軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

押し寄せる情報の波と呑み込まれそうになる俺

『神様に会いに行くの?』

俺の発言にピンときていないようで、小首を傾げるキャロル。

「そうだよ。どうやら邪神がこの本を欲しがっているみたいだから、神様に助けてーって頼みに行こうかと思ってね。直接頼んだら、キャロルが元の世界に帰るの早くなるかもしれないし」

『そうなんだ! だったら行こう、行こう!』

満面の笑みを浮かべてぴょんぴょん跳ねている。

こっちの世界を楽しんでいるように見えたが、やっぱり元の世界に帰りたいよな。

俺が口にした言葉は思いつきや同情じゃない。

現実的な話、この聖書を狙って邪神側のプレイヤーが再び現れるのはほぼ確定している。現状をどうにかしない限り平凡な日常とは無縁の生活が続く。

聖書を渡すという手段も考えたが、これはキャロルと共に村人が俺に託してくれたものだ。それを易々と手放すわけにはいかない。

それにこれは《命運の村》を持続するのに必要な重要アイテム。失ったらゲームオーバー扱いされても不思議じゃない。

この聖書を持っていることで、俺だけじゃなく家族や精華にも被害が及ぶ。だったら、可能性が低くても行動に移すしかないじゃないか。

『ヨシオ。神様ってどこに居るの?』

素朴な質問に戸惑うことなく、あらかじめ考えておいた答えを返す。

「北の寒いところに住んでいるそうだよ」

本当に神なのかどうかは未だに不明だが、《命運の村》を運営している連中がどこに居るかは心当たりがある。

俺の家に届く貢ぎ物の小包に書かれていた住所。

それは北海道を示していた。

行ったところで何もないかもしれないが、俺の掴んだ唯一の情報がそこなのだ。

このゲームについての詳しい情報とキャロルを返す手段。それを知っているのは運営しかいない。

あと、直接お礼と……苦情の一つも言いたい。

「んっ、んー」

今のは精華の声か。

ベンチから起き上がってぼーっとしている。

人気のない場所は何かと危険だから、まずは家に帰ろうか。

精華は酔っ払って寝たのを恥じて、やたらと謝りながら、

「私、変なことしてないよね? 変なこと言ってないよね?」

と何度も同じ質問をしてくるので、

「どうだろうな。うん、俺はその、酔った勢いだから、ほら、気にしてないからさ。お酒は控えろよ?」

照れた振りをしながら話すと、酔っ払ったときよりも顔を真っ赤にして家に帰っていった。

……ちょっと、からかいすぎたかもしれない。

家に帰るとキャロルが眠たそうだったので昼寝させるために、抱き枕代わりのディスティニーを引き渡す。

満腹なのもあって数秒で夢の国の住民になってくれた。

二階の自室に戻って新しい方のPCを起動させる。《命運の村》用のPCは相変わらず真っ黒な画面を映しているだ……けっ⁉

「えっ、これは」

黒いはずの画面に上空からの見下ろし映像が。

一瞬だけ《命運の村》が復旧したのかとぬか喜びしたが、よく見なくても光景があっちの世界ではないことがわかった。

「これって我が家とご近所だよな……」

何故か家の断面図と周辺のマップが表示されている。

「考えられる原因は、やっぱこれか」

キーボードの横に置いてある聖書に視線を移す。

ゲームの世界からキャロルと一緒にやって来た本。邪神側がこぞって狙っている物でもある。

マウスを操作すると今まで同じ感覚で操れた。

運命ポイントも表示されていて、奇跡やオプションの項目も見られる。

「ということは」

スマホを取り出すと、同じように上空からのマップが表示された。

つまりPCだから操作できるというわけじゃなく、急に《命運の村》ができるようになった。ただし、画面はこの世界で。

「これだけでも欲しがる理由にはなるな。でもこの操作はいつからできるようになったんだ? わからん。なんで急に」

ゲームをあれこれ操作しながら考えをまとめようとしたが、謎が謎を呼んでこんがらがるだけだ。

「わかるところから、答えを出そう」

情報の整理をするために、あえて口に出す。

過去ログも確認できたので見てみると、キャロルが俺の家に贈られてきてからの全会話が載っていた。

「こっちの世界のマップが見れる理由は聖書がここにあるから。これは間違いないはずだ」

聖書を中心としてゲームが進行しているのは、以前から予想していたのでそれが証明された形になった。

「次の問題は何故急に画面が映るようになったか。これは……なんでだ?」

そこがわからん。何かしらの理由があるのだろうか。ただの時間経過による仕様なら考えるだけ無駄だけど、それはないと仮定して考えよう。

「だとしたら、可能性としてあり得るのは。えー、あー、んー」

ゲーム内に何かヒントはないかと過去ログを眺めていると、赤く書かれた文章を発見した。

《おめでとうございます。レベルが2になりました!》

まさかのレベルアップの文字。

えっ、いつの間に⁉ レベルアップの実感がこれっぽっちもないんだが。

……邪神側はおそらくプレイヤーの村を滅ぼせば経験値が入りレベルアップする。だけど、主神側のレベルアップ条件が不明だ。

村が繁栄したらレベルアップするというのは俺の勝手な想像。

あのバンドマンからもっと詳しく話を聞くべきだったという後悔はあるけど、いつ襲われるかわからない状況で尋問を続行する胆力が俺にはなかった。

「ゲーム脳で考えるなら。村が一定の規模になる。もしくは隠された条件があってそれを満たせばレベルアップする。……むしろ全部ひっくるめた経験値によるレベルアップというのも」

