軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

黎明の塔周辺の変化

「……ここは、どこですか?」

土の精霊にはカミールのところへ運んでくれといったはずだ。

てっきりカミールが住んでいるという洞窟に出るのかと思っていたのだが、見渡す限りに洞窟の入り口らしきものはない。

洞窟どころか、周囲には何も無い開けた場所だ。

では自分は何処にいるのだろうか、と今度は情報を求めて辺りを観察する。

黒い地面には下草が生え、少し離れたところに湖と林があった。

更に先には森や平原も見えているので、この場所は高所にあるのだと思う。

高い場所にいるからこそ、遠くまで見通せるのだ。

「なんだか、全体的に灰色っぽい気がしますね?」

季節は春ということで、木々には若葉が芽吹いているはずなのだが、なんとなく全体的に色合いが暗い。

周囲は明るく、開けた場所なのだが、心細くなって隣のレオナルドの腕にしがみ付いてしまった。

子どもっぽい行動だとは思うが、ここには淑女の皮を被って対応すべき相手はいない。

素の私のままでいいはずだ。

明るくて温かくもあるのだが、何故か物寂しい。

風が吹いてかすかに花の香りを運んでもいるのだが、寂寥感のようなものが強い。

なんとも淋しく、不安になる場所だ。

「レオ、大きな木です」

何か目印になるものはないだろうか、と背後を振り返ってそれを見つける。

背後に立っていたのは、『見上げるほどに』なんて言葉が可愛らしく感じるほどに巨大な樹木だ。

両手を伸ばして繋げたレオナルドが三十人いても、幹を囲むことはできないだろう。

それほどまでに大きい。

「こんなに大きな木なら、神話の時代からありそうですけど……?」

それらしい神話を私は知らない。

城主の館には本も時間もたっぷりあったので、今生の私は結構読書家だと思っていたのだが、大きな木が出てくる神話に心当たりがなかった。

ではこの木はなんだろう、と考えて気がつく。

これだけ巨大な木だ。

幹を支えるためには根を強く、広く張る必要がある。

……つまり、これが国境に生えてきたっていう根の大本?

口をぽかんっと開けて大樹を見上げていると、隣でレオナルドの訝しげな声が聞こえる。

もしかして、黎明の塔か、と。

「……レオナルド様には、この木が『塔』に見えているのですか?」

「いや、俺の目にも木に見えている」

レオナルドの言葉に、少しだけ意識が現実に戻る。

非常識な程大きな木に驚きはしたが、冷静になってみれば木は木でしかない。

木が地面に根を張って生えていたからといって、驚くような要素はどこにもないのだ。

「カミールさんのところへ連れて行ってくれるように頼んだはずですが……」

「そのカミールがこの近くにいる、ということだろう。黎明の塔はカミールの洞窟の外にあった」

「……あれ? ということは?」

「近くに洞窟への入り口があるはずだ。精霊は何も間違ってはいない」

レオナルドの説明によると、黎明の塔はエラース大山脈の頂上付近にあるらしい。

エラース大山脈は一年中雪に覆われているとメンヒシュミ教会では教わったのだが、とてもそんな様子ではない周囲に眉をひそめる。

「本来雪に覆われているはずだと言うのなら、周囲に何も無い理由はわかりました。でも……」

「様子が変わりすぎだ。以前は夏でも雪に覆われていたはずなんだが……」

雪が無いどころか、下草まで生えている。

風が花の香りを運んでいることを考えれば、どこかに野花も咲いているのだろう。

ここがエラース大山脈の頂上付近だというのなら、聞いていた話と違いすぎる。

「その時は、塔は『塔』だったのですか?」

「そうだな。透明な木に包まれていたようだが、塔は『塔』だった」

「レオナルド様、普通は『透明な木に包まれた』物をただの塔だとは思わないと思いますが……」

とりあえず、レオナルドがエラース大山脈を訪れた二年前にはこの異変は始まっていたのだと、レオナルドの発言で確信が持てた。

レオナルドが見た時とは様子が違っているようだが、透けているか、透けていないかの差でしかない。

巨大な樹木の内側には、おそらくレオナルドの言う『黎明の塔』があるのだろう。

「これも精霊の世界とこの世界が繋がった影響でしょうか?」

「そういえば、二年前もこの場所では精霊が見えていたな」

あの時も、洞窟から出る時には精霊の見える範囲が広がっていると思ったのだ、と思いだしながら口にするレオナルドに、腕を伸ばして剃り残しの髭を引っ張る。

痛い、と短い悲鳴が聞こえてレオナルドの視線が降りてきたので、それを睨み返した。

どうやら、レオナルドを叩くだけでも、出た埃で様々なことが繋がりそうだ。

……レオナルドさんの方こそ、『ほうれんそう』が大事だよ! 報告、連絡、相談っ!

