軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ムジカとリゲル 後編

精神的な面で非常に疲れたと思いながら居城に戻ってきたムジカは、気分転換も兼ねてかさっそく新しいハーモニカを作り始めた。

ハーモニカ作りは彼女にとって慣れたものであり、デザインなどもすでに決めて材料を集めていたこともあって、作成自体はすぐに終わった。

完成した真新しいハーモニカを見て、少しだけ上機嫌に微笑んだ後でムジカはそれを懐に入れて呟く。

「……さて、リゲルは……」

本人は恥ずかしがって絶対に認めないが、ムジカは死王配下の中でリゲルと一番仲がよくて一緒に居ることが多い。いまのように新しいハーモニカを完成させた際にも、まずリゲルを探すあたり、ある種一緒に居るのが当たり前という認識なのかもしれない。

軽く広域探知をかけて探してみると、リゲルは居城から少し離れた丘に居るようだったのでムジカはさっそく城を出てそちらに向かうことにした。

距離自体は大したものでは無かったのですぐに辿り着くと、そこにはキャンパス前に立って筆をとっている少女の姿があった。

こげ茶色のロングヘアーに150cmほどの体躯、整った顔立ちで別世界ではトガと呼ばれる一枚布の民族衣装っぽい上着を着た美少女といっていい存在……が、唐突に首を180度後方に回転させて、後ろから近付いていたムジカに赤い目を向ける。

「おぉ、ムジさん!」

「シャドーだ……あとその姿で首回すな」

「おっとこれは失礼、シャドさん、お帰りなさい」

「ああ……今日はその姿なんだな」

「やっぱり美少女モードの方が繊細なタッチは上手く描ける気がするであります!」

そうこげ茶色の髪の少女は、リゲルが美少女モードと呼ぶ姿に変形したものであり……元の3mぐらいの体躯から、明らかに物理法則を無視して半分ほどの大きさになっていたり、スピーカーっぽい声ではなく普通に肉声に変わっていたり、もはや変形というよりは人化の魔法を使ったように見える。

しかし、事実として変形であり、いまのリゲルもゴーレムのまま……首は360度ぐるぐる回るし、目からライトのような光も出せるし、腕を飛ばしてロケットパンチも打てる。

本当によく分からない謎の機能が多いやつだとそんなことを考えつつ、ムジカはリゲルの左肩に座る。基本的に左肩がムジカの定位置であり、ふたりで一緒に居る時はだいたいいつもこの位置である。

「シャドさん、どうですか! 今日の小生の絵は、今回はアイシス様の居城を中心にした風景がであります!」

「そうだな……暗黒感が足りないな」

「小生、風景画に暗黒感を求められたのは初めてであります」

いつも通りの感じでやりとりをしていたが、不意にリゲルがなにかに気付いた様子で首をかしげる。

「おや? シャドさんは、少しお疲れに見えるでありますね」

「……ああ、ちょっとさっきまで妖精族の森に材料を買いに行っててな」

「なるほど、それで朝から出かけていたんでありますね。目的の物は買えたでありますか?」

「そこは問題なかったんだが、運悪くティルタニアとラズリアに遭遇して、そのあとは森中の妖精が集まってきてもみくちゃにされた上に、大量の土産まで持たされた」

「ははは、それは大変でありましたね。シャドさんがそれだけ多くの方から慕われて歓迎されているということなのでしょうが、シャドさん的には対応が大変でありますね」

「……」

そんなやり取りをしたところで、ムジカがジッとリゲルの顔を見ており、リゲルは不思議そうに首をかしげる。

「どうしたでありますか?」

「いや、お前ってさ……基本的に存在自体が喧しいし、やることなすことポンコツ感が強いし、頭の良し悪しじゃなくて根本的に馬鹿な部分も多い困ったやつだが……ちゃんとこっちの話は聞いてくれる分、かなりマシでいいやつだよなぁと」

「……さ、下げてから上げる褒めテクというやつでありますかね? 下げる時の勢いが凄すぎて、全然上がった感がないでありますが……も、もしかして、ここからさらに褒めてくれる感じでありますかね!」

