軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

村人と共同戦の俺

鬼毛蜘蛛を倒したことで攻略ポイントは残り一つとなった。

まあ、最後の一つが大問題なんだけど。

カレンダーで残り日数を確認する。

「六月は残り一週間ちょいか……」

あの異流無神村は離れ小島にあって、一番近い漁村までの行き方は既に調べている。だけど、島まで行く手段がない。

テレビ番組の企画なら舟をチャーターするなり漁船に頼んで連れて行ってもらうという手はある。だけど、一般人である俺がその手を使うのは少し無理があった。

まず、船舶免許がないので舟を運転できない。

だったらゴムボートで向かう……のは無茶が過ぎる。遭難待ったなしだろう。

ネットで調べて舟のタクシーを見つけて交渉してみたのだが、そんな場所に島はないし、あったとしても無断で無人島に乗り入れることはできない、と断られた。

それからも自分なりに調べたりしてみたが、これといった手段がない。

一瞬だけ《命運の村》から送られてきた丸太で筏を作ればワンチャンあるのでは? と血迷った発想が頭に浮かんだが、深呼吸したら消え失せた。

「詰んでるよな」

父さんのツテがないか頼んでみる、という案もあったが無理な可能性が高いし、もし行けたとしても細かい説明をしないと認めてくれないだろう。

島の場所は他のプレイヤーのおかげで判明している。だけど、そこまでの交通手段がない。

「残る頼みの綱は――」

一つだけ。

現状の厳しさを伝えると『なんとかしてみるわ』と言ってくれた、それから連絡が途絶えている。やはり、厳しいのか。

と半ばあきらめかけていると、着信音が鳴った。

名前を確認してから手に取って通話をすると、ビデオ通話の画面になった。

「もしかして、タイミングを見計らってません?」

『えっ、何の話?』

素で驚いた表情の運命の神がアップで映っている。

前からこっちが悩んでいるときや、厄介事が頭に浮かぶと連絡が来るので、狙ってやっているのかと思ったがそうでもないみたいだ。

『まあ、私ってば運命の神だから、運命的なタイミングとかあるかも?』

「……そうですか」

『味気ない態度ー。って、言葉遊びしている場合じゃなかった。あの島への交通手段見つかった?』

「すみません、万策尽きました」

嘘を吐いても仕方がないので正直に答える。

『そっか。でも、よかったよ。そっちが手配済みだったら、こっちが困るところだったし』

「ということは、もしかして?」

『うん、舟ゲットだぜ!』

スマホ画面に親指を突きつけてドヤ顔をしている姿が映っている。よく見ると、北海道で会ったときと同じスーツ姿で、背景にはいくつものデスクが見えた。

ここが神様の職場なのだろうか。普通のオフィスにしか見えないけど。あっ、今、見事に日焼けしたギャルが通ったような……。

胸元が大きく開いた袖のないシャツに、驚くほどローライズな短パン。手にはタピオカミルクティーを持ってストローをくわえていた。あの人も社員というか神様なのか?

『どしたの? 嬉しすぎて呆けちゃった?』

「あっ、いえ。ありがとうございます」

そうだ、今はそっちの話が最優先だった。オフィスも気になるが会話に集中しよう。

ギャル風の人が後ろをうろちょろしながら、こっちをチラチラ見ているのがすっごく気になるけど。

「でも、よく見つかりましたね。自分でも舟をチャーターできないか調べてみたのですが、全部断られてしまって」

『そりゃそうよね。名も知らない無人島に送って、なんて言ったら普通の人は断るに決まってるから。今回、手伝ってもらえるのは水の神の従神をやっているプレイヤーなのよ』

プレイヤーが協力してくれるのか。

それなら詳しい説明もできるし、断られる心配も少ない。

「それは助かります。その従神様とは知り合いなので?」

『一応、同僚だからね。とはいえ、直属の上司は別だから頼み込んだんだけど、快く力を貸してくれたわよ。事情を知ったら放っておけないってね』

運命の神が従っている主神は月の神だ。同じ、主神とはいえトップが違えば派閥とかもあるのだろうか、神の世界とはいえ。

「お手数をおかけします」

『いいの、いいの。邪神側が絡んでいるとなると、こっちの問題でもあるからね。協力は惜しまないわ』

神様が全面バックアップをしてくれるのは頼もしい。

これで行動に移さない理由はなくなった。あとは実行あるのみ。

『予定ではいつ頃、島に向かうの?』

「ええとですね、六月は三十日までなので《邪神の誘惑》までに事を終わらせたいから、二十四日には和歌山に着いて舟で向かいたいです」

ここから和歌山まで移動に半日、そこから島へ半日。

洞窟が島のどこにあるかは調べてもらっているが、何かアクシデントがあることも踏まえて探索、救助に二日。

そこから、家に戻るまで一日。合計五日はかかると見積もっている。一日余裕があるのはいざという時の保険だ。

『了解。じゃあ地図を後で送るから、そこに二十四日の二時ぐらいに待ち合わせでいい?』

「はい、もちろんです」

そこからは細かい打ち合わせをしてから通話を切った。

関係ない話もしていたから、合計四十分ぐらい通話していたのか。

「さーて、これで引けなくなったぞ」

元から引く気はなかったけど、完全に外堀は埋められた。

俺の出来ることは旅行の準備と万が一の事態を考慮して、真君と打ち合わせもやっておかないと。

スマホでもゲームは出来るけど、何か不慮の事故で使えなくなることだってあり得る。そのときには真君に村を守ってもらうしかない。

こうやって遠出を決断できるのも真君の存在が大きい。一人ではなく二人で村の運営をしているのがかなりの強みになっている。

「あとはバイトだよな」

最近は週に四日ぐらいバイトに行っているが、梅雨の時期は湿気っていてワックスが乾きにくいので終えるのに時間がかかってしまっている。

なので、件数は少ないのに仕事の日程は詰まっているという状況下で、また数日休みをもらうのは気が引けてしまう。

ただでさえ、無理を言って月末は休ませてもらっているのに。

以前、北海道に行ったときに長期間休んだのを謝ったのだが、社長は笑いながらこう言ってくれた。

「何言ってんだ。誰かが休みを取ってくれると他のヤツらも休みやすくなる。一か月に数日ぐらい自由に休めるぐらいが丁度いいんだって。うちの社員だって頻繁に休んでるだろ。うちはそういう社風だ気にすんな」

