軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

籠る準備の村人と踏み出そうとする俺

村人が寝静まった後、俺は眠ることもできずにぼーっと画面を眺めている。

ゲームのキャラとは思えないほど生き生きと暮らしている村人。

ロディス親子は大きなベッドの上で川の字になって寝ている。

ガムズとチェムは同じ部屋で眠っているが、妹はベッドで兄は地べたに枯れ葉を盛って上に動物の皮を被せて寝床にしている。

ムルスは一人部屋で静かに寝息を立てていた。

「ほんと、人間みたいだよな」

これが本当にゲームの高性能AIなのかどうかは、できるだけ考えないようにしている。悩んだところで解明のしようがないからだ。

俺は村人を助けて村を発展させたい。そして、美味しい貢物をもらえたら嬉しい。今はそれでいいじゃないか。

「十日後にモンスターの襲撃があるのは確定か。ゲームではよくある流れだし」

それに備える方法はいくつかある。

人を増やして戦力の増強。今のポイントなら戦えそうな人員を一人ぐらいなら増やせる。これをやればガムズの負担はかなり減るので、村人を守り抜ける確率も上がるだろう。

ただ怖いのは呼び込んだキャラの性格がわからないところだ。

普通のゲームなら単純な戦力として考えられるが、ここまでAIの性能が高いとまるで生きているとしか思えない村人たち。

新たな人員の能力が高くても気性が荒く、和を乱すような輩だったら戦力どころか襲撃を待つまでもなく内部崩壊をする。

そこを危惧して人を増やすことをためらってしまう。

「人員以外の強化方法となると、武器や防具は洞窟に残されていたものがあるから、今のところは問題はない。それにまともに武器を扱えるのがガムズとムルスぐらいだから、意味ないんだよな。木の柵から石の壁にする手もあるけど、材料が調達できたところで人手不足か」

洞窟は鉱石を掘っていた場所なので奥の壁を採掘すれば良質な石材は確保できるそうだ。まあ、これも人手が足りないんだが。

他に何か使えそうな奇跡はないかもう一度目を通す。

比較的ポイントが少なくて戦力確保できる『傭兵団が訪れて一時的に力を貸す』というのがある。似たのでは『ハンターのグループが三日滞在する』というのもあった。

日数調整ができるなら襲撃の日だけ守ってもらうのも可能だろう。

ただし、傭兵団とか荒くれ者のイメージがある。

「普通のゲームなら悩まないでいいところを悩むって……」

単純に高性能になればいいってもんじゃないんだな、ゲームって。

となると妥当なのは前から気になっていた、ゴーレムを召喚することだ。

俺が操作できるので純粋な戦力と人手不足解消になるのは間違いない。村人たちの和を乱すことを気にする必要もないし、そもそも話す機能はないのでコミュニケーションを取ることができない。

「最大の問題は必要な運命ポイントなんだよなー」

ゴーレム召喚に必要なポイントのまだ半分も貯まっていない。

最近は貢物効果もあって上昇率は高いが、残り十日では届かないだろう。

「最終手段は……課金っ!」

貯金が残っているなら迷わずこの手段を取ったが、もう俺の銀行残高はゼロだ!

いや、数百円は残っているけど焼け石に水とはこのこと。

部屋を見まわすが本棚からは漫画もラノベも全部消え失せ、懸賞も全部オークションでさばけた。あるのはPC一式と筋トレの道具ぐらい。売れるものは微塵も残っていない。

親に頼み込んで借りる?

……せっかく良好な関係になりつつあるのに、自ら壊すのはあり得ないよな。

妹に借り……それこそ、ない。

村人たちの貢物を売るというのはどうだ?