「……三日ぐらい考えてからでいいか?」

「小生の褒めるところって、そんなに時間かけて探さないと思いつかないほどでありますか!?」

相変わらずのオーバーリアクションで叫ぶリゲルを見て、ムジカは小さく苦笑する。リゲルと話している時は気楽でいいと……どこまで素か、どこからワザとかまでは分からないが、リゲルはムジカの皮肉にいちいちこうして大きな反応を見せてくれる。

表現は難しいが……ムジカがこうありたいと望みつつも上手くできないアウトローな皮肉屋……リゲルと話している間は、そんな理想の己で居させてくれる。

だからこそ、リゲルと居るのは心地がいいのかもしれない。

「……そういえば、いまさらだがお前って風景画を描くことが多いよな? なにか理由があったりするのか?」

「う~ん、言語化は少し難しいですが……小生は元々、アイシス様が見つけてくださるまでは死の大地の地下遺跡で眠っていたであります。ですが、なんというか少し意識はあったであります。いや、意識と呼べるかは分からないでありますが、ぼんやりと暗くて広い部屋に自分が居ることは分かってた感じですかね」

「まどろみの中にいるようなものか?」

「そんな感じでありますね。広いだけの真っ暗な部屋にずっとずっと長いこと居た小生を、アイシス様が起こしてくださり、遺跡から外に連れ出してくれたであります。その時に始めて見た外の世界の景色は、きっといつまでも忘れることなく鮮明に小生の中に残り続けていると思うであります」

アイシスに連れ出されて初めて外の世界を見た時の気持ちを、リゲルは上手く言語化することはできない。感動だとか圧倒されるとか、そんな言葉が該当するというのは分かるが、どうしてもその言葉だけではあの時の衝撃を表現できないような気がしていた。

「それから先もそうであります。この目に映る世界の姿は、小生にはとても美しく輝いて見えるであります。それを他の皆さんにも共有したいと思っても、なかなかどうして言葉で説明するのは難しいであります。なので、小生はこの目に映る美しい世界を絵にして、大好きな方々に共有したいと……だから風景画が多い感じでありますかね。同じような景色に見えても毎日違うであります。景色だけではなく、小生の心持ち次第で瞳に映る景色は変わって見える……小生の目に映る世界を見えるのは小生だけでありますが、絵にすればそれを他の大切な皆さんにも見せることが出来る……小生にとって絵とは、一種の己と世界の関わり方なのかもしれないでありますね」

「……そうか」

「おっと、これは小生なかなかの名言を言ってしまったかもしれないでありますね」

「そうだな、名言ってのはなにを言ったかじゃなくて誰が言ったかも重要だってのを再認識したよ。語り部次第では、いい言葉も安っぽく聞こえてしまうものだ」

「……あ、あれ? この流れでそう言われると、小生が言うと駄目みたいに聞こえるでありますが……シャドさん? 違うでありますよね? そんなこと無いでありますよね?」

「……」

「シャドさぁぁぁぁん!?」

問いかけるリゲルに、なんとも言えない曖昧な微笑みを返した後で、ムジカは叫ぶリゲルを無視して懐から作ったばかりのハーモニカを取り出す。

「……おや? 新しいハーモニカでありますか?」

「ああ、さっき作ったばっかりだ。運がよかったな、お前が観客第一号だ」

「おぉ、それは幸運でありますね。小生は、シャドさんの演奏が大好きでありますから!」

口ではそんなことを言っているムジカではあるが、新しいハーモニカを作った際の観客第一号は、だいたいいつもリゲルである。

先程までの叫びはなんだったのかというほどアッサリと切り替えて楽し気に笑うリゲルを見て、ムジカは小さく笑みを溢し……軽くリゲルにもたれかかりながら告げる。

「……俺も……お前の描く絵は、好きだよ」

「それは、とても嬉しいでありますね」

リゲルの返答を聞いてから、ムジカは静かにハーモニカを演奏しだす。いまのリゲルが書いている絵に合うような、繊細で美しい音楽を……。

どこか楽し気な様子で演奏を行うムジカを肩に乗せ、リゲルも楽し気な笑みを浮かべながら絵の続きを描き始めた。