軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

閑話:レオナルド視点 俺とティナ 3

秋の終わりに戻ると報せのあったジャン=ジャックが、グルノールの街へと帰ってきた。

ジャン=ジャックたちを乗せたコーディの荷馬車が城主の館に入っていったという報告を館の門番が届けてくれたのだが、ジャン=ジャックがグルノール砦へと顔を出したのはその二十分ほどあとのことだ。

すぐに砦へと報告に来るだろう、と待っていたのだが、ジャン=ジャックはアルフと共に執務室へと顔を出す。

アルフもジャン=ジャックからの報告が聞きたい、と 執務室(こちら) へ来たのだろう。

「団長、なんスか、あれ。ティナっこ、しばらく見ねェ間にめっちゃ綺麗になってたっスよ」

「……砦より先に館へ寄ったかと思えば、第一声はそれか」

「中身は相変わらずのじゃじゃ馬っぽかったっスけどね」

あれだけの美少女に育てば、気が気ではないだろう、とジャン=ジャックから妙な心配をされる。

クリスティーナへの求婚者で行列ができるはずだ、と。

「クリスティーナには祖父も認める婚約者がいるからな。求婚者が列をなそうと、今さらだ」

「誰っスか、そのラッキー野郎は? その野郎、ちゃんと団長の拳の洗礼を受けたンすよね?」

俺の拳を受けて生きている男か、と興味を示すジャン=ジャックに、アルフが無言で俺を指し示す。

その誘導を受けて、ジャン=ジャックはクリスティーナの婚約者が誰か判ったようだ。

「妹に手ェ出すとか、犯罪っすよ、団長」

「……手は出していない」

おまえと一緒にするな、と報告にあったジゼルの件を出してみる。

手を出す、出さないの話をするのなら、手を出したという動かぬ証拠があるのはジャン=ジャックの方だ。

「そうだな。レオナルドはクリスティーナに手を出してはいないな」

むしろ手を出されている側だ、と続いたアルフの言葉に、それはそれでどうなんだ、とジャン=ジャックの軽口が続く。

どうやらジャン=ジャックは、自分がジゼルに手を出したことについては後ろ暗いことなど何もないらしい。

俺の指摘など綺麗に無視して、まだクリスティーナと俺との婚約についてを突いている。

「団長、ちゃんと玉は付いてンすか? あんな美少女が婚約者で、しかも一緒に住んでて、四六時中好き好き言われて手を出してねェって……」

枯れるには早すぎるだろう、と他人ごとながら嘆き始めたジャン=ジャックを睨む。

俺としては早々に話題を変えて、ズーガリー帝国での報告が聞きたいのだ。

「……それで、砦への報告よりも先に館へ寄った理由は? まさか今さら 護衛対象(ティナ) の顔を真っ先に確認したかった、だなんて言い出すような可愛げはおまえにはなかっただろう」

