軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

王都の収穫祭

バシリアと約束をしたボビンレースが出来上がったので、受け渡し方法を考える。

手紙に添えて送ればよいだろうか、と考えたのだが、ヘルミーネには約束を取り付けて手渡しするようにと課題にされてしまった。

伯母とのお茶会の失敗が、まだ後を引いているようだ。

淑女とのお茶会から、淑女見習いとのお茶会と難度は下げられているが、これが私に対する課題であることに変わりはない。

粛々とバシリアへとご機嫌伺いの手紙を書いて、一週間もすればお茶会の予定が整っていた。

……バシリアちゃん、ホントにお友だちいないのかな。

手紙を出せばすぐに返事が届くし、お茶会を打診すればすべての準備は自分がするので、私は屋敷へと来るだけでよい、ととんとん拍子に場が整えられる。

ヘルミーネは茶会の準備から私にやらせたかったようだが、バシリアに招待される形となってしまった。

……私は楽でいいなーって思ってるけどね。

そんな 理由(わけ) で、今日はバシリアとお茶会だ。

さっそくレースのリボンを渡すと、バシリアはその場で 子守女中(ナースメイド) を呼んでリボンを髪へと飾った。

余程リボンが嬉しかったらしい。

私とお揃い、というところがバシリアの喜びのポイントでもあるようだった。

「内街では収穫祭の飾り付けが始まったそうですわ」

「そういえば、そろそろそんな季節でしたね」

ほとんど離宮に閉じ籠っているため、季節ごとの催事に疎くなっている気がする。

追想祭は王城内で行われていたし、そもそも収穫祭どころか冬を王都で越す予定などなかった。

想定外に長く王都に滞在しているせいか、あって当然の催事にまで気が回っていなかったようだ。

……グルノールの館だと、館から出なくてもレオナルドさんの所へ催事の計画書とかが来るから、なんとなく意識に入ってくるんだけどね。

庭を見れば季節の移り変わりはわかるが、離宮での日々の生活はあまり変わらない。

フェリシアが開く茶会に参加する信者たちからさまざまな噂話や情報を仕入れるようになったが、それだけだ。

今は読み込みたい書類も片付いてしまったため、基本はボビンレースや刺繍をして過ごし、午後はヘルミーネの授業を受けている。

本当に、離宮に閉じ籠り生活だ。

……うん。そりゃ、 保護者(レオナルド) もたまには外出するように、って釘を刺していくわけだ。

少しだけ自分の引き籠りっぷりを反省し、花の香りのするお茶を口へと運ぶ。

今はバシリアとのお茶会だ。

少しでも気を抜けば、先日のように素が出てしまうことはわかりきっているので、他所へと逸れる思考を目の前のバシリアへと引き戻した。

「王都の収穫祭ではどのようなことをするのでしょう。バシリア様はご存知ですか?」

「内街で行われることは、ラガレットの街とあまり変わらないとお姉さまから聞いていますわ」

子宝に恵まれることを祈って、この日に結婚式を挙げる新郎新婦は、やはり王都でも多いらしい。

結婚式が多いのは貴族街でも同じで、どことどこの家が繋がりを持つ、といった情報の把握は重要なのだとか。

また、どこの家の結婚式には出たのにうちの結婚式には出なかった、ということも後々社交に影響が出てくるため、この季節は結婚式に出席する頭数を増やすため、領地へと隠居している先代が王都へと出てきたりすることも珍しくないらしい。

「王都のウェミシュヴァラ・コンテストは、内街だけで行われるそうですわ」

「内街だけですか? 貴族街にも美しい方はいらっしゃると思うのですが……」

「貴族街で行うと、公正な結果とは言えないものになりますもの」

「……それもそうですね」

グルノールの街で行われていたウェミシュヴァラ・コンテストしか私は知らないが、ようは美人コンテストだ。

グルノールの街では公正を期すために出場者は他薦で決められていたが、出場者が貴族のご令嬢ともなれば本人の容姿よりも背後にある家の力がものをいう。

昔は貴族街でもウェミシュヴァラ・コンテストは行われていたそうなのだが、ある時不正を行った杖爵と絶世の美貌を持つ娘をもった華爵の間で刃傷沙汰になり、以来貴族街ではウェミシュヴァラ・コンテストを行わないことになったのだとか。