これは離宮へ戻ったらアルフレッドへと報告せねばならないだろう。

少しでも私への矛先がレオナルドへと逸れれば、説教の時間が短くなる。

などと呆れながらレオナルドの顔を眺めていたら、すっとレオナルドの雰囲気が引き絞まった。

どうやら話が変わるようだ、と首を傾げてレオナルドを見上げると、レオナルドは一度離宮へ戻ろう、と言い始める。

「明らかに想定外の異常事態が起きている。このままクリスティーナを同行させるのは不安だ」

「……まだ何も判ってはいないではありませんか。今離宮へ戻ったら、私の代わりになる精霊の声が聞こえる人が何人か現れるまで、私が離宮に閉じ込められます」

「アルフレッド様がそんなことはさせないだろう」

「そのアルフレッド様に言われているのです。精霊の声が聞こえ、精霊に協力を取り付けられるわたくしば便利すぎて野放しにできない、と」

野放しにした場合は、私を利用としてまた拉致や監禁をしようと考える者が出るかもしれない、という話までレオナルドへ聞かせる。

アルフレッドは少々考えすぎだとは思うが、可能性としてはゼロではない。

現に一度、目的は違ったが私はズーガリー帝国へと攫われてもいる。

「 子守妖精(カリーサ) がいるので、わたくしを本当に閉じ込めることはできませんが、だからこそアルフレッド様の心労がすごいことになりそうで……」

だったらアルフレッドに閉じ込められるのではなく、自分の目で確かめるべきことを確かめたあと、いつものように自主的に引き篭もった方がいい。

私が自分から引き篭もった場合には、アルフレッドは「たまには外の空気を吸え」と私の健康を気遣うだけでいいが、アルフレッドが私を閉じ込めた場合には私の健康を気遣う資格すらなくなるのだ。

おまえが閉じ込めなければ、外の空気ぐらい好きに吸える、と。

「ようは気持ちの問題でしかないと思いますが、全然違うと思います」

「それは……決定事項なのか?」

「レオナルド様でしたら、今のところ判明しているのは国内で三人だけの、精霊の声が聞こえて、精霊を使って遠方まで声を届けたり、一瞬で移動できたりする人材を、護衛をつけているとはいえ野放しにできますか?」

逆に考えた場合、そんな人間がいると知って確保に動かない為政者や権力者がいると思うか、とまで続けると、さすがのレオナルドも頷く。

確保したい私がアルフレッド、あるいはレオナルド側の人間であるため、レオナルドたちが考えるのは基本的に『守り』だ。

この条件が逆になり、確保したい人材が自分の身の内におらず、目の前を歩いていれば、誰だって確保、あるいは奪取といった『攻め』に出るだろう。

「……実際に離宮へ閉じ込められることになったとして、それほど長い時間ではないと思いますから、大丈夫ですよ」

閉じ込められるという言葉に、レオナルドの表情が若干険しいものに変わる。

閉じ込める人間がアルフレッドであるため、そこまでの嫌悪感は出していないが、やはり不快なものは不快なのだろう。

レオナルドの眉間に寄った皺を伸ばそうて腕を伸ばしたのだが、まだ身長が足りないようだ。

少し手が痛くなりそうだったので、頬を指先で撫でた。

「それほど長い時間ではない、というのは何か根拠があるのか?」

「あります。帝国には精霊の声が聞こえる人間が何人かいるようですので、イヴィジア王国でもまだ見つかる可能性があります。そもそもこの異変が治まればまた精霊の姿は見えなくなるかもしれませんし」