「それについては……嫁さんが孕んでンで、先に休めるトコへ置いてきました?」

そろそろ産み月に入りそうだったので、その前にグルノールの街に到着できてよかった、と笑うジャン=ジャックの顔にドッと疲れを感じる。

いい雰囲気だとか、口説いているようだとはクリスティーナ宛のカルロッタからの手紙にあったが、口説くどころか仕込が完了しているとまでは聞いていない。

ジゼルが孕んでいるとなると、パッと思いつくだけでも様々な問題が発生した。

「そんなわけで、急いで功績が必要になった。とりあえず功績に繋がりそうな報告があるンで、聞いてくだサイ」

にっかりと自信満々に笑うジャン=ジャックの顔を見て胸に浮かぶ感情は、たった一つだ。

……殴りたい、この笑顔。

あのジャン=ジャックが相手を一人に絞ったというところは喜ぶべきだし、祝福もするところなのだが、相手と時期が悪すぎる。

ジゼルは華爵とはいえ貴族の娘だ。

貴族の娘を結婚する前に孕ませるというのは、少々どころではなく外聞が悪い。

ジゼルが孕んでいなければ順番は間違えていない、という言い訳もきくが、子を孕んだ上での結婚となると、ジゼルは身持ちの軽い女性だと判断されるだろう。

平民ではそれほど珍しい話ではないが、貴族女性でこれは醜聞にしかならない。

ジャン=ジャックのために動いてやる義理はないが、ジゼルはクリスティーナの護衛としてできる範囲で頑張ってくれてもいた。

二人の結婚の時期については、少しアルフと相談をする必要がありそうだ。

「……んで、簡単に言うと、帝国は今こっちに戦を吹っかける準備の真っ最中、って感じでしたヨ」

ジャン=ジャックの報告を、ざっくりと纏めるとこんな感じだ。

俺がクリスティーナを取り戻してしばらくはズーガリー帝国内でクリスティーナの捜索が行われたが、死体すらみつからない状況に、これは誰か救出者が来てクリスティーナが国外へと連れ出されたのでは? という流れになったらしい。

クリスティーナはグルノールの街へと戻ってから一年間は館に閉じこもっていたが、近頃は極稀に外へと出かけることが出てきた。

その時にでも、ズーガリー帝国の間者に姿を見られたのだろう。

グルノールの街で生きたクリスティーナが確認されたことで、ズーガリー帝国内では『皇帝陛下の私物がイヴィジア王国に盗まれた』ということになったらしい。

戦のための口実を作っているだけだとは判るのだが、聞いただけでも腹の立つ話だ。

「帝国には『恥』という言葉がないのか?」

「そんな言葉が帝国にあったら、誘拐した少女を鳥籠に入れて飾ったりはしないし、それを横から盗んだりもしたりはしないだろう」

誘拐された少女が取り戻されたとして、それを『皇帝の私物が盗まれた』と表現することがまずおかしい。

少女というのは人間であって、そもそも物ではない。

「先にイヴィジア王国からティナっこの誘拐について抗議文が来てたから、ウーレンフート家は速攻で取り潰されてましたヨ」

「ウーレンフートというと……あれか。ティナを攫ったエドガーの家か」

「ういっス。……んで、誘拐を働いたというウーレンフート家なんて貴族家は帝国にはない、つー屁理屈をこねて、これをイヴィジア王国側の言いがかりだ、って状況を作ってやした」

「あの指輪についてはアルフに任せてあったが……」

カリーサが犯人に繋がる証拠として残してくれた紋章付きの指輪は、ウーレンフート領の当主を示す指輪だったらしい。

その指輪を失ったのはエドガーだったが、カルロッタからはエドガーの親族が喜んで買い戻したがるだろう、と助言をいただいている。

クリスティーナ誘拐のせめてもの慰謝料として、搾り取れるだけ搾り取ってやれ、と。

交渉ごとはアルフの方が得意なので、とそのあとのことはアルフに任せてあった。

アルフはグルノールの街にあるソプデジャニア教会ではなく、神王領クエビアにあるソプデジャニア神殿を挟んでウーレンフート家へと交渉を持ちかけていたはずだが、少し交渉が難航しはじめた、という報告を最後に話を聞かなくなっていた気がする。

