軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

エピローグ

田畑が広がる片田舎に、その店はあった。

古民家カフェ『命運』は都会の喧噪から逃れた人々が、癒やしと絶品の料理を求めて集まる、憩いの場と化している。

漆喰の壁に瓦屋根という古風な外観。加えて敷地を取り囲む白塗りの塀は、武家屋敷のような雰囲気を醸し出していた。

店内に一歩足を踏み入れると、そこに広がるのは古き良き昭和を彷彿とさせる内装。土間にむき出しの柱と梁。適度に色あせているのもポイントが高い。

店は繁盛していてランチタイムには多くの人がやってくる。今日も店内では忙しそうに働く和服姿の女店長と男の給仕。

この二人は夫婦なのかと質問されると、互いに頬を赤くして「「まだです」」と同時に答えた。仲むつまじくて羨ましい限りだ。

私は女店長に庭が見渡せる席に案内され、同僚は丸いちゃぶ台を挟んだ対面に座る。古民家カフェに不釣り合いに思えるギャル風ファッションの同僚だが、ドレスコードはないので問題ないだろう。

「パイセン、スマホいじりながら何呟いているんっすか」

日焼けした顔がにゅっと伸びて、スマホの画面を覗き見しようとしたのでカバンに戻しておいた。

「ほら、会社アカウントの宣伝用SNSの書き込み、今月の担当なのよ。だから、この店の話題を載せようと思って」

「そうなんっすか」

自分で話題を振っておきながら既に興味は失せたらしく、メニュー表を熱心に見ている。

そんな後輩に呆れながら、大きな窓から見える庭の景色を眺めていた。

大きな池があり、白い玉砂利が敷き詰められている。池の畔には岩があって、日本庭園らしさを演出している。

……のに、岩の上に金色のトカゲが寝そべっているので和の雰囲気が台無しだ。

でも、客のほとんどは動じることなくスマホで写真や動画を撮っている。

「あれがこの店の看板トカゲ、ディスティニーちゃんっすか。うちも一枚撮ってSNSに貼っとこ」

自撮り棒を取り出し、自分とトカゲが写るように調整して笑顔を振りまく後輩。ミーハーなのはいつものことなので放っておこう。

店内を見回すと、昼時を過ぎているのに席が埋まっている。

店長や給仕と親しげに話しているので、どうやら常連のようだ。

「大繁盛しているじゃねえか。噂になってんぞ」

「前にテレビに出てたよね。立派になって、もう。今度、うちの子も連れてくるからよろしくー」

「こんなボロ清掃会社辞めて大正解だったな」

「ほう、ボロ清掃会社の社長の前でいい度胸だ。給料を減らされたいようだな」

四人席に座っている客は全員作業服を着ていて、仕事終わりに立ち寄ったようだ。給仕を捕まえて、あれこれと話し掛けている。

「良夫先輩、凄いですね! こんなオシャレな店で成功しているなんて!」

「大袈裟だよ、真君。社長、岬さん、山本さん、ゆっくりしていってくださいね」

「おう、仕事の邪魔して悪かったな」

解放された給仕が厨房へと戻っていく。

厨房には暖簾が掛かっているだけで、ここから中は丸見えなのだが、奥で女性が三人働いているのが見える。

「抹茶パフェとわらび餅、あとほうじ茶ソーダ、よろしく」

「はーい。あ、お兄ちゃんこれ出来上がったから三番席に持っていって」

「こら、仕事場でお兄ちゃんはダメでしょ」

「ほっほっほ。いいんだよ、堅苦しいのは、なしなし。忙しいときにこうやってバイトしてくれるだけで、ありがたいんやから」

どうやら、あの老婆はこの店の従業員で、注意した女性と怒られた若い子は給仕の家族らしい。

ガチャリと扉の開く音が微かに聞こえてきたかと思うと、厨房の奥の勝手口が開いている。そこから顔を覗かしたのは一人の男性。年の頃なら五十過ぎぐらいだろうか。

「野菜と果物、あと肉を持ってきたぞ」

「ありがとう、お父さん。それ運び終わったら、店で何か注文したら?」

「そうさせてもらうとするか」

今の男性は厨房で働く女性の夫らしい。この店は店長の家族とお隣さんの家族で成り立っているみたいだ。

あーでも、いずれ二人が結婚したら家族経営になるのか。

その姿を想像してニヤニヤしていると、メニュー表が私の前に差し出された。後輩はもう決めたみたいで、手を振り回して給仕を呼んでいる。

それに気づいた給仕が近くの席の女性グループにデザートを並べると、今度はこっちに向かってくる。さあ、何を注文しようかしら。

接客態度、味、店の雰囲気に大満足した私と後輩はご機嫌で店を出る。

振り返ると古民家カフェの前には大きな看板があり、そこにはマスコットキャラの少しお腹が膨らんだ金色のトカゲが描かれ、下には営業時間などが書かれていた。

営業時間 八時~十八時

定休日 月、火曜日

毎月の末日は大事な用がありますので休みます