軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

村の日常と俺の日常

次の日、久々の休みなので昼ぐらいまで爆睡してだらだらする予定だったが、朝早く目が覚めるとPC前に座っていた。

最近仕事ばかりで村人を見るのもスマホの方が多くなっていたから、たまにはじっくり《命運の村》を眺めて過ごしたい。

まだ外は暗いというのに村人は動き出していた。

キャロルは子供なので今も夢の世界の住民で、カンとランは夜行性なので外の小屋で仲良く抱き合って寝ている。

これが人間同士なら若干のエロスを感じるが、見た目レッサーパンダなのでかわいいという感想しかない。起きるまでずっと眺めていたいが、他の村人の様子も見てみよう。

ライラとチェムは朝食の準備を始めている。食材と調味料が一気に増えたので料理のレパートリーも増えて、食に関しての不満はないそうだ。

朝食はカンとランは必要ないので六人分になるが、二人は手慣れた動きで調理をこなしている。

チェムが食器を並べている最中に何度も洞窟の外を気にしているが、扉を挟んだ視線の先にあるのは物見櫓。

そこにはガムズがいる。ただでさえ寒い時期に吹きさらしで高い位置にいるので、かなり冷え込むらしく何枚もの毛皮を持ち込んでいた。

毛布のように体に巻き付けて、じっと柵の向こうに広がる森の様子を窺っている。

夜はランかカンがここで見張りを担当しているが、彼らは天然の毛皮があるので寒さに強い。

だが、ガムズは人なので獣人に比べたら体毛も薄い。最近知ったのだが寒いのが少し苦手らしく、毛皮をすっぽり被って顔だけ出している姿は、コミカルで愛嬌がある。

苦手だからと言って弱音を吐くこともなく警戒しているのは《邪神の誘惑》まで一週間を切っているからだ。

備えをしているとはいえ《邪神の誘惑》の危険度は前回で思い知っている。その日が近づくにつれ警戒度が増すのは当然。

今日も毛皮だるまになってじっとしているガムズの背後に人影が。

『寒い中ご苦労様。温かい飲み物を持ってきた。もうすぐ朝食だそうだ』

『助かる』

手渡された木のカップを両手で包み込むようにして受け取り、暖を取っている。

ムルスはそんなガムズを見て微笑むと隣に腰を下ろす。

『モンスターはどうかな』

『緑小鬼を見かけることはなくなった。拠点を潰したからだろう』

切っ掛けはムルスの手助けだったが、結果この村の為にもなった。これで《邪神の誘惑》に緑小鬼が現れなければ、対処はかなり楽になる。

『その節は世話になった。感謝している』

『他人行儀な真似はよしてくれ。ムルスも今はこの村の住人で家族みたいなものだ』

『家族か……。そうなったら嬉しいな』

ぼそっと呟くとムルスがガムズに密着するように体を寄せる。

これは俗に言う良い雰囲気というやつなのでは。

妹と幼子に好かれているとはいえ、どっちも手を出すには禁断の関係だ。ムルスとは別の意味で年齢の問題はあるが、年上は倫理的にセーフだろう。

イケメンがモテる展開には正直イラッとするところもあるが、ガムズは男から見てもモテて当然のキャラ。

そんな彼は人一倍苦労を背負い込んでいる現状。

少しぐらいのおいしい想いをしてもいいのではないかと、運命の神様も思うよ。

ガムズは巻き付けていた毛皮を剥がすとムルスと一緒に被る。

おおおっ、これは……。

見つめ合う二人を固唾を呑んで見守っていると、

『すまない、寒かったのだな。気づかなかった』

なんて返しやがった。

若干頬が赤らんでいたムルスは素に戻ると苦笑している。

ガムズ、お前……鈍感系の主人公か! 今のはぶちゅっとやっていい場面だろ。君には失望したよ。まったく、期待していたというのに。

だけど、実際のところ人の好意に対して鈍感なのは知っていた。妹の熱烈なアタックもスルーしているし、キャロルも子供特有の憧れで接しているだけだろう程度の認識だ。

二人の気持ちを理解したうえで大人の対応をしているのかとも疑っていたが、この一件で確信を得た。この男、天然の主人公気質で間違いない。

「でも、これでいいのかもな。ムルスと恋人関係になったら血の雨が降りそうだ」

冗談めかして口にしたが、その光景がリアルに想像できてしまう。

……巻き込まれたくないので、神様としての余計な口出しはしないでおこう。

もう一人の人間の男であるロディスはドルドルドとの取引の成果を書き留めていた。今回得られた収入は想像以上だったようで、大半は村の開発資金として活用される。

そういや服を何枚か買い取ったので、見慣れていた服以外も着るようになった。

男性陣は無頓着だったが女性陣にとってかなり嬉しかったようで、洗濯の手間が増えたというのに上機嫌で服を洗っている。

朝食の準備ができると同時にチェムが外に飛び出す。

何かを感じ取ったのか鋭い目つきで物見櫓の上を睨む。

『お兄様、朝食ですよ! あと、ムルスさんの姿を見ませんでしたか』

『そうか、今降りる。ムルスはここにいるぞ』

『へええええ、そこにいらっしゃるのですか』

口では驚いた振りをしているが薄々感づいていたようで、チェムの表情は変わってない。

『ガムズお兄ちゃん?』

チェムの隣で見上げているのは、ぬいぐるみを抱えたキャロル。

……いつの間にやってきた。ついさっきまでいなかったよな?

