軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

眠れぬ夜に

朝食を兼ねた昼食を食べ終わって、居間の炬燵へと移動する。

ペトロナも帰ってきたし、神王祭の夜も終わったし、ということで、今日からはまた暖炉に火が入っているので暖かい。

……炬燵は要・改良の余地あり、かな?

レオナルドと対面に座るのなら問題はないのだが、グルノールにいた時のように横へ座ろうとすると、回転する座椅子は都合が悪い。

一人掛けの椅子を四脚作ったため、隣に座るといってもぴったりレオナルドにくっつくことはできないのだ。

……炬燵用長椅子を作るべきか、掘り炬燵モドキを作るか。

どうせ改良するのなら、炬燵部分も拘りたい気がする。

今年は火を使わなくても暖かく過ごせるように、とテーブルに厚いカバーを付ける方向で炬燵モドキを作ったが、聖人ユウタ・ヒラガの研究資料原本を部屋へと持ち込まなければ暖炉に火を入れることは可能だ。

となれば、火を使う炬燵を作ってもいいはずである。

……昔は炭を入れていたとか、うっかりすると火傷した、とか聞いたことがあるんだけど?

私の記憶にある炬燵は電気を使った比較的安全なものだった。

祖父母の世代で使っていた炬燵など、『断片的に話を聞いた』という記憶しかない。

……まあ、まったく同じ物なんて作る必要もないし、少し考えてみようかな?

この転生者がポツポツと存在する世界なら、もしかしたらすでに存在している可能性すらある。

誰かに似たものがないかと聞いてみるのも良いかもしれない。

「……ティナ?」

「あ、考え込んでいました」

レオナルドの声に、現実へと思考が戻ってくる。

隣がいい、と隣へと移動したのはいいのだが、長椅子ほどピッタリくっつけないな、と不満に感じてそのまま思考がそれていった。

今は久しぶりの兄とリバーシをして遊んでいるところだ。

炬燵の改良案を纏めるよりも、レオナルドを堪能したい。

「置き場所に悩むような場面じゃないと思うが……」

「違います。炬燵用の長椅子が欲しいな、と考えていました」

一人掛けの椅子ではレオナルドにくっつけない、と不満を訴えると、ならば膝に座るか? とレオナルドは言う。

久しぶりのレオナルドに、横へピッタリとくっついて甘えたい気はするが、さすがに膝の上は卒業した。

リバーシであれば膝の上でも対戦は可能だな、などとチラリと考えてしまった気がするが、きっと気のせいである。

私はブラコンの甘えん坊な自覚はあるが、そこまでではない、と自分を信じてもいた。

……孤児院の話は、どうしようかな?

昨夜は報告しておく必要があるかと思ったことを優先して話したのだが、一晩置いた今はレオナルド不在の期間に起こった他愛もない話をしている。

その中に一つ、他愛なくはないが、レオナルドには言い難い話があった。

……偽ゴドウィンについては、言わなければレオナルドさんは知らないまま、だよね?

ドゥプレ孤児院で偽ゴドウィンに遭遇したあと、変だと思った私はフェリシアを通じて本物のゴドウィンへと連絡を入れている。

その際に、レオナルドの出身孤児院での不穏な話ということで、レオナルドの耳へは入れなかった。

親切な貴族もいるものだ、とレオナルドが喜んでいたから、あの男は怪しい、と言えなかったのもある。

……どうしようかなぁ?

