軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ホラー動画と俺

ガムズとハンターの前衛職二人が先頭に立ち、トンネルから歩み出る。

続いて残りのメンバーもトンネルから出てきた。

廃村は柱や梁が炭と化して崩れ落ちた廃屋ばかりで、原形を留めている建造物は一軒もない。屋根も焼失しているので、誰かが中で暮らすには無理がある。

「ということは、人間が隠れ住んでいるってことはないのか?」

これは見える範囲内の話で、廃村の奥は見えないから実は人が住めそうな建物が残っているのかもしれない。

それこそ隠された地下室があってそこでは悪魔召喚の儀式が……妄想が過ぎるな。

でも、そう考えてもおかしくないぐらいの状況だ。空は曇天で辺りは薄暗くホラーにぴったりな演出。

奇跡で晴天にでもした方がいいのだろうか。アンデッドって晴れだと動きが悪くなる、とかデメリットがないかな。

やるにしても様子を見てからか。このメンバーで問題なく対応できるなら見守るだけでいい。なんでもかんでも神が手を出せばいいってもんでもないだろうし。

「それにしても雰囲気あるな」

ここだけ見たら完全にホラーゲームだ。

真っ黒な炭化した柱や梁。崩れ落ちた外壁。人どころか生命の気配すらない。

見える範囲だけで判断するなら、廃村の規模は命運の村どころかダークエルフの村よりも大きいようだ。

家は原形を留めていないが、その数はざっと数えただけでも五十以上。それもまだ村の入り口付近でこれだ。勝手に村だと解釈していたが小さな街だったのかもしれないな、ここは。

まあ、ややこしくなるだけなので廃村ってことにしておこう。

村人とハンターたちが興味深げに辺りを見回していると「お出ましですよ」静かに、それでいてハッキリと警戒を促すニイルズの声が響く。

一瞬にして、それが何を意味するか理解した面々が武器を構える。

それを合図にしたかのようなタイミングで廃村の地面が次々と盛り上がっていく。地表を貫いて伸びてくるのは人間の腕。

血の気が失われた土まみれの腕は、所々皮膚や肉がこそげ落ちていて骨がむき出しになっている。だというのに血は一滴も流れ落ちていない。

村人たちを取り囲むように腕が地面から伸び、続いて頭、上半身が現れている。

生気の無い瞳と肌色。そして欠損した部位からして、一目で死体とわかった。

「ホラー映画のゾンビってマシな方だったんだな……」

リアルな死体がうごめく映像はホラー映画の恐怖演出なんて比較にならない。

作り物じゃない本物の恐怖。画面越しでも、そのおぞましさが鮮明に伝わってくる。彼らが眉をひそめ鼻を腕で覆う動作を見ていると、現場の悪臭がこっちまで漂ってきそうで思わずしかめ面になる。

ゾンビらしき動く死体の数は二十三。こっちは十一人。倍以上も人数差はあるが、相手の鈍重でどこか歪な動きを見ている限りでは、圧倒できそうな予感がする。油断は禁物だけど。

もしかして、ゾンビ映画にありがちな噛まれたら感染するとかあるのだろうか。そうなると話は変わってくるのだけど。

『見たところ、ただの死動体のようです。動きは緩慢ですが力が生前より強くなっています。組み付かれないようにしてください。あと噛まれても我々の魔法で感染は防げますので、怪我をしたら自己申告をお忘れ無きように』

