軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

アルフレッドとソラナ

アルフレッドの運んできたエセルバートからの招待状は、昼食への招待だった。

また孫の嫁にだとか、うちの子にならないかとか誘われるのではないかと気が重かったのだが、昼食の招待ともなれば仕方がない。

エセルバートの料理人は、ティオールの街にあるという三羽烏亭の本店で修行をしてきたと聞いている。

ということは、エセルバートの離宮で給される昼食は、ナパジ料理である可能性が高い。

……今日のメニューはなんでしょうね? 冬だからお鍋とか? あ、でもお鍋だとしても大きなお鍋をみんなで突いたりはしないのかな?

お金持ちの家は個人用の小さな鍋を突くと聞いたことがある。

前国王ともなれば、大きな鍋をみんなで突いたりなどしないだろう。

「お嬢様、猫と犬はどちらにしますか?」

「猫でいいです。犬はもう三匹いますからね」

黒犬(オスカー) と 黒柴(コクまろ) と黒い犬のぬいぐるみで三匹だ。

私の周りには黒い犬が多すぎる。

これで私まで黒い犬耳を付けようものならば、今度は 梟(ふくろう) の姫から黒犬の姫になりかねない。

季節のナパジ料理となれば鍋だろうかと考えるように、ムスタイン薬を作っている間に季節は冬になった。

冬となれば、私は毎年恒例の獣の仮装である。

今日はエセルバートの離宮へお呼ばれということで、久しぶりの和ゴスロリを着ることにした。

レオナルドの頭の中では初めて買い物に行った街で『私がおねだりした』ということになっているようで、和ゴスロリが好みだと認識されてしまっている。

そのせいか、私の服には季節に一着は和ゴスロリが入っていた。

……和ゴスロリに猫耳と猫尻尾とか……ちょっと装飾過多な気がしますけどね。

獣の仮装は大人になるまで冬は付けていなければならないと保護者から言われているので、これはもう仕方がない。

和ゴスロリの方は、今日はこれを着て行きたい気分なので、これも諦めるつもりはなかった。

というよりも、冬は獣の仮装のせいで何を着てもコスプレにしか見えないので、和ゴスロリに猫耳は装飾過多だ、と思う方が無駄な足掻きだ。

どうせ猫耳でコスプレ感が出てしまうのだから、着たい服を着る。

……猫耳コスといえば、エルケちゃんとペトロナちゃんも今は猫耳なんだよね。

メンヒシュミ教会に通っている頃、春華祭までの短い期間エルケたちが私に付き合って獣の仮装をしてくれていた。

王都に来てからも私への気遣いか、 女中(メイド) のお仕着せに猫耳と尻尾を付けてくれている。

……今回はカリーサがそれぞれに作ってくれたから、二人の髪色と猫耳が同じ色で一体感が可愛い。

グルノールの街では白い猫耳だったが、カリーサ作の猫耳は二人の髪色に合わせて作られていた。

これは半分カリーサの八つ当たりでもある。

カリーサは神王祭の私の仮装をはりきって作ろうとしていたようなのだが、今年はフェリシア主導で用意されているため、やり場のなくなってしまったやる気を二人の猫耳へと向けた。

同室のエルケによると、夜遅い時間までまた繕い物をしているようなので、今度は二人の神王祭の仮装を作っているのだと思う。

「……です。どこからどう見ても可愛い黒猫です」

猫耳の位置の微調整を終えて、カリーサが満足気に頷く。

私を可愛らしく飾ることに情熱を向けるカリーサに、侍女の中では一番身分の高い生家を持つレベッカも苦笑いを浮かべた。

ヴァレーリエがいなくなってからというもの、私の着替えや髪を結うという仕事はレベッカがしていたのだが、いつの間にかカリーサがその仕事をしている。

それは身分的にあべこべになってしまって良いものなのかと聞いてみたが、レベッカはカリーサほど複雑な編み込みはできない、と言って仕事を譲ったそうだ。

カリーサが私の 子守女中(ナースメイド) だったことも影響している。

普段はおとなしいのだが、たまに甘えん坊を炸裂させて拗ねる私は扱いが難しいのだそうだ。

大人と同じ扱いをするべきか、完全な子ども扱いをするべきなのか、と咄嗟の判断に悩み、対応が遅れる。

そんな時に即対応できるのがカリーサだけであったため、私についてはカリーサに任せるのが一番だと判断したようだ。

……間違ってはいないし、ありがたくもあるけど、つまり子ども扱いってことだよね?