珍しい果物はさすがに無理だろうけど、丸太とかなら売れるかも。販売方法はネットで『丸太売ります』で。

「胡散臭いにも程があるだろ。木材の販売って特別の許可が必要だったりしないよな。いっそ、小物として加工して売るか。ハンドメイドの通販とか結構あるし」

まあ、小物に加工する技能がないわけですが。

そもそも販売できたとしても十日以内に売れて、収入を得られるかどうかも確実じゃない。

「手詰まりか。はあー」

大きなため息を吐いて何もかも諦めてしまえば楽なんだが、村人を見捨てることができない。

最近は涙もろくなって三十分のアニメですら感情移入して泣きそうになる俺が、二週間以上も生活を見守ってきた村人たちを他人だと切り捨てられるわけがない。

「方法は……ある」

前からわかっていた。お金を確実に得る方法があることを。

俺はゲームで使ってない方のPCを操作して、あるサイトを開く。

――バイト斡旋サイト。

そう、短期バイトで金を稼げばいいだけの話。

人によってはもっとも簡単な手段。

でも、俺は……働いたことが一度もない。学生時代もバイトもせずに家で勉強するわけでもなくだらだら過ごしてきた。

大学在籍中にバイトの面接は受けたことがある。でも、緊張してろくに話せずあっさりと落ちた。

今思えば落ちた理由はそれだけじゃない。変なプライドが邪魔をして時給が高く条件のいいところばかり選んで受けたからだ。

そこで失敗を学べば未来は変わっていたのに、就職でも同じ過ちを繰り返した。一流大学卒が狙うような大企業に応募。結果は言うまでもないだろう。

それでも懲りずにハードルの高いところばかり狙って面接を受け、落ち続けることで下らないプライドすらも完全に砕け散り……今に至る。

あれから十年、俺だって何度か働こうと思った。

バイトでもいいからやろうと思った。

でも、怖いんだ。いい年して情けないのはわかってる。

でも、俺は今まで自分一人でやったことなんて、何もないんだ。

小学生、中学生、高校、大学の手続きは親がしてくれた。卒業後は自力でなんとか面接を受けてはみたが……。嘘だそれも違う。

父が見るに見かねて、コネを使っていくつかの企業を紹介してくれた。だというのに、俺は父の顔に泥を塗るようなことをしてしまった。

緊張して受け答えが十分にできなかったのもあるが、心のどこかで面接に落ちたら働かないでいい理由を確保できる。面接時にそんな甘えた考えがあった、と思う。

そう考えられるようになったのもつい最近で、ずっと俺は就職できなかったショックで引きこもっている、と自分自身を信じ込ませようとしていた。

「全部、甘えなんだ。怖いんだ……自分で努力してそれが否定されるのが、誰かに怒られるのも馬鹿にされるのも嫌なんだ」

三十代。子供から見ればもういいオッサンだ。

なのに内面は成長しないままプライドだけが肥大していき、この年になってしまった。ずっと言い訳を並べて自ら動こうとしなかった末路が、今の俺。

明日頑張ろう、明日やろう。

でも、そんな明日は永遠にこない。明日になったらまた明日に託すから。

母に急かされ、父に怒られ、妹に馬鹿にされ、それでも俺は動かなかった。

今が、この切っ掛けが、最初で最後のチャンスだ。ここで動かなかったら、俺はたぶん一生このまま停滞し続ける。

「変わるんだろ! 変わりたいんだろ!」

震える右手に力を込めて、サイトの短期バイトの欄に目を通す。

月末に村人たちに手を貸せないと本末転倒なので、月末までに終わる仕事で目標ポイントに達するぐらい稼げる仕事があるといいけど。

事務の短期はほとんどないし、そもそも必要な資格を所有していない。

コンビニは……短期募集と言っても半年や数ヶ月。それに家族以外とまともに会話していない俺が接客はハードルが高すぎる。

肉体労働だと日雇いもあるが、いきなり土方とかできるのか俺に? あんな、荒々しい現場で働けるのか?

