軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

うろたえる村人とうろたえる俺

「おいおい、ガムズ! しっかりしろ!」

『兄様! か、体が冷たく……兄様ああっ!』

号泣してガムズにしがみついているチェム。

その声を聞いてロディスたちも駆け寄ってくる。

『チェムさん、落ち着いて。脈はありますが、体温がかなり下がっているようです。顔色も悪い……。腕に傷がありますね。この色は』

倒れている黒犬に近づきじっと見つめていたロディスが重々しく口を開く。

『どうやら毒のようです。チェムさん、解毒の魔法は使えますか?』

『まだ、覚えていません……。あ、あの、荷物に毒消しはありませんか⁉』

『すみません……』

うつむき申し訳なさそうに頭を振るロディス。ライラはキャロルをぎゅっと抱きしめている。

どうにもならないことを悟ったのか、兄の手を握ったままぼろぼろと涙をこぼすチェム。

「ど、どうしたらいい。ガムズが倒れたら終わるぞ……な、何か手は⁉」

ゲーム映像だとわかっているのに、キャラたちの動きとセリフを見ているだけで心臓がバクバクしてくる。

これで声優の迫真の音声が入っていたら、涙ぐんでいたかもしれない。

それぐらい俺は村人に同調してしまっている。

『神様! どうか、兄をお救いください! どんなことでも致します! ですから、兄を兄をっ! お願いし……うっ、うううっ』

最後の方は言葉にならず、嗚咽だけが闇夜に流れている。

こんなに村人たちが困っているんだ、神様なんとかしてやれよ!

……神、様? は、俺だろ! また俺までパニックになってどうすんだ!

この状況を打破できるのは、奇跡しかない。

「運命ポイントが使える一覧になんかあったよな!」

ずらっと並ぶ文字を上から順に流し読みしていく。

ここで有効な奇跡は『旅の薬師がやってくる』か。ポイントもギリギリ足りている。

でも、発動したところですぐにやってくる保証はない。

「だけど、見捨てられないよな。可能性があるなら賭けるしかない! 頼むぞ、俺の奇跡!」

思わず拳を握り締めて叫ぶ。

「ちょっと、うるさいわよ!」

声が下の階まで届いたらしく母の怒鳴り声が返ってきた。

機嫌が悪いときは文句の言い合いになるか床を蹴って反撃するところだが、今はそれどころじゃないからスルーだ。

「もし薬師がすぐにやってきても、あまりにもタイミングが良すぎて疑われないか? 今は……もう0時は超えているのか、だったら」

キーを素早く打ち、その状態で待機しておく。

『お兄様、返事をしてください。お兄様……』

『どうかされましたか?』

突然、第三者の声がして村人が一斉に振り返ると、焚火を挟んだ向こう側に一人の青年が立っていた。

細く腰まである艶やかな黒髪が嫌味なぐらい似合っている美、青年? 女?

どっちか判断のつかない中性的な顔しているが、男だと思う。自信はないが。

フード付きのコートを着込み背中には大きなカバンを背負っている。腰のベルトには小さな袋がいくつもぶら下がっているので、たぶんこの人が薬師だ。

『何者ですか!』

健気にもチェムが兄をかばって杖を構えている。

ロディスも地面に転がっていたガムズの剣を拾って家族の前に立つ。

『警戒しないでください。私は旅の薬師です』

と口にするとチェムたちが顔を見合わせた。渡りに船とはこのことなのだが、やはりこの状況下では素直に信じられないようだ。

あまりにもご都合主義すぎるから、疑って当然だよな。

そこで俺は予め入力しておいた神託を実行するために、『enter』キーを押した。

チェムが手している聖書がいつものように光り輝く。

手も触れていないのに本が開くと、空白のページに文字が浮かぶ。

『こんな夜遅くに、神託が……』

状況が理解できないまま、チェムが呆けた顔で聖書を覗き込む。

いつもなら周りに聞こえるように音読するのだが、今はそんな余裕もなく目を通すと大粒の涙をぼろぼろとこぼしながら、かすれた声で

『神よ、感謝致します』

と呟き泣き崩れた。

『やっぱり、ここで間違いなかったようですね。その方を診させてもらっていいですか?』

『お願いします!』

ためらうことなく、その場を薬師に譲るチェム。

残された村人は意味もわからず、黙って見守るしかできないでいる。

薬師は傷口の確認をすると小瓶を取り出し、半分をガムズの口に。残りを傷口に掛けた。

すると、ガムズの険しかった表情が徐々に穏やかになっていく。

「効いたみたいだな。ふううううぅぅぅっ、間に合ったかー」

背もたれに体重を預け、全身の力を抜く。

握りしめていた手を開くと、手汗でじっとり濡れている。

どうなることかと思ったが、これで一安心だ。ほっとしたら、他の村人のことが気になってきた。

天井を仰いでいた視線を画面に戻すと、突然現れた謎の薬師とチェムの行動に驚き戸惑っているロディスたちがいる。

兄に縋り付いているチェムは話しかけられる状況ではないので、地面に置かれていた聖書を勝手に読んで納得してくれたようだ。

一日に一度の神託だが、深夜とはいえ日を跨いだので成立してくれたか。ちなみに慌てて打った文章の中身はこうだ。

『勇敢なる戦士に我が慈悲を与える。その者はまだ我が 下(もと) へ来るべきではない。運命の力により薬師をこの場へと導く。これからも苦難が続くであろうが、我が見守っていることを忘れることなかれ』

