軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

宴と言い訳する俺

入浴後、俺をもてなす宴が催された。

一番大きなテントに村人全員が集まり、自己紹介されたが俺の記憶力では全員を一気に覚えられない。あとでスマホの過去ログを読み直して、新たな村人の名前を記憶しておこう。

ロディス一家やガムズたちが住んでいた村の住民が十一名。

ムルスの村の住民が六名。

更に元からの住民、ロディス、ライラ、キャロル、ガムズ、チェム、カン、ランの七名。

合計二十四名にもなっている。

あの《邪神の誘惑》で多くの物資が失われたが、村人が生存しているだけで俺は満足だ。

ただ、馬車を引いて共に村から逃げ出した二匹の馬はモンスターに殺されてしまったので、命名してかわいがっていたキャロルが酷く落ち込んでいた。

村人と一緒に慰めると持ち直してくれたようで、今はいつもの調子に戻っている。

目の前に並べられた料理は肉料理がメインで、薄味だったが空腹もあってなのか家で食べるより旨く感じた。

「あ、あの、神の世界というのはどのようなところなのでしょうか!」

木の杯を手にぐいぐい迫ってくるのはチェム。

運命の神の敬虔な信者としては気になって当然だよな。

キャロルは「凄かった!」「美味しい物がいーっぱいあった!」と抽象的な説明ばかりだったので、話を聞いていた村人たちはいまいち理解できなかったようだ。

なので、チェムの質問は渡りに船だったようで村人全員がこっちに注目している。

「我々の住む国は平等で身分の差もなく公平に扱われています」

建前上はね。と付け足したかったが、信者の夢を打ち砕く必要はないよな。

「なので、私も村人と同等に扱ってもらえると嬉しいです」

「は、はい。前向きに善処します」

チェムが政治家のようなことを言っている。

今すぐ打ち解けるのは無理だろうが、いずれはキャロルみたいに友達感覚になってくれると嬉しいんだけど。

「口で説明するより、実際に見てもらった方が早いですね」

スマホを取り出して保管しておいた写真を見せる。

キャロルと一緒に過ごした日々の記録がそこにあった。

すべての写真にキャロルが一緒に写っているのは被写体が良すぎたせいだ。

「なんて精密で美しい絵なのでしょうか! まるでその場面を切り取って封じ込めたような……」

「この巨大な建造物は……」

チェムとガムズの兄妹は違うポイントで感心している。

「どの場面にもキャロルが写ってるじゃないか! 良かったなあ、楽しそうで。頬張っている料理も美味しそうだ」

「うふふ、素敵な笑顔じゃないの。向こうでは本当に楽しかったみたいね」

「うん! すっごく楽しくて、すっごく美味しかったよ!」

ロディス一家の話が弾んでいる。

カンとランは大きく目を見開いて写真を凝視している。驚いているのかな?

ムルスは俺から離れた場所に座っていて、たまにこっちを見る程度だ。

それからは写真を見せるたびに質問攻めにされて、キャロルと一緒に答えているとあっという間に夜も更けていった。

宴は解散となり俺は割り当てられたテントへと移動する。

一人用の小さなテントを与えられて、個人で占領するのは申し訳ないと断ったが、村人は頑として譲ってくれなかった。

厚意に対して過剰に遠慮するのも失礼な話なので、礼を言ってテントに一人で入る。

「はあーーっ。正直に言えば一人になれる場所があるのは助かるよな」

従者っぽい立ち振る舞いを心掛けていたから、精神的疲労も限界に近い。

床に寝転び両手両足を投げ出してくつろぐ。

疑問や不安や悩みを全部投げ出して眠りたいがそうもいかない。

考えてもどうにもならないことは、ひとまず置いておこう。解決できることからやるべきだ。

まずは……家族への連絡だな。

ネットも電話も使えるメリットを最大限に生かさないとな。メールとかでもいいんだけど、それだと折り返しで電話がくるという確信がある。

だったら初めから電話を掛けた方が早い。となると誰にするのかが問題だ。

父は……未だに少し緊張してしまうから、保留。

妹は……前よりは違和感なく話せるようになったけど苦手意識がまだ残っているから、保留。

となると、母しか残されていない。

引きこもり時代から一番会話していた相手が母だから気楽に話せる。

決定だな。スマホに登録している電話帳から母の電話番号を選ぶ。

「もしもし、良夫だけど」

「ようやく繋がったのね! そっちは大丈夫なの⁉」

焦るような母の声に首を傾げてしまう。

どういうことだ? まさか、俺が異世界にいるのを知っているわけじゃないよな。

「えっと、大丈夫だけど、どうかした?」

「何言ってるのよ。ここ数十年で一番の寒波が北海道を襲っていて、交通網が軒並み麻痺しているんでしょ! 一部ではライフラインも遮断されているって大騒ぎじゃないの。なんで現地のあんたが知らないの」