ニイルズの忠告が俺の心配をすべて払拭してくれた。

それを聞いた村人たちが力強く頷く。その顔には安堵が見える。

やはり、感染して自分もゾンビ――この世界では死動体か。それになる恐怖があったようだ。

『感染の心配が無いなら、楽勝だ! てめえら、稼ぐぞ!』

『『『おう!』』』

ハンター一行が武器を掲げ気勢を上げると、ためらいもなくモンスターに突っ込んでいった。遅れてガムズ、ニイルズも前に出る。

チェムは目を閉じて祈りを捧げるようなポーズになると、小さく『不浄を砕く力を』と呟き兄の背に向けて手をかざす。

すると、ガムズの手にしている二本の剣が仄かに白く輝く。

『助かる』

振り返って感謝の言葉を口にするガムズにチェムが微笑みを返した。

どうやら今のは支援魔法のようだ。見た感じだと剣に聖属性を付与したっぽい。

弓が得意なスディールとムルスのダークエルフ、エルフコンビは競い合うように、次々と死動体を射貫いていく。

だが、相手は死体だけあって矢が刺さっても怯むことなく動き続けている。

『だから、死動体は嫌いなのよ』

『ふっ。的の大きな所ばかり狙っているからだ。関節を射貫けば動きを妨げることができる』

愚痴るスディールの隣でムルスは有言実行とばかりに死動体の膝関節を射貫くと、相手が膝を突き前に倒れる。

ちらっと視線を向けてドヤ顔になるムルス。

それを見て唇を噛み、イラッとした態度を隠そうともせずに矢を放つスディール。その矢は死動体の肘関節を射貫き、腕が落ちた。

相変わらず仲の悪い二人だが、射撃精度は上がってんだよな。エルフとダークエルフは互いを忌み嫌っているが、ライバルとして認めているようで負けるのを極端に嫌う。

両者とも相手にバレないように弓の腕を磨いているのを俺は知っているので、こういった小競り合いに対しては何も口を出さないようにしている。

…………もう少し仲良くなって欲しい、とは願っているけど。

そんな二人に注目している間に死動体は次々と葬られていく。ハンター六人組は腕利きだという話に嘘偽りはないようで、危なげなく確実に処理している。

ガムズはいつも通り安心してみていられる戦いぶりだ。敵を一切寄せ付けず、反撃の隙すら与えずに一撃で首を刎ねている。その動きを横目で観察していたハンターのリーダーが「ほう、あの若造やるじゃねえか」と思わず感嘆の声を漏らすほどだ。

その言葉を聞いて思わず頬が緩む。村人が褒められると誇らしく思えるのは神様目線ではなく、家族に等しい存在だと一方的に思っているからだ。身内が褒められたら誰だって嬉しい。

まあ、そんなガムズの活躍も霞むほどの戦果を上げているのは――ニイルズ。

巨大なメイスを脳天に叩きつけられた死動体は、身長が強制的に半分に圧縮されている。なぎ払えば上半身がミンチになって吹き飛び、一振りする度に死動体が本物の死体に戻っていく。