「ティナ? また手が止まってるぞ?」

「お年頃の女の子には悩みが多いのですよ、レオナルドお兄様」

とりあえずはレオナルドへと真実を話すことを棚にあげ、カリーサの運んできたお汁粉を美味しくいただく。

秘術を一つ復活させた御褒美にエセルバートが料理人を貸してくれたのだ、とレオナルドに自慢した。

カリーサが料理人を通じてナパジ料理を覚えてくれるので、料理人がエセルバートの元へ帰ってしまっても、さまざまなナパジ料理が食べられるようになるぞ、と。

今日のお汁粉は料理人監督の下、カリーサが作ってくれたらしい。

お汁粉といっても、入っているお餅は餅ではなく、団子だ。

軽く炙ってあって、少しだけ香ばしくていい匂いがする。

「お汁粉美味しいですね」

「スープは……皿焼きの黒くて甘い豆だな」

「餡子ですよ。甘い豆は苦手ですか?」

「奇妙な感じはする」

料理人に評価させればまだまだらしいのだが、餡子の作り方はカリーサが覚えてくれた。

研究熱心なカリーサなら放っておいても極めてくれそうだが、マンデーズの館へと持ち帰ってサリーサが研究を引き継いでくれるかもしれない。

「ティナ? 眠くなったのなら、自分の部屋で寝なさい」

「眠くないですよー。それに、さっきまで寝ていたのですから、今からまた寝たら、今度は夜に眠れなくなります」

おやつのお汁粉でお腹が満たされると、また眠気がやってきた。

少しずつまぶたが重くなり、下におりてくる。

レオナルドへは『眠くない』と強がっているが、睡魔というものは意地で振り払えるものでもなかった。

こくり、こくりと頭が揺れるようになると、もう返事も返せない。

レオナルドが何事か言っている声が聞こえるのだが、それに返事をしようとして自分でも判別できない声がでた。

背中と足にレオナルドの腕が添えられるのを感じて、もふっと広い胸に頭を乗せる。

……らくちん、らくちん。

ゆらゆらと揺れ始めた体に、どうやらこのままレオナルドが私をベッドへと運んでくれるらしい。

瞼を開けようと睡魔に抵抗するのは諦めて、この極楽のような一時を甘受することにした。

……睡魔に負けてベッドまで運ばれるとか、赤ちゃんみたいだけどね。

今日は特別だ、と自分に言い訳をして、レオナルドに甘える。

明日からはもう少し自分が十一歳であるという自覚を思いだそう。

……久しぶりのレオだもん。妹が兄に甘えてなにが悪い。

「あら、クリスティーナ。お昼寝をしていたのではなくて?」

昼寝から目覚めると、昨日からクリストフの居城へと呼ばれていたフェリシアが離宮に戻ったと知らせを受ける。

おかえりなさい、と玄関まで出迎えたのだが、神王祭の仮装をしたままの姿で戻ったフェリシアは、なんとも見覚えがある姿をしていた。

……なんだっけ? 昔のアニメのヒロインだったか、悪役だったか?