それはそれでどうなのだろうか、と心中複雑ではあったが、横に置く。

カリーサとレベッカたちがそれで良いと判断して動いてくれているのだから、今はこれでいいのだろう。

身支度が整ったらアルフレッドのエスコートで馬車に乗り込む。

ソラナはアルフレッドから借りている女中なのだが、面白いぐらいにアルフレッドを苦手としていた。

聞き分けることなど不可能だと思うのだが、アルフレッドの乗った馬車の音を聞き分け、離宮の敷地内へと馬車が入ってくると同時にアルフレッドの接近に気が付く。

私の元へとアルフレッド到着を知らせに来るのだが、来客を知らせるというよりは 来客(アルフレッド) から逃げ込んでくるといった印象だ。

アルフレッドの到着を私に知らせると、あとは衣裳部屋で裾の補修をしてくるだとか、お茶菓子の確認をしてくるだとか言って控えの間へと飛び込み、なんだかんだとアルフレッドから姿を隠してしまう。

そしてアルフレッドはなにを考えているのか、そんなソラナをどこからともなく捕まえてきては、笑顔で無茶ぶる。

第八王女が隠したレオナルド・コレクションを探しだせ、はまだ同じ離宮の中だから判るとして、ヴァレーリエの無実を証明する物的証拠を見つけてこい、というのは無茶振りにもほどがあると思う。

ソラナが離宮へと来たのはヴァレーリエが去ったあとで、証拠など探しようもないと思うのだが、それでもソラナはなにかを見つけてきたようだ。

埃塗れで半泣きになって戻ってきたソラナは薄汚れた封筒を握っており、それをアルフレッドへと渡した。

アルフレッドは笑顔でソラナの仕事を褒めていたのだが、始終怯えていたソラナとは実に対照的で印象に残っている。

「あんまり意地悪すると、ソラナに嫌われますよ?」

「いじめているつもりはないのだが……」

そう見えるのか? と真顔で聞かれたので、こちらも真顔で返しておく。

好きな子をいじめる男の子に見える、と。

「ティナにそう見えるようでは……教育に悪いな。とはいえ、ソラナの教育に手を抜くわけには……」

「ソラナは教育が必要なのですか?」

苦手なアルフレッドを前にしては素を前面に押し出して全力で逃げようとするソラナだったが、女中としての仕事に粗はない。

侍女が二人抜けた穴をよく塞ぎ、カリーサとも息があっているように思う。

これ以上の教育など必要ないと思うのだが、アルフレッドからの無茶振りは、彼なりの教育だったらしい。

「ソラナはいずれアルフの嫁に、と思っているので、普通の女中程度では困る」

「どこから突っ込んだらいいですか?」

アルフレッドの口から出てきた『アルフの嫁』という単語に、思わず真顔になってしまう。

常日頃からアルフ愛を叫ぶアルフレッドの口から、『アルフの嫁』だなんて単語が出てくるとは思いもしなかった。

……むしろ『アルフは私の嫁』とか言い出しかねないというか、そっちの方がしっくりくるというか。

アルフレッドの言葉が難解すぎて、頭が疑問符で埋まる。

アルフレッドがアルフに嫁を斡旋しようとしているだけでも驚きだったが、アルフの嫁については他にも問題があったはずだ。

「……なんだ、その顔は。私がアルフの幸せを願うことが、それほど不思議か?」

内心の疑問が 顔(おもて) に出てしまっていたらしい。

アルフレッドが不満気な顔をしたので、伸び伸びと突っ込みをひとつ入れさせていただくことにした。

「アルフレッド様がアルフさんの幸せを願うことは不思議でもなんでもありませんが、アルフレッド様はてっきり『アルフは私の嫁』とか言うのかと思っていたので、アルフさんにお嫁さんを持たせる気があったことに驚いています」

「アルフを私の妻にしても、子ができないだろう」

もっともすぎる正論なのだが、普段の言動と一致しない。

アルフアルフアルフ、というぐらいアルフに一直線で愛を叫ぶアルフレッドが、子どもが生まれないという理由でアルフを諦めるとは思えなかった。

……や? でも前にアルフさんの嫁にならないか、って言われたことがあったような、なかったような……?