どうなったのか、とこの場で聞くと、ウーレンフート家から指輪の代金が支払われた形跡はあったらしい。

ところが、代金は神王領クエビアへと入る前に消え、そこで交渉は止まっていたそうだ。

今はソプデジャニア神殿が人を使って消えた代金の行方を追っているとのことだった。

法と秩序を司る神ソプデジャニアを奉る神殿だ。

こういった仕事はお手の物ということで、任せておけばいい。

「……どうせ代金を持った使者が持ち逃げしたか、国境の兵士の懐に消えたか、といったところだろうけどな」

いずれにせよ、ソプデジャニア神殿の人間がきっちりと調べ上げてくれるはずだ。

代金がどこへ消えたにせよ、グルノールの街から動かない俺に今すぐどうにかできる話ではない。

「帝国内の砦や兵糧の流れ、ある程度名のある騎士や将については、ジン親分の人脈を使って色々調べてきやした」

ジン親分の人脈というのは、アレだ。

俺がズーガリー帝国に潜伏していた間にいつのまにか出来上がっていた大山賊団のことだ。

一応ある程度は解体したはずなのだが、ズーガリー帝国内の良い情報網としてジャン=ジャックが活用していたらしい。

そういえば、と義賊として村々に戻ることを拒み、俺についてくる、と言って最後まで付き合ってくれた山賊たちについてはどうしたのか、と聞いてみる。

ズーガリー帝国で村人に戻れないようならイヴィジア王国へ来いと伝えさせたはずなのだが、 故郷(くに) を離れることにやはり少し抵抗があったのか、彼らの多くはカルロッタの元に残ったらしい。

