軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

レオナルドの変化とエヴェリーナ

昨年は失敗したアドルトルの卵の入手に、ジークヴァルトの館の離れへ詰めている薬師たちとおおいに喜び合う。

これで止まっていた作業が再開できるし、秘術が完成すれば離れへと閉じ込められている薬師たちも晴れて自由の身になれるはずだ。

秘術復活の場に立ち会えるのならば、と自分たちで望んでやって来た薬師たちだが、やはり息抜きとして祭りにも顔を出せないというのは辛いものがあるだろう。

離れから出られることになっても、今度はセドヴァラ教会で復活させた秘術の調薬方法と 処方箋(レシピ) を教えることになるので、本当に自由になるのはまだ数年先だ。

素材を揃えるだけでも危険と時間のかかるパント薬に、誰も失敗はしたくない。

入念に聖人ユウタ・ヒラガの研究資料を読み込み、口頭での解説とエラース語に翻訳した処方箋とで打ち合わせを繰り返す。

すでに手順については何度も説明をしていたし、火加減や揃えた粒の大きさによって効果の現れ方が変わってくるということは嫌と言うほど理解していた。

そのため、研究資料に書かれた細やかかつ面倒な工程を省略したがる薬師は一人もいなかった。

一見面倒で無意味に思える工程であっても、一つひとつに意味があり、薬が薬として効力を発揮するためには絶対に必要な過程だと学んでいるのだ。

……順調すぎて怖い。

単純な時間だけで言えば、アドルトルの卵の入手に一度失敗しているため、パント薬が一番製作に時間がかかっている。

工程も複雑で加減が難しいところもあるのだが、ムスタイン薬の時に実験を繰り返し、結果を綴り、より効果の高いものを安定して生み出すことの大切さを学んだ薬師たちには、処方箋どおりに調薬するという作業はすでに簡単なものになっていたらしい。

あっさりと完成してしまったパント薬に、逆に私が不安になってきた。

不安になってきはしたのだが、パント薬が完成したからには効果の確認をしなくてはならない。

多くの薬がそうであるように、パント薬も量を誤れば毒になる。

そういった意味でも、実験は必要だ。

パント薬は解毒薬ということなので、その実験には毒物が必要になる。

残念ながら毒薬の処方箋はこの世界に定着してしまっているため、解毒する毒の用意はすぐにできた。

あとは 私(こども) には見せたくない、ということでアルフとセドヴァラ教会の薬師たちの間で効果が確認される。

ムスタイン薬もそうだったが、動物実験は私には見せられないらしい。

薬師とアルフの間でパント薬の効果が確認され、改めてパント薬の完成が宣言された。

これにともない、私は『失われた聖人ユウタ・ヒラガの秘術を三つも復活させた功労者』として功績を得ることになる。

私としては日本語を読んだだけという気しかしていないので、功労者と言われてもいまいちピンとこない。

しかし、これで私の宣言した『私は聖人ユウタ・ヒラガの秘術を復活できる、有用な人間です』ということは証明できた。

これで私に無用な手出しをしてくる人間は、かなり減らせるはずだ。

私に手を出せば、セドヴァラ教会の恩恵を受けられなくなる。

領民を預かる貴族や、為政者たちには民を人質に取られたようなものだ。

……自衛のためにはいい手だと思うんだけど、我ながら凶悪な方法だなぁ。

「さて、これでクリスティーナは三つの秘術を復活させたわけだが……」

何か要求はあるか? と完成したパント薬と報告書を手渡したアルフに聞かれる。

功績が大きすぎて、多少どころではない要求が叶えられるだろう、と。

「わたくしの望みは変わりません。レオナルドお兄様とグルノールの街でのんびり暮らしたい。これだけです」

転生者の政治利用だとか、王子の嫁だとか王の養女だとか、面倒なことは考えないでほしい、と少し付け加えておく。

私はのんびり、平穏な人生を送りたいのだ。

「聖人ユウタ・ヒラガの秘術の復活は必要なことだと思います。それについては理解していますので、日本語を読むことについては協力もするつもりです。でも、まずは元の生活に戻りたいです」