神様っぽく書けたつもりだが、どうだろうか。

今にして思えば初めての神託からもっと打ち解けた感じのキャラにしておけば、打ち込む文章に悩むことはなかった。

そうなると威厳もへったくれもなくなるので、神らしさがなくなって感謝されなくなっていたかもしれない。

何度もコンテニューできるなら、軽い口調の神様バージョンも試してみたかったな。

「みんな、お疲れ様」

今日はもうこれ以上何も起こらないと思うが、眠り続けるガムズの代わりに俺はずっと画面を見つめていた。

神託も実行した後なので、やれることはないのに結局朝まで見守っていた。

ガムズは峠を完全に越えたようで、静かな寝息を立てている。

村人たちは早朝の六時だというのに既に起床して、各々が自分の仕事を始めていた。

チェムは引き続き兄の看病を。

ロディスは使える男手が自分だけになったのを自覚しているようで、荷物から小型の槍を取り出して周囲を警戒している。

ライラとキャロルは朝食の準備か。

旅の薬師は小さなすり鉢を取り出して、薬を調合している。

『あの、薬師様はどのようにしてこちらへ』

『私の一族は代々薬師を営んでいまして、ここは禁断の森と呼ばれていてモンスターが多いのですが薬草が豊富なのですよ。昨晩も薬草を摘み終わり野営の準備を始めようとしていたら、森に光の柱が見えまして。正直な話、行くべきかどうか迷ったのですが、どうにも胸がざわついて……今に至ります』

『神のお導きだったのですね』

『私たちは自然を一番に考えていますので神は信仰していません。ですが、昨日の出来事が神の御業なのかもしれませんね』

薬師は無神論者なのか。

話しぶりだと神の存在は認めているが、信仰するかどうかは別の話といった感じだ。

『薬師様はすぐにお戻りになるのですか?』

『いえ。峠は越えたとはいえ患者を放ってはおけません。もしよろしければ、しばらくの間で構いませんので、滞在させていただいてもよろしいでしょうか』

『もちろんです。好きなだけ居てくださって……。でも、あの、住居もないありさまですが大丈夫でしょうか』

俺としても薬師が村に滞在してくれると助かる。

だけどチェムの言うように問題は住む場所だ。馬車は満杯だから、薬師が増えるとなると誰か野宿しないといけなくなるな。

それに今回は何とかなったが、これは一時しのぎに過ぎない。次にまた黒犬が襲ってきたら全滅は必至。

「となると、運命ポイントをどう使うか……」

ガムズが助かったとはいえ、おそらく数日はまともに動けない。

ロディスさんはみんなを守るつもりのようだけど……あのへっぴり腰では頼りにはならない。

今、必要なものは安全に過ごせる場所。

『そのことなのですが。この近くに鉱山跡の洞穴があるのですよ。そこなら雨風を防げますし、鉱員の方々が使用していた家具も残っていたと思います』

マジか! 薬師はこの辺りに詳しいとは言っていたが、そんな場所が近くにあったとは。休める場所が確保できるのは本当にありがたい。

反論する者がいるはずもなく、全員一致で洞窟へと向かう。

薬師の道案内に従って馬車にガムズを乗せた状態で、辛うじて通れる道なき道を進んでいく。

元の拠点から五分程度で目的地に到着した。

山肌むき出しの斜面に板で覆われた場所がある。半円状で半径三メートルはありそうな継ぎ接ぎだらけの大きな板は、どうやら洞窟の入り口に蓋をしているようだ。

そこに両開きの扉と片開きの扉がある。

『この大きな扉が荷物運搬用で、こっちが本来の入り口だったようです』

薬師の説明を聞いて合点がいった。

両開きの方は馬車も入れるぐらい大きな作りで、片開きは一般的な家庭にありそうな扉。

『鉱石を掘る目的で採掘していたそうなのですが、近場でもっと良質な鉱石が掘れる場所を見つけたらしく、ここは鉱員たちの住処と荷物置き場になったそうですよ』

そう言って薬師が両開きの扉を開けて中へと促す。

馬車ごと中へ入っていくと画面の映像が切り替わった。ゲームらしく見下ろし画面では見えるはずのない洞窟内部が透けて見えている。

「思っていたより、広くないか」

内部は馬車を含めた全員が入っても余裕のある空間。

洞窟内は何もない空洞ではなく、いくつか小さな横穴も掘られていて扉も備え付けられている。

この場所が放置されてから相当な年月が経過しているようで、生活感はまるで感じられず、そこら中が汚れている。

それでも今までの馬車暮らしに比べたら雲泥の差で、村人たちは目を輝かせて洞窟内に飛び込んでいく。

『おーっ、部屋になっていますよ!』

ロディスが扉を開けて中を確認すると歓喜の声を上げた。

『鉱員が個室を確保するために自ら掘ったそうです』

薬師がそう説明するのだが、村人たちは新たな住居に興味津々で誰も話を聞いていない。

各々が洞窟内を歩き回って探索している。

『湧き水が流れ込むようにしているのね。それに石窯や家事に必要な設備が一通りあるわ。うーん、家事がはかどりそう!』

『やったね、ママ』

『でも、その前にみんなで大掃除よ!』

腕まくりをするライラの周りでキャロルが飛び跳ねている。

これで安心して寝泊まりができる拠点が確保できた。薬師には足を向けて眠れないな。

洞窟を塞ぐ板も分厚く鉄枠で補強されているので、そう簡単に破壊されることはないだろう。

これで、ようやく本格的に村づくりを始められそうだ。