これも甘えと言われたらそこまでだが、途中で辞めては意味がないんだ。

時間もそんなに残されていない。月末までは続けられる仕事を選びたい。

近場で働けそうな短期バイトとなると、数があまりにも少ない。ここが田舎なのも問題の一つで、車やバイク通勤を推奨されても免許すら持ってないのでどうしようもないのだ。

ネット以外でバイト先を探すとなると、求人情報が載っている無料雑誌か。

俺は着替えると階段を駆け下りる。

「あら、また出かけるのね」

「ちょっと行ってくる」

母にそう言って自転車を走らせる。

前に出かけた時と恰好も同じだというのに、今日は近所の目が気にならない。

誰かがまた俺の陰口を叩いているかもしれない、というのに今はそんなことどうでもよかった。

本屋とコンビニに寄って求人情報が載っている無料雑誌をもらってきた。

買い物に出かけようとしていた母と玄関で鉢合って、手元の雑誌を見られた時に目を見開いて驚いていたが、スルーして階段を上る。

日数と条件が合うバイトに赤ペンで丸を付けていく。候補がある程度絞れると今度はネットで検索を開始した。

コミュ障でも働きやすいバイトを調べるために。

「ご飯できたわよー」

下から呼ぶ声を聞いてはっとする。

気が付くと辺りがかなり暗くなっていた。かなり集中していたみたいだ。

食卓に行くと父と母と……妹がいた。

スーツ姿なので今帰ってきたところか。

「帰ってたのか」

「何よ、悪い」

きつい口調で返すのもいつものこと。

昔は「お兄ちゃんと結婚する」と懐いていた時期もあったが、俺がこうなってからは今の状態だ。

「いや、お疲れ様。お帰り」

「えっ、あっ……ただいま」

俺が普通に返したら驚いた顔をしている。

……そうか。今までだと言い返すか不機嫌になって部屋に引っ込んでいたからな。後ろめたさから、俺が妹との会話を拒んでいたんだ。

自分の席に着くと、妹がちらっちらっとこっちを見てくる。一緒に夕飯を食べるなんて久々だから戸惑っているのか。

「ねえ、母さん。何かいいことでもあったの。なんかご飯がいつもより豪勢なんだけど」

妹に言われて気づいたが、確かにいつもより品数が多くて料理の一つ一つに手間がかかっているように見える。

今までなら気づきもしなかったが、最近は料理の勉強もしているので料理の価値がわかるようになってきた。

「ふふーん、わかる? 良夫が働く気になったみたいなのよ!」

「ごほっ、げはっげはっ」

いきなり何言ってんだ! 不意打ちすぎてお茶が気管に入ったわ!

「ほう、そうか」

「へえー、やっとやる気になったんだ」

ピクリと眉毛を動かしただけの父と、物珍しそうにこっちを見る妹。

こっち見んな。なんだこの羞恥プレイは。

「まずは短期のバイトだけどね。ちょっとお金が必要になって」

「切っ掛けはなんでもいい。やる気になったのは良いことだ」

思いもよらない父の言葉に箸が止まる。

父の性格だと「正社員しか認めん」ぐらい言いそうなのに。

「お兄ちゃん、最近変わったよね。もしかして……恋人でもできたの?」

「ないない。良夫がモテるわけないじゃないの」

なんで俺より先に母が否定するんだ。

しかし、妹に「お兄ちゃん」なんて久しぶりに言われたな。いつもは「ねえ」とか「邪魔なんだけど」ぐらいしか言ってこないのに。

俺の視線で自分が何を口にしたのか理解したようで、顔を背けた。ほほが若干赤いのは恥ずかしかったのかもしれない。

「もしや、最近うちに物を送ってくる村が関係しているのではないのか」

口数が少ないのに父は核心を突いてくる時がたまにある。

「まあね。村おこしを手伝っているとはいえ、もらってばかりじゃ悪いから、ちょっとだけでもお返しをしたいと思って」

嘘は吐いていない。

命運の村の村おこしを手伝っているという説明を両親は信じている。

金もない俺に毎日物が送られてきているのだから、説得力はあったようだ。

「村おこし? 何の話? 私だけ知らないんだけど」

好奇心を隠そうともしない妹がテーブルに身を乗り出して、俺に迫ってくる。

「食事中に行儀が悪いわよ。お母さんがたっぷり話してあげるから、まずは温かいうちにご飯食べましょう」

母の軽いチョップが妹の脳天に落ちた。

渋々だが妹が大人しくなったので、説明は母に任せるとしよう。