庭へと出るだけでも護衛がついてくる生活は、少々窮屈だ。

私一人の世話係としても、侍女二人と 女中(メイド) 四人は多すぎた。

料理人や 洗濯女中(ランドリーメイド) たちを含めると、さらに多い。

早くレオナルドとの静かな生活に戻りたかった。

「わたくしが成人したあとでなら王都へと出てくることも考えますから、それまではレオナルドお兄様と自由に過ごさせてください」

私が成人するまでの数年間で、復活させる薬の順番でも決めていたらいいのではないか、と続けたら、アルフは苦笑いを浮かべた。

やはり私はオレリアに似ているらしい。

利便性の上ではこの上ない王都での暮らしよりも、多少不便があっても自分の心が落ち着く場所で暮らしたがる、と。

アルフは不便といったが、グルノールの街は今世生まれたメイユ村と比べれば、かなり快適だ。

不便だからといって、王都に住みたがるほどの差はない。

「……いっそ、成人までに研究資料のエラース語翻訳版でも作りましょうか? 翻訳版があれば、わたくしが王都へ出てくる必要もありませんし。どこから翻訳にズレが出てくるのかは、けっこう方向性がわかった気がします」

「では、その方向で交渉してこよう。クリスティーナの望みは、グルノールの街で静かに暮らすこと。グルノールの館で、研究資料の翻訳をしても良いと考えている、と」

「はい。それでお願いいたします」

面倒なやりとりは丸ごとアルフに任せ、ホッと溜息をはく。

これでようやくグルノールの街へと帰れそうだ。

十三歳の誕生日は、ジークヴァルトの館で祝われることとなった。

なぜジークヴァルトの館で他人である私の誕生日を祝うのかと思えば、ベルトランの都合だ。

私がベルトランを離宮へと呼ぶことを嫌がり、ならばとベルトランの館へと呼ばれることも嫌がった。

むしろ、例年通り少し夕食が豪勢になる程度のお祝いでよかったのだが、私とベルトランを取り持とうと画策しているらしいアルフに世話好きのミカエラを巻き込まれてしまったのだ。

私とベルトランとの確執で 他人(ひと) 様に迷惑をかけるのはどうかと思うのだが、話が決まってしまったあとでは修正も中止もさせることが難しい。

ついでに言えば、私の抵抗など最初からわかっていたアルフは、ミカエラ主催のお茶会で、たまたま当日が私の誕生日であっただけ、という体裁を整えてきた。

実に油断ならない相手である。

……これ、気がついたらベルトラン様の孫娘として王都に囲いこまれていそうで怖いよ。

そんな警戒をしながらのお茶会は、始終和やかに進んだ。

バシリアからはお揃いの耳飾りを贈られ、アリスタルフからは本を貰った。

ディートフリートもやはり猫の被り物をして参加していたのだが、大きな花束を持って私の目の前へと立ち、花束をくれるのかと思ったらそのまま脱兎のごとく逃げ出していった。

以前はバシリアがそのあとを追いかけていったのだが、今は子分ができたようで、親ネズミを追う子ネズミのように何人もの男の子たちがディートフリートのあとを追いかけていく。