数人は今回のジャン=ジャックの移動についてイヴィジア王国入りをし、今は連れてこられたグルノール砦に目を白黒とさせながら大人しくしているようだ。

……彼らの仕事も探してやらないとな。

腕っ節は確かなので、兵士として雇うことはすぐにでもできる。

穏やかに暮らしたいというのなら、新しい住みかとして開拓村を紹介することも可能だ。

普通の村であれは余所者は警戒されるが、開拓村は事情が特殊だった。

働き手が増えることは歓迎されるし、出自についてを問う者はいない。

あとのことは報告書に纏めてきた、と言ってジャン=ジャックが分厚い紙の束を差し出す。

時々筆跡が違う紙が混ざっているのは、山賊たちが報告書を書いたからだろう。

ズーガリー帝国内の識字率は、イヴィジア王国よりもやや低い。

字が書ける山賊がいたことは、ジャン=ジャックにとっては僥倖だったかもしれない。

「んで、やっぱ俺様的にはこっちが本題なんスけど……」

二百年前の転生者カミロが作った発明品を手に入れた、といってジャン=ジャックは腰に下げた鞄から布包みを取り出した。

布を慎重に開いてみると、中には見覚えのある筒が包まれている。

記録には『火を噴く筒』と記載されていたはずだが、カミールは『銃』と呼んでいた。

「カミールが再現したという『火を噴く筒』だな。エドガーと一緒に川に沈んだと思っていたが……」

「谷底で拾ったンすよ。こう、見事なエドガーの串刺しの近くで……」

「ティナの耳には入れるなよ」

串刺しになって死んだ男の様子など、クリスティーナに聞かせる必要はない。

クリスティーナがせっかくエドガーについてはほとんど覚えていないと言っているのだ。

下手に刺激をして思いださせたくもない。

……それにしても、銃か。

銃の仕組みについては、洞窟にいた時にティナがカミロの研究資料を読んでくれたので知っている。

簡単に言ってしまえば、火薬を使って金属の 弾(たま) を飛ばす武器だ。

構造を単純に捉えるのなら、吹き矢だろうか。

息で矢を飛ばす代わりに、火薬の爆風で弾を飛ばす。

「……火薬がなければただの筒だな。二百年前の帝国も、火薬を失ったことでその勢いを失ったと聞いているが」

「駄目っすか? やっぱ中身がないと功績にゃ、ならねェっすかね?」

「功績になるかどうかは、クリストフ様とアルフレッド様次第だな」

あの二人が殺傷力のありすぎる武器をどう思うか、を考えれば功績になるかどうかは怪しい気がする。

が、逆に帝国の武器をいち早く入手した。

これを参考に対抗策を講じよう、と言うのなら、良い参考資料を手に入れたということで功績になる可能性は残っている。

「……まあ、伝え方次第ではジゼルを娶れるぐらの功績はもらえるんじゃないか?」

交渉ごとについてはアルフに任せる、と丸投げをして銃についての思考を切り上げる。

実のところ、火薬がなければただの筒と言いはしたが、俺には火薬を作ることが不可能ではない。

ティナが何も考えずに読み上げてくれた中に、火薬の作り方もしっかり書かれていたのだ。

……とはいえ、俺の胸にしまっておいた方が良い知識だってのは、俺にも判る。

当時小国でしかなかったズーガリー王国が、帝国を名乗るまでに巨大な国家へと変わったきっかけが火薬と銃だ。

今さらそんなものが目の前に現れてしまえば、二百年前に転生者カミロが引き起こした災厄が再びこの大陸を包むことになるだろう。

そんなことを国王クリストフが善しとするはずがない。

「それにしても、おまえがジゼルを選ぶとは思わなかったな」

クリスティーナの前では話せないが、ジャン=ジャックの女の好みは知っていた。

娼館で時折顔を合わせることもあったので、これについては確かだ。

ジャン=ジャックは胸の大きな派手目の美人を好み、ジゼルとはほとんど正反対だ。

まったく胸がないとは言わないが、やや控えめな胸をした、清楚系の淑女がジゼルだ。

こうして改めて考えてみると、本当に騎士という職業はジゼルに合っていなかった。

「嫁さんが戻らねェと、ティナっこが納得しねーだろ。んで、国に帰るぞって説得してるうちにこーなった」

ジャン=ジャックなりに、冷静に考えると不思議らしい。

ジゼルが自分の好みの真逆にいるという自覚はあったようだ。

「……まあ、ジゼルについては心配はいらないだろう。アルフレッド様には報告書が渡っている。王都に戻っても悪いことにはならないはずだ」

そもそもジゼルは攫われた先でティナを延命させることに心血を注いでいた。

ティナが誘拐された時点で護衛としてはまったく役に立っていなかったかもしれないが、ギリギリのところでティナの命を守ってもいる。

ジャン=ジャックが無理に功績などあげなくとも、一代ぐらいは爵位の延命も可能だろう。

「そーいや、カミール爺から団長に伝言を預かってンすけど」

「カミールから?」

「や、なんか……わけのわかんねェこと言ってましたよ。狼の襲われている二十年ぐらい前の団長っぽいガキなら見た、って」

二十年前、という単語にアルフが反応を見せる。

以前他愛のない雑談として話していた内容を思いだしたのだろう。

二十年前といえば、以前問題になっていた期間の話だ。

きっちり二十年前というわけではないだろうが、俺から二十年を引けば十歳になる。

テオがグルノールの街から消えたのは九歳だったが、テオは体格のいい子どもだった。

九歳が十歳に見えたとしても、それほど不思議はない。

認めることはできないが、アルフの考えはまったくの見当違いな話と笑い飛ばすこともできなくなってきたようだ。

夜になって館へ戻るとクリスティーナが玄関ホールで出迎えてくれる。

以前は「おかえりなさい」と元気良く飛びついてきてくれたのだが、近頃は淑女らしい仕草を意識しているためか、静かに微笑むだけだ。

少し淋しい気がすると言ったらクリスティーナには怒られるかもしれない。

私もいつまでも子どもではないのだ、と。

「やっとジゼルが戻って来たと思ったらお腹に赤ちゃんがいるみたいで、驚きました」

取り急ぎ以前ジゼルが使っていた客間を暖め、今はそこで休ませているらしい。

ジゼルも俺を出迎えようと言っていたようなのだが、これはクリスティーナが却下したそうだ。

身重の体なのだから、まずは長旅の疲れを癒せ、と。

「……そういう 理由(わけ) ですので、レオナルド様からジゼルへ会いに行くのもご遠慮ください」

「言われなくても、他人の妊娠中の妻に近づく趣味は持っていないよ。元気そうだったのならそれでいい」

ジゼルのことは同性であるティナに任せる、と言うと、今日も律儀に『クリスティーナです』と訂正される。

なかなか直りませんね、とクリスティーナは少し拗ねた顔をしているのだが、近頃はこの顔が可愛くてわざと『ティナ』と呼んでいるのだが、クリスティーナがそれに気づくことは当分なさそうだ。