フェリシアの衣装の基本として最初に私が提示したものは、フェリシアの素晴らしいボディーラインが出るように、と漫画やアニメの悪役の衣装を参考としたものだった。

布面積の少ないそれらの衣装の系譜を辿りつつも今回作られたフェリシアの仮装は、私に用意したものと揃いで、しかし梟ではなくミミズクだ。

……まあ、お揃いはお揃いでも、梟かミミズクかってだけだけどね。

形はまったくの別物だ。

そもそも、私の衣装はまるっとモフっとした可愛らしい子どもの梟だ。

対してフェリシアが纏っている衣装は、フィクションの悪役の衣装が根底に根付いた肌も 露(あら) わなミミズクである。

下半身は鳥類の足を模して毛皮で覆われた温かそうなズボンになっているが、胸はほぼ丸出しで、頭にはミミズクの顔のついたフードと羽をつけていた。

……あれだ。ハーピー。胴体が人間の女性で、両手と両足が鳥の魔物。

何に似ているのか、と思いだせないながらも近いものが出てきてスッキリする。

「おかえりなさい、ヘンリエタ。家族水入らずで、ゆっくりできましたか?」

「ゆっくり……とは少し言いがたいけど、おおむね楽しめたわね。ところで、アルフを見なかったかしら?」

「アルフレッド様ですか?」

そういえば今日は見かけていないな、と記憶を探る。

アルフレッドといえば、昨夜は一緒に夜祭へと出かけ、迷子になったペトロナに、まずは他の子どもを離宮に戻そう、と一緒に離宮まで戻ってきたはずだ。

そのあとはペトロナの捜索に戻っていたが、ペトロナと一緒に戻ってきた気もする。

「……明け方まで 迷子(ペトロナ) を探してくれていましたので、今頃はご自分の館で休まれているのでは?」

「そう。夜祭へ行って、父上と母上の元へは顔を出さなかった、ということね」

……あ、なんか地雷踏んだっぽい。

出かける前のフェリシアは、アルフレッドに「両親の元へ顔を出せ」と言っていた。

アルフレッドもこれに応じていたはずなのだが、フェリシアの反応から察するに、約束は果たされていないらしい。

「えっと……昨日は内街で迷子になったりして大変だったので、アルフレッド様を怒らないでください」

「冗談よ。迷子の報告なら、父上の下へも届いたから、 私(わたくし) も聞いていてよ」

仕事をしていたようなので、約束を反故にしたことは見逃すが、神王祭の間に必ず一度は顔を出させなければ、とフェリシアは考え直したようだ。

昨夜はお世話になった自覚があるので、もう少しアルフレッドのフォローを入れるべく、話を逸らすことにした。

「レオナルドお兄様から、神王祭の三日間はクリストフ様が『精霊の座』に籠って祭祀を行なっている、と教えられたのですが……」

「さすがに連続で三日間籠っているわけではないわ。夕食は家族と一緒にとられるし、小さな祭祀が続くだけで、一つひとつはそれほど時間のかかるものでもないわね」

……追想祭と違って、半日以上サボってるわけじゃなかったんだね。大変そうだ。

疑って悪かったかな、と内心でだけ反省する私の横で、レオナルドが「それみたことか」とでも言いたそうな顔で私を見下ろしている。

私がクリストフの仕事ぶりについて話半分に聞いていたことを根に持っていたのだろう。

レオナルドからの視線が、若干居心地悪い。

……そしてやっぱり眠れない。

フェリシアも迎えて、夕食も食べて、いつもの就寝時間までレオナルドにたっぷり遊んでもらって、それではおやすみなさいとベッドに入ったのだが。

昼間寝すぎたせいで、まったく睡魔がやってきてくれない。

何度か瞼を閉じてはいるのだが、一向に訪れる様子のない眠気に、ベッドで寝転がっていることが苦痛になってきた。

「あたり前と言えば、あたり前ですね」

あまりに退屈すぎて、つい声に出してしまう。

不寝番をしているソラナを何事かと驚かせてしまったか、と思ったが、口から出てしまったものは戻せない。

せめて寝言と思ってくれればいいな、と耳を澄ませてみるのだが、ソラナが私のつぶやきを拾った様子はなかった。

天蓋の向こうに人がいる気配はするが、天蓋を開いて中へと入ってくる様子はない。

しばらく待ったが動く様子のないソラナに、安心して視線を天井へと戻す。

天井というよりは、黒い犬のぬいぐるみのお腹部分だ。

まるっとしたお腹の膨らみが、今夜は妙に気になった。

……まんまるポンポンの中には、私のお宝が隠されているんだよね。

宝を隠すという意味では他人に話すものではないが、レオナルドには正直に話した。

正しくは、自慢をした。

カリーサの技術力と、バシリアのくれた宝石箱の可愛らしさと、宝石箱にしまった私の宝物についてを。

……お宝の他に、もう一つ入れてあるんだよね。

なんとなくぬいぐるみのお腹の中身を確認したい気分になって、シーツ代わりに着せたぬいぐるみの服を捲る。

縫い目に偽装した扉を開くと、中にある金庫の扉が出てきた。

……あれ? なんで鍵?

保管場所に困り、私の宝物と一緒に金庫へと入れたのは、隠し通路の先にある扉の鍵だ。

頻繁に使うものでもないし、そもそも使う予定はないし、とぬいぐるみの腹の中へと隠した。

その鍵を手にとりつつも、私の頭の中は疑問符でいっぱいになる。

……私、なんでこんな時間に隠し通路の鍵なんて手にとってるの?

そう気がついたのだが、体は私の意思とは違う動きをはじめた。

金庫から取り出した鍵を首に下げ、のろのろとベッドの上を移動する。

そしてそのままベッドの上から降りてしまった。

……待って。ベッドから出るなら、冬は獣の仮装をしないと。

冬の間は、と保護者から言いつけられているのだが、今の私はそれを無視した。

裸足でベッドを降りると、無造作に天蓋を捲って外に出る。

さすがにソラナが異常に気づくだろう、と視線を彷徨わせると、不寝番をしているはずのソラナが椅子の上で舟をこいでいるのが見えた。

……ソラナが居眠りとか、珍しい。

珍しい。

そう思っていられたのは、扉の向こうでアーロンが寝ている姿を見つけるまでだった。

……おかしいよ、これ。なんか変だよ? アーロンまで居眠りとか、ありえないよ。

なにか変だぞ、おかしいぞ、と気がついているのだが、私はアーロンを揺り起こすこともせずにそっと横を通り過ぎる。

私の移動に犬たちはどうしているのかと気配を探れば、 黒柴(コクまろ) がすぐ横を、少しはなれて 黒犬(オスカー) が付いて来ているのが判った。

……コクまろたちは起きてるのに、私を止めてはくれないんだ? なんで?

明らかに私の行動はおかしいと思うのだが、犬が私の動きを止めてくる様子はない。

ただ従順につき従っているだけだ。

……どこに向かっているんだろう?

特に隠れることなく回廊を歩いているはずなのだが、誰にも見咎められることはなかった。

というよりも、不思議と誰にも会わない。

なんとなく、ソラナやアーロンのように眠っているのだろう、と確信もしていた。

……春の部屋?

隠し通路の鍵をもって私がやって来たのは、まだ使っていない春の部屋だ。

少しずつ春に向けて整えられ始めてはいるが、まだ以前の主が使ったままの状態に近い。

……やっぱり。

隠し通路の鍵を持って春の部屋にくれば、目的は誰にでも判るだろう。

火の入っていない暖炉から隠し通路を探り当て、その中へと裸足で入っていく。

後から二匹の犬が付いてくる気配があるが、他に人の気配はない。

ペタペタと裸足の足音をさせて隠し通路を歩く。

明かりも何も持ってはいないのだが、夜だというのに道に困らない。

隠し通路は二度入っただけなので、道を覚えているとは思えないのだが、今の私は迷い無く歩いていた。

……扉の鍵を、開けなくちゃ……?

最奥の扉の前に立ち、首から下げた鍵を手にする。

鍵穴に差し込もうと腕を持ち上げると、外から扉に何か固い物がぶつかる大きな音がした。

「ひっ!?」

あまりにも大きな音に、一瞬にして意識が覚醒する。

鍵を握り締めて周囲を見渡し、これが夢でもなんでもなく、自分が確かに隠し通路の奥に来ているのだと実感した。

手を開き、また閉じて、自分の意思で体が動くことを確認する。

これまでは意思に反して体が動いていたのだが、大きな音のせいで目が覚めたようだ。

……なんで、こんなところに……?

頭がまわり始めたのと、再び扉へ物がぶつかる音が響いたのは同時だった。

これは不味い事態になっている、と頭が理解した瞬間に、自分でも信じられないほどの大声が口から漏れた。