「……フェリシア様が出場されれば、そのような事件も起こらなかったでしょうね」

「あの方は内街のウェミシュヴァラ・コンテストに三年連続で優勝して、今は出場お断りということになっているそうですわ」

「出場、お断り……ですか?」

まさか全裸で出場したのだろうか。

一瞬だけそんな心配をしてしまったのだが、フェリシアはあれで理性的な女性だ。

民たちが楽しむ祭りへと出向いて、全裸で場を混乱させるような真似はしないだろう。

では、なぜ出場禁止などくらったのだろうか、と考えていると、その答えはバシリアが教えてくれた。

「フェリシア様が出場なさると、優勝が決まってしまうからですわ」

もちろん身分を隠しての出場なのは当然として、やはりフェリシアは群を抜いて美しい。

美しすぎる。

そのため、出てくるだけで勝負が決まるため、他の女性がかすんでしまうのだ。

せっかくウェミシュヴァラ・コンテストに出場できたというのに、女神級の美貌を持った女性が何年も連続で優勝を攫って行くため、花も盛りという時期を逃してしまうのは気の毒だ。

「フェリシア様なら、二十年ぐらいは普通に優勝される気がしますね」

「それほどまでにお美しい方なのですか? お母様とどちらが美しいかしら?」

「バシリア様のお母様というと……ユーリア様、でしたか? 以前、ジェミヤン様からお名前を聞いたことがあります」

「ティナ様、お母様のことはどうか『ユーリア』と」

愛人としてジェミヤンの本宅に囲われているが、バシリアの母は平民で、バシリアは正式にジェミヤンに引き取られているため杖爵の娘と数えられている。

実の母と子でありながら、身分的には平民と貴族に分かれていた。

「母はラガレットで一番の美女だと、常々お父様がおっしゃられていますの」

芸術品好きのジェミヤンが、彫刻のように整った美しさを持つユーリアに惚れ込み、愛人にしたらしい。

バシリアを身ごもり、ユーリアの体型が崩れた際に一度愛想をつかしたそうなのだが、ディートフリートと年回りが合うということでバシリアを引き取りに来た際に、真実の美に開眼したそうだ。

なにやらバシリアがうっとりと二人の馴れ初めを語ってくれているのだが、妊娠した女性の体型が崩れるのはあたり前のことである。

美術品のように整ったユーリアを愛していたというのなら、妊娠などするような行為を行なわなければ良かっただけだ。

普通に考えて、最低な男の身勝手話だと思うのだが、バシリアの中では美談となっているようだった。

バシリアを引き取りに来たジェミヤンは、かつての愛人の戻っていない体型に、しかし今度は見惚れた。

ジェミヤンが時を経てストライクゾーンが広くなったのか、肉感的な好みに転向したのかはわからない。

しかし、再びジェミヤンの恋に火がついて、ユーリアごとバシリアは本宅へと迎えられた。

「ところで、その……ティナ様は、収穫祭のご予定は……」

なにやら落ち着きなく、もぞもぞと指を玩びながらバシリアが話題を変える。

正式な夫婦であればともかくとして、愛人関係にある両親の馴れ初めなど、あまり大っぴらに話す内容ではないと我に返ったのかもしれない。

「特に予定はございません。今年は兄もおりませんので、お祭り見学に出かける気分でもありませんし」

「そ、そう、ですの……」

思ったままを口にしたのだが、なにやらバシリアがしゅんと項垂れてしまった。

なにか返答を間違えただろうか。

数瞬前までウキウキと両親の馴れ初めを語っていたバシリアとの差が有りすぎて、助けを求めてヘルミーネへと視線を向けると、私と目の合ったヘルミーネはかすかに首を横に振った。

