軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

閑話:レオナルド視点 小さな淑女 6

「団長さま、王都から 恋文(ラブレター) が届いてるわよ」

「その辺りに放っておけ」

「はぁい」

ルグミラマ砦には、実に個性的な人間が多く集まっている。

一般市民が想像するような黒騎士は、全体の半分程度しかいない。

あとはとにかく個性的で、個性的で、個性的な連中ばかりだ。

女言葉を使う男性騎士など、序の口である。

やたらクネクネと腰を振って歩く騎士エヴラールを何気なく見つめ、指示通り机の端へと封筒を放り投げようとするエヴラールに、ふと違和感を覚えた。

そもそもが、この時期に恋文なんてものを運んでくる方がおかしい。

「……待て。差出人の名前は?」

「あらん、団長さまが恋文の差出人の名前を気にするのなんて、初めてじゃないかしら?」

うふふ、と色気たっぷりに微笑むのだが、残念ながらエヴラールは男だ。

どれだけ淑やかな女性言葉で話そうとも、男だ。

仕草や口調が女性よりなのだから、では性的嗜好は男なのかと思えば異性だと言うのだから複雑だ。

このルグミラマ砦には、女のような姿をした男や、女性言葉を使う男、男にも女にも見える者、男が好きな男、女の姿をしているが女性が好きな男、男にしか見えない女、女性よりも女性らしい男、と実にわけが判らない連中が揃っている。

己の筋肉を自慢して四六時中半裸で歩いている黒騎士ぐらい、可愛らしい部類だ。

「可愛らしい字で書いてありますよ、『親愛なるレオナルドお兄様へ』って。差出人は……」

「ティナからの手紙なら、そうだと言え。恋文だなどと、紛らわしい」

「恋文は恋文よ~。団長さまの小さな恋人からのお手紙だもの」

「妹は恋人とは言わん」

「もう十二歳なのよ? そろそろ彼氏作ってくるわよ、団長さま。どうするの? 王都に帰ったら「レオナルドお兄様、会ってほしい 男(ひと) がいるの」とか言われた……冗談よ、冗談。本気にしちゃ、いや」

ボキリと音をたてて折れたペンに、エヴラールが背筋を伸ばす。

冗談が過ぎたと理解したのか、エヴラールは真顔だ。

真顔なのだが、やはり女言葉を使う。

これがエヴラールの個性の一つなので、否定するつもりもない。

「でも、正直妹というよりは恋人よねぇ。私の妹なんて、ホント可愛くないのよ。口を開けば下品だし、この間実家に顔を出した時だって、私の顔を見た途端に「キモッ」とか言われたし……」

団長さまのところの妹ちゃんは、『妹』なんて生き物じゃないわ、とエヴラールが言う。

エヴラールの実の妹は可愛気がないらしいのだが、ティナは可愛い、と。

……それは妹とはいっても、産まれた時から一緒にいる血を分けた妹ではないからではないか?