その姿をバシリアが「ヘタレ可愛いですわ」とうっとり微笑みながら見送っていた気がしたのだが、きっと見間違いだ。

仲がいいようだとは聞いていたが、アリスタルフがディートフリートを追いかけていくこともなかった。

というよりも、病弱なアリスタルフにディートフリートを追いかけることなど不可能であろう。

「……可愛い。レオナルドお兄様にしては、女の子らしい素敵センスで、びっくりです」

お茶会が終わって離宮へと戻ると、レオナルドから誕生日の贈り物を渡される。

昨年の贈り物はエセルバート経由のナパジ産のお米だったのだが、今年は犬がデザインされた化粧箱だ。

中には小瓶に詰められた化粧品や香水が詰まっていた。

「ハルトマン女史に相談したら、そろそろこういう物の方がいいだろうと……」

一応、私のリクエストしたナパジの調味料も用意してくれていたらしい。

しかし、ヘルミーネに止められたようだ。

それはさすがに妹への贈り物としても色気がなさすぎる、と。

淑女として育てるつもりがあるのなら、兄であるレオナルドも妹を淑女として扱うべきだ、と。

「素敵な贈り物をありがとうございました、レオナルドお兄様」

少し屈んでもらって、近くへと下りてきたレオナルドの頬へとキスをする。

以前から時々頬へとキスはしていたが、最近はこれが増えた。

間違いなく、先日ベルトランの頬へとキスをしたことが影響しているのだろう。

夕食のあと、お茶会で頂いた贈り物の箱を確認し、お礼状を書いていると、招待状を持ってアルフが離宮へとやってくる。

今度はなにを企んでいるのか、と警戒たっぷりに見つめてやると、アルフは軽く肩を竦めた。

「今度の招待状はベルトラン絡みじゃないぞ。そこは安心していい」

「……ベルトラン様より 性質(たち) が悪い気がします」

安心していい、と言って手渡された招待状の差出人を確認し、ジトッとアルフを睨む。

たしかにベルトランは絡んでいなさそうなのだが、招待状の差出人の名前には国王とその 后(つま) の名前が並んでいた。

「クリストフ様からの 招待状(よびだし) ということは、またあの息苦しい空間なのでしょうか」

「神王祭のことを言っているのか? あれは親戚の集まりみたいなものだが……今回はそんなに気にしなくていい。いつもどおりのティナで大丈夫だ」

「……アルフレッド様には親戚の集まりだったかもしれませんけど、わたくしからしてみれば王爵だらけの夕食会に紛れ込んだ平民の場違い感は辛かったです」

近頃『ティナ』と『クリスティーナ』を呼び分けているアルフが「ティナで大丈夫」と言うのだから、素が出ても大丈夫な場なのだろう。

そうはいっても素を出さずにやり過ごせるようになることが、私の当面の目標でもある。

レオナルドを護衛に、アルフのエスコートで后の離宮を訪れる。

いつかのお茶会は応接室へと通されたのだが、今回は奥の部屋へと通された。

こんなに奥まで入り込んでもいいのだろうか、と不安になる頃に突き当たりの部屋へとたどり着く。

扉の横にレオナルドを置いて部屋へ入ると、天蓋付のベッドがある部屋だった。

上品な色合いで纏められた部屋に、部屋の主のセンスの良さが窺える。

……あれ? お客さまを呼んでおいて、通すのがベッド付の部屋っておかしくない?

招待主の姿はどこだ、と部屋の中を見渡すのだが、室内には侍女と女中が控えているだけだ。

侍女の一人には見覚えがある。

アルフの母親であるクラリスが、ワゴンに茶器や御菓子を載せて窓際で微笑んでいた。

……アルフさんのお母さんがいるってことは、お茶会はここで間違いないってことだね。

では招待主の姿は、と窓の外へと視線を向けると、レースのカーテンの向こうに人影が見える。

どうやらお茶会は 露台(バルコニー) で行なわれるようだ。

……や、それにしても寝室を通るっておかしいよね?

なにか変だぞ、と考えている横でアルフが私の手を握る。

驚いてアルフの顔を見上げると、少し緊張したような顔をしていた。

……さすがに母親が相手だと、入れ替わってることに気づかれるかもしれないもんね?

その時はその時だ、と他人ごとな私は『早く行こう』とアルフの手を引く。

エスコートをしていたはずの私に手を引かれたアルフは、それでハッとして自分がエスコートをされる側になりかけていることに気がついたようだ。

一度目を閉じて息をはくと、気持ちを切り替えたらしい。

口元に笑みを浮かべ、姿勢を正して窓辺へと歩き始めた。

「お加減はよろしいのですか、母上」

「お客様をお呼びしておいて、自分はベッドの上だなんて、格好がつかないでしょう?」

ふふふと微笑む女性は、誰が見てもアルフレッドの母親だ。

金色の髪も、青い瞳もアルフレッドと同じで、顔立ちもフェリシアやアルフレッドに共通する雰囲気がある。

美しい女性なのだが、印象としてはとにかく儚い。

先に少しふくよかな二人の妃を見ているからか、骨と筋ばかりが目立つ后は、今にも倒れそうな雰囲気だ。

そのせいか、椅子にはクッションがいくつも当てられており、背筋を伸ばして椅子に座っているというよりはクッションに埋もれているといった感じだ。

「こんにちは。はじめまして、クリスティーナ。座ったままで失礼させていただくわね」

「はじめまして、エヴェリーナ様。本日はお招きありがとうございます」

淑女の礼をして、挨拶をする。

初めて見るエヴェリーナの姿に目を奪われていたが、少し離れた場所にはクッションを両手いっぱいに抱きかかえたクリストフの姿があった。

どうやらエヴェリーナが楽になるように、とクッションを用意していたのはクリストフらしい。

侍女や女中の仕事だと思うのだが、クリストフのマントを妃であるグロリアーナが脱がせたりとしていたので、この国の国王夫妻はお互いの世話を甲斐甲斐しくみることは普通のことなのだろう。