そうなれば精霊を使った情報収集も、連絡手段も使えなくなる。

数日前までと同じ状態に戻るだけのはずだが、私を確保したいという理由はこれまでどおりの『日本語の読める転生者』ということだけになるはずだ。

「そんな 理由(わけ) ですので、わたくしが自主的に離宮へ引き篭もれるよう、もう少し付き合ってください」

「……まあ、ここまで来れば犯人はどう考えてもカミールだしな」

様子はすっかり変わってしまっているが、カミールの仕業だというのならそれほど危険は無いだろう、とレオナルドは渋々と判りやすい顔をして頷く。

まずはカミールを見つけて話を聞こう、と。

黎明の塔の入り口、あるいは以前レオナルドが出入りをしたという洞窟への入り口がないかと、周囲を観察しながら散策する。

一面を雪に覆われていても目印になるものはないが、雪がなく平原が広がっていても目印はない。

なんとか目印になりそうなものがあるとすれば、巨木と湖だろう。

ただこれはエラース大山脈の頂上に対して目印になっても、この場に立って入り口を探す時の目印にはならない。

「ちょっとした森みたいになっていますね」

以前からこうだったのか、と森へ足を踏み入れながらレオナルドに聞いてみる。

レオナルドが以前来た時には気がつかなかったようで、こんな場所があったのか、と感心しながら周囲を見渡していた。

「……コクまろ?」

護衛として連れて来た 黒柴(コクまろ) が地面の匂いを嗅いでいたのだが、不意にピンと尻尾を立てる。

どうやら何か発見したらしい。

一直線ににおいの元へと進み始めた黒柴に、他に判明している目的地もなかったので付いて行く。

黒柴が足を止めたのは、ほんの少し森へ入った場所だ。

下草の生えた黒い土の上に、染められた絹の切れ端が落ちていた。

「端切れ……がこんなところにあるはずはありませんよね?」

端切れにしても綺麗に染められた絹だ。

大事に保管され、服は作れなくとも小物や当て布に使われてもおかしくはない。

変だ、と一度気がつくと、周辺の違和感が次々に気がつく。

新緑の緑と、木々と土の黒。

基本はこの二色だけのはずなのだが、周囲には時々違う色が混ざる。

その正体を確かめようと近づくと、紫に染められた毛皮や、青い上着を発見した。

「これって、国境で裸にされた人の……?」

「クリスティーナ」

国境で捕獲された男たちの服だろうか。

そう気がついたところで、レオナルドに名前を呼ばれる。

なんだろう、とそちらへと顔を向けると、肩の上の子守妖精の襟首を掴んだレオナルドが、それを私の顔面へと押し付けてきた。

「……レオナルド様? なんですか、これは」

「しばらく付けていろ」

目を閉じて子守精霊を顔に貼り付けておけ。

場所を移動するまで絶対に目を開かないように、と続いたかと思うと、私の体が抱き上げられる。

目隠しをしたため、レオナルドが私を抱き運ぶつもりらしい。

一体なにを私の目から隠したのか、とこっそり片目を開いてみる。

子守妖精を顔に貼り付けたぐらいで、私の視界は塞げないのだ。

……何を隠して……?

見難いながらも片目で確認した視界には、人間の腕と思われる黒い物が転がっていた。

あとは先ほどと同じだ。

一度気がついてしまうと、次々に違和感を目が見つけてしまう。

森に無い色があっておかしいと感じていた視界には、土や木と考えるには不自然な形のものがゴロゴロと転がっていた。

……まろっ! その辺に転がってるもの、臭いを嗅ぐのはいいけど、絶対に舐めないでっ!

気がついてしまえばおぞましい光景だ。

森の中にはそこかしこに人間の手足が散乱していた。

それも、ただの遺体ではない。

ミイラのように黒く変色した遺体だ。

「……なにが、あったんでしょうか?」

「見るなと言っただろう」

「言われていませんよ、カリーサを付けていろ、って言われただけです」

言いつけは破っていません、と返すと、上からレオナルドの溜息が聞こえた。

こんな状況でも屁理屈を返す私に安心したのだろう。

もしくは呆れたのだ。

――きた。

「へ?」

頭上から突然聞こえた声に、レオナルドの足が止まる。

声の響き方からして精霊のものだと思うのだが、なんとなく警戒心を刺激されたのかレオナルドが私を地面へと下ろす。

何かあった場合に私の視界を塞いだままでは困る、と子守妖精も肩の上へと戻って来た。

――カミールの言った通り、来た。

――カミロの言った通り、来た。

――王様の体を盗んだ奴、殺す?

――王様の体を盗んだ奴、潰す?