いくつかのクエスト……つまりゲーム内でのお題が提示されて、それをクリアーする度に経験値を得られる。その合計が規定値を超えるとレベルアップ。

これが一番多いパターンだよな。モンスターを倒した経験値も、《邪神の誘惑》に耐えるといったイベントクリアーによる経験値も、全部ひっくるめていたとしたら。

「村人がゲーム内の世界で生存していて、何らかの方法で経験値を得てレベルが上がった。そう考えられないか?」

この予想には希望的観測もあったが、もし正解なら……村人が生存しているという証拠にもなる。

「そうだよな。俺が信じないでどうする! 村人は生き残っている。それも全員無事に決まっている!」

希望はないよりあった方がいい。俺の想像が正しいと仮定して話を進めよう。

「レベル2になったら、できることが増えるって言ってたよな」

奇跡やオプションを選ぶ文字列の中に新たな項目が増えていた。

《交流広場》

これが言っていたやつか。

恐る恐るクリックすると、画面が文字で埋まる。

「ネット掲示板にそっくりだな、これ」

日本で一番有名なネット掲示板とデザインが酷似している。

いくつものスレッドがずらりと並び、頭には番号が振ってあるポイントも同じ。

ざっと目を通してみると、

1:モンスターを検証するスレ(179)

2:【擁護】邪神アンチスレ【厳禁】(234)

3:一番萌える神ってどれだと思う?(2)

4:効率のいい運命ポイントの稼ぎ方教えます(16)

5:おまいら禁止事項を理解してるか(3)

6:レベル3以上の上級プレイヤーが集うスレ(7)

「なんだこれ」

素直な感想が口からこぼれ出る。

スレッドの数が百を超えていて、試しに一つクリックしてみたらネット掲示板と似たノリで書き込まれていた。

「緊張していた俺がバカみたいだな……」

どのスレッドにも、まず同じ注意事項が書き込まれている。

《1、本名や住所の記載は禁止

2、プレイヤーを特定できるような書き込みも禁止

3、邪神側への誹謗中傷は好きなだけどうぞ

4、このスレッドに嘘は一切書き込めない

5、知られてはいけない禁則事項は他のプレイヤーが読むことはできない》

色々思うところはあるが、これで得られる情報が格段に増えたのは確かだ。

スレッドの中で一番有益そうな《27:初心者質問スレ》を覗くことにした。

「よくある質問と答えがまとめられてるな」

これはかなり勉強になるぞ。

《○○ポイントの○○に入る文字はプレイヤーが操作する神の名前が入る》

俺は運命の神だから運命ポイントなんだな。

《神の数は未だに不明だが神一体につき一人のプレイヤーとなるので、プレイヤーが同じ神を操ることはない》

運命の神のプレイヤーは俺だけってことか。

《主神軍と邪神軍にプレイヤーが分かれている。主神軍同士の争いは基本禁止。ただし、罰則があるかどうかは不明》

基本ってところに引っかかるが、敵対したらゲームオーバーになる可能性があるのに試すバカはいないと信じたい。

《レベルは最大5まである、らしい。4までは確実》

2の俺はチュートリアルをクリアーした程度なのか。

《奇跡の力を犯罪行為に使用したらゲームオーバー》

これって邪神側のプレイヤーは別だよな。精華を操ったのは犯罪行為に繋がるはずだ。

《スレッド内の文字はプレイヤーレベルによって見えない加工が施されています。黒文字レベル制限無し。黄色文字レベル3以上。赤文字レベル4以上》

本当かどうか確かめるために《レベル3以上の上級プレイヤーが集うスレ》をクリックしてみると、大半の文字を読むことができなかった。

他にも気になる情報はあるが、それは後で熟読しておこう。

今は質問を書き込むのが最優先だ。

「まずは……邪神側のプレイヤーが直接嫌がらせをしてきたのですが、そんなことありなのでしょうか? でいくか」

書き込んだ数秒後に反応があった。

543:妄想乙

545:ねえよ

546:それはあなたにだけ見えるプレイヤーではありませんか?

完全に某掲示板のノリだな。だけど、堅苦しいよりこっちの方が慣れている。

俺のケースはかなりレアってことか。

547:待て待て。妄想と決めつけるのは早いぞ。ここでは嘘は書き込めないルールだ

548:えっ、じゃあマジなのか

549:言われてみればそうだ。おい、542詳しく!

おっと流れが変わってきた。542というのは俺が書き込みしたときの番号だ。

「書き込む内容は……住所が邪神側に知られていて俺の聖書を奪いに来た。一冊一千万で買い取る輩がいるらしくて。これでいいか」

552:先生、○○を奪いに来たってなんですか! ○○○○万で、も卑猥な気配がビンビンします!

553:俺もそれが見えないな。禁則事項なのか

554:たぶん「お尻」じゃないだろうか

何言ってんだこいつら。

いや、待てよ。注意事項にプレイヤーに知られてはいけない禁則事項は読めない、とかあったよな。

つまり聖書がこの世界にある、というのは秘密にしておくべき事柄なのか。

一種のバグというかレアケースで手に入れた。そう考えておこう。

掲示板のみんなに謝罪しつつ、現状をもう一度説明する。

自分がゲームを始めて二ヶ月で邪神に何故か狙われていること。今日、経験したことをできるだけわかりやすく書き込む。

560:これは茶化している場合じゃないな。運営に質問するスレあるから、そっちに書き込んでみろ

561:これがマジなら大問題だぞ

562:運営から返事来たら教えてくれよー

顔も名前も知らない連中だが、同じ境遇の者が力を貸してくれている事実が純粋に嬉しい。

掲示板の住民の誘導に従って《運営に質問要望スレ》に移動して今日の出来事を書き込む。

返事が来るまでの間、他のスレを覗きながら情報収集しているとスマホが鳴る。

誰からの電話か確認すると、着信者の名前が《運営》と表示されていた。