軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ホラースポットに突入する俺

丈の長い雑草に身を潜め掻き分けながら慎重に進んでいく。

今のところ人影どころか獣の姿すら目にしていない。邪神側のプレイヤーには注意しないといけないが、自然豊かな島だと野生の獣が存在するかどうかも問題になってくる。

害のない獣ならいいけど、イノシシや熊がいたら……いや、邪神側のプレイヤーがいるなら、もし生息していたとしても駆除しているとは思うけど。

それでも警戒するに越したことはない。

単体の脅威ならディスティニーの石化で圧倒できるが、複数相手になると毒の息に期待するしかない。だけど、あれは自分たちが風上に陣取る必要と狭い空間で使えない等のデメリットがある。

頼り切っていると痛い目を見ることになりそうなので、基本は見つからずに侵入を心掛けたい。

「村づくりゲームをやっていると思ったらステルスゲームだったとはな」

思わず口から愚痴がこぼれる。

敵に見つからずにターゲットを倒したり、敵地に侵入するステルスゲームって苦手なんだが、そんなことを言ってられないか。

姿勢を低くして出来るだけ光の通らない場所を選び、目的の洞窟を目指して歩いていく。途中で大きな虫と遭遇して、悲鳴が出そうになったが何とか口を押さえて耐える。

ちなみに脅かしてくれた虫はディスティニーの胃袋に収まった。ほんと、頼れる相棒だ。

それ以外には厄介事もなく、今のところ順調にことが運んでいる。地図で自分の居場所とトンネルのある場所を確認すると……結構近いみたいだ。

近くなればなるほど見つかる可能性が高くなる。

「今のうちか」

大木に背を預けて座り込み、少し休憩を取ることにした。

携帯食料と水筒を取り出し、栄養の補給と喉を潤しているとディスティニーがじっとこっちを見ている。

専用の深皿に水を入れて渡したら両手で持ち上げると、グビグビと豪快に飲み始めた。昔はトカゲっぽく口を付けて飲んでいたのに。

スマホを取り出してゲームの掲示版《交流広場》を起動させる。

今一番盛り上がっているスレッドは《異流無神村にプレイヤー侵入実況》だ。もちろん、それは俺たちのことだ。

予め俺が告知しておいたので、島に向かっているのは主神側プレイヤーならほとんどの人が知っている。この掲示版は主神側しか見ることができないので、それをもし邪神側が知っていたら裏切り者がいるか、違法に掲示版を覗く方法があるかの二択。

なので、あぶり出しも兼ねて、わざと今日突入することを掲示版で告知しておいた。そしたら、スレッドが大反響。

主神側のプレイヤーもそうだが、運命の神が「社内でも話題でみんな掲示版に貼り付いているわよ。私の画面も見せろってうるさいし」と呆れていた。

どうやら神様も注目しているミッションらしい。

《異流無神村にプレイヤー侵入実況》は当事者の俺が書き込まなくても異様な盛り上がりで、次々と書き込みがある。

555:マジで敵地に乗り込むプレイヤーがいるとは

556:どうせなら女騎士に乗り込んで欲しかった

557:命の危険とかあるんじゃないの?

558:現場の状況どうなってんだ

559:現地のスレ主、今の心境はー

これは俺が書き込むべきか。少し前に撮った写真も貼り付けておこう。

601:現場のプレイヤーです。こんな状況

書き込みをして二十分前に撮った森の写真も載せておく。こうすることで臨場感の演出と、万が一、邪神側に情報が渡っていたときの誘導に使わせてもらう。

今はその場所からかなり離れているので、そっちに注意が向いてくれたら警備が手薄になるはずだ。

633:おー、キタコレ。未開の地っぽいな!

634:無人島ってこんな感じなのか

635:邪神のプレイヤーがいるなら無人島じゃなくね?

636:一応、異流無神村もあるぞ

637:半分嘘か釣りだと思ってたんだがマジか

燃料を投下したので、しばらくはこれで話題が尽きないだろう。

わざわざ実況する理由はもう一つあって、プレイヤーに《千里眼》を使える人がいるように遠距離から支援できるプレイヤーがいるのでは? という期待があった。

実際にこのスレッドとは別に《異流無神村攻略スレ》があって、そこでは真面目に考察やアドバイスが並んでいて参考にさせてもらっている。

今もどうやっているのかは不明だが《千里眼》で覗いている上空からの写真が数分おきに貼られているのでとても助かっている。本当に感謝しないと。

十分な休憩が取れたのでスマホを閉じて、再び慎重に進む。

「あれだよな、トンネル」

開けた場所は避けていたがトンネルの近くになると、視界を遮る物が何もない。

大きな木の裏に隠れているが、ここから一歩でも踏み出したら丸見えだ。トンネルの周辺には誰もいない。見える範囲だけど監視カメラの類いも見つからない、から安全ってわけじゃないのが困るんだよ。

主神側の奇跡に《千里眼》があるように、邪神側にも似たような奇跡があっておかしくはない。動画配信者がちょくちょく訪れる場所なのだから、どこかで今も監視していると考えた方が妥当だろう。