「まずはクリスティーナには礼を。よくぞ我が 后(つま) の命を救ってくれた」

露台に用意された席に着くと、お茶とチーズケーキが用意された。

勧められるままに美味しくお茶を頂くと、クリストフがエヴェリーナの容態について聞かせてくれる。

先日完成したパント薬のおかげで、ようやくエヴェリーナの容態は快方へと向い始めたらしい。

元の毒の量は判らないのだが、もう何度も盛られ、その度にオレリアの解毒薬で持ち直しと繰り返していたおかげというのも変な話だが、毒に対する耐性がエヴェリーナには付きつつあるようだ。

そのおかげか、今回の毒の量が極少量だったのか、解毒薬が完成するまでエヴェリーナの体力が持ってくれたらしい。

すぐに公務へと復帰することはできないが、枕から頭を上げることができるようになったため、私を呼んだそうだ。

正式な謁見という形で呼べば私が緊張するだろう、とアルフがクリストフを止めてくれての今回の極内輪すぎるお茶会開催の流れになったのだとか。

……アルフさんグッジョブ。正式な謁見とか、絶対まだ私には早すぎます。緊張で吐く自信あるよ。

ここしばらくやり込められてばかりいたアルフだったが、さすがの采配に感謝をする。

付き合いが長いだけあって、私ができれば避けたい苦手なことはしっかり事前に避けてくれていた。

「クリスは本当にズルをしていない? 聖人の秘術だなんて、 私(わたくし) の薬よりも優先するべきものがあったはずなのだけど……」

クリストフが復活させる秘術の中からパント薬をゴリ押ししたのではないか、とエヴェリーナは心配しているようだ。

夫が夫ならば、妻も妻らしい。

クリストフの后に相応しい、実に公正な人物のようだった。

「パント薬を作ることになったのは、天の啓示です」

「まあ。クリスティーナは精霊の寵児と聞いていたのだけど、天からの啓示をいただけるほどの巫女だなんて……」

「すみません、冗談です。本気に取らないでください」

クリストフは不正などしていないよ、と言ったつもりなのだが、真に受けられてしまい慌てて訂正する。

私は単純に子どもの遊びで復活させる秘術を選んだだけだ。

本当の意味の天の啓示でも、クリストフの意思の介在などでもなかった。

「……クリスティーナの要求は、アルフレッドから聞いた。雑音はすべて私が押さえよう。そなたは安心して子ども時代を兄の元で過ごすが良い」

「はいっ!」

ようやく出たグルノールへの帰還の許しに、やっと帰れる、と自然に笑みが浮かぶ。

淑女という名の猫を被っていたのだが、私の猫は今日も簡単に脱げてしまいつつある。

「用が済んだからと、すぐに追い返すだなんて……」

「グルノールで兄と暮らすことは、クリスティーナの望みだ。私はそれを叶えると約束したのだ」

不満そうな声を出すエヴェリーナに、クリストフがフォローを入れてくれた。

たしかに端から見れば『用が済んだから離宮から追い出した』ように見えるかもしれないが、私の家はレオナルドの家だ。

王都の広い離宮ではない。

帰っていいのなら、早くグルノールの館へと帰りたかった。

……それにしてもラブラブだな、この夫婦。

ジークヴァルトのところの夫婦関係もそうなのだが、前世で見た日本の夫婦の姿とこの国の夫婦の雰囲気はまるで違う。

エヴェリーナの姿勢が楽なようにと椅子が引かれているために見えるのだが、ずっとクリストフがエヴェリーナの手を握っていた。

思い返してみれば、今生の両親も触れあいが多かった気がする。

お国柄の違いだろうか。

「私の息子がなかなかグルノールから帰ってこないのも、羽が伸ばせて快適すぎるからかしら?」

どう思って? とエヴェリーナがアルフへと視線を移す。

フェリシアによく似た綺麗な笑みを浮かべているのだが、この顔はアルフがアルフレッドではないと見抜いているのだろう。

この場で言って良いことなのか判らなかったので指摘はしないが、つられてアルフへと視線を移すと、アルフは素知らぬ顔で微笑んでいた。