……あ、やっぱりなにか間違えたっぽい。

なんだろう、なにを失敗したのだろうか。

答えを求めて記憶を探る。

収穫祭の予定を聞かれて、それに答えただけだ。

別段バシリアが落ち込む内容でもなかったと思う。

「あの、バシ……」

「たまにはっ!」

答えが判らなかったので、本人に聞こうとしたら言葉を遮られた。

キリッと気迫のこもった目で見つめられ、とりあえずはバシリアの主張を聞こうと思う。

バシリアの主張こそが、私の失敗した内容なのだろう。

「たまには、貴女から、誘ってほしい……ですわっ!」

「へ?」

たまにとは、なんだろう。

そう考えて、一つだけ判ったことがある。

……つまり、さっきの収穫祭の予定を聞いてきたのは、一緒に収穫祭に行こう、ってお誘いだったのね。

それを私は『兄がいないので出かける気分ではない』と、早々に遊びへと誘い難い断りをしてしまった。

これでバシリアは打ちのめされてしまったのだろう。

「えっと……今度、離宮にでも……」

離宮に遊びに来るか、と誘いかけて、思いとどまる。

離宮は王城の中にある。

もしかしなくとも、私の一存で王城の外に住む友人を招待などして良い場所ではないかもしれない。

「ヘルミーネ先生、離宮へは『わたくしのお友だち』を招待しても良いのでしょうか?」

「誰彼構わず、とはいきませんが、ナディーンと相談をしたうえでなら良い、と思われますよ」

後ろ盾のしっかりしているバシリアならば問題はないだろう、との太鼓判もいただいたので、改めてバシリアへと向き直る。

目の前での会話なので、当然バシリアは期待に満ちた目で私を見上げていた。

「じゃあ、そのうち? ナディーンに一応聞いてから、誘うね」

今の私に言えるのはこのぐらいであろう。

ヘルミーネの太鼓判はいただけたが、ナディーンの了承は得ていない。

確定はしていないので、『聞いてから』という答えになるのだが、バシリアはこれがお気に召さなかったようだ。

唇を尖らせて食いついてきた。

「そのうちって、いつですの!?」

「え? そのうちは、そのうち? そんなに急がなくても……」

「貴女に予定を任せたら、いつまで経っても呼ばれませんわっ! 手紙だって、いつも 私(わたくし) から出さないと返事も来ませんしっ!!」

「あー……」

バシリアが本当に言いたいことは、ここなのだろう。

いつも自分から手紙を送らないと私が手紙を出さないから、不安なのかもしれない。

そういえば、珍しくも私から手紙を出した今回の手紙は、驚くほど早く返事が来て、お茶会の場が整えられるのも早かった。

もしかしなくとも、私は好かれているのだと思う。

そして、好いた分だけ私がそれを返していないので、バシリアは不安なのかもしれない。

「……とりあえず、アルフレッド様が戻ったら忙しくなる予定だから、本当に近々ご招待いたします」

たしかに友人としては不義理かもしれない、と少しだけ反省し、その場で予定を立ててみる。

私の予定など、午後の授業以外はいつでも空いているようなものだ。

それでも忙しくなる予定はあるので、早めに一度招待しておいた方が良いだろう。

というよりも、意識して予定に組み込んでおかないと、バシリアが言うように後回しにする可能性があるし、私ならそのまま忘れてしまう危険性の方が高い。

むしろ、そちらの可能性の方が自信があるぐらいだ。

……うん、私、少し薄情すぎるね。

約束ですわよ、と指切りを迫るバシリアに小指を預け、ぶんぶんと腕を振られながらグルノールの友人たちの顔を思い浮かべる。

前世ほど郵便が発達した国ではないので、気軽に手紙など送ることはできないが、なにかの折に手紙ぐらい出しても良いかもしれない。

帰路は馬車の中で答え合わせと反省会だ。

バシリアは私を収穫祭へと誘いたかったのではないか、というのは、やはり当っていたらしい。

