軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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「毒見をしろ、ということ?」

「は」

ヒューの言いたいことはわかる。かつ、ものすごく正論。なんだけど、せっかくのヒューイとお店からの厚意に水を差したくない気持ちがある。

じーっと一人の給仕が持つ珈琲の入った陶器を見つめる。

飲んでも問題ないと思うけどなあ……。

ただ立場上は、慎重な姿勢を優先すべきであって……。

義理人情と王族としての義務との間で板挟みになった私は、ヒューイに視線をスライドさせた。ヘルプ!

すると、ヒューイが「わかりました」という風に頷き、その場で席を立った。

「ロバーツ様の毒見のご指摘はごもっともです。では、まずは私がいただきましょう。安全が確認された上で、同じ陶器から注いだものを両殿下もお召し上がりください」

言い、にこっと笑う。

ヒューイ! さすがシシィの婚約者!

ところで、ヒューとヒューイって名前似てない? 小説としては被りまくりで読みにくいパターン……。や、原作で出てくるのはヒューだけだから……原作では問題ないんだけど……。

給仕が、ヒューイが手に持ったカップに黒い液体を注ぐ。珈琲の良い香りがさらに漂った。

たぶん、私たちに見えやすいように、立ったままヒューイが珈琲の入ったカップを口に運んだ。飲んだ後でも、何の異常もない様子を披露する。これならヒューも納得のはず。

「次はわたくしの番ね」

言うと、ヒューイのカップに珈琲を注いだ給仕が、私の席までやってきた。見る見るうちに、空のカップが液体で満たされる。ついでに、ミルクと砂糖を入れてもらって、と。

私はカップの持ち手に触れた。

「いただくわ」

「――待て。オクタヴィア」

「何でしょう?」

今度は兄。ヒューイが身をもって安全を証明してくれたのに、まさか、「飲むな」っていうんじゃないよね?

不満の目を向けかけたけど、

「私もいただこう」

杞憂でした!

厚意に感謝して、一緒にってことらしい。これは賛成!

兄と私はカップを軽く持ち上げ合った。そのまま、飲む。

――うん。珈琲と紅茶だったら紅茶のほうが好き。ミルクティーはさらに好き。でも、食後の珈琲って美味しいね!

私の笑顔が感想を物語っていることでしょう!

「――我が友人が毒見をし、両殿下も召し上がったのですから、安全は確保されたも同然ですね。私もいただきます」

私たちに続いたのはルストだった。ブラックで飲んでいる。あ、兄もブラックだった。さっき飲んだときのヒューイもそう。

――――! 私は驚愕した。

シシィまでブラック、だと……? 私だけお子様舌なの?

「皆さんもどうぞ」

ヒューイが笑顔で私たちを警護している面々へと呼びかけた。護衛の騎士だけじゃなく、兵士たちにも。

「……我々は任務中ですので」

だけど、ここでも固辞したのはヒュー・ロバーツ。

「今日のオクタヴィア殿下の護衛の騎士殿は頑固なのですね。それとも、まだ中に毒が混入している疑いが消えないのですか?」

ルストが茶化した。

ここはヒューを擁護!

「言い過ぎだわ。ヒューは職務に忠実なのよ。それに、そんな疑いをまだ持っているはずがないでしょう? 第一、王族たるわたくしと兄上が飲んでも無事だったのよ? なのに、護衛の騎士のための飲物に毒物が混入する余地があって?」

あるとすれば、私と兄じゃなくて、最初からヒューたちを狙っていた場合。

でも、そんなことする必要ある?

ないない。

くっとルストが笑った。

「ええ。まさに。オクタヴィア殿下のおっしゃる通りです。その余地はありません。厚意を受け取っても何ら問題はないということです。――それとも、殿下方の許可が必要なのでしょうか?」

そうかも。じゃあ、許可を出せばいいんじゃない?

「ヒュー。いただきなさい」

「――は」

兄も何も言わないので、私と同意見だよね。

給仕から、護衛の騎士や兵士へとカップが配られた。給仕が注いで回っている。

で、私ははっとした。そういえば、クリフォードは? だって以前、座るようにいってお茶に誘ったら、私、拒否られた記憶が! 素だと飲まなそう! でも、そうなると兄が余計な不信感をクリフォードに抱きそう!

クリフォードと目が合った! 伝わるかわからないけど、「飲んで!」と念を送った。

「…………」

カップに視線を落とし、クリフォードが珈琲を飲んだ。

よ、良かった……! 普通に飲んで……。

る?

何か……変な反応があった? すっと目が細められた、よね? いや、でもその後は無言で飲んでるから、珈琲を普段あんまり飲まないからとか?

現に、ヒューやガイ、エレイル、兄の護衛の騎士も兵士たちも、全員提供された珈琲を飲んだけど、みんな普通。もちろん、吐き出すとか苦しみ出すとかそういう異常を訴える様子はない。むしろガイなんて、顔に「うまい! もう一杯」と書いてある。……嘘です。もう一杯、は私の想像。

「殿下の護衛の騎士殿。我が友人からの珈琲はどうでしたか?」

ルストの声が飛ぶ。

彼の言う、この場合の護衛の騎士は、ヒューのことだった。

「……素晴らしい味でした」

気分を害しているのか、味は称賛しつつ、ヒューはルストに鋭い視線を送った。

「それは良かった」

しかしまったく堪えないのがルスト。

「ルスト……」

お前なあ、という感じでヒューイがルストを呼んだ。ヒューイが正しい! 珈琲を振る舞ってくれたのはあくまでヒューイとお店だからね! いっさいルストは関係ないからね?