その言葉に助けられたが、毎回甘えるわけにもいかないよな。俺の穴埋めは山本さんや岬さんがやってくれているのだから。

この《命運の村》とバイトを両立させる方法を、そろそろ本気で考える時期がきている。もう少しゲームの比率を下げて仕事に集中する。

それが当たり前の考えだろう。だけど、村人を放ってはおけない。

となると、村を安定させて安心して見守れる環境を作る。そうするしかないだろう。そのためにも今回の領地化は魅力的なんだ。

禁断の森の全域が見えるようになれば、かなり楽になる。

仕事とゲームの両立。それを叶えるために失敗は許されない。

もちろん、配信者たちのことも心配だし、邪神側が何を企んでいるのか不安もある。

「目的とやるべきことが一致しているんだ、悩むことはないよな」

ここまでお膳立てされたのだから、あとは全力を尽くすのみ!

六月二十四日。

波止場にある使用目的のわからない丸い出っ張りに片足を乗っけて、大海原を眺めている。

少し離れた場所に置いたカバンから顔を出しているディスティニーが、そんな俺をじっと見つめていた。

「久しぶりの海はどうだ?」

俺が問い掛けると、顔を海の方に向けて匂いを嗅ぐような仕草をした。

首を傾げると舌をちょろちょろ出して、更に首を傾げている。潮の香りに違和感があるのだろうか。

今、俺たちは和歌山の港で人を待っている。

約束の時間まで、あと三十分あるが早めに来ておいた。頼んでいる側が待たせるわけにはいかないからな。

相手の容姿も名前も聞いてないが、相手は俺のことを知っている。

「俺だけ個人情報おかしくないか」

異世界から聖書とキャロルが送られてきた一件で、名前も顔も住所も邪神側に全て伝わっているという事実。こんなプレイヤー俺だけだ。

主神側のプレイヤーで素性を知っているのは真君だけだったのだが、今日会うプレイヤーで二人目になる。

「どんな人かな」

舟を所有していて運転も出来ると聞いているので、金持ちのイメージがある。

クルーザーに乗って颯爽と現れる、海が似合う爽やかイケメン。もしくは金を持ってそうなオッサンか。

どっちにしろ、お世話になる人だ。偏見を持たずに礼儀を忘れないように心掛けよう。

そんなことを考えていると、海の方から音が近づいてきた。

ポンポンポンポンポンポンポンポン……。

独特なエンジン音を響かせてやって来たのは――漁船。

少し錆が浮いて古ぼけたボディーの、年期を感じる小さな漁船が目の前で停まった。

「あんたが運命の神のプレイヤーなんか?」

甲板の上に仁王立ちしてこっちを見ているのはひげ面の男性。頭にねじったタオルを巻いて、黒のカッパを着ている格好は典型的な漁師スタイルだ。

髭のせいで老けて見えるが、よく見るとかなり若くないか。

「はい、そうです。あなたが手伝ってくれるプレイヤーですか?」

「そうやで。神様から頼まれたんやけど、面白そうな話やったから喜んで引き受けたで」

そう言ってニカッと白い歯をむき出しにして笑う。

厳つい外見もそうだが、どこか社長と雰囲気の似た人だ。

「本日はよろしくお願いします」

俺が深々と頭を下げると、隣にトコトコと歩いてきたディスティニーも真似て頭を下げた。

「おう、よろしくな。ごっつう、かわいらしいトカゲも一緒なんやな」

「俺の相棒です」

は虫類が平気な人のようで、平然とディスティニーの頭を撫でている。

これで精華みたいに苦手だったら話がややこしくなりそうだったから、この反応はありがたい。

「話は船上でしよか。乗った、乗った」

俺たちは促されるままに漁船に乗り込むと、舟が波止場から離れていく。

操舵席の後ろに椅子があったので、そこに座って横を向く。

おおっ、初めて漁船に乗ったけど想像以上に揺れるんだな。北海道旅行のときはフェリーだったから揺れはそんなに気にならなかったけど、これはヤバいかもしれない。

吐き気を誤魔化すために深呼吸を繰り返し、できるだけ遠くを見ようと海に視線を向ける。

「ディスティニー。あんまり縁に近づくなよ。海に落ちたら助けるのも一苦労だからな」

海を覗き込もうとしていたディスティニーを持ち上げて膝の上に置いた。それでも海が気になるようなので頭に乗せてやる。

そこなら海がよく見えるので満足したらしく、機嫌良く振る尻尾が背中に当たるがそれぐらいは我慢しよう。

「地図で確認したんやが、その場所やとたぶん二時間ぐらいで着くと思うで!」

操舵席から独特なエンジン音に負けない大声で話してくれている。

「わかりました!」

俺も大声で返す。

エンジン音が気になるけど、しばらくすれば慣れるだろう。

島に着いたら気を抜けないのだから、今ぐらいは海の眺めを楽しませてもらおうかな。