軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

最高のゲームと最低な俺

「あんた、いい加減に仕事はみつかったの。お父さんだって、いつまでも働けるわけじゃないんだからね。今は何とかやれているけど、私たちが死んだらどうするの!」

「わかっているよ! うるさいな!」

まただ。昼飯食っている最中にやめてくれよ……。珍しくこんな早い時間に起きるんじゃなかった。

母に正論を言われて、まともな反論もできなくて怒鳴るしかできない自分。

最低な行いをしている自覚はある。高校を卒業してろくに勉強もしないでも入れた普通レベルの大学に入学そして卒業。……までは悪くない人生だった。問題はそこから先だ。

卒業前から就活を頑張ってみたものの、条件のいい会社にはことごとく落ちてやる気を失い、卒業してから一年が過ぎ、二年が過ぎ、ずるずると十年が経過した。

「もう三十超えてるのよ……。隣の家の正嗣君は立派に働いてかわいい子供もいるっていうのに」

言われなくても知っている。同級生たちは普通に働き、自分の家庭を持ったヤツも少なくない。なのに俺は……。

「あー、食欲失せた」

勢いよく椅子から立ち上がる。

キレたように見せてはいるが実際はそうじゃない。早くこの会話から逃げたいがために虚勢を張っただけだ。そう、本当にキレたわけじゃないんだ。

いつもの逃げ。戦うことすらあきらめて逃げることばかり上手くなった。

もう、これ以上ここには居たくない。

唯一安らぎを覚える場所である自室にこもろうと席を立った直後、ピンポーンと玄関のチャイムが鳴る。

壁際のドアフォンで外の様子を確認すると宅配業者のようだ。

「お荷物をお持ちしましたー」

俺が受け取る必要もないと立ち去ろうとしたが、箱に見慣れた通販サイトのロゴが見えた。

「ちょっと待ってください、今行きます」

「あら、あんたが出てくれるなんて珍しい。……まさか、お金ないのに勝手に何か買ったんじゃないでしょうね!」

「ちげえよ。また懸賞にでも当たったんだろ」

仕事をしてないという罪悪感を紛らわすために、メールで応募できる懸賞に片っ端から挑戦しているので、たまにこうやって賞品が当たる時がある。

ただ、親に見せられないようなアダルトな品があったりもするので、念のために先に手を打っておかないと。

扉を開けて宅配業者と目が合うと、一瞬ぎょっとしたように見えた。

平日の昼間から家にいる、無精ひげが伸びただらしない男を目撃したら、こういう反応にもなるか。

この視線にも慣れてしまった。近所の人はもっと露骨に俺を見てくるし。

「ハンコかサインお願いします」

「サインでいいですか」

業者から箱を受け取ったが、かなり小さい箱で軽いから食料品じゃない。

「なーんだ、食べ物じゃないのね」

いつの間にか背後に立っていた母が興味を失ったようで台所に戻っていく。

俺はその箱を抱えたまま階段を上り、部屋に入ると鍵を閉める。

箱を開けて中身を確認すると、

「ゲーム?」

一枚の紙とPCのディスクが入っていた。

ゲームにもいくつか応募したので、そのうちの一つだろうと手に取ってみたがタイトルが書かれているだけで、ゲーム画面も絵もなければ制作会社すら不明な代物ときた。

「『命運の村』ってタイトルだよな。なんだこれ、製品前のテスト版か?」

何件も送っているので曖昧だが、新作のテストプレイにも応募した気がする。とりあえず紙に目を通してみるか。

『良夫様はαテストに当選しました、おめでとうございます! このゲームは最新型AIを組み込み、人間に近い思考や挙動が可能なキャラクターを生み出すことに成功した世界初のゲームです』

世界初って……大袈裟な。誇大広告はゲーム業界の基本だけど、それにしても言いすぎだろ。

と内心でぼやきながらも続きを読む。

『あなたは運命を司る神として村人に神託を与える存在です。一日に一度村人に指示を出して彼らの村を発展させましょう! 詳しい内容はプレイしながら学んでください』

なんか投げやりだな。でも最近は紙の説明書ないのが普通だから、こんなものか。

文章からして村づくりゲームか。街づくりシミュレーションは何度かやったことがあるが、村は初めてだな。

まだ続きがあったので最後まで読んでおく。

『このゲームの内容については他言無用でお願いします。ネットなどでも情報公開は一切なさらないでください。この約束を破った際には権利を剥奪してゲームは回収させていただきます』