それを考えれば、アルフレッドはアルフへの愛を叫ぶが、自分の伴侶にとは考えていないようだ。

よく考えなくとも、アルフレッドは公私を分けて行動することができる人物だ。

いつかは王位を継ぐかもしれないと思えば、やはり伴侶には異性を選ぶしかないのだろう。

「子どもを考えている、ということは……アルフレッド様もいつかは女性と結婚なさるのですね」

「もう三人ほど王爵を持つ弟妹がいれば、無理に妻を迎える必要もないが……」

アルフレッドの見立てでは、王爵を得そうな弟妹は三人もいないらしい。

アルフレッドが知っているかは謎だが、第一王子は王位継承権を放棄しているそうなので、王爵を持ってはいてもアルフレッドの言う王爵には含まれないだろう。

となると、あと四人ほど王爵を得る王族がいなければ、アルフレッドは王族に生まれた者の義務として異性の伴侶を迎えるつもりでいるようだ。

「私の妻はどうあれ、アルフは絶対に幸せにならなければならない。そのためには、まだ少し頼りないがソラナ辺りが良いと思うのだが……」

「アルフさんは元の婚約者が好きだ、って聞いたことがあるような、ないような?」

ヘルミーネとレオナルドから聞いた話だったが、たしかそんな内容だったと記憶している。

アルフは元婚約者が好きで、元婚約者はアルフレッドが好きで、アルフレッドはアルフが好き、という見事な三角関係になっているのだ、と。

「アリエルはダメだ。あれはもう私を愛している。アルフを一番に想えない者にアルフの妻になる資格はない」

アルフの元婚約者はアリエルという名前らしい。

さらっと婚約者は自分を愛している、とアルフレッドが言ったのだが、臆面もなく愛されていると言えるのが凄いと思う。

この自信はどこから来るのかと思ったが、アルフレッドだから仕方がない。

……でも、愛されてるって自覚があるのに、その婚約は解消してるんだよね?

諸悪の根源は勝手に婚約者を変えたアリエルの父親のはずなのだが、顔も知らないアリエルが気の毒だ。

父親の仕出かしたことのせいで、愛するアルフレッドには見向きもされていない。

「……そうだ。アリエルと言えば、一度おまえに会いたがっていたぞ」

「えーと?」

幻聴かな? と首を傾げる。

気のせいでなければ、婚約を解消した婚約者との間に、未だ普通に交流が続いているかのような言葉が聞こえた気がした。

「……アリエルさん、様? はアルフレッド様の元婚約者の方、で間違いございませんか?」

「ああ、その理解で間違っていない」

聞き間違いではなかったらしい。

婚約を一方的に解消しておきながら、まだ元婚約者とは交流があるようだ。

……まあ、アルフレッド様だしね? 私の思う普通から少しぐらい離れていても不思議はないというか、それでこそアルフレッド様というか。

理解し難いことだったが、とりあえず理解しておく。

アルフレッド本人がそうだと言うのだから、そうなのだろう。

「アリエル様が、どうしてわたくしになど会いたいとおっしゃられるのでしょう?」

「おそらくは噂が原因だろうな。私と親しくしている少女がいるという噂が広がっている」

「……一方的に婚約を解消されたけどまだ愛している元婚約者と、親しくしている女の子って、それ呼び出しに応じても面倒ごとの予感しかしないのですが」

むしろ悪寒と言っていい。

暇を持て余した貴族令嬢。

お約束という名の『婚約を解消されたご令嬢』が、誤解でしかないのだが『新たな婚約者と噂される少女』に対する感情など、あまり愉快なものではないだろう。

「アレはそういった手合いではないぞ。大方私が可愛がっている少女と聞いて、自分も可愛がろうと思ったのだろう」

「……アルフレッド様の庇護対象は、自分にとっても庇護対象、のようなものですか?」

「そんな感じだろう」

アルフレッドは大丈夫だと言うのだが、さっぱり大丈夫な気がしてこないのはなぜだろうか。

私が男女の機微に疎いだけなのか、考えすぎなのか、アルフレッドの婚約者ということで、私が想像するような貴族のご令嬢ではないだけなのか、とさまざまな可能性を考えたのだが、正解はおそらく最後の物だ。

このアルフレッドと長く婚約者をしていられるご令嬢が、世間一般的な貴族のご令嬢なはずがない。

……きっと何代か遡ると王族の血が入っていたりする、トンデモなお姫様なんだ。

その可能性に気がついてしまえば、もうほかの答えはない気がする。

あのアルフが好いた女性ということで微粒子レベルでは普通の女性である可能性もある気がするのだが、それだけだ。

可能性があるというだけで、絶対にそんなことはありえないという確信が湧くのが悲しい。

「人見知りなので、知らない人とはお会いしたくありません」

「困ったらソラナを使えばいい。アリエルはソラナを気に入っているからな。ソラナを間に挟めば、人見知りなおまえでも会話ができるだろう」

「……そうやってソラナを便利に使うから、アルフレッド様はソラナに嫌われるのだと思います」

「嫌われている、のか? 私が」

「自覚は無いのですか」

グルノールに戻る際には是非一緒に連れて行ってくれ、とソラナから言われていると伝えると、アルフレッドは一瞬だけ瞬いたあと、アルフが時々見せるような綺麗な微笑みを浮かべた。

綺麗な微笑みなのだが、この笑みを見るたびに思うのだ。

この人に逆らったらいけない、と。

「離宮に戻ったら、ソラナとはゆっくり話しをする必要がありそうだ」

……ごめん、ソラナ! 逃げて! 超逃げてっ!!

さすがに自分が失言をしたのだと判る。

アルフレッドはキラキラとした微笑みを浮かべているのだが、これは絶対に怒っている、のだと思う。

それからひとつ、気がついた。

……アルフレッド様、アルフさんの次ぐらいにソラナのこと好きなんじゃない?

好きな 人間(アルフ) と気にいっている 人間(ソラナ) をくっつけようとしているのだろう。

アルフたちは三角関係ではない。

四角関係だ。