまいましたとさ』

「それが運営である、従神のあなたたちだと?」

『ビンゴ!』

運営=神。

ここまでの流れで覚悟はしていたが……していたが、神の存在に驚くなというのは無理だよな。

『あれだよ、穴って言っても物理的なものじゃなくて、なんかこう神秘的な空間の亀裂みたいな?』

なんで急に女子高生のような口調になった。

『でまあ、その穴から少しずつだけど流れ出ているのが神の力で、ほらこっちの世界は地球より上にあるから、水って上から下にしか流れないでしょ。だから一方的に神様の力が地球に流れちゃったんだよ』

「ええと、目に見えない神秘的な力……神のオーラのようなものが地球に流れ込んでしまったと」

『そうそう、それそれ。神オーラ』

運営はあまり説明が得意ではないらしい。

『僕たち従神なんて実体のない神オーラの塊みたいなもんだからさ、その穴からヌルッと地球に流れ墜ちちゃったんだな、これが。んでもって、元の世界に戻りたかったんだけど、ずっと流れ落ちてくる神オーラの滝を昇るのって難しくてさ。おまけに墜ちたときに従神の大半は力を失っちゃったし』

適当に表現した神オーラがお気に召したらしく、多用している。

『でね、なんとか体を保つのが精一杯で、戻るどころの話じゃなくて、従神みんなで集まって地球でどうにか暮らしていくことになったんだ。でまあ、わずかに残っていた神様パワーで土地の権利者の記憶とか改ざんして、神オーラが流れ落ちている場所の土地と建物を譲り受けてゲーム会社始めたってわけ』

「……なんで、ゲームなんです?」

『えっとね、まずこの流れてくる神オーラを浴びないと僕たちは存在を保てない。ちょっとの時間なら離れられるけどね。だから、神オーラが流れ落ちる北海道のこの場所から離れられなくて、動かないでも儲けられる仕事を探したら、買い取ったこのビルに偶然弱小ゲーム会社があったんだよ』

巻き込まれたゲーム会社の人たちはどうなったんだろう。

知りたいような知らない方がいいような。

『僕たちは神だから信仰心が失われると存在が消えてしまう。だから、信者を確保しつつお金も稼ぐ方法としてゲームを利用させてもらった、ってわけだよ』

理屈はわかるが、それを受け入れて納得するのには時間が必要だ。

「神である、あなた方が戻れないのに何故、俺やキャロルはこっちの世界に行けたのですか?」

『人間は神と比べれば矮小な存在だからね。二人と一匹ぐらいなら流れに逆らって送るのも可能なんだな、これが。あっ、ちなみに向こうからこっちに力が流れているから、異世界からの貢ぎ物とかは簡単に贈れるよ。滝の上から下に物を流すのは容易だけど、滝の下から滝の上に物を送るのって相当難しいよね』

異世界からの貢ぎ物が届くシステムの謎が明らかになった。

話の内容を踏まえると、俺たちをこっちに送るのは結構無理をしたということになる。

「それで、キャロルはわかるのですが、なんで俺まで?」

『それはお礼の気持ちだよ。信者であるキャロルを大切に保護してくれたこと。聖書を守り抜いてくれたこと。本当に感謝している。ありがとう』

「えっ、いや、村人を助けるのは当たり前です」

まさか神からお礼を言われるなんて思いもしなかったので、かなり動揺してしまった。

『それと……もう一つ理由があるんだ。特別な理由がない限り、世界を渡ることは主神から禁止されている。だから、今回の一件は主神の方々に知られると、それはもうお叱りを受けることになっちゃうんだな……』

「もしかして、口止め料として異世界転移を……」

『何のことか、従神わかんなーい』

すっとぼけているな。

従神は元からこういう性格なのか日本に来てから感化されたのか、そこが知りたい。

『ちょっと真面目な話をすると、キャロルちゃんと聖書だけを返したところで、向こう側がそれに気づかずに、良夫君に危害を加える可能性があったんだ。だからちゃんと話し合いが終わるまで、そっちに避難してもらったってわけ』

