軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

救出作戦と応援担当の俺

村人が救出作戦に必要な物を手際よく揃えていく。

俺も何かしてあげたいが神託は一日に一回しか発動できないので、いざという時のためにキープしておくべきだ。

となると奇跡か。運命ポイントはそれなりにあるので、少しぐらい使っても問題はない。

ただ、この状況で人員を増やしたところで直ぐにやってくる保証もなく、新キャラの内面が分からないので増員が新たな厄介事になる可能性だってある。

「対抗策としてはゴーレムに暴れさせるという手はあるけど、目的地に到着する前に運命ポイントが尽きる」

前の課金分は全て出し切ったから、残るは村人からの感謝で貯まったポイントのみ。少しの時間なら稼働できるが、長時間の運用は不可能。

じゃあ、発想を変えて木彫りの運命の神像を背負って運ぶというのは……ないな、うん。

ガムズが像を背負って移動するシーンを想像してみたが、あり得ないという結論に達した。

木がどれだけ重いかは貢物で知っているので、そんな無茶はさせられない。

『救出に行くのはムルスさんと、俺だけで構わないな。みんなは洞窟から出ないように』

ガムズの言うことはもっともだ。村人の中で戦力になるのはガムズのみ。他の連中が同行したところで足手まといにしかならない。

『いえ、私も一緒に行きます。連れ去られた子供の中に怪我人がいた場合、どう対処されるのですか』

『それもそうだが、危険だぞ』

『重々承知の上です』

チェムが同行を申し出てくれたが判断に迷うところだ。

これがただのゲームなら回復役をメンバーに入れるのは基本だけど……どうしよう。

『それに運命の神の加護が我々にはありますから』

そう言って聖書を大事そうに抱える。

うーん、聖書を持って行ってくれるなら神託で指示も出せるか。って、俺があれこれ悩んだところで仕方がない。判断はガムズに任せよう。

『兄としては連れて行きたくはないが、止めたところで……無理っぽいな』

『うふふ。バレちゃってますね』

大きくため息を吐くガムズを見て、いたずらが成功した子供のように笑うチェム。

兄として気持ちは痛いほどわかるぞ。妹を危険に晒したくないよな。

とはいえ、子供を連れて帰ることも考えると帰りは足手まといが嫌でも増える。その時、戦闘要員とは別に面倒を見てくれる人がいると楽だ。

『私がもっと強ければお手伝いできたのですが……』

ロディスが申し訳なさそうにしているが、戦力以外で役に立ってくれている貴重な人材だ。落ち込む必要なんてないよ。

『適材適所って言葉があるでしょ。私たちは私たちにやれることを精一杯やりましょう! 帰る場所を維持するのも立派な役割じゃないの』

バンッといい音が出るぐらい勢いよく夫の背中を叩く、ライラ。

夫は衝撃で前のめりに倒れそうになるが、なんとか踏ん張っている。

『ガムズお兄ちゃん。これをキャロルだと思って、お守りにしてね。これぐらいの大きさなら邪魔にならないってママも言ってたよ』

『ああ、大切にするよ』

キャロルが手渡したのは、とても小さな木彫りの像。

貢物で何度も送ってきているアレだ。じっくり見ると、今までで一番クオリティーが高く見えた。大きさは親指サイズなのに、今までのどの人形よりも目鼻立ちがくっきりしている。