……えっ、北海道そんなことになってんの⁉

北海道二日目に異世界に飛んできたから知るわけがない。

でも住んでいる人には悪いけど俺にはある意味、好都合じゃないのか。

「あー、そうなんだよ。ほら、ここって北海道でも僻地でさ、村に繋がっている一本の道路が雪崩で埋まって、この状況だから復旧の見込みも不明らしくて」

「そうなの……。でも無事で良かったわ。それだといつ帰ってこれるかわからないわよね」

「だから、数日……下手したら数週間足止めされることになりそうなんだよ」

「大変ね。村の人にご迷惑じゃないの? ちゃんと宿泊費足りる?」

「それは大丈夫。村の人の家に泊まらせてもらっているから。ちゃんとお礼もするつもりだよ。あっと、また吹雪で電話が繋がりにくくなってるみたいだから切るよ。父さんと沙雪にもよろしく伝えておいて」

「わかったわ。無理はしないように。後で社長さんにも電話入れとくのよ」

「了解。じゃあまた」

電話を切ってほっと一息吐く。

第一関門は突破だな。次は社長か。

間を置くと逆にやりにくいので直ぐに電話をする。

「もしもし」

「おー、良夫か! そっちは大丈夫なのか?」

やはり北海道の悪天候は伝わっているようだ。

「はい、なんとか。ですが、村に繋がる唯一の道が雪崩で埋まってしまって、復旧の見通しがつかないようでして」

「それは難儀だな。アルバイトのことは心配せんでいいぞ。一月は比較的暇だからな。三月辺りからまた忙しくなるんだが」

以前に四月は新入社員を迎えるから、少しでも見栄えを良くしようと清掃を頼む会社が多いって社長が言ってた。

「ヤマがなんかしらんが、えらくやる気出してよ。年末は調子悪かったみたいだが、今は憑き物が落ちたみたいに絶好調だぜ」

山本さん元に戻ったのか……。

この村を窮地に陥らせた件については言いたいことは山ほどあるが、記憶を失った状態で責めたところで何の意味もない。

「道路が復旧して戻れるようになったら直ぐに連絡入れますので」

「おうよ。北海道土産楽しみにしてんぞ」

「はい、何か美味しそうなの買っておきますね。では、失礼します」

予想以上にスムーズにことが運んだ。……怖いぐらいに。

なんにせよ、これで数日から数週間は日本に戻れなくても大丈夫。一安心、一安心。

「じゃ、ねえよ。どうすんだこれから」

この村にいる間にやるべきことは決まっている。村の手伝いだ。

直接村人と触れ合い、共に汗を流す。それは、ずっと待ち望んでいたこと。

それに異世界転移して神の使者としてもてはやされて生きる、なんて数ヶ月前の俺には夢のような展開。

「帰る方法ってあるのかね」

異世界に行く主人公ってのは俺の知る限りだと、死んで異世界に転生が一番多かった。

実はあのカーチェイスの後、眠っている間に事故があって俺は死んでこっちに転生したとも考えられる。

その場合は戻ることは不可能だろう。

スマホを操作して北海道でのニュースに目を通すが、俺たちがいた辺りで交通事故があったという情報は得られなかった。

でも、吹雪で交通手段すら確保できない状態なら事故があったとしても、未だに気づかれていないだけ、という可能性も残されている。

「結局、わかんないんだよな」

これからもニュースをチェックするのは日課にしておこう。

スマホが使えるという利点を最大限にいかすべきだよな。

あれこれスマホを操作しているときに、ふと思いついたことがある。

「履歴に運営の電話番号が残ってないか」

操作してみると着信履歴に《運営》の文字があった。

これに電話を掛けて繋がれば疑問のすべてが解決される。

帰る手段を教えてくれる、かもしれない。

現状の説明をしてもらえる、かもしれない。

戻る方法がないと断言される、かもしれない。

どれを言われても納得はできるし、今後の方針が固まる。

真実を知るのは怖いが、何でも後回しにするのは俺の悪癖だ。

辛い結果が待っているとしても行動をする。もう二度と後悔のない人生を送るために自分自身で決めたルール。

正座をして姿勢を正し、スマホを手に取る。

震える指で着信履歴に残っていた《運営》の文字に触れた。

……

…………

………………出ないな。着信音は聞こえるということは繋がってはいるってことか。

「出られない理由があるのか、それとも別の何か」

これ以上はどうしようもないので電話を切る。

忙しいだけなら後で向こうから掛かってくるはずだ。やることはやったから、後は待つだけ。

「よっし、気持ちを切り替えていこう。まずは村の役に立ち、村の空気になじむこと」

立ち上がり拳を突き上げて宣言をしていると、ふと視線を感じ足下に向ける。

ディスティニーがじっとこっちを見ていた。

「キャロルと一緒じゃなかったのか」

問いかけると視線を逸らして、頭を左右に振る。

まるで「はあー、わかってないなー」と言っているかのように見えた。

「家族団らんを邪魔しないように抜けてきたと?」

ディスティニーは一度頷くと、二足で立ち前足で丸の形を作る。

お前は日に日に芸達者になっていくな。

「じゃあ、はみ出し者同士で一緒に寝るか」

俺が用意されていた寝具に寝転び毛布を被ると、その中におずおずと入ってきた。