「無事に戻ってきてくれましたけど、ジゼルはこれからどうなるのですか?」

妊娠中の護衛だなんて聞いたことがない、と言ってティナは首を傾げる。

確かに、護衛を仕事とする騎士が妊娠などしていては仕事にならないだろう。

普通に考えて、ジゼルは護衛としては解雇するしかない。

「ティ……クリスティーナの護衛としては、王都へ返して違う騎士と入れ替えるべきだが……」

「護衛が出来ないのは否定できませんが、ジゼルを王都へ帰すのは無理です。これから冬になりますし、赤ちゃんはもうすぐにでも生まれそうな大きなお腹をしていますから」

騎士として護衛に復帰するにしても、王都へ帰すにしても、まずは子どもが無事に産まれてこないことには、ジゼルはどこへも移動できない。

グルノールの街にいれば母子ともに館に置いておくことができるが、結婚もせずに妊娠した娘を、ジゼルの両親は受け入れられるのだろうか。

それが心配だ、と言ってクリスティーナが眉間へと皺を寄せていたので、これを指で伸ばす。

うんうんと唸っていては、可愛い顔が台無しだ。

「護衛中の妊娠はどうかと思うが、ジゼルは王都へ帰してもそれほど酷いことにはならないぞ」

騎士としては役に立たなかったが、ジゼルはちゃんと仕事をしている。

なにりも、今クリスティーナが生きてここにいる、ということがその証拠だ。

「帝国にいる間にジゼルがなんとか連絡を取ろうとして手紙を残しているんだが……」

ジゼルが 黒犬(オスカー) の首輪に潜ませた手紙によると、誘拐直後のクリスティーナは頭に怪我を負っていたらしい。

直接患部を見ることはできなかったそうなのだが、以前神王が治療したのと同じように顔の半分以上を葉で包まれた治療を施されていたのだとか。

精霊による治療は目を離した隙に行なわれたようなのだが、完治するまでのクリスティーナはひたすら眠り続け、自分では物を食べることも、出すこともできなかったようだ。

そんなクリスティーナをひたすら世話していたのがジゼルだった。

クリスティーナが生きてイヴィジア王国へと戻ってきた以上、ジゼルに何の功績もないということはありえない。

問題があるとすれは、ジゼルの妊娠だ。

護衛を続けられない騎士など、護衛として館には置いてはおけない。

クリスティーナの客人として館に置くことは可能だが、いつまでもこの扱いというわけにはいかないだろう。

生まれてくる赤ん坊のためにも、ジャン=ジャックとジゼルは早めに結婚させた方がいい。

「ジゼルの両親への知らせはジャン=ジャックに任せるとして……」

冬の移動の護衛にジャン=ジャックを混ぜ、と言いかけて、クリスティーナに今年の冬の移動は一緒に来てほしい、と伝えていなかったことを思いだす。

馬車を使うとはいえ、冬にクリスティーナを連れ出すことは不安があるが、グルノールの街で留守番をしているはずのクリスティーナに各地の砦で出迎えられて驚かされたくはない。

クリスティーナが俺を追いかけて来てくれること自体は嬉しいのだが、だからといって何の連絡もなしに城主の館から消え、また戻ってくるだなんてことを続ければ、バルトたちの心労も溜まるはずだ。

「今年の冬はマンデーズ砦に行く予定なんだが……クリスティーナも一緒に行こう」

出不精のクリスティーナなら嫌がるだろうか、とも思っていたのだが、マンデーズの街へと誘われたティナはケロッと答えた。

事前にサリーサから話を聞いており、すでに準備中である、と。

「でも、ジャン=ジャックをついでに連れ出すのは良いかもしれませんが、ジゼルはやはり動かせませんよ」

「いや、連れて行くのはジャン=ジャックだけだ。……初産で父親が離れるのは不安だろうが、そこはジゼルに我慢してもらわなければ」

ことがことなだけに、ジゼルの両親へは子どもが生まれる前に挨拶に行った方がいいだろう。

少しの不安は順番を間違えた自分たちの責任として、甘んじて飲み込んでもらうしかない。