それを私が不在のレオナルドを理由に出かける気分ではないと言ったため、誘い難くなったのだ、とヘルミーネが教えてくれた。

私は改めてよく考えてようやく「そうなのかな?」と思えたのだが、ヘルミーネからはそのままストレートにこう聞こえていたようだ。

バシリアがツンデレで解り難いというよりは、私が鈍すぎるらしい。

「バシリア様の方が、ティナさんより教育が進んでいるようですね」

レオナルドの不在で一度出鼻を挫かれているが、次の約束を取り付けるという当初の目的は果たしている、とヘルミーネは言う。

言われてみれば確かに、収穫祭へは誘われていないが、手紙ではなく直接会うという次の約束をしていた。

「離宮へバシリアちゃんを招待って、本当によかったのでしょうか?」

王城内にある離宮へ、勝手に友人を招待してもいいものだろうか。

不安な内情を吐露すると、ヘルミーネからはバシリア様です、と少し言葉を直される。

いつまでも平民の子どものように『バシリアちゃん』と呼ぶのはよろしくない。

……そろそろ、心の中で『バシリアちゃん』って呼ぶのも、直した方がいいかもね?

咄嗟に淑女らしい言葉選びができないことも、これが影響している気がする。

いつまでも子どもではいられないのだから、家の外では素が出ないように直していかなければ。

「先ほども申しましたが、バシリア様であれば離宮へお招きするだけであれば許可は下りると思われます」

もちろん、誰でも誘えるという訳ではない。

バシリアは杖爵の娘として後ろ盾がはっきりしているし、私と元から交友関係がある。

父親のジェミヤンはもちろん、その娘でありバシリアの姉でもあるシェスティンも王城へあがることを許されていた。

未成年ということを除けば、遅かれ早かれバシリアも王城へとあがることを許される身であろう。

「バシリア様はティナさんの良い教材になってくださいます。バシリア様をおもてなしすることで、お茶会を主催する練習をいたしましょう」

そう話が纏まったところで、馬車が離宮へと到着する。

ジゼルのエスコートでステップを下りていると、ジゼルが小さな声で収穫祭へ行きたいかと聞いてきた。

「……わたくしが内街へ行くのは、護衛が大変そうなのでいいです」

レオナルドと一緒であれば安全だと思えるのだが、アーロン一人で人ごみになると判る収穫祭で私の護衛をさせるのは酷だろう。

一応ジゼルという護衛もいるのだが、武力面ではあてにならないと保護者からも言われている。

……武力以外でも、ちょっとのんびりさんなトコがあるみたいだしね?

そんな考えが 表情(かお) に出てしまっていたのか、ジゼルがキリッと顔を引き締めた。

「 私(わたくし) がお守りいたします。お任せください」

「別に収穫祭に行きたいわけではないので、大丈夫ですよ」

知っての通り私はあまり出かけるタイプの人間ではない、とやんわりとジゼルの申し出を断る。

仲の良い友人と気楽に祭りを回るのなら楽しそうではあるが、バシリアと回れば馬車の中から見学することになりそうであったし、護衛を引き連れての祭り見学など、他の見物客に迷惑だと思う。

……三羽烏亭のお菓子がある、って言うんだったら、遊びに出かけたいけどね。

残念ながら、ここは王都だ。

港町のティオールには三羽烏亭の本店があるそうなのだが、王都に三羽烏亭はない。

食欲を理由に私が収穫祭へと出かけることにはなりそうもなかった。

結局、収穫祭は侍女や使用人たちに交代で休みを取らせ、収穫祭へ行きたい者は行けるようにとナディーンに使用人たちの予定を調整してもらった。

ジゼルへも、収穫祭に行きたいのなら行っても良い、と。

ジゼルはこの言葉に、少し傷ついたようだった。

そんなつもりはないのだが、護衛として不適格である、と言われたように感じたらしい。

……そんなつもりじゃなかったんだけどね。

私とジゼルはもう少しお互いに分かり合う必要がある。

切にそう感じた。