そういうことだったのか。

俺の身を案じての異世界転移だったと。

「もう一つ疑問が。なんで邪神側はあれほどまでして、聖書を欲しがったんです?」

『良夫君はどう考えたんだい?』

質問を質問で返された。

「聖書を奪うことで主神側の勢力を弱めたかった。もしくは聖書を悪用したかった……でしょうか」

北海道旅行中もこっちに来てからも考えていたが、思いつくのはそれぐらいしかない。

『色々と惜しいなー。そもそも聖書って僕たち従神がその世界に残してきた力の源なんだよ。それがあるから、僕たちは遠く離れた日本から異世界に繋がりが持てるし、奇跡を使うこともできる』

そんな大事な物だったのか。思わず聖書を手に取り食い入るように見てしまう。

『ゲームの掲示板でこんな書き込み見たことないかい? 従神一人につきプレイヤーは一人だって。それは間違ってなくて、各従神は自分の分身である聖書を一冊だけその世界に置いてきたんだよ。村が滅んで村人が一人もいなくなる……つまりゲームオーバーになると、聖書は信者が存在する新たな村へと移動する。なので、村が滅んでも新たな村で新たなプレイヤーを選び、ゲームは続くんだ』

ということは、俺の先代に当たるプレイヤーも存在したのか。

どういう人だったのか知る術はないけど、もし叶うなら一度会ってみたいものだ。

『それなのに聖書が日本にあって、それが邪神側に奪われ封印でもされてしまったら、二度と神は力を行使できない。それどころか存在が薄れてしまい、最終的には人々に忘れられて――消滅する』

最後の背筋が寒くなるような冷たい声を聞き、唾を飲み込む。

邪神側が大金を払ってでも欲しがる理由には納得がいった。

『まあ、他にもこのゲームには色々話せないこともあるし詳細はぼかしているけど、それは企業秘密だから。ただ、今回の邪神側の行動は明らかにルール違反だからね。僕たちも邪神側に直接交渉していたんだよ。金輪際、良夫君に直接ちょっかいを掛けるなって。時間は掛かっちゃったけど、ちゃーんと了承も得たから安心して。神様嘘つかなーい』

それは嬉しい報告だが、そもそもの疑問がある。

「ええと、主神側の皆さんが邪神側と話し合うことってできるんですか?」

『できるよ。だって同じ雑居ビルで仕事しているから。このゲーム共同開発だし。だから、仕様も似てるでしょ?』

……マジか。これだけ様々な裏事情を知ってしまったら、もう驚くことはないと思っていたけど今日一番の驚きだ。

『あれっ、意外だった? ほら、言ったじゃないか。僕たちは神オーラを浴びないと存在を保てないって。それは邪神の従神も同じだよ。つまり、あいつらもここから動けないのさ、僕たちと同じでね。僕たちも自力で何とかしたかったんだけど……人を洗脳したり、記憶を改ざんする力って邪神側の方が得意だし』

さらっと、とんでもないことを口にしたな。

生き延びるために主神と邪神の従者が組んでゲーム開発……。主神も邪神も元を正せば同じ派閥だったようだから、そんなにおかしなことではないのか?

ビル内にライバル社が存在するようなもの。

そう考えるとあり得ない話でもない、と思ってしまう。

『あっとごめん、そろそろ電話切らないとダメだから二つ要点を伝えておくね。一つは、良夫君と北海道であれこれやった邪神側のプレイヤー二人が、その村を狙っているから気をつけて。プレイヤーをそそのかしていた従神のバカが逆恨みして、襲うように指示を出したらしい。君の奇跡の内容もバレていると思って立ち回った方がいい』

プレイヤー二人って、羽畑とオールバックの壮年サラリーマンのことだよな。

二対一となると、今度の《邪神の誘惑》も一筋縄ではいかないようだ。

『そしてもう一つは提案だね。その村に残るか、日本に戻るか……良夫君が選んでいいよ』

「……えっ?」

間の抜けた声が口からこぼれる。

もうこれ以上は驚くことがないと思っていたが、最後の最後に特大の爆弾を落としてくれた。