近づいてくる敵は左手の巨大な盾で押し返し、吹き飛ばす。

「スゴすぎて、圧倒されるな」

爽快感すら覚えるその活躍は無双系のゲームを眺めているかのようだ。……ニイルズの顔が常に微笑んでいるのがちょっと怖いけど。

ものの数分もしないうちに敵を殲滅した一行。苦戦の苦の字も出てこないほどの圧勝だった。

念のために感染を心配したチェムが全員の傷を確認しているが無傷のようだ。ゾンビパニック映画のような展開になることはないか。

「思ったよりあっさりだったけど、これで指定されていたポイントの制覇になるのか?」

禁断の森を《領地》にするために攻略の必要がある三か所のポイント。ここはその内の一つなのだが、特にこれといった変化はない。

マップを確認してみるがポイントのマークは付いたまま。たぶん、この場所を攻略したら何かしらの表示がされるはずだ。

「拠点の攻略は敵の全滅か、ボスらしき存在を倒すってことだよな」

以前、山本さんの拠点を襲撃したときはモンスターの殲滅とボスらしき単眼赤鬼を倒した。ここにもそういった存在がいる、と考えるべきだろう。

「アンデッド系のボスってなんだろうな。有名どころだとリッチーとかデュラハンとか。あとは死霊を操るネクロマンサーが根城にしているとか」

創作物を参考にするなら、ここら辺が定番。

ただ、敵の強さの基準が不明なんだよ、この世界は。

まだ敵が潜んでいるかもしれないと神託で注意を促そうかと考えたが、俺が言うまでもなく全員が警戒を解いていない。

誰一人として武器を納めず、注意深く辺りを探っている。

マップ内を調べていると村人たちの進路方向に墓地を発見した。俺が発見できたということは、村人の視界に入ったということだ。

墓場には墓石が等間隔で設置されていて、その数は軽く百を超えていた。荒れ果ててはいるが墓石は燃えずに残っているので、村の中で一番原形を保っている場所だと言える。

いかにも、何かありそうな雰囲気だけど。

『この先に墓地がある』

先頭に立っていたガムズが足を止めて、正面をじっと見据えている。

このホラー展開で墓地ときたら、何もない方が嘘だろ。

そんな俺の予想を裏切ることなく、墓場中の墓石が揺れ始め倒れていく。土を搔き分けて現れたのは無数の死動体と動く骨――つまりスケルトン。

動く骨をクリックしてみると《骨動体》と表示された。

見た目はただの骨なので強そうには見えない。死動体も個体の強さは弱い方だった。

だけど、この数は無茶だろ。戦力差はおよそ十倍。

「神託で撤退を指示するべきか?」

これがただのゲームなら迷っている間は、ポーズボタンを押して時間を止められるのだが、この世界の戦況はリアルタイムだから待ってくれない。

圧倒的な数の暴力に怯むことなく、立ち向かうハンターと村人たち。単体の戦闘力では勝っているが、この数には抗えないのではないか。そんな不安が俺の胸中に満ちていく。

神像がこの場にあれば《ゴーレム操作》で蹴散らせば済む。だけど、ここにはない。

『憐れな亡者たちよ。安らぎの地へ導きましょう』

アンデッドに優しく語りかけるこの声は、ニイルズか。

村人やハンターを差し置いて一歩前に進み出たニイルズ。メイスと盾を地面に置いて両腕を前に突き出し、大きく息を吸い込む。

『安らかにお眠りください。静寂』

突き出した両腕を天に掲げると、墓地の地面から乳白色の優しい光があふれ出す。

その光に触れたアンデッドの足から徐々に色が薄れていき、それが全身に広がっていく。

光に全身を覆われた個体は完全に色を失い、次々と崩れ落ちる。

ニイルズが腕を降ろすと、あれほどいたアンデッドの七割が消滅していた。

『まさか、あの《静寂》をこの目で見ることが叶うなんて!』

地面に両膝を突いて感激を体で表現しているチェム。

他の連中も呆気にとられた顔で、消えたアンデッドとニイルズの顔を交互に見ている。

「この反応。さっきのは相当レアな大魔法みたいだな」

『皆様、驚くのは後にしてください。迷える亡者は残っていますよ』

ニイルズの言葉に我を取り戻した面々がモンスターの掃討を始める。

こうなったら、もう勝利は確定したようなものだ。

すべてのモンスターをあっさりと倒し終わった。苦戦しなかったとはいえ体力は消耗している。一息吐いて欲しいところだけど、ここは敵地のど真ん中。呑気に休憩するわけにはいかないか。

「疲れているとは思うけど、もうひと頑張り頼むよ」

安全な場所から発せられた届かない言葉だけど、それでも労ってやりたかった。

村人たちは墓場を探索中なのだが、ハンターの一人が墓石の前でかがみ込み何やら熱心に調べている。

そのハンターは探索者という聞き慣れない職で、戦闘職ではないのだが罠発見や地図の製作や荷物の運搬といった裏方をメインとしているそうだ。

大人数のパーティーでは欠かせない職らしい。

『ちょっと、こっちに来てくれ』

その探索者が全員を集めて何やら話している。

『この墓石だけ汚れが少ないように見える。それと誰かが触れた跡と、動かした形跡がある』

そう言われて指摘された墓石をアップにすると、確かに他の墓石と比べて汚れが少ないというか、新しく見えるな。

地面にも墓石を引きずったような跡が確かにある。このハンターがいなければ確実に見逃していた。

「これはもしかして、あの予想というか妄想が当たってたのか?」

隠されていた地下室の存在。嘘から出た誠。まさか本当にそんな展開になるのか。

ハンターたちが力を合わせて墓石を動かすと、ぽっかりと地面に空く闇。

中は先が見えないほど暗く深い。階段があるようで、それが下へと続いていた。