今はかなり遠慮がなくなってきたと思うのだが、それでもティナに一線引かれていると思うことはある。

たまに我儘を言ってくれることもあるが、聞き分けなく我を通すことは少ない。

ティナがどんな説得にも耳を傾けず我を通そうとしたことなど、精霊に攫われた直後の三日間だけだ。

あの三日間だけは、普通の子どものように聞き分けず、我儘ばかりを言っていた。

……そして、それが恥ずかしいのか、あの三日間についてはティナの前では触れないことになっているんだよな。

あの三日間については、ティナの中では黒歴史らしい。

普段のような理性が働かず、とにかくすべての理屈を無視してでも我を通さねば気がすまなかったのだとか。

……我儘三昧なティナも可愛かったな。「レオ、お仕事行っちゃヤダ!」って、俺の足に重しのようにくっついてきて。

あとにも先にも、ティナが俺に対して伸び伸びと我儘を発揮したのは、あの三日間だけだった。

「……何か妄想しているところ悪いんだけど、団長さまの小さな恋人から荷物も届いているわよ」

「早く寄越せ」

白い封筒と一緒に、ひらひらと薄い箱が目の前で揺れる。

これ以上ティナからの手紙を遊ばせておくのも面白くなかったので、奪い取るように封筒と薄い箱を受け取った。

「ティナとハルトマン女史と、カリーサからだな」

「あら、団長さま。おモテになるのね。妬けるわぁ」

「妹とその家庭教師と 子守女中(ナースメイド) だ」

気が散るからどこかへ行け、とエヴラールを手で追い払う。

折角のティナからの手紙だ。

やじを聞きながら読みたくはない。

邪険に扱われながらもエヴラールはさして気にした風もなく、仕事へと戻っていく。

俺もエヴラールも、暇ではないのだ。

ティナからの手紙は気になったが、一緒に運ばれてきた王都からの指示書へと先に目を通す。

内容については、前回の指示書とほとんど変わらない。

開戦については現場の人間にすべて任せるので、好きに暴れて良い、というような内容だ。

あとは開戦した場合の最低防衛ラインと、国境を越えての深追いの有無、戦勝時の敵国への要求、逆の場合の譲れない一線などが細々と書かれていた。

これだけ先に指示を出しておくから、あとは好きに暴れて勝利を掴め、ということだろう。

……で、ティナからの手紙は?

白い封筒を開くと、ティナの綺麗な字が綴られていた。

内容は、いたって普通だ。

季節の挨拶に始まり、俺を気遣う文章が入り、俺が一番気になっているティナの近況が綴られている。

薄い箱の正体は、クリストフ様がティナの誕生日の贈り物に、と下さったペンダントの片割れらしい。

箱を開けてみると金のペンダントが入っていて、ペンダントを開くとティナの横顔が掘り込まれていた。

……早く本物のティナに会いたい。

ジッとティナの横顔が掘り込まれたペンダントを見つめ、それをさっそく首から下げる。

装飾品など普段は付けないのだが、これは別だ。

特に、本物のティナに会えない今は、肌身離さず付けていようと思う。

……で、特に何事もなかったようなんだが……?

何気ない近況が綴られたティナからの手紙を読み終わり、そっと封筒へと戻す。

ティナからの手紙は、ある意味では信用できない。

俺に心配をかけまいと、書いていい内容とそうでないものを分けているようなのだ。

……やっぱりか! やっぱり何か起こっていたかっ!

ハルトマン女史からの手紙という名の報告書へと目を通し、読み終わると同時に頭を抱える。

ティナからの手紙ではまったく触れられていなかった数々の騒動が、ハルトマン女史視点で包み隠さず綴られていた。

……離宮の居候はともかくとして、……チャドウィック王子はやっぱりティナに興味を持ったか。

まだ様子見の段階のようだが、警戒はしておいた方がいい。

あの王子は気まぐれで、残忍で、あとのことなど考えず、『自分が今楽しければ、それで良い』という実に迷惑な性格をしている。

王爵を持っていないため、王族内での扱いは軽いのだが、それでも王族は王族だ。

末端の騎士としては、粗雑には扱いづらい面倒な相手でもある。

父親に構われたくて騒動を起している気もあるので、クリストフが特別気を遣って囲い込んでいるティナの存在を知れば、なにかしら仕掛けてくるだろう。

そこで犯人の証拠を掴めれば一網打尽にアルフがティナを守ってくれるだろうが、あの王子は尻尾を切るのが非常に上手い。

これまでも何度となく怪しい動きをしているのだが、一つとして証拠を残すことはなかった。

……チャドウィック王子に目を付けられたと思えば、アルフがアルフレッド様の代わりにティナの側にいてくれるのはありがたい。

アルフレッドでもティナを守ってくれるだろうが、アルフならより安心だという信頼感がある。

王子であるアルフレッドはどこかで切り捨てる一線を持っているが、オレリアの後見を受けたティナをアルフは決して見捨てないだろう。

もしかしたら、自分の命を捨ててでもティナを守るはずだ。

オレリアの存在は、アルフにとってそれだけ大きなものだった。

……神王祭でもないのに精霊に攫われるとか、ティナは少し精霊に愛されすぎじゃないか?