それでもヒューイの顔を立てたのか。

ルストが居住まいを正した。

「大変楽しい時間を過ごさせていただきました。身に余る時間を共有できたこと、感謝申し上げます。セリウス殿下、オクタヴィア殿下」

――これで、終わり?

食事会は、解散になった。

……ルストの目的が全然わからない。え。食事の場に混ざってきただけだよね。私への接触があるかとも思ったけど、ヒューイ、シシィと共に辞去の挨拶をして行っちゃったし。

食堂の店主としばらくの間話してから、私たちも食堂の二階から、一階へ。

階段は誰もあがって来れないように、警備が配置されている。彼らが道をあけ、一階の客席を抜けて、入り口の扉まで。

……ん。一階の奥、視界の隅で、フードの人物が裏口から出ていった、ような……? 広場でのことが頭の中をちらついた。……デレク?

すっきりしないものを抱えて、馬車の前まで来た。

「オクタヴィア殿下、セリウス殿下」

ヒューに呼び止められ、振り返る。

「警備を強化するため、人員を入れ替えます」

「先ほど、見直したばかりだろう」

兄の言うとおり、クリフォードが取り押さえた護衛の騎士が抜けたので、一度見直しは済んでいる。

「警備の強化にし過ぎるということはありません」

ヒューが憂いのこもった表情で首を横に振った。

「まだ、何ら大きな動きがないのが気にかかります」

そう言われてしまうと、私も兄も反対する理由はなかった。

許可を出し、ヒューが中心となって警備体制の強化を行った。

ただ、ここで私は一つ揺さぶりを思いついた。

予定の順番を変えたらどうかな、と。

順当に行くと、次は『住』で、カルラム並木の散歩タイム。そこを、以前視察したお店の再訪に変える!

予想できたことだけど、ヒューは難色を示した。予定コースを変える。つまり警備の負担が大きい。それだけ、曲者が好みそうな隙ができるかも。

兄は何か言いかけたけど、結局口をつぐんだ。

私による揺さぶりだって気づいたからだよね。

今日の私はカモネギ王女。警備の負担が増えることには、目を瞑って! ごめん!

「――予定を変更するのを加味して、警備体制を強化してちょうだい」

ヒューに命令する。有無を言わせない。

たぶん、いろいろ言いたいことがあるはずのヒューは、すべて呑み込んで「は」とただ応じた。

――で。

「あら。兄上の護衛の騎士を移動させるの?」

私は馬車の中で待ちの状態。移動開始の前に、強化模様を一応私もヒューと確認した。強化っていうか……これ、兄の周囲を固める護衛の騎士の数が減ってない? クリフォードは残っているけど。

や、クリフォードが一人いれば複数人分の戦力を確実にまかなえるだろうけど。

「近距離は少数精鋭でかため、一部を散らしています。遠距離からの攻撃も予想されますので」

遠距離……。弓、とか……?

「両殿下の周囲に関してはその分兵士の数を増やしました」

おかげで、見直し前より護衛の騎士と兵士による物々しい馬車護送になってる。

兄は、何度目かの伝令鳥の確認中。手紙をくくりつけた鳥を空に離した兄がこちらに歩いてくる。

「兄上。城の様子は?」

「問題ない」

てことは、地下牢にいるアリバイ無の護衛の騎士たちも静かってことか。

兄が馬車に乗り込んだ。腕を組んで座る。

私が膝においていた『黒扇』に視線が落とされる。

「――次は、お前がそれを買った店だったな」

私はさっと『黒扇』を開いた。

「良いでしょう?」

「…………」

水色の瞳がじっと私を見つめる。レヴ鳥の羽根に嫌悪感はなさそう?

「……まったく理解に苦しむ」

はあ、と兄が息を吐いた。

「シルは、『格好良い』と言っていた」

そうなの? こんなところで、シル様が我が『黒扇』に対して平気そうだった理由が判明した! 布教できるのかな? レヴ鳥の羽根の飾り房、もう一個いっとく?

「――どうしてシルは」

別に怒っているのでも、嫌そうでもなく、兄がぽつりと呟いた。

一旦間があいた後、改めて兄が言葉を紡いだ。

「何故シルは、お前を信じるんだ?」

「…………」

そんなこと私に訊かれても! しいていえば守りの指輪効果? あと準舞踏会から生還した仲間意識?

馬車の背もたれに、兄が寄りかかる。後頭部をつけた。

「お前も、シルを嫌っているのかと思っていたが……」

「嫌ってなどいませんわ」

しっかりと否定しておく。ただ、このまま行くと実現してしまいそうな、自分の運命が嫌なだけで。

「……シルはお前が好きだそうだ」

ふてくされた風に、兄がぼそりと言った。

「……まあ!」

シル様ってば! まあ、恋愛感情ではないことはわかっているけどね? 前世の推しからの好意は嬉しいよね。我が推しだけあって、シル様、数年後にはいま以上の良い男になって……。

突然、ピカンと思い至った。

その先を知りようがないって意味で、原作はシル様の時間も止まってしまったようなものだけど、私、現実では成長したシル様を見れるんだ! 二重の喜び!

おっと、喜びを出すとまた嫉妬光線を受けるやも……!

――身構えたんだけど、肩透かし。

兄はもう何も言わなかった。