作品タイトル不明
閑話:フェリシア視点 お茶会の裏側 2
「まずはマルコフ家へ使者を」
退室していくクリスティーナを見送ってからは、優雅に大忙しだ。
クリスティーナにはそれほど兆候が出ていなかったが、一応は毒入りのケーキを食べている可能性がある。
バシリアへはそれを知らせて毒消しを飲ませる必要があったし、どのケーキよりも多く毒が付着していると思われるケーキは家へと持ち帰られていた。
一度客に持たせた土産を取り返すというのは恥になるが、何かあってからでは遅い。
知らん振りも 惚(とぼ) けることもできない問題だ。
毒が付いている可能性のあるケーキは、すべて回収する必要がある。
「ケーキを運んできたクリスティーナの侍女と料理人の確保を。それから料理に使った道具と、台所周辺の調査も進めて。お茶会のためにクリスティーナがいろいろと集めていたわね。食料庫へも誰か人をやって」
「クリスティーナ様の部屋には犬がいたはずです。お借りして来ますか?」
「犬の鼻は頼りになるけど、クリスティーナの側から離したくないわ」
誰が狙われたのかは判らないが、毒物が離宮へと持ち込まれている以上は、犬をクリスティーナから離さない方がいい。
優先的に守るべきは 王女(わたくし) の命ではない。
クリスティーナだ。
王爵をもった王女の代わりなど、王爵を得た王族なら誰でもいいが、日本語の読める転生者は今のところクリスティーナしかいない。
谷の賢女が守ってきた秘術が失われた今、秘術復活の鍵を握るクリスティーナを失うわけにはいかなかった。
……個人的にも、あの子のことは気に入っていることだしね。
ほかに何か足りないことはないかと反芻しつつ、騎士と侍女を動かす。
私の身を守る護衛は最低一人いればいい。
あとは手足として働き、離宮を離れられない私の代わりに走り回ってもらう。
……今回こそは証拠を掴ませてもらうわ。
お茶会をしている庭からケーキを運んで来たという侍女の話を聞いていると、クリスティーナに付いているはずの護衛が客間へとやって来た。
護衛対象(クリスティーナ) から離れるなんて、と思うことはあったが話を聞く。
叱責に時間を割くよりも、今は用件を済ませてクリスティーナの元へ騎士を戻した方が良い。
「クリスティーナ様がホットミルクに違和感を覚えたとおっしゃられるので、蜂蜜を用意した侍女に確認を取りたく参上しました」
「ホットミルクに違和感ですって? それで、クリスティーナは無事なの?」
「一口くちへ含んだクリスティーナ様本人が違和感に気付きました。少量は体の中に入ったと思いますが、ほとんど吐き出しています」
毒消しを飲んだことを確認してから報告に出てきたというので、まずは手際の良さを褒める。
これで毒消しの用意やクリスティーナが服用するまで確認しなかったといえば、蹴り出してやるところだ。
「ヴァレーリエ、今夜のティナお嬢様のホットミルクについて説明を」
「……今夜のお嬢様のホットミルクは、 私(わたくし) の不注意でいつもの蜂蜜を切らせてしまったため、産地と花の種類が違うのです。お嬢様は、そのせいで違和感を覚えられたのでしょう」
淀みなく答える姿勢は嘘を言っているようには見えないのだが、逆に淀みがなさ過ぎて怪しくも見える。
あらかじめ答えを用意していたようにも感じ、すべてが怪しく思えるのだ。
……でも、クリスティーナの横には犬がいるのよね。
もしも本当に毒が盛られていたとしたら、クリスティーナが口を付ける前に犬が反応しているはずだ。
自分の説明が足りなかったせいで騒がせてしまった、と頭を下げる侍女を見つめ、自分の侍女へと指示を出す。
一応の証言は得られたが、だからといって完全に安心もできない。
「クリスティーナが異変を感じたのなら、その蜂蜜を調べなさい」
「しかし、蜂蜜は……」
なんの変哲もない蜂蜜である、と食い下がる 侍女(ヴァレーリエ) を手で制する。
クリスティーナに関しては用心しすぎて不味いということはない。
「今日の離宮は、少し面白いことになっているようよ。疑わしいものは、すべて事細かに調べあげなければ」
「夕食前にクリスティーナ様へ毒消しを飲ませられたのは、そのためですか?」
「ええ、クリスティーナが作ってくれた 私(わたくし) のケーキに、粗末な毒が仕込まれていたわ」
クリスティーナが仕込んだものではないということは確認済みである、と付け足す。
一応クリスティーナを疑いはしたが、そもそもケーキを作ったといってもクリスティーナ本人が作業をするわけがない。
話を聞いたところ、ミミズクの絵を描くぐらいは本人がしたそうなのだが、問題のあったスポンジを切る作業も、ジャムを挟む作業も、行ったのは料理人だ。
「フェリシア様、白銀の騎士から一人お貸し願えませんか? バシリア嬢の元へ急ぎ報せを送りたいのですが、クリスティーナ様には護衛が足りません」
「マルコフ家へはすでに使者を送っていてよ。早ければそろそろ戻ってくるのではないかしら?」
そんな話をしていると、丁度バシリアの元へと使者に出した騎士が戻ってきた。
早速告げられる騎士からの報告に、ホッと胸を撫で下ろす。
どうやら最悪の事態だけは回避されたようである。
「シェスティンがバシリアからケーキを取り上げたのね」
「ケーキを詰めた箱にイセクコッドの茶葉も入れられていたため、気付かれたようです」
「あら、面白い話が出てきたわね」
クリスティーナは茶葉の種類までは判らなかったようだが、バシリアの土産の箱へと入れられた茶葉はどうやら毒消しだったらしい。
ということは、二つ判ったことがある。
「狙われたのは私かクリスティーナ、ということね。わざわざ毒消しを入れてくれるだなんて、親切な犯人だこと」
バシリア宛には毒消しをつけたのだから、標的はバシリアではない。
もしかしたら犯人は、毒入りケーキがバシリアの手へと渡って焦ったのかもしれなかった。
毒を盛るような人物なのだから善良とは言えないが、無関係の者を巻き込むことはよしとしていないようだ。
「……それで、お土産の箱へ毒消しを入れた 侍女(はんにん) は、どなたかしら?」