約束って……。普通契約とか規約だろ。そもそも、ネットで情報を流したとしても誰がやったかなんてわかるのか? 俺だけがテストプレイヤーってことはないだろうに。

『注意点はもう二つあります。必ずネットに繋いでプレイしてください。もう一つはゲーム内で村人が全滅するとこのゲームは二度とプレイすることができません。オートセーブなのでセーブ前からのやり直しも不可です』

それは酷くないか。テストプレイで全滅禁止って無茶だろ。ゲームバランスに自信があるとしても横暴な制作会社だな。後でクレーム入れてやろう。

ツッコミどころは満載だが、問題はこの怪しいゲームをインストールするかどうかだ。タイトルをネット検索してみたが引っかからない。ゲーム会社も不明のゲーム。

説明の文章からして胡散臭いとは思っていたが、本格的にヤバい会社のようだ。

「ウィルスとか仕込んでそうだからな。こっちのでやるか」

今使っているPCは懸賞で運良く手に入れたもので、去年までは少し型の古い安物のPCを使っていた。

こっちなら今更壊れたところで問題はない。

どうせ手抜きのゲームか誰かのいたずらだろうとは思うが、暇を持て余して毎日ゲームやネットばかりしているだけだ。騙されたとしてもネタとして掲示板にでも書き込めばいい。