こういうハーレム状況の主人公って、アニメやゲーム内なら羨ましいと思うときもあったが、ほぼ毎日のようにきつい状況を見せつけられると……ちっとも羨ましくない。

「知りたくなかったな、モテる人の生々しい日常」

物見櫓から降りてきたガムズの両隣にチェムとキャロルが立つ。

そしてその手を同時に取って洞窟へ引っ張っていく。ムルスはそんな三人を見つめ優しく微笑んでいる。

年上の余裕なのか、それとも恋愛感情とは違うのか?

うーん。この年までまともに付き合ったことがない俺が、恋愛に関してあれこれ考察すること自体が滑稽だな。

食卓にはまだ睡眠中のカンとラン以外が揃っている。

この異世界では米らしい食材があるようで、肉と野菜を炒めた物と皿に盛った米らしき穀物がある。

朝からなかなか重い食事だが肉体労働がメインなので、これぐらい食べて丁度良いのかもしれない。

それにモンスターの肉が山ほどあるからな。……我が家も含めて。

お裾分けというか貢ぎ物でもらった大量の肉は、冷蔵庫のチルドルームと冷凍室の半分以上を占拠していた。

今日の晩ご飯に肉が出てくるのは確実だろう。ちなみに嫌という訳じゃない。あの肉は何度食べても飽きが来ない味だし、肉は様々な料理に使えるので重宝している。

村人の食事が終わると少し休憩が入る。ガムズは物見櫓に戻って見張りを続けているが、他の人たちは食後はのんびりするのが日課だ。

「今がチャンスだな」

俺はこの間に下に降りて朝食を食べると、トイレも済ましてからPC前に復帰する。

日が昇り辺りが明るくなってくると、ライラ、チェム、キャロルは洗濯や洗い物といった家事全般。

ガムズとムルスは柵の外に出て周囲の探索と食糧確保。冬を越せる分の貯蓄があるとはいえ、食料はあって損はない。余っても保存食にするので無駄にはしない。

ロディスはガムズに代わって物見櫓に上って見張りを担当。

モンスターを発見したら、ムルスの村から持ってきた尺八のような笛を鳴らす手はずになっている。これが結構大きな音が鳴るので、探索している二人にも十分届く。

特にこれと言った出来事もなく、昼になった。

外に置いてある机を利用して昼食を食べる。天気が悪くない限りはそうしているようだ。

昼食からは起きてきたカンとランも参加する。

俺もカップラーメンと果物を調達して、村人と一緒に昼食タイムだ。

「おっと、そうだった。お前も一緒にな」

PC脇にちょこんと座っているディスティニーに、驚くどころか突っ込む気すらない。

天板が外れないようにしたはずなのに、どうにかして毎回抜け出す。

きっとこいつの前世は怪盗かなにかで、転生後トカゲになったに違いない。

果物を手渡しでやると、しっかりと両手で掴んで器用に食べている。

「一緒に村を観察するか」

食後はまったりとした時間を過ごしてから午後の仕事開始。

物見櫓にはムルス。

カンとランは木を削ってシンプルな家具を作っている。

ガムズ、ロディスは柵の外に出て伐採。

ライラ、チェム、キャロルは一緒に柵の外に出て山菜や薬草を摘む。

「あの草を調合した薬一本送られてきたけど、あれって効き目あるのかね」

三日前ぐらいにムルスお手製の薬が小包で届けられた。

ガラスは貴重らしく木製の小指大の蓋付きの容器に入れられた謎の液体。今まで送られてきた物から推測するに、体に悪い物じゃない、と思う。

それこそ画期的な治療薬かもしれない、といいな。

確か傷薬と言っていたから、ちょっとした怪我をしたら使ってみるのも……あり、なのだろうか。薬となると、なんか怖い。

それでも気持ちは嬉しいから、お守り代わりに持つようにはしている。

筋トレをしながら村を眺めていると、辺りが暗くなり始めた。

村人たちが夕食の準備を始めたところで、下から母の呼ぶ声がする。

ディスティニーをガラスケースに戻して一階に降りると、今日は父も妹もいなかった。

「二人とも帰り遅いんだ」

「何かと忙しいみたいよ」

どうやら年末が忙しいのは清掃業だけじゃないみたいだ。

母と二人で夕食を食べながら、一方的なおしゃべりを聞き続ける。

昔は何かにつけて「仕事仕事」と言われうんざりしていたので、右から左に聞き流していたが今はそれなりに聞いて相づちを打つようになった。

家族の団らんの大切さはロディス一家やガムズ兄妹に学ばせてもらったから。

食後に風呂に入ってから自分の部屋に戻る。

洞窟を手に入れてからは明かりと安全を確保できるようになって、村人の就寝時間は遅くなったがそれでも現代日本に比べると、かなり早い。

もう少ししたらカンとランを除いて全員が眠るはずだ。

獣人夫婦は夜行性で寒さにも強いので、交互に物見櫓に上って見張りをするか木工の作業をしている。

「俺も明日早いから、そろそろ寝るかな」

《命運の村》を始めてから俺も健康的になったもんだ。

ゲームなのにイベントも起伏もない、ただの日常生活を眺めるだけだというのに充実感がある。

人によってはクソゲーと評価するのかもしれないが、俺にとっては最高のゲームだ。

今日も村人のおかげで英気を養えたよ。

布団に寝転ぶ直前、PCの村人たちをもう一度確認してから、

「おやすみ、また明日」

と言った。