軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

村っぽくなる拠点と満足な俺

あれから二週間が経過して、もう十二月も終わりに近づいている。今年も残すところあと一週間だ。

清掃の仕事は週に三回ぐらい手伝っているが、年末の大掃除という習慣のおかげで清掃業界は今が一番忙しい。

さすがに三十、三十一日は休みだが、社員はそれ以外ずっと仕事があるそうで必然的に俺の出番も増える。

これから大晦日まで週五日でバイトが入っている。最近は課金しないようにしているが、いざという時のために貯金をしておいて損はない。

それに最近気づいたのだが、清掃業が意外と性に合っているということだ。きれいになっていく床を目の当たりにすると充実感があった。

ただ、屋外での仕事や暖房の消えた事務所清掃は結構きつい。仕事なのだから辛いことがあって当たり前だと思えるのも、村人たちのおかげかもしれないな。

そんな《命運の村》の方は順調で先日待望の新村人が加入した。

『皆様、お久しぶりです。お元気でしたか』

拠点の洞窟にやってきたのは、二頭立ての馬車に乗ったドルドルド一行。

前回と同じメンツを護衛に雇い、拠点の柵近くに停車する。

『ようこそ、ドルドルドさん』

隅の扉を開けて、ガムズが柵の中に招き入れる。

『おや、柵の範囲が広くなっていますね。これならちょっとした建物や畑もできそうですな』

一回見ただけなのに覚えていたのか。

これから人が増えることを考慮して、村人が総出で柵の範囲を広げておいた。

前の倍ぐらいは柵内の面積が広がっている。馬小屋もあるので、あの二頭は洞窟内から外で暮らすようになっている。

馬糞の臭い問題があったので、前々からなんとかしようとは思っていたが、人手も時間の余裕もなかったので後回しになっていた。

『ご要望のあった品のご確認をお願いできますか。それと、お二人ほど移住希望者を連れてきました』

ドルドルドがそう言って、馬車の方に手を振ると中から二人? が降りてきた。

体格も見た目も差がない二人組。

身長はガムズの胸元あたりで、キャロルに次ぐ低身長だ。

両方とも顔が大きく、手足が短い。

背中には自分自身の体がすっぽり入るような袋を背負っていて、そこから木製の柄がいくつも飛び出していた。

服装はポケットの多い革製の半袖半ズボン。露出している膝と肘から先はすべて茶色い毛で覆われている。

それどころか顔も毛だらけ。目はまん丸でくりっとしていて、目元から頬と口元が白く、鼻は前に突き出ている。

俺はその姿に見覚えがあった。

「二足歩行のレッサーパンダだ……」

ふさふさの尻尾も生えているその姿は正直言って、かわいいの一言に尽きる。

パンダ業界ではジャイアントパンダの方が有名で人気者だが、個人的にレッサーの方が好きだ。

『小熊猫族のランさんとカンさん夫婦です』

『ランです』

『カンです』

紹介されて二匹……二人? が頭を下げる。

獣人なので人という扱いでいいのかな。ファンタジーでは獣人に偏見があったり虐待されている設定を見かけることがあるが、この世界ではどうなのか。

『獣人の方なのですね。ようこそ、おいでくださいました』

チェムが駆け寄って二人の手を取る。

『うわー、もっふもふ』

キャロルが二人の周りをうろちょろしながら、毛に触りたくてうずうずしている。

他の村人も拒絶するような様子もなく、歓迎ムードだ。

どうやら、そういった差別のない世界観みたいだな。

しかし、夫婦なのか。見た目ではどっちが男か女か判断できない。たぶん、赤い服を着たランと名乗った方が女性っぽい。

『お二人は手先が器用で木材の加工に長けているのですよ。石と金属の加工もある程度できるそうです。以前ここの洞窟でドワーフと暮らした経験もあるそうで』

『前に暮らした』

『うん、学んだ』

この二人、口数が少ないキャラのようだ。

どんな人が来るのか期待と不安があったが、まさかの獣人。それもレッサーパンダ。……最高じゃないか!