これは彫り慣れただけであって、神様よりもガムズの方を大切に思っている訳では……いや、好きな人の方が大切に決まっているか。

ちょっとガムズに嫉妬しそうになったが、小さな恋を応援してあげないとな。

後ろでなんとか笑顔を貼り付けて睨んでいる大人げないチェムを見て、考えを改めた。

『お兄ちゃんと、ムルスさん、無事に帰ってきてね!』

キャロルもその視線に気づいているな。露骨に彼女だけを無視する発言。

それを聞いてチェムのこめかみに血管が浮かび上がり笑みが深くなったが、目だけが笑ってないので迫力が半端ない。

「怖っ! 子供とはいえ女の争いは始まっているのか。とはいえからかっているだけだよな、まさか本気で言ってないとは思うけど」

冗談だとは思うが恋愛には長年無縁の生活をしてきたから、それが本気かどうかの判断が難しい。

洞窟を出てからは一瞬も目が離せないので今の内に水分と栄養補給をしようと、果物を置いていた皿に手を伸ばす。

小さなブドウのように見えて味がリンゴっぽい新種の果物を掴んだ……つもりが空を切る。

「あれ、皿の上の果物がない?」

机の下にでも落ちたのかと覗き込んでみるが、何もない。

無意識の内に食べた……のはあり得ないか。

そもそも十粒ぐらい持ってきたのに、知らない間に全部食べたのはあり得ないだろ。

どこかに転がってないか室内を見回すと、果物を発見した。

「うおっ⁉ お前、いつの間に……」

生まれたばかりの金色のトカゲが俺の果物を抱えていた。喉元が膨らんでいるのは今一つ呑み込んでいる最中なのだろう。

PC机の端にちょこんと座り、大きな目をきょろきょろさせながら頬張っている姿が……かわいいのが悔しい。

フルーツを好んで食べるトカゲがいるのは既に調べている。たぶん、この金色のトカゲもそっち系なんだろう。

正直に言うと、虫や小動物を与える種類じゃなくてほっとしている。どっちも苦手だから。

「勝手にケースから出たらダメだろ。あー、天板のガラス板ずれてるな」

中に戻そうかとも思ったが、触るのをためらってしまう。

気持ち悪いという感覚はもうないが、小さくてか弱く見えるので力加減を間違えてぷちゅっと潰さないか怖い。

トカゲを飼育している動画とかをいくつか見たが、こうやって外に出して撫でたりしている人も結構いたよな。

「そこで大人しくできるか?」

なんとなく話し掛けてみると、金色のトカゲは大きく頭を縦に揺らす。

……偶然だよな。もしかして、俺が知らないだけでトカゲとか爬虫類って頭がいいのか? 犬並みに言葉を理解できる個体が稀にいるのかもしれない。

あとで妹か父に訊いてみよう。

「そういや名前もまだだったな。それも後で決めてやるから、今は大人しく、な?」

再び頷いたように見えたが、今は深く考えないでおこう。まずはイベント優先だ。

画面に視線を戻すと出発の準備が整ったようで、三人が柵の扉を開けて出発する直前だった。

『では行ってまいります。皆さんも気を付けてくださいね』

『大丈夫よ、チェム。洞窟の扉を閉めて一歩も外に出ないようにするから』

『留守はお任せください。こんなことを言ってはアレですが、危ないと思ったらすぐに戻ってきてください。勇猛と無謀を履き違えないように』

『美味しいご飯作って待ってるね!』

ロディス一家に見送られながら、三人が柵の外へと踏み出した。

マップが見えるようになっている範囲は危険度が高くないが、向かう先は北側で、そこはまだ一度も足を踏み入れていない未開の地だ。

詳しい話は道すがらにすると言っていたので、聞き逃さないようにしておかないと。

『敵拠点に残っているモンスターの数は不明ですが、村人以外の死体も無数に転がっていました。多くを撃退している筈なので、それほど数が残っているとは思えません』

『生き残っているモンスターも無傷な個体は少ないかもしれないな』

『巣穴の場所は把握しています。我々ですらこの森の全容は把握していませんが、付近の地形は完全に頭に入っていますので。周辺に生息しているモンスターは基本三種で黒犬や猛猪はエサを生きたまま連れ帰る習性はありません。緑小鬼と考えるのが妥当です』