古いPCを久しぶりに設置してディスクを読み込ませる。必要スペックすら書いてなかったが、あの売り文句が本物なら動くかどうか。

画面には大きく『命運の村』という文字が大きく表示されるだけ。

「シンプルというか手抜きというか」

命運の村の文字の下に『enter』が現れたのでキーボードのキーを押す。

「おいおい、嘘だろ」

さっきまでの手抜き感あふれる映像からは信じられない、実写ではないかと目を疑う美麗な映像が流れる。

幌付き馬車を引く、栗毛の馬が二頭。CGの出来が良すぎて馬の体毛や汗までも目視できてしまう。

「最近は実写とCGの差がかなり縮まってきたけど、それにしても凄いなこの映像」

感心している間にも映像は進んでいく。

理由は不明だが、馬車は森の中の道を全速力で駆け抜けているようだ。

御者席には手綱を握りしめた焦った表情の男が座っていて、何度も振り返っては後方を確認している。

その男は顔に大きな傷があって彫りが深い。外国人寄りの顔の濃さはあるが、かなりのイケメン。

でも、それより目を引くのはその恰好だ。

一見、薄汚れた茶色の服……に見えたが、どうやら皮製の鎧らしい。背中には長剣を背負い、腰には短剣を携えている。

「馬車に鎧ってことは、ありがちな中世風のファンタジーが舞台か。べったべただな」

と呟いてみたもののRPGといえば定番の世界観だが、街づくり系のシミュレーションとしては珍しい方じゃないだろうか。

馬車を懸命に走らせている映像が上空へと切り替わると、背後から迫ってくる獣らしき群れが見えた。

イノシシのような生き物にまたがっている緑色の皮膚をした化け物がいる。

緑色の方は人間に近い姿をしているが、口から飛び出た鋭い牙と血のように赤い目が人間ではないと語っていた。

これがこの世界のモンスターらしい。

どうやら、馬車は魔物に追われ逃げている最中のようだ。

敵のアップからズームアウトすると、今度は馬の鼻先から馬車の幌内部へと滑るように映像が移動していく。

そこには見るからに気の弱そうな中年が、おどおどしながらも妻らしき女性と娘を抱きしめている。

他には聖職者っぽい恰好をした少女が「運命の神よ、運命の神よ」と何度も唱え、胸の前で指を組んで祈っていた。

すると、またも上空からの映像に切り替わる。

モンスターとの距離が徐々に迫り、化け物が手にした錆の浮かぶ剣や斧を馬車に叩きつける度に、画面が揺れ悲鳴が上がる。

CG映像だとわかっているのに切羽詰まった表情と叫び声があまりにもリアルで、思わず手を握りしめていたことに気づく。

このままでは捕まってしまうと身構えたその時、馬車が突如金色の光に包まれた。

その光の源は聖職者らしき少女が手にしていた本。

光を目の当たりにしたモンスターたちが目を押さえるとバランスを崩し、全員が地面へと転がり落ちる。

馬車はその隙に一気に距離を稼げたらしく、何とか逃げ延びられたようだ。

ぼろぼろの馬車の速度が徐々に落ちて完全に止まったのは、森の中にぽっかりと開いた空き地だった。

ぼろぼろの荷台から続々と人が出てくる。

御者席にいた鎧を着ている男は小さく息を吐き、辺りを確認してから大きく伸びをした。

家族らしき三人は助かったことに安堵したのか、抱き合って喜んでいる。

聖職者っぽい少女は鎧の男と何か話しているようだが、声は聞こえない。

彼らを横から映していた画面がぐるっと回転して、空から見下ろすような画面構成へと変更された。

「ここからゲーム開始か。さーて、どうすればいいんだ」

マウスを動かすと小さな矢印が動く。

説明も何もないので適当に矢印を動かして、御者をやっていた男の上に置いて左クリックをしてみた。

《ガムズ 二十六歳 顔や体に無数の傷がある剣士。神官をしているチェムの兄》

「キャラ設定が出ると。これは予想通りだな」

次に聖職者の女性をクリックする。

《チェム 十九歳 運命の神を信じる神官。ガムズの妹》

「神官の妹って彼女のことなのか。へえー、剣士と神官の兄妹ね」

ガムズは黒髪に黒い瞳でチェムは茶髪に碧眼。顔もあまり似ていない兄妹だが、ゲームの世界でそこを突っ込むのは野暮か。

残りの三人はやはり家族で、頼りなさげなお父さんが、ロディス三十三歳。

気の強そうな肝っ玉母さんっぽいのが、ライラ三十歳。

くせっ毛の金髪で目が大きくてニコニコ笑っている少女が、キャロル七歳。

「この五名がメインキャラか。この人たちに指示を出して村づくりをすればいいんだな」

今は思い思いの行動をしているようだが、どうやって命令するんだ?

動作パターンが多くて見ているだけでも楽しめるが、ゲームなら操作できないと意味がない。

「そういやさっきの紙に神託がどうとか書いてたよな」

箱ごと何処かにやった紙を探そうとすると、タタタタタと無機質な音がした。

ゲーム画面に目をやると、村人たちの会話が文字で表示されている。

『すまない。村の護衛を受け持っていながら、貴方たちを逃すので精一杯だった』

ガムズがロディス一家に頭を下げている。

オープニングはボイスありだったが、さすがにフルボイス仕様ではないのか。

『頭を上げてください。あれだけのモンスターに襲われて、我々だけでも生き延びられたのは奇跡のようなものです。本当に感謝しています』

ロディスがガムズに負けないぐらい深々と頭を下げると、妻と子も同じようにお礼を口にする。

『ねえねえ、さっきのパーッと光ったのなあに? ガムズお兄ちゃんがなにかやったの?』

『キャロルちゃん。ガムズお兄様は私の兄であって、あなたの兄ではないですって何度も言ってますよね』

ガムズの腕を掴んで揺らしていたキャロルの間に割り込んだチェム。

穏やかに話しているようだが、キャラの頭上に怒っているようなマークが浮かんでいる。映像を拡大してみると表情は穏やかに見えるが目が笑ってない。

もしかしなくても、この妹キャラはブラコンなのか。

イケメンで美人の妹がいておまけにブラコンってか。こいつが主人公ポジションだな、間違いない。

『チェム、子供相手に大人げないぞ』

『……すみません、お兄様』

『ぷーっ、怒られてるー』

二人が睨みあっているのを見て、ガムズがため息を吐いた。

ちゃんとキャラの性格や設定作りこんでいるみたいだ。もしかして良ゲーなのかこれ。

映像は奇麗だし、キャラのモーションも多彩。かなり楽しめそうな予感がするぞ。

『二人ともじゃれるのは後にしなさい。そんなことよりもあの光なんだけど』

『ライラさん、じゃれているわけじゃ……ごほん。話を戻しますね。あの光は不思議なことに私の聖書からあふれ出しました』

チェムが聖書を全員に見えるように突き出す。

そのタイミングでピコーンと電子音がすると、画面に文字が浮かび上がった。

《あなたは彼らの神となり村を繁栄へと導かなければなりません。あなたは直接彼らを操ることはできませんが、一日一回だけ聖書の一ページに書き込み神託を伝えることが可能です。さあ、何でもいいので試しに書き込んでみましょう》

「えっ、選択するんじゃなくて文字を書いて指示を出すのか?」

どういうことだ、普通は選択肢が現れるよな。文字を書けってことは、このキャラたちは文章を理解して行動する知能があるAIってことなのか?

「いやいや、まさかあり得ないだろ……。あり得ないよな」

文章から単語だけを抜き出し判断するってことだろうか。

そうだとしても、そんなゲームなんて聞いたことないぞ。最近は自分で考えて学ぶAIも生まれつつあるらしいが、それは膨大な研究費をつぎ込んだ企業の話であってゲームに搭載したなんて話は初耳だ。

「悩むのは後でいいか。どうせ、簡単な文章か単語しか理解できないだろうけど」

そう思いながらも、わざと神様ぶった長文を書き込むつもりだ。

さーて、自称高性能AIはどんな反応を示すかな。