だからといって、ここでうじうじしていたら何も始まらない。行動に移すべきだ。

足下に転がっていた小さな石を手に取り、トンネルの入り口に向けて投げ込む。石は何の障害もなくトンネルに入っていった。

「幻覚で入り口を誤魔化したりはしてないし、罠らしき物もないと」

動画配信者が普通に入れたのだから大丈夫だとは思っていたが、これで確信に変わった。

スマホで時間を確認すると、目的の時間まであと五分。

今度は《命運の村》を起動して、ガムズたちの様子を窺う。

森の中を行進している村のメンバーはガムズ、チェム、ラン、カン、ムルス、スディール……等身大の神の像を背負っているニイルズ。

そして、神の像の肩に乗っているバジリスクのゴチュピチュ。

更にエルフとダークエルフが二人ずつ。

あとは五人組のハンターが三組という布陣だ。戦力的には申し分がない。

彼らがどこに向かっているかは言うまでもないが、目指すは異流無神村。こちらと同じタイミングでトンネルに入る予定になっている。

こうすることで相手は監視の目を分けなければならないし、うまくやれば混乱させることも可能、だと思いたい。

俺も村人たちにもメリットがある方法だという結論に達したが、本当のところはその先のことを考えている。

「運命を信じるしかないか」

村人たちがトンネルの前に到着して一列に並ぶと、先頭のガムズが右腕を空に向けて伸ばす。予め決めておいた合図だ。

俺は木陰から飛び出すと、一目散でトンネルへと突進していく。四足で併走しているディスティニーを横目で確認すると向こうも同時にこっちを見ていた。

正面に視線を戻すと不自然なぐらい真っ暗なトンネルの奥。光を一切通さない闇が佇んでいる。

暗闇に対する根源的な恐怖が足を鈍らせるが、俺よりも少し先を行くディスティニーが頭だけ振り向くと……大きく口を開いてため息を吐くような動作をした。

「びびってんの?」

と煽られた気がするのは、たぶん間違いじゃない。

「上等だ。お前には負けないぞ」

感覚がなくなりかけていた足を踏ん張り、地面を思いっきり蹴り込むと闇へ突入した。

な、なんだ? 肌にまとわりつくヌルッとした感触というか、生暖かい吐息を吹きかけられたかのような……。

だけど、その気持ちの悪さは一瞬で一秒も経たないうちに違和感は消え失せた。

代わりに六月とは思えない冷え切った空気が肌をなぶる。

その寒さに敏感に反応したのは俺よりもディスティニーで、慌てて俺の体を登ると首にマフラーのように巻き付いた。

体のトゲトゲがちょっと痛いけど、それぐらいは我慢させていただこう。

トンネル内部は真っ暗で、入り口の外には明るい景色が見えているのに、そこに境界線でもあるかのように日光が一切入り込んでこない。

カバンから小型のライトを取り出し、更に奥を照らしてみる。

「普通に見えるな」

光が完全に遮断されている空間だったらどうしようかと思ったが、その心配は無用のようだ。

とはいえ、このライトだけでは若干心細いが、首に巻き付いているチクチクした痛みと重さが俺に勇気をくれる。

独りじゃない、それだけで俺は前に進める。大丈夫だ。

足下はコンクリートの堅い感触でライトで照らすと平らにならされていて、小石一つ転がっていない。トンネルの壁面は湾曲していて、かまぼこのような形になっている。

普通は天井にライトがあるものだけど、一切見当たらない。ただコンクリートを固めて作っただけのようだ。

歩くたびに、カーン、カーンと足音が反響する。

独りだったら間違いなく腰が引けていた自信がある。気を紛らわすために、首元のディスティニーを撫でながら一歩ずつ進む。

ホラー映画なら、ここら辺で妙な声が聞こえてきて化け物や幽霊が登場するもんだけど、これは現実でゲームだとしてもやっているのは村づくりだ。

だから、ホラー展開とかは――

『……ですよ』

『……ああ……だ』

ん? んんんっ⁉ 何か人の声が聞こえたような。

いやいや、怖いと思う心が聞こえさせた幻聴に決まっている。このトンネルの雰囲気に吞まれて、ありもしない声を聞いているだけ。

心を落ち着かせて、平常心、平常心。

『……もうすぐ』

『……いじょうぶで』

うん、また聞こえた。

風の音かな? なんて、とぼけたいところだがトンネル内は無風。

一応辺りを照らしてみるが、もちろん人影はない。

勘弁してくれよ、マジでホラーとか苦手なんだって。

「こういうときは念仏がいいのか? あ、でも異世界が混ざっているなら、チェムのところの宗派がやっている祈りの方が」

焦って思考が混乱しているので、深呼吸をしようと大きく息を吸い込もうとしたら、また声がした。

『……もいますか、お兄様』

『……ろうな、チェム』

ん? 今、お兄様とチェムって言ったよな。それにこの声は。

怖さよりも好奇心が増した俺は、呼吸を整えてから耳を澄ます。

『このトンネルの先で、あの方々は無事でしょうか?』

『神託によると無事な可能性が高いとのことだった』

『それに協力者が一人現れるかもしれない、との話でしたがどなたでしょうか』

今度はハッキリ聞こえた。間違いない、この声はガムズとチェムだ!

そうか、このトンネルは異世界と日本との境界線。互いに入り交じっている空間だから、姿は見えないが声だけは聞こえる。電波が混線しているような感じなのか。

村人たちも同じ場所を歩いているとわかった途端に足取りが軽くなる。

前へ、前へ。このトンネルを抜けたらきっと。