――王様の体を盗んだ奴、切り裂く?

ざわざわと聞こえてくる言葉は、なんとも物騒なものばかりだ。

王様の体を盗んだ、という言葉が気になるのだが、問いただしている場合でもなさそうである。

こちらへと悪意が向けられるのが、肌でひしひしと感じられた。

黒柴が私の前に立ち、そのすぐ横へとジャン=ジャックが進み出る。

精霊に対して前を守るというのが有効かどうかは判らないのだが、護衛としては当然の行動だっただろう。

けれど、今回に限っては失敗だ。

精霊から向けられた悪意にジャン=ジャックが反応し、腰に下げていた剣を抜く。

その瞬間に、地面から木の根が現れてジャン=ジャックの体を絡めとって消えた。

「ぬわっ!? ジャン=ジャックがっ!?」

「落ち着け、ティナ。おそらくジャン=ジャックなら、国境で黒騎士に発見されるはずだ。……たぶん裸で」

「……え? そういう仕組みなんですか?」

何がどうなってそうなった、と説明を求めると、レオナルドがここ数日国境で実験していた内容を教えてくれる。

どうやらズーガリー帝国内で剣を抜いて攻撃行動を取ると、木の根に掴まって国境の外へと放り出されるらしい。

その際に服が脱げてしまうのは、おそらくは偶然なのだろう、ともレオナルドは言う。

運ばれる距離が短い場合には服は少し破れることもあるが、全裸にまではならないのだとか。

――そうよ、乱暴はだめよ。

仲良くしましょう、と言って美しい女性の姿をした精霊が目の前に現れる。

女性の姿をしているのに精霊だとひと目で判ったのは、大きさが違うからだ。

身長が三メートルは越えている。

「……ちょっと仲良くするには難しい雰囲気だと思うのですが」

先の精霊の物騒な発言もだが、森のあちこちにちらばる人間の遺体が気になりすぎた。

あんなものを見せられて、とても素直に仲良くはできないだろう。

「あちこちにある遺体は、帝国の人間ですか?」

――そう。あれはだめだった子たち。

――喧嘩をやめて、仲良くできなかった子たち。

――私たちは、あの子たちとも仲良くしたかったのに。

――残念ね。

――残念だわ。

先の精霊の声に重なるように、何人もの女性の姿をした精霊が現れ、口々に遺体となった人物たちの批評を行う。

彼女たちの発言でなんとなく判ったことは、他者を傷つけようとした者は問答無用で木の根が捕らえる。

その後は木の根が国外へと運ぶ過程で、絡め取った人間を試すらしい。

自衛や反射として攻撃態勢を取りはしたが、安全と判ると攻撃態勢を解いた者は遠くへ、今回の場合は国境あたりへと運ばれる。

そして、攻撃態勢を解かず、さらに攻撃を加えようとした者に関しては、この森へと運ばれて森の養分にされたらしい。

手足が外れているのは、裸で国外へと男たちが放り出されたことと原理としては同じだ。

違うところとしては、精霊側に生かす意志があってある程度丁寧に運ばれたおかげで衣服が脱げただけで済んだ 人(・) 間(・) と、明確に殺意を持って雑に運ばれた 養(・) 分(・) としての差だ。

この精霊による『選別』がどの程度の規模で行われたのかは判らなかったが、ある意味で今のズーガリー帝国は戦う力を持たない者にとって安全な地になっていた。

「……帝国の皇帝が行方不明だと聞いたのですが」

――こうてい?