これもティナからの手紙には書かれていなかった。

やはり複数の筋から情報を集めるということは大切だと思う。

最後にカリーサからの手紙という名のティナ観察日記を読む。

ハルトマン女史からの手紙はティナが引き起こしたり、巻き込まれたりした事件・事故の報告書なのだが、カリーサからの手紙は子守女中目線で見たティナの思わずほっこりするような日常の仕草が綴られている。

正直、ティナと離れて暮らさざるを得ないルグミラマ砦での生活には欠かせない、一種の清涼剤となっていた。

……うん、俺の妹は可愛い。

途中まではティナが俺の心配をして部屋中をうろうろと回っていただとか、アンセルム王子に『姉様』と呼ばれて俺と同じ顔をしてデレデレしていただとか、ティナにまつわる今すぐ王都に帰りたくなるような出来事が綴られていたのだが、後半になるにつれて不穏なものがちらつき始める。

主に、ディートフリート王子の話題だ。

……これは、本当に王都に帰ったら「わたくし、ディートフリート様のお嫁さんになりたいです」とか、ティナが言い出したりしないだろうな!?

俺が側にいられない間に、 妹(ティナ) に悪い虫が付きそうになっている。

これは早々に王都へと戻って、王子さまよりお兄ちゃんの方がカッコイイ、とティナの認識を改めさせる必要がある気がした。

……まあ、ディートフリート様も、ティナに話しかけることすらできない、妙なことになっているようだけどな?

もう少し様子を見る、とカリーサの手紙は結ばれている。

以前のようにティナをひたすら追いかけるような付き纏い方はしていないようなので、ティナも放置でいいだろうと判断しているようだ。

……ティナも、誰かに恋されるようなお年頃か。

ティナ自身は二十歳までは俺の元にいる、と言ってくれているが、本当のところはどうなるのか判らない。

女の子は早熟だ。

恋人ができれば、早々に 兄(おれ) を捨てて家を出て行ってしまう可能性もある。

……まさか、本当に俺よりも強い男でなければ認めない、と言うつもりは無いが。

俺より強い男がいれば、それは必然的に黒騎士か白銀の騎士であろう。

となれば、戦場に立つことになる。

兄が戦場に立つと聞いただけでもうろたえて部屋中を歩き回るティナに、戦場に立つ恋人など持たせたくはない。

もちろん、ティナが選んだ相手なら反対することはできないが、それとこれとは別だ。

……ティナは、本当にあと何年俺の妹でいてくれるんだろうな。

最短なら三年でティナが自分から離れてしまうという可能性を思いだし、背筋が凍る。

たった三年のうちの約一年を、隣国であるサエナード王国のせいでティナと離れて暮らしているのだ。

「団長さま、いつまでも妹ちゃんからの恋文にデレデレしてないで! 敵が動き始めたわよ!」

天幕を開けてエヴラールが俺を呼ぶ。

敵の陣がよく見える場所へと陣を構えていたため、あちらの動きはこちらへと筒抜けだ。

国境を踏み越えてきたら迎撃しようと構えていたので、斥候の必要もないほどに敵の動きが丸見えである。

「……好きにして良い、というお達しがあったからな」

天幕を出ながら兜を被った。

戦が始まれば、魔境ルグミラマと呼ばれる砦の個性が強すぎる面々の顔つきも変わる。

みな一様に騎士の顔つきをして、出陣の号令を待っていた。

「俺が現役の間は二度と戦など仕掛けてくる気にならんよう、徹底的にすり潰してやろう」

出陣(で) るぞ、と号令をだせば、騎士たちが一斉に動き始めた。