動物園のイメージだと木登りが得意なんだよな。あとは雑食じゃなかったか。

まあ《命運の村》の世界で生態が同じだとは限らないけど。

洞窟の中の部屋が一つ余っていたから、そこにカンとランが住むことになった。

戦闘向きではないようだが、夜に強く朝に弱い体質らしいので夜の見張りは、二人が担当することになりそうだ。

ガムズの負担が減るなら、それだけでも助かる。

――とまあ、そんな彼らがやってきてから数日が経過した。

木材の加工が得意というのは嘘ではなく、数日で柵の内側に丸太小屋を建ててカンとランはそこに住んでいる。洞窟内の部屋は半分物置と化しているようだ。

口数が少ないので村人との会話は少ないが、見た目がレッサーパンダなので作業をする姿を見ているだけでも癒やされるらしく、村人からの評判はいい。

俺も特に用事がない時は、この二人を眺めていることがある。

心配していた食事も人間と大差ないようで、何でもおいしそうに食べるのでこっちの心配も無用だ。

あの二人がちょっとした小物も作ってくれるので、今のところ不便なく順調な日々。

今は食料を保存する小屋を建築中で、これも近日の内に完成する。

カンとランといえば、この洞窟の先住民という話は本当だったようで、洞窟内に巧妙に隠されていた秘密の物置の場所を教えてくれた。

『爆発物』

『危険』

物置の中には木箱があって、古いダイナマイトのように導火線が伸びている爆弾が詰め込まれていた。

『爆弾ですか』

『固い岩盤破壊用』

『危ないからダメ』

手を伸ばして触れようとしたチェムの手を肉球で叩く。

その爆弾入りの木箱をどうするのかと思ったら、カンとランは洞窟内の元自分の部屋へと運んでいった。……大丈夫かな。

他に最近あった印象的な出来事と言えば、ムルスが女性だとバレた。

カンとランは水浴びやお風呂が好きなので、浴槽を作って風呂に入れるようにしたのだが、その際にガムズが男同士で入ろうとムルスを誘い……呆れられてしまう。

「薄々感づいてはいたが、やはり男だと思われていたのか」

と女性であることを伝え、カン、ラン、そしてライラ以外を驚かせた。

エルフは長命である故に百年を超えた辺りから、男女を意識することがなくなり口調も性別を感じさせないものになるそうだ。

なので、エルフが若いかどうかを判断する場合、その話し方で見分けるらしい。

ムルスというライバルが出現したのかと身構えるチェムとキャロルだったが、百歳以上の年齢差と性に対しての達観ぶりにいらぬ心配だと判断したようだ。

俺はムルスとガムズが狩りをしている時のいい感じの雰囲気を知っている。……警戒はした方がいいぞ、二人とも。

とはいえ神託で色恋沙汰を忠告するのもおかしな話なので、生暖かい目で見守っていくことにした。

人の恋愛に関わるのはしばらくは勘弁願いたい、というのが本音だけど。

村の住居は洞窟メインには変わりないが、小屋が建ってかなり村っぽくなってきた。村づくりゲームと名乗っても恥ずかしくないぐらいには。

「ライフラインの確保はできたから、次は村の発展だよな」

カンとランが増えたとはいえ、まだまだ人が足りない。

あと一週間でまた《邪神の誘惑》がやってくる。

前回と違ってムルスとガムズのコンビに加えて、カンとランも戦える。獣人は人よりも身体能力が優れた個体が多いらしく、素早い動きで翻弄する戦闘スタイルだ。

前にガムズと一緒にモンスターを倒すシーンを見たが、小さな槍を口にくわえて颯爽と木に登ると、高所から槍を持って飛びかかっていた。

二刀流のガムズ。弓のムルス。槍のカン、ラン。バランスはいいよな。

それに回復役のチェムもいる。これはいい感じのパーティーじゃないか。

今後の《邪神の誘惑》がどの程度の規模かによるが、前回と同じぐらいならこのメンバーでしのげるはずだ。

それに近くのモンスターの拠点を潰したので緑小鬼の数は減っている。

ただ、ゲームなら徐々に敵が強くなって難易度が上がっていくのが常識。油断をしたら痛い目を見ることになりそうだ。

とはいえ、保険として《ゴーレム召喚》があるから、そこまでは警戒していない。

今回は召喚できるポイントを既に確保済み。稼働時間は前回の戦いで学んだので問題なく操れる。

塀の外側にも設置型の杭や、相手が動きにくいように柵周辺の地面をあえて凸凹に掘り返したりと、事前の準備も怠っていない。

こういうのは戦国時代の戦略や罠について調べた知識を、神託で惜しみなく伝えている。罠や細工に関してはランとカンの木工の技術に助けられた。

「前の《邪神の誘惑》は不安しかなかったけど、今回は待ち遠しいな」

あと一週間もあれば余裕ですべての準備が整う。

椅子の背もたれに体を預けて伸びをするついでに、ガラスケースの方を見る。

ケースの上から体が半分出ている脱走常習犯と目が合った。

「ディスティニーさんよ。さっきもケースから出して家の中だけど一緒に散歩したよな?」

狭いところが嫌いなのかと思って、結構頻繁にケースから出して部屋の中で放し飼いに近い状態にはなっている。

だけど、俺がいないときにうろちょろして、危ない目に遭遇しても困るからケースの中で大人しくするように躾ている最中だ。

俺が怒っているのを察したようで、まるで巻き戻しの映像を見ているかのような動きでケースの中へ戻っていく。

戻る際にずらした天井のガラス板をすっと元に戻す器用さ。脱走の手口といい頭は間違いなく良いはずだ。

今が寒い季節じゃなければ外に散歩へ連れて行ってもいいんだけど、変温動物だから冗談抜きでヤバいらしい。

……だけど、ディスティニーなら雪の中でも平気ではしゃぎそうな気がする。ネットで軽く調べたところによると、ロシアや北極圏で生き抜く寒さに強いトカゲもいる、とのことだが試す気はない。

種類を詳しく調べようにも方法がない。見た目はアルマジロトカゲに一番近いが、写真と比べると違いが多い。

「気になるけど、まあ家族には変わりないか」

謎の多いゲームに謎の多いトカゲ。いつか、この両方の謎が解ける日が来るのか。

その日が楽しみのような、知らない方が幸せでいられるような、期待と不安が入り交じった感覚のまま、ディスティニーと村人を交互に眺めていた。