……うん。やっぱりこの面の皮の厚さを身に付けるまでは、王都になんて出てこない方が身のためだね。

笑顔で睨み合うアルフとエヴェリーナを尻目に、美味しくチーズケーキをいただく。

すっかり私の好物だと認識されているようだ。

たしかに、チーズケーキは好きなので嬉しい。

この二年で王都中のチーズケーキを食べ比べた気もしていた。

「グルノールへと帰還することは認めるが、クリスティーナにはこれまで通り白銀の騎士を護衛としてつける。万が一のことがあっては困るからな」

「……グルノールでも護衛、ですか」

それは息苦しそうだな、と少し思うが、仕方がないとも思う。

日本語の読める転生者など、為政者としては今さら護衛も付けずに自由にはしておけないだろう。

誘拐も警戒したいが、事故も怖い。

何か起こった時にすぐ守れるよう、近くに護衛を置いておきたいはずだ。

一応、グルノールの館の隣は砦である、とは言っておく。

すぐ隣が黒騎士のいる砦なので、それほど危険はない、と。

しかし私の近くへ護衛を置くのと、砦に黒騎士がいるのとでは、守れる範囲や行動に移るまでにかかる時間がまるで違うと説明されれば、納得するしかない。

周囲にいる人間の数は確実に離宮より減るが、護衛自体は今後ずっと付いて回るらしい。

「この二年で女性の白騎士も育てているが……」

「白騎士の女性だったら、ジゼルでいいです。ジゼルならもう慣れていますし」

騎士としての白騎士は、能力的に不安がある。

護衛に女性が付いてくれるというのは嬉しいが、能力に大差がないのならジゼルで十分だろう。

能力的に不安があるのはジゼルも同じだが、ジゼルの真面目な性格は好感度が高い。

今さら知らない女性騎士を付けられるぐらいなら、むしろ積極的にジゼルを指名する。

「……あ、でもジゼルは家のことがあるので、グルノールへ来てもらうことはできないでしょうか?」

「当主が今すぐにどうこうという年齢ではないので、大丈夫だろう。あの白騎士にとっても、クリスティーナの側に在れるということは功績を挙げる絶好の機会でもあるだろうしな」

白銀の騎士からは、引き続きアーロンが私の護衛として来てくれるらしい。

もう二・三人付けたいと検討を始めるクリストフとエヴェリーナに、あまり人を増やすと私が落ち着けない、とアルフが制止を入れてくれた。

「わたくしの周囲にはレオナルドお兄様とアルフさんもいるので、大丈夫ですよ。お二人とも、白銀の騎士なのですよね?」

「レオナルドは一日中砦で、アルフレッドも同じだろう。やはりもう一人……」

二・三人と言っていたものが一人になったのだから、これ以上は減らせないだろう。

周囲の白銀の騎士の数でいえばアーロンを入れて三人になるが、確かにレオナルドもアルフも基本はグルノール砦に詰めている。

聖人ユウタ・ヒラガの研究資料の写本を館で行なっている間は警備のためにレオナルドが館に詰めていたが、その前はほとんど寝るためだけに館へと帰ってくるような生活をしていた。

……あれ? ここ数年ずっと一緒だっただけで、本来はあんまり館に帰ってこないのがレオナルドさんの生活スタイル?

これではたしかに私の周囲に白銀の騎士がいようとも、白銀の騎士の護衛は一人だろう。

確実性を考えたら、クリストフたちがもっと護衛を付けたいと考えるのも無理はなかった。

「基本的には館から出ない生活をしているのですが……」

「まったく出ないわけではないだろう。護衛の増員が帰還の絶対条件だな」

いろいろと強制しすぎて嫌われても面白くないが、これだけは譲れないとクリストフは言う。

私の反感を買うよりも、私の身の安全がまず大切なのだと。

「……レオナルドお兄様と相談いたします」

身の安全と言われてしまえば、私もこれ以上は反論ができない。

毎回守られてきたという自覚もあるし、危険な目にも結構あっている。

ここは保護者たちの心の安寧のためにも、私の身の安全のためにも、護衛は受け入れるしかないだろう。