知恵があったのはアレだけだったからな。

人間の子供位の背丈しかなかったから大人を連れて行くのは難しそうだが、子供相手なら運べそうだ。

ただ、このゲーム……。

「十八禁とかR指定とかなかったよな? 説明書も何もかもなかったから不安しかないぞ……」

こういう展開だと子供の無残な死体が転がっているパターンや、種族も違うのになぜか種付け行為を始める非情さを売りにしたシナリオをちょくちょく目にする。

リアルさを追求しているゲームっぽいから、そういう残酷シーンがあったとしても何ら不思議じゃない。

「実写と見紛うレベルのCGでグロ映像とか勘弁してくれ。そういうのに耐性ないんだよ」

……なんて軽い気持ちで口にしてみたが、ムルスに失礼だよな。

今、彼は何を思いどんな気持ちで敵地に向かっているのか。ゲームの世界だけど、もし俺が彼の立場だったら居ても立っても居られないだろう。

村人が同じような目に遭ったら「所詮ゲームだから」なんて口が裂けても言えない。

改めて真剣に気合いを入れていくぞ。

今回のイベントでの最優先目標はガムズ、チェム、ムルスが無事に帰還。

次いで助けられる人を発見したら救出。

更に可能であればモンスターを殲滅。

これでいこう。無茶をしそうになったら神託を使ってでも止める。

『では、敵は緑小鬼と考えていいんですね』

『モンスターが結託するのは《邪神の誘惑》でしか有り得ませんから。二か月ほど前に偵察に行ったときに把握した敵の数は五十五体でした。村にあった緑小鬼の死体の数は四十前後。損傷が激しかったので多少の誤差はあるかもしれませんが、残っているのは多くても十前後かと』

さらっと口にしているがムルスの精神の強さに驚愕している。

村人の死体だけではなく敵の死体も数え、確認してから挑んでいるのか。

『一人では厄介かもしれないが、二人ならなんとかなりそうな数だ』

『はい。前衛がいるだけで随分助かりますから』

そう言って弓を手にする姿が頼もしい。

ムルスの弓の腕は命運の村に居た二週間で把握している。ほぼ百発百中で外したのを見たのは一回だけだ。

そんなムルスが腕を横に伸ばして足を止める。ガムズとチェムも止まってその場に屈む。

『敵地までもう少し距離があるのですが、敵影が二体。ここで仕留めます』

ムルスが何やら呟くと目の前の雑草が急激に成長して、三人の姿を覆い隠す。

植物を操作する魔法と言われると地味なイメージがあるが、森の中ではかなり有益で優秀。

視線の先にある雑草が触れてもないのに左右に分かれ視線を確保する。

静かに矢をつがえると弓を横に倒して同時に二発放った。

鏃は緑小鬼の頭に吸い込まれるように命中して、声も出せずに絶命する。

「お見事!」

声に出して称賛してしまうぐらい素晴らしい狙撃だった。

ガムズが静かに倒れた緑小鬼に近づくと、まだ息のある一体の首を落とす。

ちなみに映像は少し離れた画面にしているので、生々しい死体の断面とかはよくわからない。

前に興味本位でモンスターを解体しているシーンをアップで見たことがあるのだが、細部まで作り込まれていた。……晩飯の焼き肉を食べられなかったぐらいに。

死体はさっきまで潜んでいた茂みに隠し、三人は進行を続ける。

そこからは敵との遭遇もなく、同じような場所にしか見えない森の中を黙々と進んでいた。

俺は頭上から辺りを警戒しているが、村人が一度通った範囲の近くしか見えないのでほとんど意味がない。

背後からの不意打ちぐらいは教えられるので、それでも気を抜いたりはしないが。

あれから二十分ぐらい経過したところで、不意に彼らの進路方向の視界が開ける。

森にぽっかりと空いた柵もない空き地に、何体もの緑小鬼が存在していた。枯れた草を束ねただけの家らしき物がいくつかあり、他のモンスターとの頭の違いを見せつけてくれた。

見える範囲には連れ去られた人間はいない。可能性があるとするなら、あの粗末な小屋の中か。

完全に足を止めた三人に緊張が走っているが、俺も同じぐらい緊張している。

予め準備しておいた奇跡の項目を再確認してから、彼らがいつ動き出すのか固唾を呑んで見守っていた。