――王は神王だけよ。

――ああ、でも王の不在の地上で、人の子は王の真似事をして暮らしていたのだったわね。

――皇帝って、あれよ。この近くの人の子の集落で、王の真似事をしていた人間の名前よ。

精霊の感覚としては、エラース大山脈の頂上を起点に考えて中腹にある帝都トラルバッハは『近くの集落』らしい。

人間の足では山脈を下ると考えて何日かはかかると思うのだが、この辺りの感覚の違いは生物としての違いだろう。

――あの子なら、そこよ。

――形が残っていたから、せっかくだから綺麗に飾ってみたの。

ほら、と促されて振り返ると、干からびた老婆の遺体が三本の木に飲み込まれるように絡め取られていた。

精霊たちが『形が残っていた』と言うように、五体満足で毛皮のついた上等のドレスも着たままだ。

「……皇帝は死んでいたのですね」

「帝国の終焉か……」

これは困ったことになったぞ、とレオナルドが頭を抱える。

恐怖で支配された、あまり健全な国とは言えなかったと思うが、ひとつの国が滅びたのだ。

これまで頭を押さえつけていた支配者が突然いなくなったとあれば、民の暮らしは荒れるだろう。

皇帝からの開放に喜ぶのは一瞬だけで、すぐに次の帝位を狙う貴族たちの間で戦が起こる。

そうなれば戦に借り出されるのは民だ。

これからのこの国は荒れる。

元から瓦解は目前だったが、目前で踏みとどまっているのと、完全に瓦解してしまったのでは、民への影響がまるで違う。

今こそ各地の領主たちの手腕の見せどころだと思うのだが、ズーガリー帝国でこれは期待できないだろう。

民の暮らしを守ることよりも、自分が皇帝になろうと民を戦場へと送るはずだ。

「……クリスティーナ」

「はい、なんでしょう?」

頭を抱えて悩んでいたはずのレオナルドが、思いつめた声を出して私の名を呼ぶ。

おそらくは、葛藤していたのだろう。

アルフレッドのように、私を便利に使っても良いものだろうか、と。

散々悩み、無関係の隣国の民の命と私を天秤にかけ、レオナルドの中で天秤は隣国の民の傾いたらしい。

イヴィジア王国の騎士としてはどうかと思う判断なのだが、誰かの命と私を道具として扱うことを考えた場合に、レオナルドは私よりも命を選ぶ。

これが一人、二人の命であったり、私の命がかかっていたりすれば結果は変わったかもしれないが、とにかくレオナルドの今の選択はズーガリー帝国に生まれた無辜の民の犠牲を減らすことだ。

レオナルドがそうしたいと言うのなら、私もそれでいい。

「風の精霊に頼んで、カルロッタ様に報せを送ってくれるか? あの方に任せるのが一番安心できる」

皇帝崩御の報だけは早く送った方が良いだろう、ということで、第一報として風の精霊に声を届けてもらった。

カルロッタからの返事が来るまでに、少しでも多くの詳しい情報を、と精霊にお菓子を配って話を聞き出す。

私は精霊から情報を引き出す係で、レオナルドは引き続き洞窟の入り口探しだ。

山の形から以前黎明の塔を見た時の位置を、そこから洞窟への入り口を探し出そうとしているようだが、雪が消えてまるで景色が変わってしまっているため難航している。

私はというと、森に散らばる遺体が身につけた装飾品や残った毛髪の色等をまとめ、これを情報としてカルロッタへと届ける準備を整える。

森で遺体となっている人物たちは身なりから貴族が多いようなので、死亡したという情報はカルロッタの役に立つだろう。

……形はどうあれ、危険人物が精霊に排除されている、っていうのは良かったのかな?

野心をもった好戦的な人物があらかじめ精霊によって排除されているのなら、皇帝を失ったズーガリー帝国の混乱は想定よりも小さいものになるかもしれない。

皇帝の後釜を狙った人物が近隣へと戦を仕掛けるのではと考えもしたが、戦を仕掛ける可能性のある人間は、すでに森で木々の養分にされているのだ。

情報さえ早めにカルロッタへと渡しておけば、案外早期に立て直してくれるかもしれない。

「……こんな感じかな?」

精霊から聞き出して纏めた情報を、お菓子をお駄賃に風の精霊へと託す。

さすがは国内というべきか、カルロッタからの返事は早かった。

皇帝崩御の報に驚いたかと思うと、すぐにより多くの情報を求めてきたので、遠慮なくズーガリー帝国の未来を丸投げる。

あとはカルロッタがなんとかしてくれるだろう。

遠目にレオナルドが戻ってくるのが見えたので、さて、と椅子にしていた岩から立ちあがる。

私の移動する気配に、黒柴が続いて腰をあげた。

「あれ?」

ふと木々の間に人影を見つけ、視線がそちらへと吸い寄せられる。

黒いフードを目深く被ってはいたが、フードの奥に見える鼻筋や輪郭には覚えがあった。

とどめとばかりに、おさげに編まれた茶色の髪も覗いている。

「……ジャスパー?」

そんな馬鹿な、と思いつつ、私の足はつい人影の方へと向けられた。