軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

一緒にサンマを食べて

魔界にある死の大地、死王アイシスの居城から少し離れた場所では、どこから出したのかリクライニングチェアに座ってくつろいでいるウルペクラと、七輪の前にしゃがんで団扇をパタパタと扇いで炭火に風を送っているアルシャの姿があった。

「……なんで私がサンマやいてるにゃ!? ウル先輩、これはアレじゃないかにゃ? 先輩による後輩イジメではないかにゃ……だとすれば、私は断固として抗議するにゃ!」

団扇をパタパタ扇ぐ労働に耐えかね、アルシャが猛然と抗議の声を上げる。私こそが、企業戦士たちの代弁者、過剰な労働を貸す上位者に立ち向かう勇士であると……なるほど、確かにウルペクラはアルシャの上位互換といっていい存在だ。

実力も死王配下としての経歴も上回っている先輩であり、己を従える権利があるのかもしれない。だがしかし、しかしである! 強者であれば横暴でもなんでも許されるというのであれば、それはかつての闘争の時代の再現であり、破棄すべき旧時代的な価値観である。

パワハラ、モラハラ、そんなものは決して許さない。たとえ相手が先輩であっても、労働者としての誇りを胸に相対せねばならぬ時というものがやってくるのだと、アルシャの目には燃えるような強い意志が籠っている。

ただし、あくまで話し合いだ。暴力は止めろ……振りじゃないぞ、絶対やめろ。彼我の実力差を考えてみろ、お前は公爵級、私は男爵級、力の差は歴然であり暴力で解決しようなどというのはあまりにも卑劣な行為である。愛の教育的指導みたいなのは、優しめのビンタまでにしておけよ……絶対だぞ……と、そんな若干の尻込みもしつつ、しかして己の背には明日へ向かって戦う労働者たちの想いがあるとの覚悟の元での抗議だ。

「人聞きの悪いこと言うんじゃねぇっすよ。いいっすか? 食材も道具も、用意したのはアタシっす。それを、たまたま居合わせただけで一緒に食べようとするのであれば、せめて調理協力ぐらいしろって話っすよ」

「……ぐぅの音もでないにゃ……大人しくパタパタしてるにゃ」

労働者たちの想いを背に立ち上がった猫戦士は、しかして正論で叩き潰された。勝てない、勝てるはずがない……だって正論……正論はズルい……なにせ完全にウルペクラの言うことの方が正しいのだから。

サンマなどの食材を買ってきたのもウルペクラ、七輪などの道具を用意したのもウルペクラ、なんなら下拵えをしたのもウルペクラ……アルシャはそこに偶然通りがかっただけである。

その上で、ちゃっかりご相伴にあずかる気満々だったので、ならその代わりに調理を手伝えと言われてしまえば反論の余地などない。

アルシャには大人しく尻尾を振って、団扇をパタパタするしか選択肢は残っていなかった。

「……ところでウル先輩、これ、煙はどこに消えてるにゃ?」

「シリウスとラサルが喧嘩してる結界に飛ぶようにしてるっす」

「なるほどにゃ……にゃ? それは大丈夫なのかにゃ?」

「大丈夫っすよ。シリウスとラサルっすし……」

「シリウス先輩とラサル先輩なら、まぁいいかにゃ……そろそろいい感じじゃないかにゃ?」

一瞬「あれ? 私もイタズラの実行犯にされてないかにゃ?」と思ったアルシャではあったが、相手がシリウスとラサルで、ウルペクラのイタズラをくらっているのはいつものことなので……まぁ別にいいかと、雑に処理してサンマの方に意識を向ける。

食べやすいように十字の切れ込みを入れたサンマは、軽く皮が焦げているぐらいの絶妙な焼き加減であり、白身から滴る脂がパチパチと耳に心地よい音を響かせていた。

「食べごろっすね。じゃあ、食べるとするっす。今回はカイト様の言ってた通り、醤油と大根おろしをメインに、すだちやもみじおろしで味変しつついただくっす」

「えっと、四匹あるにゃ……私とウル先輩で二匹ずつにゃ!」

「一切の遠慮なく半分持ってく気っすね、コイツ。まぁ、いいっすけど」

まずは手早く用意したさらに一匹ずつのサンマを乗せ、そこにたっぷりの大根おろしを乗せてその上から醤油を垂らす。

焼けた魚の匂いに醤油の匂いも加わって、食欲を掻き立てる。ウルペクラとアルシャはそれぞれ箸を手に持って軽くサンマの身を解してから食べ始める。

死王配下は朝夕皆で食事をしており、イリスが凝り性でいろんな料理を作ることもあって、箸を使って食べることにも慣れているため、慣れた様子で箸で身を摘まんで口に運ぶ。

「ん~美味しいっすね! サンマの脂っこさを、大根おろしがサッパリとした感じにしてくれてて、そこに醤油の味が加わることでグッと引き締まってる感じがするっす。いまちょうど旬っすし脂もたっぷりのって、蕩けるようなジューシーな味わいが素晴らしいっすね。さすが、カイト様の一押しだけあるっす」

「美味しいにゃ! 美味しいにゃ! 私、魚は大好きにゃ!」

「猫だからっすかね?」

じっくり味わって食べているウルペクラと対照的に、パクパクとシンプルな感想と共に食べているアルシャと、それぞれ性格が出ているような印象だった。

「すだちの香りはいいっすね。大根おろしとはまた違った爽やかさがあって、この酸味がいいアクセントになってて白身の甘さを引き立ててるようっす。ただ、かけすぎると酸味がくどくなるっすから、本当に少しがいいっすね」

「もじみおろしは、こう、なんにゃ……えっと、辛くて……美味しいにゃ!」

「味の感想言うの下手過ぎじゃねぇっすか?」

「う、うぐっ……ウル先輩みたいにスラスラ出てこないにゃ。どうしてかにゃ~教養の差かにゃ?」

語彙力の差か、それとも単にあまり考えてないせいか、アルシャが味の感想を口にするのに苦戦していると、ウルペクラは苦笑しつつ尻尾で軽くアルシャの頭を撫でた。

「……まぁ、この手の食べ物は、美味しく食べることが一番っすよ。細かな感想を言えれば偉いわけじゃねぇっすし、それを意識するあまり味を楽しめなければ本末転倒っすから、気にすることはねぇっすよ」

「……ウ、ウル先輩っ……」

「……これで、もう一個アタシと比較した場合の劣化要素が増えたっすね」

「ライン越えたぞ、クソ狐!!」

慰めると見せかけて煽るウルペクラにアルシャが猛然と食って掛かるが、それも軽くあしらわれる。ワイワイと騒ぎながら一緒にサンマを食べているウルペクラとアルシャ姿はどこか微笑ましく……少し離れた場所で、それを見ていた『サンマの匂いが服に染み付いた』シリウスとラサルは、顔を見合わせ……追いまわすのは後にしようと、一度その場から去っていった。